「転職するかしないか、迷っている。決断するためのヒントがほしい」という皆さんに向けて、自身の中で確認しておきたいポイントや、転職すべきではない人・転職した方がいい人の特徴、年代別の判断基準について、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏がアドバイスします。
目次
転職を迷うときに確認したいポイント
「転職するかどうか」という迷いから抜け出せないときは、まず自分自身の中で次のポイントを確認してみましょう。
転職することが目的になっていないか
「とにかく今の状況から脱したい」という気持ちが先走り、転職することが目的になってしまってはいないでしょうか。特に転職活動を進めていて内定も獲得するようになると、「転職」へ気持ちが傾くものです。
しかし、現状の不満を改善するための選択肢は「転職」だけではありません。転職せずに、課題を解決できる方法が本当にないのかを考えてみましょう。
「納得がいくまで上司と話し合ってみる」「それで改善しなければ、さらに上の上司や人事に相談する」「これまでと仕事とやり方を変えてみる」「他部署・他職種への異動の可能性を探る」など、転職に踏み切る前にできることに目を向けることをおすすめします。
自分は何に対して迷っているのか
漠然と迷っている状態であれば、「自分は何に対して迷っているのか」「どんな点が引っかかっているのか」を整理して言語化してみましょう。「自分が迷っている理由」を分解して、その判断材料となる情報を入手することで、迷いが解消されることもあります。
希望通りの転職ができるかどうかで迷っている場合
例えば、「希望通りの転職ができるのだろうか」と迷っているなら、まずは希望する条件を書き出したり、求人情報を収集して希望条件に合致する求人がどのくらいあるか調べたりするなど、転職に向けて実際に行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
転職活動を始めたからといって、必ず転職しなければならないわけではありません。転職活動を通じて、自分の市場価値をつかんだ結果、「今、転職するのは得策ではない」と納得し、今の会社にとどまる決断ができるかもしれません。
転職先の給与・待遇が気になっている場合
一方、すでに転職活動をして内定を獲得できそうな状況で迷っているのであれば、気にかかっているポイントを整理して、それに関する情報を取得しにいきましょう。応募先企業の人事担当者に確認することができます。
例えば、「給与・待遇」が気にかかっているのであれば、「入社後、どんな成果を挙げることで年収アップや昇格につながるのか」「自分と同等レベルのキャリアで入社した人は、○年後、どんなポジションに就いていて、年収はいくら上がっているのか」について尋ねてみるのも一つの方法です。
人間関係や組織風土に不安がある場合
また、「人間関係を築けるだろうか」「組織風土になじめるだろうか」といった不安があるなら、応募先企業の人事担当者に相談し、現場で一緒に働く人と話をさせてもらうのもいいでしょう。最近では、オンラインでのカジュアル面談も一般的になってきていますので、希望すれば受け入れられる可能性があります。
社内のミーティングやイベントに参加させてもらう方法もあります。あるいは、社員たちの価値観や人物タイプがわかるような資料、例えば会社への満足度に関するサーベイ結果などを、開示可能な範囲で見せてもらったり、口頭で聞いたりしてはいかがでしょうか。
「御社への入社を前向きに考えていますが、○○のポイントが気になっていますので、もう少しくわしく教えていただけますでしょうか」といったように交渉すれば、応じてもらえる可能性が高いと思います。
今、転職しないとデメリットがあるか
今のタイミングで転職を選ばなかった場合、後々悔やむことにならないかどうかも考えてみましょう。例えば、「このまま年齢を重ねていくと、自分が希望するような職種やポジションでの求人が少なくなり、選択肢が狭まるかもしれない」「今回内定を得た求人は、この先出てこないかもしれない」、あるいは「長期プロジェクトに入ってしまうと、しばらくは転職活動に時間を使えなくなる」など。
今の会社で経験を積み、それを活かして転職を図るのであれば、転職のタイミングを改めても問題はないでしょう。しかし、キャリアチェンジを目指すのであれば、なるべく早い段階で決断したほうが希望も叶いやすいかもしれません。
この点については、自分1人では判断がつかないと思いますので、転職エージェントから転職市場の傾向について情報を得るのも有効です。
今あるメリットを捨てても、得たいものがあるか
「今の会社で働くメリットを手放しても、転職で手に入れたい価値があるかどうか」も確認すべきポイントです。それを可視化するためには、人が企業に期待する4つの項目「目的への共感」「活動内容の魅力」「構成員の魅力」「特権への魅力」で整理する方法があります。
まずこれらの項目に対して、自分が特に重視する部分=転職の軸を元に優先順位をつけます。そして、現職と転職先候補のどちらがより軸を満たしているか、メリットが大きいかを比較してみましょう(仕事内容重視なら、年収は下がっても仕方ない……など)。
人が企業に期待する4つの項目
- 「目的への共感」=企業理念に共感する、社長の思いにワクワクできる
- 「活動内容の魅力」=仕事内容が魅力的
- 「構成員の魅力」=社風がいい、優秀な社員が多い
- 「特権への魅力」=福利厚生、勤務先の立地やアクセス、評価体制、教育・研修制度の充実
上記でご紹介したポイントについて、自分の中で整理がついていない人は、早まって転職しないほうがいいと思われます。勢いで転職したとしても、「期待したイメージと違っていた」「やはり前の会社のほうが良かった」と後悔するリスクがあります。
一方、迷いのポイントを明確にして、転職で実現したいことの「軸」を明確に認識できた人、環境の変化への覚悟ができた人は、転職を決断してもいいのではないでしょうか。
転職した方がいい人、今は転職すべきではない人とは
ここでは、すぐに転職した方がいい人と、転職すべきではない人の特徴について解説します。なかなか迷いが払拭できない人は、自分の状況と合わせて考えてみましょう。
転職した方がいい3つのケース
一般的に転職に踏み切ることをおすすめできるのは、次の3つのケースです。
- 長時間労働・低賃金など、明らかにブラック企業である場合、このまま働き続けていると心身の健康を害しそうな場合、給与の不払いなどから経営難が考えられる場合。
- 今の会社を辞めた後にやりたいことや目指すキャリアが明確で、なおかつ、それらが現職では実現できない場合。
- 人間関係や社風などの不満や不安について、自分なりに問題解決に向けて努力したが、改善しなかった場合。
今は転職をやめたほうがいい5つのケース
すぐに転職しない方がいいと考えられるのは、転職理由が不明確である場合や、タイミング的に少し後の方が選択肢が広がる場合です。具体的には、次のようなケースが当てはまるでしょう。
- 転職理由が現状への不平不満の解消でしかない場合。採用担当者から見ると、入社後にどのような活躍をしてもらえるのかイメージできないため、なかなか採用には至らないでしょう。
- 経験・スキルを棚卸ししておらず、自分の強みが分からない場合。例えば、会社の知名度や役職だけで自分の価値を測ってしまい、アピール方法を間違ってしまう人は少なくありません。
- 条件面や憧れが先行している場合。転職に対する期待値が高すぎるため、転職後に現実を知りギャップを感じるケースも少なくありません。
- 自分で決断する覚悟がなく、他人の意見に流される場合。転職活動を続ける中で判断がぶれてしまい、希望通りの転職ができなくなる可能性があります。
- 昇進や昇格、昇給のタイミングである場合。現職でその機会を得てから転職活動を始めた方が、転職先の選択肢が広がる可能性があります。
年代別・転職を迷うポイントと判断する基準
20代、30代、40代の年代別に、転職に迷いがちなポイントと、迷いを払拭するためのヒントをご紹介します。
20代の場合
ポテンシャルも選考要素となる20代は、他の年代に比べると転職しやすい時期だと言われますが、それだけに転職のタイミングで迷ってしまうケースが多く見られます。転職したい気持ちはあっても、「キャリアの早い段階で転職してしまって大丈夫か」「現職でもう数年頑張った方が経験・スキルを高めることができるのでは」「年収や役職もアップするかもしれない」などと考えて、なかなか踏み切れない場合です。
20代が転職のタイミングを判断するには、これまでの経験を棚卸しし、自分の強みや弱みを把握して、「5〜10年後にどうなっていたいか」といったキャリアプランを描いてみましょう。その上で、現職で働き続けた場合には3年後、5年後にどういったキャリアを得られるかを把握し、転職市場における同業界・職種の状況と比較検討してみましょう。
自身のキャリアプランに相応の経験・スキルや待遇が得られないと感じたら、転職を考える時期かもしれません。同じ部署の先輩社員の状況を見ることも参考になるでしょう。
30代の場合
現職である程度のキャリアを積み上げ、管理職に就く人も増える30代は、プライベートでも結婚、育児、住宅購入など多くのライフイベントを迎える年代です。そのため転職先へ求める条件も多くなり、転職することのメリット・デメリットを天秤に掛けるうちに、動きが取れなくなってしまうケースも良く見られます。
そのような場合は、前述した「人が企業に期待する4つの項目」で転職の軸を見直し、自身の中で意識して優先順位をつけていくことが重要です。「役職」「年収」「福利厚生」……と全ての希望を追うのではなく、緩和できる条件は緩和していくと、選択肢が広がる可能性があります。まずは実際の求人情報を収集する、転職を経験した知人に話を聞く、転職エージェントに面談に行くなどして、自身が納得する転職が実現可能かを判断しましょう。
40代の場合
40代になると、「自分が企業から求められるか」「自社以外でも通用するのか」という思いから、転職に迷うケースが多くなります。企業から求められる経験・スキルのレベルは高くなり、加えて40代が主な対象となる専門職・マネジメントポジションの求人枠は決して多くありません。従っていかに実績を積んできても、20代の若手の時のように、多くの企業の選考を通過して、スムーズに内定獲得とはならない可能性があります。
そこで重要になるのは、自身の市場価値を的確に認識し、日頃から転職市場の動向を把握しておくことです。そうすれば、タイミングを含めて「転職すべきかどうか」を判断しやすくなります。そのためには、転職エージェントに相談するのが早道。希望条件に合う求人が出たらすぐに情報が入ってくるように、信頼できる転職エージェントとつながっておくといいでしょう。
迷う理由をうまく整理できないときのコツ
上述の方法で整理しようとしても、自分が何を迷っているのか考えがまとまらないときには、次の方法を試してみてください
第三者に話を聞いてもらう
一人で考えるのではなく、誰かに話し相手になってもらって自分の考えを話すうちに、頭の中が整理されてくることがあります。家族、友人、信頼できる同僚などに相談し、対話の機会を設けてみるのはいかがでしょうか。
ただし、相手の意見やアドバイスをそのまま受け入れることはお勧めしません。相手は自分の経験や価値観で話すので、あなた自身の価値観が揺らいで、かえって迷うことも考えられます。相手の個人的な見解は、あくまで「参考」の範囲内にとどめておきたいものです。
特に現職の同僚などに相談をする場合は、転職はデリケートなテーマになるため、転職に関してではなく、キャリアの方向性に関する相談という形にする等、注意が必要でしょう。
その点、転職のプロであるキャリアアドバイザーであれば、客観的な視点でアドバイスしてくれるので、相談をする価値があるでしょう。
迷うポイント別に「比較表」を作成してみる
迷うポイントをできるだけ多く挙げて視覚化することで、整理がしやすくなることもあります。例えば、エクセルシートを使い、転職の際に検討する条件・項目ごとに、「現在の会社」「転職先候補の会社」それぞれにスコアを付けて比較してみる方法があります。
例えば、「仕事内容」は「今の会社:5点、転職先候補:8点」といったようにスコアをつけてみましょう。こうすることで、自分にとって転職するメリット・デメリットのバランスを判断しやすくなるかもしれません。
<比較する項目の一例>
- 企業理念
- ビジョン
- 事業戦略
- 事業・商品の特徴
- 仕事内容
- タスク
- 社風
- 経営者
- 社員
- 評価・教育制度
- 給与
- 設備
- 勤務場所
1人で迷わずエージェントに相談してみよう
自分一人で考え続けていると、迷路にはまって抜け出せなくなることがあります。迷ったままの状態で時間を過ごしてしまうと、せっかくのチャンスを逃してしまうこともあるかもしれません。
第三者と相談して頭の中を整理すること、そして正確で詳細な情報を得ることで迷いは解消されるものです。「相談相手」として「情報源」として、転職エージェントを活用してみてはいかがでしょうか。
応募・内定後に迷った場合も、納得して決断するためには相手企業から情報を得ることが重要。「これが気になっているけれど、質問しづらい」といった場合でも、転職エージェントが間に入って代わりに確認してくれるので、疑問の解消もスムーズに進むでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。