「転職したいけれど、具体的な方向性が決まらない」「自分に合った業界や企業が分からない」など、転職先選びに迷っている方も多いようです。明確な目的が見つからず転職してしまい「転職に失敗してしまった」と感じる方もいます。そこで、転職先の方向性の考え方や、自分に合った業界や企業の選び方を、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。
転職先の選び方は「業界×職種」で方向性を考える
これからどのような業界・職種を目指したらいいか悩んでいる場合は「“転職の難易度”という観点で考えてみる」という方法があります。まず「業界」と「職種」を経験・未経験で4つに分類し、これまでの経験・スキルを活かして転職するのか、それとも未経験の業界・職種にチャレンジするのかを決めるという考え方です。
中途採用の多くは経験・スキルを重視されるため、これまでに培ってきた経験・スキルを活かせる「同業界・同職種」の転職先を選んだ方が、選考では有利に働きやすくなります。また、異業界でも職種が同じであれば、職種特有のポータブルスキルを活かすことができるため、選考ではアピールしやすくなります。
逆に業界も職種も変えるキャリアチェンジは、これまでの経験・スキルを活かしにくいため、転職の難易度も高くなる傾向があります。まずは経験・スキルを活かして働くのか、それとも新しい業界や職種にチャレンジするのかという方向性を定めましょう。
「業界×職種」の4つの軸で考える
- 同業界×同職種
- 異業界×同職種
- 同業界×異職種
- 異業界×異職種
1から順に転職の難易度が上がっていきます。経験・スキルをアピールしやすい1~3に比べて、4は業界や職種を超えたポータブルスキルや志望意欲などを伝える必要があるので、応募先の選定や応募書類、面接では工夫が必要です。
【参考記事】
自分に合った転職先の企業を探すには?
「業界や職種は決まったけれど、自分に合った企業が分からない」という場合は、転職の軸を明らかにしてみましょう。
軸を可視化する方法として、人が企業に期待する項目を大きく4つに分けて整理する方法があります。まず、現在の仕事に点数をつけてみます。点数は合計何点でも構いません。
目的への共感 | 企業理念に共感できたり、ビジョンにワクワクしたりする |
活動内容の魅力 | 扱う商品が好きである、仕事内容が魅力的である |
構成員の魅力 | 風通しの良い社風である、優秀な社員が多い |
特権の魅力 | 給与や福利厚生、勤務場所、評価、教育制度など |
現在の仕事に点数をつけたら合計点を算出し、転職後に目指したい状態を点数化します。この時に、現在の仕事で算出した合計点と同じ数で点数化しましょう。何を優先しているのかが可視化されるので、軸に合わせて転職先を探すことができます。
「目的への共感」が高い場合
企業理念、ビジョン、事業戦略への共感を優先する場合は、ホームページなどで理念やビジョンを見て共感できる企業を探しましょう。
「活動内容の魅力」が高い場合
扱う商品や仕事内容への魅力を優先する場合は、商品やサービス内容を軸に探してみましょう。商品やサービスを提供している相手が誰なのか、競合他社や業界でのポジションなども確認し、仕事内容をイメージしてみましょう。
「構成員の魅力」が高い場合
社風や従業員への魅力を優先する場合は、ホームページや採用ページを見ると、経営者や従業員の人柄や職場の雰囲気がある程度分かります。人柄や雰囲気は直接確認するのが確実なので、気になる企業があれば積極的に応募し、面接で感触を掴みましょう。
「特権の魅力」が高い場合
給与や福利厚生、勤務場所、評価、教育制度などを優先する場合もホームページや採用ページなどで確認できます。ただし具体的な給与や勤務場所は、条件によって異なります。気になる企業があれば積極的に応募し、面接で確認してみましょう。
転職先の選び方の失敗例
転職先の選び方の失敗事例をご紹介します。
社風が合わなかった
まずは社風が合わなかったという事例です。
高い年収やブランド力が強い企業を見ると、魅力的に映るでしょう。しかし企業研究や入社前に疑問点を払拭しておかないと、入社してから社風が合わなかったという事態になりかねません。例えば、現職ではチーム一丸となってプロジェクトに取り組む姿勢が好きであった場合、転職先が個々の判断で働く社風だと長続きしない可能性があります。
条件面や企業ブランドにこだわり過ぎず、自分に合った社風の企業で働くことも頭に入れておきましょう。
仕事内容がイメージと違った
募集職種の名前につられて転職してしまうと、入社後にイメージと実際の仕事内容のギャップを感じることがあります。
デザインに関わりたいと考えていたときに「広告業界」「未経験可」「クリエイティブな仕事現場」などの言葉に魅力を感じ、とにかく自分のやる気をアピールして入社できたにも関わらず、現実は想像していた仕事内容と異なるケースもあるでしょう。
このように応募先の事業内容や業務を理解しないまま入社してしまうと、ギャップを感じることになります。入社前には自分のやりたいことをまとめ、企業研究・仕事研究を入念に行うことが大切です。
処遇などの条件面が話と違った
転職先を決める際、処遇などの条件面は大切な判断基準となります。しかし、口頭で確認するだけでなく、必ず書面で確認するようにしましょう。
特に思わぬ失業などで焦っているときは、早く転職先を決めたいという気持ちが強くなりがちです。面接で聞いた条件に魅力を感じ、すぐに転職を決めてしまうと、実際の条件が聞いた条件と異なる可能性があります。
このような状況にならないためにも、入社前には必ず書面で条件を確認するようにしましょう。
転職先を選ぶ際に確認したいポイント
転職先を選ぶ際に確認するとよいポイントについて解説します。
仕事の内容と経験・スキルがマッチするか
転職先の仕事内容に対して、自分の経験やスキルがマッチするかを確認しましょう。マッチしていれば、入社後の活躍がより見込めます。例えば、コミュニケーションスキルに自信がある場合は、対人の営業職でそのスキルを発揮するケースなどが考えられます。
会社のカルチャーや社風・特徴
働くうえで、会社のカルチャーや社風などとマッチするかどうかも大切なポイントです。自分が理想とする働き方と異なる社風であった場合、やりがいを感じづらく短期離職の恐れがあるでしょう。社内の風通しは良いのか、プロセスと結果どちらに重点を置く企業なのかなど、自分の性格と照らし合わせて考えてみましょう。転職先の特徴を知るためには、転職エージェントに聞いたり、面接の際に質問したりすることで把握できます。
福利厚生・待遇や働き方の多様性
福利厚生や働き方についても確認することがおすすめです。在宅勤務が許可されている職場や、フレックスタイム制を取り入れている職場など、さまざまな働き方が広まっています。ワークライフバランスを充実させるためには、多様な働き方ができるかがポイントです。また、有給休暇やバースデー休暇などの制度を確認することも大切ですが、同時にどのくらい取得できているのかも確認しておくとよいでしょう。
事業内容と企業の経営方針
事業内容や経営方針は企業にとって軸となる部分です。この方向性と自分の実現したいことがずれていると、やりがいを感じづらくなることが考えられます。グローバル志向を持つ求職者が国内市場のみをターゲットにしている企業へ転職すると、モチベーションを維持することが難しいかもしれません。自分のやりたいことと、企業の方針がマッチしている転職先を選びましょう。
会社の規模と事業の成長性
会社の規模や成長性も大切なポイントです。例えば、大きなプロジェクトに関わりたいのであれば大企業、管理職を早く目指したいのであれば中小企業に転職という考え方もできます。また、成長性が見込める企業であれば、新規事業も増える可能性があります。もし新規立ち上げなどに興味があるならば、成長性も考慮するとよいでしょう。
業界における優位性
応募先企業が業界において、どのような点に優位性があるのかを知ることは大切です。特に自分が得意なことと、企業の強みがマッチしていれば、大きなアピールポイントとなるでしょう。例えば競合よりも海外の販路に強みがある企業に対して、語学力や海外営業の実績がある場合は、企業から見ても魅力的に映ります。
判断に迷ったら、身近な人や転職エージェントに相談を
転職で重視する軸や方向性は、転職活動を続けるうちに変化することもあります。さまざまな求人や企業から情報を得ることで、転職市場の相場観を掴んだり、考え方や価値観が変わってきたりするからです。応募や面接を通じて、ご自身の目で確認しながら、転職の軸や方向性の変化に柔軟に対応することをおすすめします。もし判断に迷ったら、身近な人や転職エージェントにアドバイスを求めるのも有効です。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。