新卒で入社して間もない時期に「毎日、会社を辞めたいと思っている」「向いていない仕事だから早く辞めたい」と思う人もいるでしょう。しかし、そうした場合でも「入社後、半年や1年で辞めたら甘えだと思われるのではないか」「今の会社を辞めても転職先が見つからないかも」など、辞めるかどうか悩み続けてしまうケースも少なくないものです。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が、新卒入社の会社を短期離職したくなった時の対処法や、辞めるかどうかを判断するための考え方を解説します。
目次
新卒入社したばかりで、「向いていないから辞めたい」は甘え?
新卒入社してから数カ月や半年、1年などの間に「会社を辞めたい」「仕事に向いていない」と思うのは、誰にでも起こり得ることと言えます。「甘えなのではないか」と自分を責める必要はありません。
学生から社会人になると、環境が大きく変わります。社会人として仕事をするのは初めての経験である上、ビジネス場面に適した言葉遣いや振る舞い方なども身につけなくてはならず、「ついていくのが精一杯」という人は少なくないでしょう。また、職場の環境や人間関係に馴染むまでに時間がかかったり、生活リズムの変化に適応できなかったりすることに、ストレスを感じてしまうケースもあります。そうした時に「辞めたい」と思うのは、自然な心の反応と言えるでしょう。
個々の状況次第では、早期に辞めて転職するのも有効な手段となりますが、一時的な感情のままに会社を辞めることはおすすめできません。労働環境に明らかに問題がある場合を除いては、会社を辞めたい理由を整理し、さまざまな面から検討を重ねた上で、「辞めるかどうか」を決断することが大事です。
新卒入社1年目〜3年目の離職率は?
「新卒入社してすぐに会社を辞める人は、どれくらいいるのか」を知りたい人のために、新入社員の離職についての調査データを紹介します。
厚生労働省の発表によると、新規学卒就職者(令和2年3月卒業者)の就職後3年以内の離職率は、高卒就職者で約4割(36.9% )、大卒就職者で約3割(31.2%)。つまり、新卒入社3年以内に会社を辞める人が全体の3割以上に達しています。さらに、何年目で離職したかについての内訳を見ると、入社1年目で離職する人の割合が一番高く、高卒で15.0%、大卒で10.6%となっています。
(※1)出典:「新規学卒就職者の離職状況を公表します」(厚生労働省)
Z世代の転職は増加している
「新卒入社の会社を早期に辞めても転職できるの?」という不安を抱えている人のために、Z世代の転職についての調査も紹介します。
リクルートによる調査では、Z世代(26歳以下)で転職した人の割合は、2020年からの5年間で約2倍と右肩上がりで増加しています。2020年度以降は、全体との差がじわじわと広がりを見せており、今後も若年層の転職は増えていくことが見込まれています。
また、同調査では、第二新卒をターゲットとして採用を行う企業が大幅に増加しているデータも公開しています。第二新卒の定義は明確になく、企業によって異なりますが、リクルートエージェントにおける「第二新卒歓迎と記載がある求人」は、2020年には約3割(28.3%)だったものが、2022年には全体の6割超(63.5%)を占めるほどになっています。
(※)出典:「Z世代(26 歳以下)の就業意識や転職動向」(株式会社リクルート)
新卒入社してすぐに会社を辞めたくなる理由
まずは、新卒入社してすぐに会社を辞めたくなる理由について、想定できるパターンを紹介します。自分に当てはまるものがないか考えてみましょう。
仕事が合わない
新卒1年目は、研修後に上司やメンターの下で、アシスタント的な仕事から始めるのが一般的です。そのため、「イメージと違う」「希望した仕事ではない」「扱う商品・サービスが好きになれない」とギャップを感じるケースも珍しくありません。
また、仕事が難しいと感じたり、ミスを繰り返したりすると「自分に向いていない」と感じて自信をなくしてしまうこともあります。
人間関係が悪い
新卒入社した直後は、ビジネスの場を経験したことがないために、上司や同僚、取引先などと、うまくコミュニケーションがとれずに悩んでしまうケースがあります。また、社風が合わなかったり、職場の人間関係に馴染めなかったりすることで、居心地の悪さを感じてしまうケースもあるでしょう。
また、最近はリモートワークを行う企業も増えており、直接顔を合わせる機会が少ないケースもあります。特に、新卒入社の場合は、社内の人間関係を構築しにくいと感じることもあるでしょう。
労働環境が良くない
「残業が多くてきつい」「慢性的な人手不足のために、1人が担う仕事量の負担が大きい」「シフトが不規則で身体的に辛い」など、労働条件に対して不満やストレスを募らせることもあります。
また、上司などからパワハラやセクハラのような発言・行為を受けたことが理由で「辞めたい」と感じるケースもあります。
給与が安い
「給与が安い」「ボーナスが少ない」など、他社に入社した友人などと比較して自社の給与の低さに気付くこともあります。特に、成果を挙げていても報酬に反映されない場合は、仕事に対するモチベーションも低下しがちです。
一方、きちんとした評価制度がないために、自分の頑張りが給与に反映されず、評価制度そのものに不満を感じるケースもあります。
将来性を感じない
入社後、実際に働く中で、「業績が振るわない」「競合に比べて商品・サービスが劣っている」「企業体質が古く、新しいことを取り入れようとしない」など、会社の実情に気付くこともあります。
また、新たなチャレンジをしない会社や、若手の裁量権が小さい会社などの場合は、新たな経験を積むチャンスも少なく、自身を成長させられないという不安を抱くケースもあるようです。
「辞めなきゃよかった」と後悔する前にやっておきたいこと
新卒入社した会社を短期離職するにあたっては、留意しておきたい点もあります。特に「現状から逃れたい」という理由で安易に辞めることはおすすめできません。
会社を辞めたいと思ったときは、まず自分が辞めたい理由を整理し、今抱えている問題を現職で解決する方法を検討することが重要です。ここでは「辞めたい理由」別に、今の職場でやっておきたいことを紹介します。
仕事が合わない、面白くない場合
まずは、今後のキャリアや会社の育成プランについて上司に話を聞いてみましょう。社内で他にやりたい仕事があるのなら、希望を叶えるためにどのような道筋があるのか相談する方法もあります。
年齢の近い先輩社員がいる場合は、入社1年目で感じていた悩みやキャリアの考え方、今の仕事のやりがいなどについて聞き、参考にしてみるのも良いでしょう。会社の考えや計画を理解し、将来像が想像できれば「もう少し仕事を続けてみよう」と思えるかもしれません。下積みが必要な場合は、与えられた仕事で求められる結果を出すことが最優先だと考えましょう。
仕事に向いていないと感じた場合
ミスを繰り返してしまうことで仕事に向いていないと感じた場合は、自分なりにミスしたことについて振り返り、改善すべき点や課題を見つけ、対策を立ててみましょう。その際、ミスすることなく仕事ができている同期や、周囲の先輩などを観察し、どのように仕事を進めているのか参考にしてみるのも1つの方法です。
また、先輩や上司に仕事のプロセスを一通り見てもらい、アドバイスをもらうのも良いでしょう。入社1年目に、手取り足取り仕事を教えてもらうのは、決して恥ずかしいことではありませんし、意欲的に仕事に取り組む姿勢があることを評価してくれる可能性もあります。
人間関係が悪い場合
1人で悩まず、周囲の誰かに相談してみることが大事です。例えば、上司と相性が悪いと感じたなら、同僚に悩みを話して相談に乗ってもらったり、先輩にどのような接し方をすればいいのかを聞いたりすることもできます。また、どうしようもないと感じた場合は、人事担当者などに相談してみる方法もあります。
自分だけでは気付けなかった改善できる点が見つかるケースもありますし、誰かと悩みを共有するだけで、気持ちが整理されるかもしれません。また、自分の力では改善が難しい場合でも、誰かに相談する中で「メンターを変えてもらう」「異動の希望を出す」など、解決の糸口が見つかる可能性もあります。
給与や労働条件に不満がある場合
現時点の給与だけでなく、社内の昇給モデルやインセンティブなどの成果報酬制度、評価基準などを調べてみることが大事です。勤務年数に合わせて昇給していくケースもありますし、成果報酬制度によって給与をアップすることも可能かもしれません。また、「自分の頑張りが評価されず、給与が見合わない」と感じた場合でも、評価基準に沿って成果を上げていくことで、納得のいく評価を得られるケースもあります。
また、労働条件・労働環境は部門ごとに違う可能性もあるため、今後に挑戦したい部署などがある場合は、その部門の労働条件・労働環境を調べると同時に、社内にどのようなキャリアパスがあるのかを把握しておきましょう。希望の部署に異動できる可能性があるのか、かつ、労働条件・労働環境が改善されるかどうかを確認することが大事です。
新卒で短期離職し、納得のいく転職ができたケース
ここでは、アドバイザーの粟野氏の経験をもとに、新卒で短期離職した後に納得のいく転職ができたケースを紹介します。
第二新卒枠で転職できた
採用競争が激化する中、新卒採用で充足できなかった人材を「第二新卒」採用で補おうとする企業は少なくありません。先の調査データでも紹介した通り、第二新卒を求める求人は増加している傾向があります。また、中小企業やベンチャー企業などは、新卒と同じ位置付けで第二新卒を中途採用するケースも多く見られます。
例えば、新卒で金融業界の企業で、サービス利用の顧客対応を担当していた人が、将来のライフプランを見据えて「地方転勤がない会社に転職したい」と考え、IT企業の新卒採用枠に応募し、本社勤務の営業事務職に転職した事例があります。
未経験の職場・業界に転職しやすかった
第二新卒層を対象とする求人には、「未経験者も歓迎」としていることが多くあります。経験・スキルよりもポテンシャルが重視されるため、未経験の業界・職種に転職できるチャンスが豊富にあると言えるでしょう。最初に選んだ仕事が合わないと感じたことで早期に方向転換することを決断し、より自分にマッチした職種に転職したケースもあります。
今後のキャリアに役立つ経験・スキルを積める
「仕事そのものが合わない」「希望に合うキャリステップが明示されていない」と感じたために、自分が思い描くキャリアビジョンを実現できそうな会社に転職したケースもあります。
今後のキャリアに役立つ経験・スキルを積める環境に転職することで、より早い段階から目指すキャリアビジョンの実現に向かうことができます。
新卒で短期離職し、転職活動や転職先で後悔したケース
新卒で短期離職して、その後の転職活動や転職先などで後悔する人もいます。アドバイザーの粟野氏の経験をもとに後悔したケースを紹介するので、把握しておきましょう。
スキル不足が原因で選考見送りになった
社会人として数年間の経験を積むなど、短期間でも実務経験がある人なら、中途採用の選考でも経験・スキルや強みをアピールすることができるでしょう。
しかし、研修期間中など十分な実務経験を積む前に辞めてしまった場合は、実質的には新卒と変わらず、実務未経験者と見なされる可能性があります。第二新卒を対象とする求人に応募しても、実務経験のある人と経験・スキルを比較される可能性があります。こうした場合に、「人物面の評価は同等だったため、経験・スキル面を重視した」という理由から、採用に至らないケースもあります。
また、「短期で離職した」という経歴があることで、採用担当者に「またすぐに辞めてしまうのではないか」という懸念を持たれ、採用を見送られるケースもあります。
不本意な転職をすることになった
第二新卒枠を狙ってもなかなか採用に至らない場合は、応募先の選択肢はさらに少なくなっていきます。転職理由や将来のキャリアプランを整理できないまま、会社を辞めて転職活動を進めたことで、なかなか評価を得られずに転職活動に苦戦するケースもよくあります。
その結果、選考に通過できない焦りから、「自分が行きたい会社」ではなく「自分を受け入れてくれる会社」を選択してしまうケースも少なくありません。
さらに、転職後、再び「仕事内容や職場環境が自分に合わない」「希望するようなキャリアを実現できない」などの不満を抱き、不本意な転職を繰り返す悪循環に陥ってしまうケースもあります。
転職後に前職の方が良い職場だと痛感した
新卒入社から3カ月、半年、1年などで離職した場合は、経験・スキルが十分に身についていないと判断され、希望条件に合う企業に入社できないケースも少なくありません。
新卒で大手企業に入社し、それよりも規模の小さな企業に転職したことで、「給与水準が下がってしまった」「福利厚生や教育制度が充実していなかった」などの後悔をするケースも見られます。また、職場の人間関係が合わないことが理由で転職した後、「実際に働いてみると、前の職場で一緒に働いていた人たちの方が良かった」と感じるケースもあります。
新卒入社した会社で短期離職を検討してもいい?判断ポイントを紹介
新卒入社してから早い時点で退職するかどうかは、個々の状況次第と言えます。ここでは、退職を検討する際の判断ポイントを紹介します。
労働環境や待遇に問題がある
「過剰な残業があり、長時間労働が常態化している」「残業代がきちんと支払われない」「休日出勤が多い」「離職率が高く、慢性的な人手不足になっている」「生活に困るほど、極端に給与が安い」などの場合、改善される余地はあまりないため、早めに見切りを付けた方が良いかもしれません。給与の支払いが遅れるなど、明らかに会社の経営状態が悪く、倒産のリスクが高まっている場合も、転職を考えた方が良いでしょう。
パワハラ、セクハラに遭っている
職場で日常的にパワハラやセクハラが横行している場合や、自分がハラスメントに遭っている場合は、早めに何らかの対応をとる必要があるでしょう。現在は、企業に対し、ハラスメント対策の窓口を設置することが義務付けられていますが、「窓口が機能していない」「社内での周知が徹底されていない」というケースもあります。
また、誰にも話せないほど追い詰められてしまうケースもあるでしょう。パワハラやセクハラなどのハラスメントを日常的に受けている場合は、心の健康を損なう恐れもあります。早期に解決できないと感じた場合は、転職を検討するのも1つの方法です。
本当にやりたいことが明確になっている
社会人として実際に働いてみたことで、改めて「自分が本当にやりたいこと」が見つかったのであれば、その実現に向けて前向きな退職をすることを検討してみるのも良いでしょう。特に、異業種・異職種にキャリアチェンジしたい場合は、転職することで、早いうちから今後のキャリアに役立つ経験・スキルを積むことができるでしょう。
また、「留学したい」「資格を取って専門職としてキャリアを積みたい」など、自分の目的や目指す方向性が明確にある場合も、早いうちからチャレンジできる環境に転職した方が良いと考えることもできます。
「早く辞めて転職する」と決断した場合に注意したいポイント
さまざまな対処法を実践しても状況が改善しない場合は、今の会社を辞めて転職することも1つの選択肢です。しかし、「辞めなきゃ良かった」と後悔するケースも少なくはないので、転職を繰り返さないために注意したいポイントを紹介します。
早く辞める理由について振り返る
新卒の就活で思い描いていた理想と、入社後の現実とのギャップを感じた場合は、「なぜそうなったのか」を考え、理由を掘り下げることが大事です。
その際、「自分の思いを実現できない会社が悪い」など他責傾向が強すぎると、不満のみにとらわれやすくなり、転職先で何を実現したいのかが見えにくくなってしまうでしょう。理由を分析する時は、「新卒の就活の際に、こう考えれば良かったかもしれない」など、自分なりに今後の転職活動に活かせる点まで考えることをおすすめします。
例えば、就活で「知名度のある会社に行きたい」と大手企業を選んだものの、実際に入社すると、年功序列で若手の意見が通らない社風に強くギャップを感じたというケースもあります。客観的な振り返りをすることで、「企業規模や知名度ではなく、社風や組織の体質を軸に会社選びをしよう」など、自分にマッチする企業を見つけるためのポイントが見つかりやすくなるでしょう。
転職理由と転職の目的を明確にする
新卒入社に限らず、転職で最も大切なのは、「○○を実現したい」という転職理由を明確にすることです。今の仕事や会社に対する不満の解消だけを目的として転職活動をした場合、「転職することで何がしたいのか」を伝えることができず、応募企業の採用担当者も入社後の活躍イメージができない可能性があります。それにより、「入社後、同じ不満を抱えてしまう可能性がある」「短期離職するかもしれない」という懸念を抱かれ、選考通過が難しくなることもあります。
現職の不満がきっかけで転職活動を始めることに問題はありませんが、「転職先で何を実現したいのか」「将来、どのような姿になりたいのか」まで明確にすることがポイントです。
「今後、自分が実現したいこと」を根拠に転職理由やキャリアプランを伝えることができれば、応募企業の懸念も払拭することができますし、企業選びの基準も明確になるでしょう。
転職先が決まってから会社を辞める
転職先が決まる前に会社を辞めると、定期収入がなくなり、経済的な不安を感じて、納得のいく転職活動ができなくなるかもしれません。定期収入がなく、生活に不安を感じた場合、焦りから十分な自己分析も企業研究もできないまま、ミスマッチな会社を選択してしまう可能性があります。「すぐに会社を辞めたい」と思っても、経済的な面についてもきちんと検討しておくことが大事です。
「入社半年、1年で辞めるのは気まずい…」退職を言いづらい場合の切り出し方
新卒入社から半年、1年などで会社を辞める場合、退職したいと言いづらいと感じる人は少なくありません。ここでは、退職を切り出す際のポイントを紹介します。
上司に退職の意思と退職理由を伝える
説得力のある退職理由を考えていない場合は、上司などから強く引き止めされる可能性もあり、それによって「辞めるタイミングを逃した」と後悔するケースも少なくありません。
会社や職場に対する不満のみが理由の場合でも、「転職によって実現したいことがあり、それができる環境に転職したい」など、自分の考えを明確にして退職理由を伝えることが大事です。
お世話になった感謝の気持ちを伝える
退職の相談をする際には、これまでお世話になった感謝の気持ちやお礼の言葉を伝えることも重要です。また、「人手不足なのに退職することになって申し訳ないと感じている」など、相手に配慮した言葉を伝えることも意識することがポイントです。
転職後、どこかで現職の会社の人と出会う可能性もあるので、円満退職を心がけ、良好な人間関係を維持しておくことも大事だと考えましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2022年12月24日
記事更新日:2023年07月31日
記事更新日:2024年07月17日 リクルートエージェント編集部