転職活動をスタートする際、「お勧めの業界や企業があれば知りたい」「業界・企業を見極めるポイントを知りたい」と思う人は少なくないでしょう。そこで今回は、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏に、転職活動で自分に合う業界・企業を探すためのポイントや見極め方について聞きました。
目次
転職にお勧めの業界・企業を見極めるポイント
まずは、現在の転職市場の状況と、お勧めの業界・企業を見極めるために大事にしたいポイントを紹介します。
新型コロナウィルスの影響で採用人数は減少傾向に
新型コロナウィルスの影響により、転職市場における採用人数は減少傾向となっています。厚生労働省による発表(2021年1月時点)では、2020年12月の「正社員の有効求人倍率(季節調整値)」は、0.81倍となっています。前年同月は1.21倍のため、その下げ幅はかなり大きいと言えます。また、2020年12月の新規求人数も、前年同月と比較すると12.9%減となっています。
こうした状況の中、転職市場における企業の選考は、「ポテンシャル採用」より、「即戦力採用」にシフトしている傾向があります。応募先の業界・企業・職種に対し、どんな強みを発揮できるか、どう貢献できるかがより重視される傾向のため、自分の経験・スキルの棚卸をした上で、業界・企業研究をしっかり行うことをお勧めします。
「自分にマッチしている業界・企業」を探すことが大事
「転職にお勧めの業界・企業」は人それぞれと言えます。例えば、「成長している業界で活躍したい」というケースでは、そもそもこれまでの経験・スキルを活かして、自分の価値を発揮していける業界かどうかが、まず重要といえるでしょう。
それぞれの業界や企業によって、携わる事業や商品、サービスは違うものなので、「いかに自分がやりがいを感じられるか」がポイントとなるでしょう。働き方なども「チームワーク重視」「個人に裁量を任せて能力を発揮してもらう」など、企業によってさまざまであり、社風や企業文化などの違いもあります。
ワークライフバランスや福利厚生、年収など、制度環境や待遇を重視するケースもありますが、最も重要なのは、「自分にとって大事なものは何か」ということです。「福利厚生よりも、やりがいを感じられる仕事であることが大事」という人もいれば、「家庭を大事にしたいから、年収よりワークライフバランスが重要」という人もいるでしょう。
つまり、「転職でお勧めの業界・企業」を見極める最大のポイントは、「自分が求めているやりがい、キャリア、働き方などにマッチするかどうか」なのです。これを大前提に業界・企業研究を進め、「長く働き続けられる制度・環境面があるかどうか」を比較・検討するといいでしょう。
「自分にマッチする業界・企業」を見極める方法
ここでは、自分にマッチする業界・企業を見極める方法を紹介します。
求めるやりがい、キャリア、働き方を明確にし、業界・企業との接点を探す
自己分析をしっかり行い、自分が求めているやりがい、キャリア、働き方などを明確にすることが大事です。「なぜ自分は転職しようと考えたのか」「どんなことにやりがいを感じるのか」「どんな領域で自分の力を発揮できるのか」「将来、どんなキャリアを築きたいのか」「転職先でどんなことを実現したいのか」「どんなライフスタイルを実現したいのか」などを掘り下げていきましょう。
これらを基に業界・企業研究を進め、「自分が求めていることに対し、どんな接点があるか」を探し、自分にマッチしている業界・企業を見極めていきましょう。
自分の経験・実績・スキルを活かせるか考える
求めることにマッチしている業界・企業を見つけたら、自分の強みとなる経験・実績・スキルをどう活かせるか考えましょう。即戦力採用の傾向がより強くなっている今、企業の採用判断においては「入社後に活躍・貢献できる能力があること」を重視する可能性が高いと言えます。
事業内容や仕事内容、仕事の進め方などに対し、「どう強みを発揮し、どんな領域で活躍・貢献できるか」を分析しましょう。自分の強みにマッチしている業界・企業を見極め、そこに焦点を当てて転職活動を進めれば、より勝算を高めていくことができます。
転職エージェントを活用することもお勧め
転職エージェントを活用すれば、自分にマッチする業界・企業について、客観的なアドバイスをもらうことができるでしょう。
業界・企業の内部事情にも精通しているため、働きやすい制度・環境があるかどうかを教えてもらうこともできますし、具体的に求められている人物像や職場の雰囲気など、自分一人では知ることができないさまざまな情報を教えてもらえるでしょう。また、自己分析の掘り下げや、経験・実績・スキルの棚卸なども手伝ってもらうことができるでしょう。
「長く働き続けられる業界・企業」を見極めるポイント
長く働き続けるためには、働きやすい制度・環境がしっかり整備されていることも重要です。ここでは、そうした業界・企業を見極める各ポイントと、業界・企業研究で具体的に見極めるコツを紹介します。
勤続年数が長い・直近3年の離職率が低い
社員の勤続年数が長い業界・企業の場合は、ワークライフバランスの制度や福利厚生など、働きやすい環境を整えている可能性が高いでしょう。「社風が良い」「人間関係が良好」など、社内風土や職場環境によって定着率が高いケースもよくあります。また、離職率が低い企業には、社内外の研修をはじめとする教育体制が充実しているケースや、キャリアパスがきちんと用意されているケースも多いでしょう。
業界・企業研究のコツ
業界別の離職率については、厚生労働省の「雇用動向調査結果」で産業別・職業別の離職率を調べることができます。個別の企業について調べる場合は、企業のホームページでIR情報をチェックしてみましょう。また、『就職四季報』で掲載企業の平均勤続年数や離職率を誌面で公表しているケースもあります。離職率が低い企業の場合、企業サイトの採用ページや求人情報で公表しているケースもあるでしょう。
ホワイトな労働環境を整えている
労働環境がホワイトであれば、仕事とプライベートを両立しやすく、ライフステージが変わっても長く働き続けやすいと言えます。平均残業時間、休日出勤の有無、有給休暇の取得率、産育休制度の有無や利用者数などで、働きやすい労働環境を整備しているかどうかを見極めることができます。
ただし、2020年4月以降は、国による働き方改革によって、従業員数300人以下の企業にも、従業員に対する残業規制や有休取得日数の管理が義務付けられたので、全体的な傾向として残業時間が削減され、有休取得率も向上していると言えるでしょう。
業界・企業研究のコツ
各種制度については、その有無だけでなく、活用の実態をきちんと調べることが大事です。平均残業時間数や有休取得率などは、企業サイトの採用ページや求人情報に掲載しているケースもあります。見当たらない場合は、転職エージェントを活用すれば教えてもらえますし、面接の際に直接確認してもいいでしょう。
また、企業の口コミサイトなどで実際に勤務していた人の意見を調べることもできますが、同じ企業でも部署や上司によって状況が違っていたり、書き込んだ人の主観が含まれていたりする可能性もあるので注意しましょう。
気になることは面接の際に聞いてみることをお勧めします。入社後に後悔しないためにも、自分にとって大事なポイントはきちんと確認しておく方がいいでしょう。「口コミサイトにこんな情報がありましたが、参考までに現在の状況を教えてください」などの質問をすれば、きちんと回答してもらえるでしょう。
未経験者を多く受け入れている
未経験者を積極的に採用している業界・企業の場合、教育・研修などの体制がしっかりしていたり、未経験者を育成するノウハウを構築していたりする可能性が高いでしょう。また、こうした業界・企業には、採用人数の枠が大きい傾向もあるので、採用される確率も高くなる可能性があります。
業界・企業研究のコツ
未経験者採用に積極的な企業には、「人材が定着しない」「経験者を採用できないために、未経験者の採用に積極的」などのケースもあるので注意が必要です。企業サイトの採用ページなどで教育・研修の体制を確認するだけでなく、面接の際に具体的な内容を聞くことをお勧めします。また、転職エージェントを活用すれば、未経験者の採用実績や過去の定着率などを聞くこともできるでしょう。
平均年収が高く、キャリアパスが明確
社員の平均年収が高い業界・企業は、事業の利益率も高いと言えます。潤沢な資金を社員の福利厚生などに投資しているケースもあるので、環境がいい可能性があります。長期にわたって平均年収が高い企業の場合は、経営基盤が安定している可能性も高いでしょう。
しかし、平均年収が高い理由には、日々の業務がハードなケースや、厳しい営業ノルマなどを課されるケースもあります。そもそもの仕事内容や働き方が自分に合うものか、しっかり確認した方がいいでしょう。また、年齢に応じたキャリアを築けるかどうかもポイントです。長く働き続けていくためには、現時点での年収額のみでなく、その企業でどんなキャリアを築いていけるのか見通すことが大事でしょう。
業界・企業研究のコツ
『会社四季報』『就職四季報』に年収を掲載している企業はあります。企業サイトの採用ページや求人情報に、年齢別の年収例を掲載している企業もあるので、まずは調べてみましょう。
また、インセンティブ制度やノルマ制度などがある場合は、頑張った分だけ返ってくるものがある一方で、ハードな業務をこなさなければならないケースもあるので、面接の際に具体的な内容を聞くことをお勧めします。より客観的な実態を知りたい場合は、転職エージェントに相談してみるといいでしょう。
キャリアパスについては、面接時に具体例を聞いてみるといいでしょう。ただし、年収やキャリアパスは、時代や経営状況によっても変化するものであり、成長過程にあるベンチャーなどの場合は、人事制度や事業内容に伴うキャリアパスが大きく変化するケースもあります。現状がそのまま続くとは限らないことも理解しておきましょう。
リモートワークなどの新しい働き方を取り入れている
社員のために「新しい働き方」を積極的に取り入れている企業は、時代や状況に合わせて柔軟な働き方ができる制度改革をしていく可能性が高いでしょう。例えば、新型コロナウィルスへの対応で導入したリモートワークを新たな働き方の選択肢として定着させたケースや、社外活動の経験で視野を広げてもらうために副業を認めている企業などが挙げられます。
業界・企業研究のコツ
同じ制度でも、企業によって「どのような考え方でその制度を導入しているのか」は違うものなので、企業理念や導入の目的などを見極めのポイントにするといいでしょう。企業サイトの採用ページや求人情報で制度や理念を調べ、面接の際に導入の目的や利用状況などを聞いてみるといいでしょう。また、転職エージェントを活用すれば、より客観的な視点で実態を教えてもらうことができます。
長く働き続けるためには、「自分の能力を高めること」も重要
終身雇用がスタンダードではなくなりつつある今、企業に安定を求めるよりも、自分が生き残れるだけの能力を身に付けておく方が、働く上での安定につながると言えるでしょう。
変化の激しい時代の中で、長く働き続けていくためには、スキルを磨き、経験値を高めていくことができる業界・企業を選ぶ視点も重要だと考えましょう。自分の能力を高めておけば、もしものことがあっても次の転職先を見つけることができるはずです。
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約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。