転職先を決める際は、「業界」「職種」に分類して考えると企業を選びやすくなります。そこで、業界の違いや特徴について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
「業界」とは?
「業界」とは、事業内容や扱っている商品・サービスによって、企業やマーケットを分類する指標のひとつです。例えば、インターネットを通じてサービスを提供しているのであればIT業界、薬や医療機器を提供しているのであれば医療業界となります。
業界によって働き方や給与相場が異なる
同じ職種でも業界によって働き方や待遇は異なります。「営業」を例にすると、有形商材は顧客に対して自社商品のサンプルなどをもとに品質や価格を説明するのが一般的ですが、無形商材の場合は、均一化された商品や料金表がないことも多いため、顧客のニーズに合わせた提案書を作成し案内するという違いがあります。
給与相場も業界によって異なります。一般的に、利益率の高い業界の方が、利益を給与に反映しやすいため待遇が良いという傾向があります。
転職で業界を変える人は増加中
従来は、経験を活かして同じ業種・職種に転職するパターンが一般的でしたが、リクルートエージェントの転職者分析(2013年度~2022年度)によると、2022年度は未経験業種・未経験職種に転職する「異業種×異職種」のパターンが約4割という結果になっています。この結果は、2021年度の37.1%より2.2pt増加し、「異業種×異職種」の転職は過去10年間で最も高い割合を占めています。
出典:「『異業種×異職種』転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた『越境転職』が加速」(株式会社リクルート)
また、リクルートエージェントの求人のうち、「仕事の内容」に「未経験」という単語が含まれる「未経験求人」を分析したところ、2018 年度を基準として2022 年度には未経験求人が 3.2 倍に増加していることが分かりました。異業種や異職種を選択する求職者だけでなく、企業としても未経験者を受け入れるケースが増えているようです。
出典:「未経験求人が2018年度比で3.2倍に増加。2022年度で急増 新たな業界・職種へチャレンジできる機会が増加」(株式会社リクルート)
自分に合う業界の選び方
自分に合う業界の選び方のひとつに、「商材」や「顧客」で選ぶという方法があります。また、「イベントで実際に話を聞いてみる」という方法もご紹介します。
商材で選ぶ
自分に合う業界の選び方の1つ目は、「商材」で選ぶという方法です。商材には「有形」と「無形」があります。有形商材は、自分が携わっている商品・サービスを日常的に目にする可能性があります。自分の仕事の影響範囲などが感じられて、やりがいにつながるかもしれません。一方で、無形商材は顧客のニーズに応じて商品・サービスをカスタマイズするため、提案力や企画力が問われます。柔軟性や自由度の高さを魅力に感じる人も多いようです。
他にも、食品、衣料品、ゲーム、金融商品など、自分が興味を持っている商材から選ぶという方法もあります。「日常生活に欠かせない商品」「特定の領域でニーズの高い商品」など、商材によってニーズやマーケット規模が異なるため、気になる商材を研究してみましょう。
顧客で選ぶ
2つ目は「顧客」で選ぶという方法です。一般的な消費者を対象とするビジネスを「BtoC(Business to Consumer)」、企業を対象とするビジネスを「BtoB(Business to Business)」と呼びます。BtoCのサービスが多いWeb・インターネットやマスコミ・広告などはイメージしやすい業界に挙げられますが、BtoBのサービスが多い業界は商材や仕事内容をイメージしにくい傾向があります。BtoBのサービスにも目を向けてみると、意外な業界に魅力を感じるようになるかもしれません。
イベントで話を聞いてみる
3つ目は「イベントで話を聞いてみる」という方法です。転職フェアや合同企業説明会に足を運ぶと、様々な業界・企業の話を一度に聞くことができます。実際に働いている人に具体的な話を聞くことで、理解度が深まるでしょう。
また、転職系のイベント以外にも、興味を持った業界があれば、展示会に足を運んでみるという方法があります。展示会とは、ソフトウェアやフード、ヘルスケアなど、テーマに応じた企業がブースを出展し、自社の商品・サービスをアピールするイベントです。業界のトレンドや従業員の雰囲気などが掴めるので、情報収集のひとつになるでしょう。
【15業界を解説】各業界の特徴を知ろう
リクルートエージェントのサイト内で分類する15業界について、特徴を解説します。
IT・通信業界
IT業界には、企業をクライアントとして情報システムの企画立案・開発を行う「システムインテグレーター(SIer)」、会計ソフトや顧客管理ソフトといった企業向けソフト、各種アプリケーションを開発する「ソフトウェア会社」、パソコンやサーバなど機器の開発・販売を行う「ハードウェアベンダー」などがあります。
通信業界は、携帯キャリアを中心に、電波を使用したサービスを提供します。
Web・インターネット業界
インターネット上での販売を行う「ECサイト」、ネット検索システムを提供する「検索エンジン」、個人のコミュニケーションツールを提供する「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)」をはじめ、売り手と買い手を結ぶ「マッチングサービス」、「スマートフォンアプリ」など、Web・インターネット業界は多様なサービスが展開されています。
多様なサービスを開発・提供・販売するWebサイト制作、Webアプリ開発、Webマーケティング、ネット広告代理店などの企業で構成されています。
機械・電気業界
機械業界には、工作機械・建設機械・農業機械・産業用ロボット・FA(ファクトリーオートメーション)などの産業機械分野のほか、OA機器などの精密機器、自動車などの輸送機器の分野があります。
電気業界には、家電、AV機器、コンピュータなどの開発・製造を行うメーカーが含まれます。これらの業界では、「自動運転」や「IoT(モノとインターネットの接続)」などをキーワードに変革が進んでいます。
化学・素材業界
化学業界は、原材料に合成・分解・発酵などの「化学反応」を加えて製品を作るメーカーで構成されます。素材業界には、鉄鋼、非鉄金属、石油・化学製品、樹脂、繊維、紙・パルプ、ガラス、ゴム、電子材料などのメーカーが含まれます。
いずれの分野でも高付加価値製品の開発、用途の拡大、対象顧客業種の開拓などに力が注がれています。
商社
商社とは、貿易・輸出入の仲介および国内での商品販売を行う業態。幅広い商品・サービスを扱う「総合商社」と、特定の分野に特化した「専門商社」があります。
大手総合商社は、有望な事業領域への投資・ビジネスの運営支援も行っています。資源事業に力を入れる商社、非資源分野(食料・ヘルスケア・小売・ITなど)に強みを持つ商社など、企業によって注力分野・得意領域が異なります。
専門商社では、「マーケットニーズの理解」という強みを活かし、メーカーの商品開発支援も手がけています。
物流・運輸業界
物流企業は、依頼主から預かった荷物を運ぶ「輸送」をはじめ、「保管」「荷役」「包装」「流通加工」「情報管理」などの機能を備えています。物流の一連業務を提案・受託する「3PL(サードパーティー・ロジスティクス)」に注力する企業が多数あります。
運輸業界には、貨物のほか旅客を運ぶ企業も含まれます。鉄道やトラックで輸送する「陸運」、航空機で輸送する「空運」、船舶で輸送する「海運」などの種類があります。
小売・卸売・サービス業界
小売企業には、幅広い商品を販売する百貨店・スーパーマーケット・コンビニエンスストア・ホームセンターのほか、アパレル店、ドラッグストア、家電量販店、家具店などの専門店があります。
一方、卸売業はメーカーから商品を仕入れ、複数の小売店に販売します。サービス業界には、外食・ホテル・レジャー・教育・介護・冠婚葬祭・美容など多様な無形サービスを提供する企業があります。
旅行・エンタメ業界
旅行業界とは、旅行に際しての交通手段や宿泊施設の手配、パッケージツアーのプランニング・販売などを手がける企業を指します。「修学旅行」「社員旅行」「研修旅行」といった団体旅行も手がけます。旅行者側、宿泊施設側の両方から収益を挙げる仕組みです。
エンターテインメント業界は「娯楽サービス」を提供する業種であり、テーマパーク・レジャー施設・音楽・ゲーム・映画・劇場など多様なジャンルがあります。
マスコミ・広告業界
新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどのメディアを通じて広く情報を発信するのがマスコミ業界。新聞社、出版社、放送局などの企業が該当します。
広告業界は、自社製品・サービスを宣伝したい企業に対し、出稿先メディア、広告内容、キャンペーン・イベント企画などを提案します。かつては、新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどの「広告枠」の販売が主流でしたが、近年はWeb広告やSNSを活用したプロモーションを手がける企業が伸びています。
人材業界
求人広告料を収益とする「転職サイト運営」、社員を採用したい企業と求職者のマッチングサービスを手がける「人材斡旋(転職エージェント)」、派遣人材を活用したい企業と派遣就業を希望する求職者をつなぐ「人材派遣」、人材開発・人事制度企画・採用戦略などを支援する「人材コンサルティング」、ビジネス系SNSや企業の口コミサイトなどを運営する「採用プラットフォーム」、人事関連業務を技術の力で解決する「HRテック」など、多様なジャンルがあります。
コンサルティング業界
クライアント企業の課題に対し、解決策の提案を行うのがコンサルティングファームです。企業のトップと対話して経営戦略を支援する「戦略系」、税務・財務面を強みとする「会計系」「監査法人系」、IT導入を強みとする「IT系」、調査・分析からコンサルティング業務へ展開している「シンクタンク系」のほか、「人事」「マーケティング」「M&A」「IPO(株式公開)支援」「新規事業開発」など、専門分野に特化した企業もあります。
金融・保険業界
金融業界は、銀行(メガバンク・地方銀行)、証券、保険(生命保険・損害保険)、信用金庫・信用組合、政府系金融機関、投資ファンド(投資家から資金を集めて投資を行い、収益を分配)、アセットマネジメント(投資信託の商品開発・資産運用)、カード、リース、消費者金融などに分類されます。
生命保険業界では、営業職員による「対面販売(訪問販売)」のほか、インターネットや直営店舗での「直接販売(直販)」「保険ショップ」などチャネルが多様化しています。
不動産・建設業界
不動産業界には、取得した土地を造成したりビル・マンションを建設したりして販売する「デベロッパー(開発)」、不動産を所有して第三者に貸す「賃貸」、不動産物件の売り手と買い手・貸し手と借り手を結びつける「流通(仲介)」、不動産物件の維持・管理を担う「管理」、注文住宅や建売住宅などを手がけるハウスメーカーなどがあります。
建設業界は、建設計画・設計・施工管理を総合的に行う「ゼネコン」を中心に、工事の一部を請け負う「サブコン」や多数の中小工務店で構成されています。
医療・医薬業界
医薬品メーカーは、医薬品の研究開発、効果の確認、販売を行います。医師が処方する「医療用医薬品」と薬局やドラッグストアで販売される「一般用医薬品」に大別されます。近年は「バイオ医薬品」「再生医療」「遺伝子治療薬」などに注力する企業が多く見られます。
医療機器業界には、検査・診断機器、治療機器(手術用・処置用)、医療用具(注射器・カテーテルなど)などがあり、近年は自動手術ロボットの開発も進んでいます。
インフラ・官公庁・その他
インフラ業界とは、社会や人々の生活を支える基盤の整備やサービスの提供を行う業界。エネルギー(電力・ガス・石油など)、交通(鉄道・航空など)、運輸、通信、土木・建設などが該当します。
官公庁とは、国(中央官庁)、地方公共団体(地方自治体)などを指します。いわゆる「役所」と呼ばれる機関のほか、警察・裁判所などを含むこともあります。
業界に迷ったら転職エージェントに相談を
全ての業界について研究し、自身との接点を探すのは、時間も手間もかかります。転職エージェントに相談すれば、自身の経験・スキル・志向がどの業界で活かせるか、客観的視点とこれまでの転職事例をもとにアドバイスを受けられます。転職エージェントからヒントを得ておけば、効率的に業界研究・企業研究を進められるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
記事更新日:2023年09月26日
記事更新日:2024年10月04日