
新卒入社したばかりなのに、「辞めたい」と感じている人は少なくないようです。新卒入社1年目~3年目の離職率はどのくらいで、辞めたい理由・辞めずに働き続けている理由とはどういったものなのか、転職に踏み切って満足したケースや後悔したケース、転職するかどうか判断するポイントや注意点などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
新卒入社したばかりで、「会社を辞めたい」は甘え?
新卒入社してから数カ月・半年・1年といった期間で「会社を辞めたい」と思うのは、ふとしたきっかけで誰にでも起こり得ることだと言えます。「甘えなのではないか」と自分を責める必要はありません。
学生から社会人になると、環境が大きく変わります。社会人として仕事をするのは初めての経験である上、ビジネス場面に適した言葉遣いや振る舞い方なども身につけなくてはならず、「ついていくのが精一杯」と感じるのは無理もないでしょう。
また、職場の環境や人間関係に馴染むまでに時間がかかったり、生活リズムの変化に適応できなかったりすることに、ストレスを感じてしまうケースもあります。そうしたときに「辞めたい」と思うのは、自然な心の反応と言えます。
個々の状況次第では、早期に辞めて転職するのも有効な手段となりますが、一時的な感情に流されず、慎重な検討をおすすめします。労働環境に明らかに問題がある場合を除いては、会社を辞めたい理由を整理し、さまざまな面から検討を重ねた上で、「辞めるかどうか」を決断することが大事です。
新卒入社1年目~3年目の離職率は?
実際、新卒入社して早期に会社を辞める人はどれくらいいるのでしょうか。厚生労働省の発表によると、新規学卒就職者(令和3年3月卒業者)の就職後3年以内の離職率は、高卒就職者で38.4%、大卒就職者で34.9%となっています。
つまり、新卒入社3年以内に会社を辞める人は、全体の3割以上に達しているのです。なお、この数値は前年と比較して高くなっています(令和2年3月卒業者は、高卒就職者36.9%、大卒就職者31.2%)。
さらに、新卒入社何年目で離職したかについての内訳を見ると、「入社1年目」で離職する人の割合が高く、高卒で18.5%、大卒で12.3%という結果が示されています。
出典:新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します(厚生労働省)
新卒入社者の早期退職は一定数いる
リクルートマネジメントソリューションズでは、2023年3月、「新人・若手の早期離職に関する実態調査」を実施しました。
「過去3年以内に自己都合での退職をしたことがある」と回答した人の割合は17.5%。退職理由については、「労働環境・条件がよくない(労働時間、休日のとりやすさなど)」と回答した割合が25.0%で最多でした。
続いて、「給与水準に満足できない」(18.4%) 、「職場の人間関係がよくない、合わない」「上司と合わない」「希望する働き方ができない(場所、時間、副業など)」(いずれも14.5%)が上位となっています。
出典:「新人・若手の早期離職に関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ
新卒入社してすぐに会社を辞めたくなる理由
上記でご紹介した調査では、「過去3年以内に自己都合退職をしたことがない」という人に対しても、「これまで会社を辞めたいと思ったことがありますか」という質問を投げかけました。結果、「思ったことがある」(58.8%)という回答が「思ったことがない」(41.2%)を上回りました。
会社を辞めたいと思った理由の上位5つに注目すると、「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)、「給与水準が満足できない」(19.0%)、「自分のやりたい仕事ができない」(12.8%)、「会社の将来性に不安がある」(12.3%)、「労働環境・条件がよくない(労働時間、休日のとりやすさなど)」(12.3%)が挙がっています。
出典:「新人・若手の早期離職に関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ」
この5項目について想定されるのは、次のような状況です。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
仕事にやりがい・意義を感じない
新卒入社当初は、上司や先輩の指示のもと、アシスタント的な仕事から始めるのが一般的です。しかし、上司や先輩の仕事ぶりを見ていて、入社前に抱いていたイメージとのギャップを感じ、やりがいや意義を感じられないことがあるようです。
また、仕事が難しいと感じたり、ミスを繰り返したりすると「自分には向いていない」と自信を失い、やりがいも持てなくなるかもしれません。
給与水準が満足できない
「給与が安い」「ボーナスが少ない」など、他社に入社した友人などと比較して自社の給与の低さに気付くこともあります。特に、成果を挙げていても報酬に反映されない場合は、仕事に対するモチベーションも低下しがちです。
また、明確な評価制度がないために、自分の働きや成果が給与に反映されず、評価制度そのものに不満を感じるケースもあります。
自分のやりたい仕事ができない
希望していた部署に配属されなかったり、職種に就けなかったりした場合、「自分のやりたい仕事ではない」と感じることもあるでしょう。希望しない環境で働く中で、「扱う商品・サービスが好きになれない」「思い描いていたキャリアプランから遠のいていく」などと悩み、モチベーションが下がってしまう状態です。
会社の将来性に不安がある
入社後、実際に働く中で、「業績が振るわない」「競合に比べて商品・サービスが劣っている」「企業体質が古く、新しいことを取り入れようとしない」など、会社の実情に気付くこともあります。
また、新しい試みに慎重な会社や、若手の裁量権が小さい会社などの場合は、新たな経験を積むチャンスも少なく、自身を成長させられないという不安を抱くケースもあるようです。
労働環境・条件が良くない(労働時間、休日のとりやすさなど)
「残業が多くてきつい」「人手不足で、1人が担う仕事の負荷が大きい」「シフトが不規則で身体的に辛い」「有給休暇をとりづらい雰囲気がある」など、労働環境や条件に対して不満やストレスを募らせることもあります。
近年、リモートワークが普及していますが、「出社」に回帰している企業も見られます。働く時間・場所の柔軟性を求めて転職を考える人も少なくありません。
新卒入社で会社を辞めずに働き続けている理由
上記の調査では、「過去3年以内に自己都合退職をしたことがない」と回答した人に対し、「辞めずに働き続けている理由」も尋ねました。上位の3項目をご紹介しましょう。
転職も検討しているが、リスクもあると感じる
調査では、21.3%の人がこう回答しており、最多でした。転職の意向はあるものの、慎重になっていることが見てとれます。「年収や待遇が下がってしまうのではないか」「新しい仕事や職場になじめないのではないか」「次の会社にもなじめず、転職を繰り返してしまうかもしれない」といった不安があると考えられます。
会社の経営が安定している
調査では「会社がつぶれる心配がない」と回答した人が18%に上り、2位でした。「大手企業なので簡単にはつぶれない」「業績が良いので、リストラなどもない」など、安心感を持てることで定着につながっているのでしょう。
会社の安定性・将来性を重視しているとも考えられ、今後、外部環境の変化や予期せぬトラブルなどによって安定性が揺らいだ場合、転職を検討することになるのかもしれません。
条件に合う会社がない
調査では、14.2%の人が「転職も検討しているが、条件に合うものが見つかっていない」と回答しました。転職には至っていないものの、転職を考えている人はやはり一定数いることが見てとれます。
新卒で短期離職し、納得のいく転職ができたケース
ここでは、新卒で短期離職した後に納得のいく転職ができたケースを紹介します。
第二新卒枠で転職できた
採用競争が激化する中、新卒採用で充足できなかった人材を「第二新卒」採用で補おうとする企業は少なくありません。また、中小企業やベンチャー企業などは、新卒と同じ位置付けで第二新卒を中途採用するケースも多く見られます。
例えば、新卒で金融業界に入り、個人顧客への電話対応業務を担当していた人が、将来のライフプランを見据えて「地方転勤がない会社に転職したい」と考え、IT企業の新卒採用枠に応募し、本社勤務の営業事務職に転職した事例があります。
未経験の職場・業界に転職しやすかった
第二新卒層を対象とする求人には、「未経験者も歓迎」としていることが多くあります。経験・スキルよりもポテンシャルが重視されるため、未経験の業界・職種に転職できるチャンスが豊富にあると言えるでしょう。最初に選んだ仕事が合わないと感じたことで早期に方向転換することを決断し、より自分にマッチした職種に転職したケースもあります。
今後のキャリアに役立つ経験・スキルを積める
「仕事そのものが合わない」「希望に合うキャリステップが明示されていない」と感じたために、自分が思い描くキャリアビジョンを実現できそうな会社に転職したケースもあります。
今後のキャリアに役立つ経験・スキルを積める環境に転職することで、より早い段階から目指すキャリアビジョンの実現に向かうことができます。
新卒で短期離職し、転職活動や転職先で後悔したケース
新卒で短期離職して、その後の転職活動や転職先などで後悔する人もいます。事例をご紹介します。
スキル不足が原因で選考見送りになった
社会人として数年間の経験を積むなど、短期間でも実務経験がある人なら、中途採用の選考で経験・スキルや強みをアピールすることができるでしょう。
しかし、研修期間中など十分な実務経験を積む前に辞めてしまった場合は、実質的には新卒と変わらず、実務未経験者と見なされる可能性があります。第二新卒を対象とする求人に応募しても、実務経験のある人と経験・スキルを比較される可能性があります。こうした場合に、「人物面の評価は同等だったため、経験・スキル面を重視した」という理由から、採用に至らないケースもあります。
また、「短期で離職した」という経歴があることで、採用担当者に「またすぐに辞めてしまうのではないか」という懸念を持たれ、採用を見送られるケースもあります。
不本意な転職をすることになった
第二新卒枠を狙ってもなかなか採用に至らない場合は、応募先の選択肢はさらに少なくなっていきます。転職理由や将来のキャリアプランを整理できないまま、会社を辞めて転職活動を進めたことで、なかなか評価を得られずに転職活動に苦戦するケースもよくあります。
その結果、選考に通過できない焦りから、「自分が行きたい会社」ではなく「自分を受け入れてくれる会社」を選択してしまうケースも少なくありません。
さらに、転職後、再び「仕事内容や職場環境が自分に合わない」「希望するようなキャリアを実現できない」などの不満を抱き、不本意な転職を繰り返す悪循環に陥ってしまうケースもあります。
転職後に前職の方が良い職場だと痛感した
新卒入社から3カ月、半年、1年などで離職した場合は、経験・スキルが十分に身についていないと判断され、希望条件に合う企業に入社できないケースも少なくありません。
新卒で大手企業に入社し、それよりも規模の小さな企業に転職したことで、「給与水準が下がってしまった」「福利厚生や教育制度が充実していなかった」などの後悔をするケースも見られます。また、職場の人間関係が合わないことが理由で転職した後、「実際に働いてみると、前の職場で一緒に働いていた人たちの方が良かった」と感じるケースもあります。
新卒入社した会社で短期離職を検討してもいい?判断ポイントを紹介
新卒入社してから早い時点で退職するかどうかは、個々の状況次第と言えます。ここでは、退職を検討する際の判断ポイントを紹介します。
労働環境や待遇に問題がある
「過剰な残業があり、長時間労働が常態化している」「残業代がきちんと支払われない」「休日出勤が多い」「離職率が高く、慢性的な人手不足になっている」「生活に困るほど、極端に給与が安い」などの場合は、早めに見切りを付けた方が良いかもしれません。
給与の支払いが遅れるなど、明らかに会社の経営状態が悪く、倒産のリスクが高まっている場合も、転職を考えた方が良いでしょう。
パワハラ、セクハラに遭っている
職場で日常的にパワハラやセクハラが横行している場合や、自分がハラスメントに遭っている場合は、早めに何らかの対応を取る必要があるでしょう。現在は、企業に対し、ハラスメント対策の窓口を設置することが義務付けられていますが、「窓口が機能していない」「社内での周知が徹底されていない」というケースもあります。
また、誰にも話せないほど追い詰められてしまうケースもあるでしょう。パワハラやセクハラなどのハラスメントを日常的に受けている場合は、心の健康を損なう恐れもあります。早期に解決できないと感じた場合は、転職を検討するのも1つの方法です。
本当にやりたいことが明確になっている
社会人として実際に働いてみたことで、改めて「自分が本当にやりたいこと」が見つかったのであれば、その実現に向けて前向きな退職をすることを検討してみるのも良いでしょう。
特に、異業種・異職種にキャリアチェンジしたい場合は、転職することで、早いうちから今後のキャリアに役立つ経験・スキルを積むことができるでしょう。
また、「留学したい」「資格を取って専門職としてキャリアを積みたい」など、自分の目的や目指す方向性が明確にある場合も、早いうちからチャレンジできる環境に転職した方が良いと考えることもできます。
「早く辞めて転職する」と決断した場合に注意したいポイント
さまざまな対処法を実践しても状況が改善しない場合は、今の会社を辞めて転職することも1つの選択肢です。しかし、「辞めなければ良かった」と後悔するケースも少なくはないので、転職を繰り返さないために注意したいポイントを紹介します。
早く辞める理由について振り返る
新卒の就活で思い描いていた理想と、入社後の現実とのギャップを感じた場合は、「なぜそうなったのか」を考え、理由を掘り下げることが大事です。
その際、「自分の思いを実現できない会社が悪い」など他責傾向が強すぎると、不満のみにとらわれやすくなり、転職先で何を実現したいのかが見えにくくなってしまうでしょう。
理由を分析するときは、「新卒の就活の際に、こう考えれば良かったかもしれない」など、自分なりに今後の転職活動に活かせる点まで考えることをおすすめします。
例えば、就活で「知名度のある会社に行きたい」と大手企業を選んだものの、実際に入社すると、年功序列で若手の意見が通らない社風に強くギャップを感じたというケースもあります。
客観的な振り返りをすることで、「企業規模や知名度ではなく、社風や組織の体質を軸に会社選びをしよう」など、自分にマッチする企業を見つけるためのポイントが見つかりやすくなるでしょう。
転職理由と転職の目的を明確にする
新卒入社に限らず、転職で大切なのは、「○○を実現したい」という転職理由を明確にすることです。今の仕事や会社に対する不満の解消だけを目的として転職活動をした場合、「転職することで何がしたいのか」を伝えることができないこともあるでしょう。
応募企業の採用担当者も入社後の活躍イメージができない可能性もあります。それにより、「入社後、同じ不満を抱えてしまう可能性がある」「短期離職するかもしれない」という懸念を抱かれ、選考通過が難しくなることもあります。
現職の不満がきっかけで転職活動を始めることに問題はありませんが、「転職先で何を実現したいのか」「将来、どのような姿になりたいのか」まで明確にすることがポイントです。
「今後、自分が実現したいこと」を根拠に転職理由やキャリアプランを伝えることができれば、応募企業の懸念も払拭することができるかもしれませんし、企業選びの基準も明確になるでしょう。
転職先が決まってから会社を辞める
転職先が決まる前に会社を辞めると、定期収入がなくなり、経済的な不安を感じて、納得のいく転職活動ができなくなるかもしれません。定期収入がなく、生活に不安を感じた場合、焦りから十分な自己分析も企業研究もできないまま、ミスマッチな会社を選択してしまう可能性があります。「すぐに会社を辞めたい」と思っても、経済的な面についてもきちんと検討しておくことが大事です。
新卒入社したばかりで辞めたいと悩んだら、転職エージェントに相談してみよう
悩みを抱えている状態では、仕事への集中力が損なわれてしまいます。それによって成果を挙げられないと、自信を失い、さらにネガティブな思考に傾いてしまう可能性があります。悩んだら、まずは転職エージェントに相談してみてはいかがでしょうか。
転職エージェントを利用したからといって、必ずしも転職しなければならないわけではありません。キャリアアドバイザーは、転職市場の状況と相談者の状況を照らし合わせ、「今は転職しない方が良い」というアドバイスをすることもあります。
一方、自身が想定していなかった選択肢に気付けることもありますので、転職エージェントが持つ情報とアドバイスを活用してはいかがでしょうか。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2021年03月08日
記事更新日:2022年12月24日
記事更新日:2023年07月31日
記事更新日:2024年07月17日
記事更新日:2025年02月18日 リクルートエージェント編集部