「今は個人事業主として働いているが、正社員として転職・再就職したい」──そう考えている皆さんに、成功のポイントと転職エージェントの活用法について、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏がアドバイスします。
目次
個人事業主から正社員に転職・再就職することは可能?
個人事業主から正社員に転職したり、再就職したりすることは可能です。これまでに、個人事業主として得た知識やスキルを活かせる職種へ応募するのであれば、企業に効果的なアピールができるでしょう。
ただし企業によっては、正社員求人に個人事業主が応募してきた場合、次のような懸念を抱くこともあります。
チームワークを尊重できるか
「独立心が強い人だと思うが、組織になじめるだろうか。組織の和を尊重できるだろうか」「後輩・部下の育成など、『組織全体の成長』への貢献意識が薄いのではないか」
つまり、「個人主義」が強く、組織の一員としての役割を果たせるかどうかを不安視される傾向が見られます。ただし、個人事業主になる前、長く企業に勤務していた経験がある場合は、それほど気にされないかもしれません。
ビジネスマナーの教育を受けていないのではないか
学生から就職せずにそのまま個人事業主になった場合、「組織としての動き方を知らない」、あるいは「ビジネスマナーの教育を受けていないのでは」と思われる可能性があります。
なぜ正社員になりたいのか
また、注目される点として転職する理由が挙げられます。「個人事業主として順調に業績を上げているのであれば、正社員として就職する必要はないはず」「業績が振るわなかったのは、スキル、あるいは取引先との関係構築力が欠如しているのではないか」などと想像されがちです。
こうした企業の懸念を払拭するためには、職務経歴書や面接で志望動機などをしっかり伝え、安心感・納得感を抱いてもらうことが必要です。そのために、職務経歴書を作りこみ面接対策をすると良く、それらをサポートしてくれる企業などもあります。
転職エージェントを利用して個人事業主から正社員に転職・再就職する方法、流れ
個人事業主から正社員に転職する方法としては、転職エージェントを利用する方法があります。
・転職活動の流れー転職サイト・転職エージェントを利用する場合ー
転職エージェントに登録する
まずは転職エージェントに登録してみましょう。転職エージェントでは、転職サイトや企業のホームページには掲載されていない「非公開求人」を多く取り扱っています。そのため自力では出会えなかった求人に応募することができ、転職先の可能性が広がります。
・転職エージェントを初めて利用する場合のポイント
転職エージェントと面談する
転職エージェントに申し込むと、キャリアアドバイザーと面談の時間が設けられます。その面談では、転職の目的や希望条件などの詳細を伝えて転職の方向性を擦り合わせていきます。また申し込み時に希望職種や条件などを伝えておくと、面談時までにマッチした求人を準備してもらえる可能性が高いでしょう。面談は対面のほか、オンラインでも受け付けている転職エージェントも増えてきており、忙しくて時間が取りにくいという方も利用しやすくなってきています。
履歴書・職務経歴書を作成する
個人事業主として働いてきた場合でも、履歴書の書き方は基本的には被雇用者と同じです。個人事業主の経験は、企業へのアピールポイントになるケースが多いため経営者としての視点、一人でタスクをこなしてきたことから幅広い業務に対応ができること、さらに顧客や取引先とのやり取りで培ったコミュニケーション能力も効果的にアピールできるでしょう。
また職歴欄には、税務署へ開業届を提出しているかどうかでも書き方が異なってきますので注意が必要です。以下の例を参考にご覧ください。
職歴欄の具体的な書き方について
・税務署へ開業届を提出している場合
年 | 月 | 職歴 |
20XX年 | 〇月 | 建築設計事務所(個人事業)開業 |
住宅の設計、施工の依頼、お寺の修繕などの事業を展開 | ||
<受注実績> | ||
一戸建て、アパート、マンション、お寺などの建築設計:約120件 | ||
20XX年 | 〇月 | 一身上の都合により廃業 |
屋号がある場合には「屋号+開業」、屋号が無い場合は「個人事業として開業」と記載し、事業の終了を廃業と書きます。
・税務署へ開業届を提出していない場合
年 | 月 | 職歴 |
20XX年 | 〇月 | 住宅の設計、施工の依頼、お寺の修繕などの活動を開始 |
<受注実績> | ||
住宅の設計、施工の依頼、お寺の修繕:約120件 | ||
20XX年 | 〇月 | 一身上の都合により活動停止 |
開業届を出していない場合には「活動開始」「活動停止」と表現。
・家業を手伝っていた場合の書き方
年 | 月 | 職歴 |
20XX年 | 〇月 | 家業である〇〇生花店(卸売業)に従事 |
仕入れや発注、従業員の給与計算、接客対応などを担当 | ||
20XX年 | 〇月 | 一身上の都合により退職 |
家業の屋号、または業種を記載して「従事」「退職」と記載します。ただし家業が法人として雇用契約を締結して勤務していた場合は「入社」「退社」と表現。
企業が職務経歴書から読み取りたいことは、これまで個人事業主としての実績が即戦力として活かせるかという点です。職務内容は詳細を記載し、どのような経験を積んできたか、また手掛けてきたクライアント名を出すことで具体性が強まり、採用担当者がこれまでの実績をイメージしやすくなります。
・自営業の履歴書はどう書く?印象アップするポイントと例文付き
企業に応募する
キャリアアドバイザーとのヒアリング後、経験やスキル、希望条件に合致した求人の紹介を受け企業に応募します。書類選考を通過して面接へ進むことが決まると、日程の調整から選考結果まで転職エージェントがサポートしてくれ、エージェントを通して連絡することとになります。
面接を受ける
基本的に中途採用の面接は挨拶から始まり、面接担当者から募集内容の説明があります。そして、面接担当者からの質問や条件の確認、最後に応募者から質問をするのが一般的な流れになります。最近ではオンラインでの面接を行う企業も増えてきていますが、大まかな流れは対面での面接とあまり変わらないでしょう。
内定を得る
企業から内定が出て、求職者が内定を承諾すると入社が決定します。個人事業主を副業として続けない場合は、税務署へ「廃業届」を提出しましょう。提出されない場合には税務署から事業を継続しているとみなされ、税務調査の対象となるケースもあります。
またこれまで業務で関わってきた取引先や、顧客への挨拶なども忘れずに行っておくと良いでしょう。
個人事業主の転職・再就職を成功させるポイント
個人事業主が転職・再就職を成功させるためには、次のようなポイントを意識して転職活動することをお勧めします。
個人事業主でも受け入れられやすい企業を狙う
業務委託者や副業者が多く働いている企業も狙い目です。また、過去に正社員として勤務していた経験がある方であれば同じ業種の企業は「この業界の組織特性を理解している」と、安心感を持ってもらえる可能性があります。また人材が不足している分野、プロジェクトベースで仕事をする分野など、スキルが重視され個人の裁量で進める職種は、個人事業主でも比較的受け入れられやすいと言えます。
例えば以下のような分野・職種です。
・Webエンジニア
・Webマーケティング
・各種コンサルタント
・営業
・人事(特に採用)
・小売・飲食のFC店長
企業が求める経験・スキルを目に留まりやすいようにアピールする
個人事業主の場合、顧客や手がけた案件が多岐にわたっていることが多いでしょう。職務経歴書を作成する際には、過去の担当案件を時系列でただ羅列するだけでなく、相手企業が求めている経験・スキルが目に留まりやすいように整理して記載することをお勧めします。強みとする分野や案件を冒頭でまとめた上で、具体的な実績は別紙や自身のWebサイトに一覧を記載してもいいでしょう。
チームワークの経験をアピールする
冒頭にもお伝えしましたが、企業側は個人事業主に対して「個人主義であり、組織になじめないのではないか」という懸念を抱いているケースがあります。それを払拭するためにも、クライアントやパートナーと連携し、チームワークを円滑に進めた経験を記載しておくといいでしょう。
転職理由の伝え方を工夫する
転職理由がネガティブなものであっても、ごまかさず正直に伝えることが大切です。とはいえ、「言い換え」を工夫しましょう。
個人事業主のコンサルタントからコンサルティングファームへ再就職したケース
例えば、コンサルティングファームから独立してフリーのコンサルタントになった方は、個人事業主としての在り方に行き詰まりを感じ、コンサルティングファームへの再就職を決意されたケースがあります。その理由を、面接で次のように語りました。
「正社員とフリーランス、両方を経験した結果、正社員として中長期プロジェクトに携わっていた頃のほうが自己成長を感じられましたし、組織力を活かすことでクライアントにより高品質なソリューションを提供できていたと実感しました。クライアントへの提供価値を高めるためにも、自身のキャリアを磨くためにも、再度組織で働きたいと考えました」
このように、「個人事業主としてうまくいかなかったこと」→「組織だからこそ得られる経験・成長の魅力」に転換して伝えるようにするといいでしょう。
まずは業務委託でスタートする
志望企業に正社員として入社するハードルが高いと感じた場合、まずは個人事業主のまま、業務委託契約を結んで働く道もあります。成果を挙げ、スキルや人物面を知ってもらえば、「社員にならないか」と声をかけてもらえる可能性もあります。また「御社に魅力を感じているため、社員として頑張りたい」と申し出てみる方法もあるでしょう。
業務委託から社員として入社したケース
実際、 複数企業のプロジェクトに携わっていたWebエンジニア(20代・男性)が、取引先のうちの1社のプロダクトに惚れ込み、その企業の正社員になった事例があります。
また、個人事業主として企業の採用支援・キャリアコンサルティングを手がけていた女性(30代)が、取引先のIT企業に人事職として入社した例もあります。
個人事業主から正社員に転職・再就職するメリット・デメリット
正社員としての転職・再就職に踏み切る前に、改めて、そのメリット・デメリットを確認しておきましょう。
個人事業主から正社員になるメリット
待遇面のメリットは以下のようなことが挙げられます。
収入が安定しやすい
個人事業主のように「売り上げが出なければ、収入は無い」という不安がなくなるでしょう。会社が給与を保証してくれますので、確実かつ安定的に収入を得ることができます。また家庭内で扶養者を養うような立場であれば、なおさら正社員であることのメリットを実感できるでしょう。
待遇面の安心を得られる
雇用保険・労災保険に加入できることも、待遇面における大きな安心材料のひとつと考えられるでしょう。厚生年金に加入することで、将来受け取ることのできる年金額が国民年金のみを支払っていた場合に比べて増額されます。さらに育児休暇や産休制度といった福利厚生制度を利用できたり、社会的信用を得やすくなるため、住宅ローンやクレジットカード発行時などの審査に通りやすくなったりします。
将来の漠然とした不安を解消できる
社内にロールモデルがいることで、中長期スパンでキャリアを見通せることや、先輩や上司からのサポート・アドバイスを受けることができます。また異動や職種転換ができる企業であれば、多様なキャリアパスを選択できるのも魅力のひとつです。そして何より、組織に属することで心理的な安心感を得られ、将来への漠然とした不安などを取り除くことができるでしょう。
個人事業主から正社員になるデメリット
組織に所属するメリットは、裏返すとデメリットになることもあります。
収入は安定するが収入を増やすチャンスは少ない
収入の安定を得られる反面、大幅に収入を増やすチャンスは少なくなるでしょう。頑張って出した成果も、個人事業主と比べると報酬には反映しにくく限定的になります。
働く時間・場所を制限され休暇が取りにくい
これまで自分の裁量で労働時間を管理してきた個人事業主ですと、決められた就業時間を守ることに不自由さを感じるかもしれません。また業務を自宅などで行ってきた人は、通勤する手間が増えることで負担となることもあるでしょう。
さらに当然ながら、休暇の取り方も組織の一員であれば、ある程度周りの人たちに合わせる必要が出てきます。
キャリア構築が会社主導になる
正社員となれば不本意な異動を命じられるなど、キャリア構築が「会社主導」になる可能性もあります。自分の考えや仕事の進め方よりも、組織の方針に合わせなければならない場合も出てくるでしょう。さらにSNSで発信する内容が制限されるなど、自分自身の「ブランディング」を思うようにできないなどのデメリットもあるでしょう。
転職エージェントを利用して転職成功した個人事業主の事例
実際、転職エージェントを通じて正社員への転職に成功した事例もあります。
ネット広告代理店の企画職に転職成功した個人事業主(30代・男性)
ネット広告代理店で営業経験を積んだ後独立した30代男性は、個人事業主として販促企画などを手がけましたが、軌道に乗ることができませんでした。しかし前職および個人事業主としての経験・志向を活かし、ネット広告代理店の企画職に転職することができました。
外資系ITベンダーのコンサルタントに転職成功した個人事業主(20代・男性)
ITコンサルティングファームに勤務した後に独立した20代男性は、フリーの経営コンサルタントとして働いていました。しかし、よく似た案件ばかりを繰り返すことに物足りなさを感じ、外資系ITベンダーにコンサルタントとして転職することができました。
個人事業主の転職・再就職は転職エージェントを活用しよう
個人事業主の方が正社員への転職を目指す場合、転職エージェントを活用してはいかがでしょうか。
次のようなメリットが挙げられます。
・正社員の求人案件を多く持っており、応募先の選択肢が多い
・採用背景や求める人材像などの情報を得られる。「個人事業主」の採用に対する考え方も知ることができる
・応募者の人物面や志向について、エージェントが企業側の抱いている不安を払拭できることがある
・職務経歴書の書き方、面接対策のアドバイスを受けられる
個人事業主経験者を歓迎する企業に出会うために、また個人事業主としての経験を効果的にアピールするためにも、転職エージェントの情報やアドバイスを活用することをお勧めいたします。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。