退職することを決めたら、所属企業の上司に退職の意思を伝える必要がありますが、勤務先によっては退職願・退職届・辞表を提出しなければなりません。
そこで、退職願・退職届・辞表の違いや書き方、よくある疑問について、社会保険労務士の岡佳伸氏と組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説いただきました。
退職願・退職届を出す前に確認すること
雇用期間に定めのない無期雇用契約の場合は、民法では退職の2週間前までに文章や口頭で申し出れば解約(退職)ができると定められています。契約社員など雇用期間に定めがある有期雇用契約の場合は、やむを得ない事情や提示された労働条件が事実と異なるなど、一部の例外を除いて雇用契約期間中の解約は認められず、企業との合意が必要とされています。
一方で、企業の多くは就業規則の「退職」に関する規定で、退職の申し出期間や方法について定めています。法的には無期雇用契約であれば2週間前の申し出で退職ができますが、有給休暇を消化し円満に退職するためには、就業規則をしっかりと確認しておくことが重要です。企業によっては退職希望日の3カ月前などに告知することを定めているケースもあるため、すぐに辞めようと考えている場合は注意が必要です。
退職願・退職届・辞表の違いと提出タイミング
退職の申し出に必要となる退職願・退職届・辞表には、どのような違いがあるのでしょうか。3つの書類の違いや提出のタイミングについて解説します。
退職願・退職届・辞表の違い
退職の申し出には、一般的に「退職願」または「退職届」を使用します。「辞表」を提出するのは、企業と雇用関係がない役員か公務員が多い傾向にあります。
退職願 | 退職届 | 辞表 |
退職の意思を伝えるために提出 | 退職日が確定した後に提出 | 役員や公務員による提出 |
退職意思は口頭で伝えても構わないが、書面で提出することで、退職の意思が固いことを示せる | 退職願が受理され、正式に退職日が確定後、事務手続きのため決定事項の記録として提出 | 社長や取締役などが役を辞する際に提出。また、公務員の場合、「辞表」が「退職届」にあたる |
提出タイミングと退職までの流れ
多くの企業では、就業規則によって退職希望日の1~2カ月前までに退職を申し出る規定を設けている傾向にあります。また、退職願や退職届は企業所定の書式が設けられていることもあります。手続き方法については、上司や人事に確認してみましょう。
なお、企業によっては「上司を経て人事部や代表取締役が受理する」までを申し出期間とする場合もあります。退職の申し出は事前に必ず就業規則を確認し、余裕を持って行いましょう。
退職願・退職届の書き方
一般的な、退職願・退職届の書き方をご紹介します。封筒の選定についても解説しています。
文書の形式(縦書き・横書き)
退職願・退職届ともに「縦書き」が基本ですが、横書きは不可ではありません。書きやすい書式を選びましょう。直筆で作成する場合は、黒インクのペンを使用しはっきりと記載することをおすすめします。摩擦で消せるボールペンは時間が経過すると消えてしまう可能性があるので、退職願・退職届など重要な書類の作成には、必ず消えない筆記用具を選ぶとよいでしょう。
用紙
一般的に、B5サイズを使用することが多いようですが、A4でも問題ありません。パソコンで作成する場合は白い用紙を使いますが、直筆で作成する場合は罫線が引かれた白色の便箋を選ぶと書きやすいでしょう。
封筒
退職願・退職届は封筒に入れて提出するのが一般的です。郵便番号の枠が印字されていない白色の封筒が適していますが、郵送用の封筒を使用しても問題はありません。
封筒に入れる際は、三つ折りにして書類を正面に置き、長辺を三等分するように下側を上に折り、続いて上側を下に折るといいでしょう。
退職願・退職届の例文とポイント
退職願・退職届の見本例文と書き方のポイントについて解説します。
退職願・退職届の見本例文
書き方のポイント
退職届の書き方にルールはありませんが、記載するとよいと考えられる項目を紹介します。
1.タイトル「退職願・退職届」
退職願、退職届とそれぞれ書きます。
2.書き出し「私儀(私事)」
本文一行目の下部に私儀(わたくしぎ)と書きます。「わたくしごとではありますが」という意味です。
3.退職理由
自己都合による退職の場合、「一身上の都合」と書きます。
もし、会社都合による退職で会社から退職届の提出を求められた場合、「一身上の都合」とせず、「部門縮小のため」「退職勧奨に伴い」など会社都合と分かるように退職の理由を具体的に書くようにしましょう。
4.退職希望日
退職願の場合は、退職希望日を書きます。退職届の場合は、上司と合意した日付を記入します。西暦でも、元号でも構いませんが、会社の公式書類に使用しているものに合わせるとよいでしょう。
5.提出日
退職願・退職届ともに、提出する日付を記入します。
6.所属・氏名・捺印
宛名より下の位置に正式な所属部署名と氏名を記入し、捺印します。
7.宛名
会社の最高執行責任者の役職名と氏名を、自分の氏名より上方に書きます。敬称は「殿」か「様」のどちらかを選びましょう。
退職願、退職届に関するQ&A
退職の申し出に関する、よくあるご質問にお答えします。
Q.退職を引き留められたら、どうすればいい?
退職を切り出したら改善策や好条件が提示され、引き留められることもあるかもしれません。条件によっては会社に残るという選択肢もありますが、退職の意思を表明したことで周囲との関係がぎくしゃくし、業務がやりにくくなることもあるようです。引き留めに応じるかどうかは慎重に検討しましょう。
Q.退職願を出したが受理されないときは?
退職願が受理されなくても、退職できないことはありません。前述した通り、民法627条では、期間の定めのない労働契約の場合、退職を申し出て2週間が経過すれば企業の承諾がなくても退職できるとされています。
円満退職の方が望ましいため、上司と話し合いの場を持ち退職意思が固いことを伝えましょう。それでも受け入れてもらえないようであれば、直属の上司のさらに上の役職者に相談するのも一つの方法です。
Q.退職願・退職届を取り下げることはできる?
退職願とは退職の「申し出」なので、承認される前であれば取り下げることも可能な場合もあります。ただし、承認権限を持つ責任者が承認した後では、取り下げることは難しくなるでしょう。
また、退職届は企業側が退職を承認し、雇用契約の解除が確定した後に提出するものなので、基本的に取り下げることはできません。企業側にも撤回要求に応じる義務はありません。退職届受理後、組織の見直しや人材配置の検討が進められるため、引き返すことが難しくなります。
そのため、退職届を感情的・衝動的に提出することは避けましょう。退職について迷っているのであれば、まずは直属の上司に相談し、今抱えている問題を解決できないか話し合ってみることが大切です。
Q.退職願・退職届を出しても残業代やボーナスはもらえる?
残業代は、退職日まで実働した分が支給されます。引継ぎなどで残業が発生した場合も、残業代を受け取ることが可能です。
ボーナスについては、査定対象期間の実績・仕事ぶりに応じて支給額が決まり、賞与支給日に在籍していないと対象にならない企業が多いので注意しましょう。例えば、11月に退職願を出し、12月末を退職希望日に設定した場合、12月支給のボーナスは4月~9月が査定期間対象であることが多いため、通常の査定基準に沿ったボーナスが支給されることになります。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
記事更新日:2022年07月05日
記事更新日:2023年04月06日
記事更新日:2024年04月18日 リクルートエージェント編集部