育児休業は本来、現職に復帰することを前提として取得するものです。しかし「育休中に配置転換を言い渡された」「時短勤務させてもらえない」「マタハラにあって働き続けられるか不安」といった事情から育休中に転職活動をし、復帰後すぐに新たな職場に移って働き始めるケースもあります。
転職活動の進め方や注意点、退職のマナーなど、育休明けの転職を成功させるためのポイントを、リクルートエージェントのキャリアドバイザーがアドバイスします。
目次
育休明けすぐの転職は慎重にした方が良い理由
育休中に転職活動、育休明けに転職は可能?
さまざまな理由から、育休が明けてすぐの転職を検討する方は実際にいらっしゃいます。
たとえば育休中にリストラの対象になったり、配置転換を言い渡されたり、あるいは雇用形態の変更を強いられた、時短勤務に難色を示されたなどの理由から、育休中に転職活動をするケースがあります。
育休中でも何らかの理由で「現職で育児と仕事の両立は難しい」と感じたら、転職活動をして他社の環境と比較しても構いませんし、それ自体には何ら問題はありません。結果として、現職の方が良い環境だと納得できれば、そのまま復帰すればいいでしょう。一方で、現職より仕事と育児の両立がしやすい環境が見つかれば、転職に踏み切るのもひとつの方法です。転職はあくまでも労働者の権利です。
ただ、育休の取得が会社や同僚に少なからず負担をかけていることや、1年後に復職する前提のもとで育児休業給付金が支払われていることも忘れてはいけません。もし今の会社と交渉して状況が改善される余地があるのなら、まずそちらを優先することをお勧めします。育休明けの転職は、色々なことを比較検討した上でも、復職後に働き続けることが難しいと判断した場合の選択肢と考えましょう。
育休明けの転職にはどんなリスクがあるか?
育休明けで小さな子どもを抱えた状態での転職には、難しい点や不利になる点もあります。下にお伝えするようなリスクも念頭に置いて、より良い選択をしていきましょう。
●時短勤務や休暇がすぐに使えない
仕事と育児の両立のために、子どもが3歳になるまで勤務時間を短縮できる「時短勤務制度」を利用したい人は多いことでしょう。しかし時短勤務については、入社後1年未満の労働者を対象から除外している企業が大多数。つまり転職すると、初年度は時短勤務ができないことが多いのです。
また、年次有給休暇や、半日単位から取得できる(※)「子の看護休暇」も、勤続6カ月以上にならないと付与されない企業がほとんどです。子どもが小さなうちは急に病気になることも多いため、応募先や転職先の制度をよく確認する必要があります。
(※)2020年9月時点。2021年1日1日からは、時間単位での取得も可能となります。
●保育園の内定に影響することも
認可保育園への入園が決まってから転職をした場合、自治体によって対応は異なりますが、最悪の場合、内定が取り消されてしまう可能性もゼロではありません。
たとえば、保育園申し込み時の会社と転職先とで、勤務時間や就労する日数などが大きく変わり、時間や日数が短くなった場合は入所の優先順位が下がります。また、転職予定先の就労予定証明書を出した場合は「就労内定」で選考することになり、現職に在籍し続ける「勤務中」より優先順位が下がる自治体もあります。転職活動をする前に、保育園の入所基準を自治体によく確認することをお勧めします。
●新しい環境に慣れるストレス
育休明けで職場に復帰すると、育児と仕事の両立に最初は誰でも戸惑うものです。それでも、雰囲気や仕事内容が分かっている慣れ親しんだ職場なら少しは安心できるでしょう。それに対して、育休終了後の復職が転職先への入社となると、初めての環境でさらに戸惑うことも多いはず。そのことが大きなストレスになってしまうかもしれません。
転職先の企業からはどのように見られる?
企業によっては、育休中の求職者はあまり歓迎されないことがあるかもしれません。それはある程度、覚悟しておいたほうが良いでしょう。
しかし、転職活動をするやむをえない理由がある場合は、きちんと説明すれば企業も理解を示してくれることと思います。聞かれた時は「こんな事情で仕事と育児の両立が困難でした」と、正直に話した方が良いでしょう。ただし、それをアピールしすぎないことが大事です。自分の強みや、新たな職務にどんなやり甲斐を感じるか、どんな風に貢献していきたいかという前向きな意欲を必ず伝えましょう。
また条件面の話をする際には、「必ず定時で帰りたい」ではなく、「家族にお迎えを頼むので週に一度の残業は可能です」など、相手とすり合わせていくスタンスが必要です。面接に臨む前に、子育てしながらの就業について自分が求める条件と、企業と調整のうえ譲歩できる部分を洗い出しておくとスムーズです。
育休中の転職活動を成功させるためには
なぜ転職をするかの理由を明確にする
まず自分がなぜ転職するのか、転職することによってどんな問題を解決したいのかを明確にしましょう。特に育休中の転職活動は「なぜ転職しなければならないのか」という正当な理由があり、それをしっかりと説明できることが大事です。
さらにこの先のキャリアを描く上で、自分が何を求めているかを分析しましょう。たとえば、家庭を重視しながら働き続けたい場合もあれば、子育てをしながらステップアップして、キャリアを構築することにこだわりたい人もいます。そのうえで、仕事と育児を両立するために必要とする条件と、それらの優先順位を明確にしておきましょう。
どんなスケジュールで行動すると良い?
現職に復帰したとしても働き続ける気持ちはないのなら、復帰の3カ月くらい前から転職活動を始めることをお勧めします。たとえば4月に復帰を予定しているのなら1月には情報収集を始めましょう。その頃には、前年に申し込んだ認可保育園の内定が出ていると思われますが、もしも内定しなかった場合は2次募集を検討しましょう。
育休中はまだ子どもを保育園に預けることはできません。転職活動の間に世話を頼める人がいない場合は、行政の一時預かりサービスや、有償ボランティアなどの利用をお勧めします。その場合、サービスへの登録や申請方法を事前に調べておくことも必要です。
転職先が決まったら、復職予定日の1カ月前、遅くとも復帰前面談よりも前に、会社に退職の意思を伝えるようにしましょう。復帰したら、現職から就業証明書をもらって自治体に提出し、諸手続きや仕事の処理を済ませ、有休消化、退職、転職先へ入社となります。
もしも復帰前面談までに転職先が決まらなければ、一度現職に復帰して、仕事を続けながら改めて転職活動をした方が良いでしょう。その場合、育休のブランクをキャッチアップする時間を考えると、復帰して少なくとも6カ月くらい経ち、仕事も育児も落ち着いてからの活動再開をお勧めします。
転職先の企業を探すときにチェックすべきことは?
●出産や、子育てと仕事の両立に対して理解があるか
子どもが小さなうちは、病気などによる突然の欠勤や早退がどうしても避けられません。そうした状況に十分な理解を示してくれる職場選びが大切です。たとえ収入などの条件が良くても、出産や子育てに対する目が厳しい企業で働き続けることは難しいでしょう。
育休後復帰の実績や、ワーキングマザーの比率を確認するほか、女性管理職の人が一定数いるかどうかもひとつの目安になります。加えて、部署の中に同じポジションの人が複数在籍していて、自分が休んだ時に代理がいる環境であることも、安心して働き続けられるポイントになります。
●フレックスや時短勤務があり、活用されているか
フレックスタイム制度や時短勤務の制度が利用できるなど、勤務時間に柔軟さがあり、融通が利く企業がお勧めです。前述の通り、時短勤務は入社初年度に利用できない場合が多いのですが、中には柔軟に対応してくれる企業もあるかもしれないので、確認しておくとよいでしょう。なお、そうした制度が整っているだけではなく、実際に活用されているかどうかも必ず事前に確認しましょう。
●制度化されていない「働きやすい風土」があるか
その企業で働く女性の育児をどういった形で周りがフォローしているのか、自分の中にイメージが湧くまで確認することもお勧めします。たとえば職場に女性が多く「お互いさま」の精神で助け合う風土があるとか、育休明けの業務では目標を軽減する配慮があるなど、働きやすさにはさまざまな理由があるはずです。可能なら、在籍中のワーキングマザーとの面談をお願いしてみるのも良いでしょう。
できるだけ円満に会社を退職するポイント
退職の意思を申し出る時期について
会社に退職の意思を伝える時期は、就業規則に従い、辞める1カ月〜1カ月半前が一般的と言われます。しかし育休中の場合、会社は職場復帰を見込んで配置を進めているので、復帰先の部署が決まる前にできる限り早く伝えることが望ましいです。特に新年度がスタートするタイミングでは注意した方が良いでしょう。
退職交渉は、復帰を待ってくれていた職場の心情的なことを考慮しながら、トラブルにならないよう慎重にすることをお勧めします。時には「退職に関する話し合いの場に出席して欲しい」「数日だけは出社して欲しい」といった、職場の要望を受け入れることも必要かもしれません。もし必要であれば転職先の企業と交渉して、入社時期を少し先延ばしにしてもらうなどし、できるだけ現職への礼儀を尽くすようにしましょう。
退職理由の伝え方について
退職理由を伝える時の基本的なマナーは、育休明けの退職の場合でも通常と変わりありません。退職意思を最初に伝えるのは、必ず直属の上司にします。「突然のことで申し訳ございません」と礼を尽くしながら「〇月〇日に退職させていただきたいと思います」と期限をつけて、すでに決心がついていることをしっかりと伝えましょう。
大切なのは、退職を決意した理由が会社への不満だったとしても、決してそのまま伝えないこと。育休明け退職の衝撃があるところに、否定的な理由を言われれば、会社の心証は一層悪くなり、スムーズに退職ができなくなるかもしれません。
ですから「新たに〇〇にチャレンジしたい」といった前向きな理由か「家庭の事情」など、個人的な理由として伝えることをお勧めします。その際は、「今の職場ではその希望は叶えられないので仕方ない」と、相手が納得できる理由にすることが大切です。また、今までお世話になった事への感謝の気持ちも必ず伝えるようにしましょう。
【伝え方例】
「今までの経験を活かして、異業種でキャリア形成に挑戦したいので、退職させていただきたいと思います」
「出産して育児が予想以上に大変なことが分かりました。家族を大切にするために、今よりも負担なく働ける職場に移りたいので退職させていただきます」
育休手当は返還しなくても大丈夫
育児休業を取得した人が、給与の代わりに雇用保険から一定額の給付を受けられるのが、育児休業給付金です。「もしも復職せずに退職・転職してしまったら、返さなくてはいけないの?」と心配する人もいるようです。
最初は復帰するつもりで育休に入っても、さまざまな理由から結果的に退職となった場合には、すでに受給した育児休業給付金を返還する必要はありません。ただし、育児休業に入った時点で最初から退職する予定があった場合は、育児休業給付金は支給されないことになっています。
育休明け転職は可能だが、できれば1度復職を
育休明けの転職はクリアすべきハードルが多いので、目的意識をしっかりと持ち、現職にも転職先の企業にも誠実な対応を心がけることが成功のポイントです。
ただ、育休中のリストラや会社の倒産、遠方への転勤辞令といった、やむをえない事情を除いては、できれば育休復帰後に転職活動をすることをお勧めします。一旦復帰して、仕事と育児のペースをつかんだうえで改めて転職活動をした方が、より理想的な選択ができるかもしれません。
子育てをしながら転職活動をしたいと考えるなら、転職エージェントの利用もおすすめです。仕事と育児の両立がしやすい企業の紹介や、転職先の育児支援体制についてヒアリングしたり、企業との交渉の進め方をアドバイスしたりすることもできます。ひとりで悩まず、まずは相談してみてはいかがでしょうか。
この記事のおさらい
育休明けに転職してもいい?
育休明けの転職は慎重に考えたほうがいいといえるでしょう。その理由はこちらをご覧ください。
育休明けに転職を考える際の会社選びのポイントは?
「仕事と子育ての両立に理解があるかどうか」は長く働き続けるうえで大切なポイントになります。詳しくはこちらをご覧ください。
育休明けの転職で円満退社はできる?
復帰を見込んでいた職場の心情的なことを考慮しながら、慎重に退職交渉をしましょう。詳しいポイントはこちらで紹介しています。
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