「事務職は未経験だけど、事務職の仕事に転職できるだろうか?」「未経験から事務職への転職を成功させるためのポイントは?」──そんな疑問について、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏がアドバイスします。
一般的な事務職の仕事内容
まず、一般的な事務職が担当する業務にはどのようなものがあるかを知っておきましょう。
* 電話や来客に対応し、担当者に取り次ぐ
* 契約書・見積書・請求書・プレゼンテーション資料など、各種書類の作成
* 会議資料などのファイリング
* データ入力(手書き文書、顧客情報、伝票など)
* 郵便物の仕分け・配布
* 配達物の発送・受け取り
* 備品管理
このほか、「営業事務」であれば、顧客とのやりとりや営業ツールの作成、「経理事務」であれば入出金の記録や給与計算、「人事事務」であれば入社・退社手続きや採用応募者への対応など、所属する部門によって業務が異なります。
未経験でも事務職の仕事はできる?
事務職未経験でも、事務職に転職できる可能性はあります。ただし、中途採用での競争率はかなり高いと考えてください。事務職は、常に需要より供給が上回っている状態。1人の採用枠に対し、数十人~100人単位の応募があることも珍しくありません。応募者が多いため、選考ではやはり事務職経験者が有利となります。
また、事務職は派遣スタッフやパート・アルバイトを活用しているケースも多いため、正社員求人では、さらに狭き門となります。昨今は、RPAツール(業務の自動化ツール)の導入が進んでおり、以前より少ない人員で業務を回せるようになっています。事務職の採用枠は、さらに少なくなっていくと見込まれます。
このように、未経験から事務職への転職のハードルは高いものの、異職種から事務職へのキャリアチェンジを果たしている人もいます。成功している人は、前職での経験や培ったスキルをうまく活かしています。
一例を挙げると、以下のような転職事例があります。
* アパレル販売職として働いていた人が、顧客とのコミュニケーション力が評価され、「営業事務」として採用
* 店舗に勤務し、アルバイトスタッフの採用や教育を経験してきた人が、「人事事務」として採用
* IT製品の営業職を務めていた人が、ITの知識が評価され、コンサルティング会社の総務事務として採用
また、「経理事務」の場合、未経験でも「日商簿記検定」の資格を取得していれば、アシスタントのポジションで採用される可能性があります。3級で評価されることもありますが、2級まで取得していればさらにチャンスが広がります。
事務職のやりがいは?どんな人が向いている?
事務職の皆さんに、「仕事のやりがい」をお聞きすると、「縁の下の力持ちとして、組織や仲間を支えられること」という声がよく聞かれます。
また、事務職として高く評価されている方々には、次のような志向や特性が見られます。異職種からの転職を考えている方は、参考にしてみてください。
<事務職に向いている人>
* 上司や同僚の動きから、「次に必要なこと」を察知し、先んじて行動を起こせる
* 他者の意図を汲み取り、きめ細やかな配慮ができる
* 緻密な作業も、正確にこなせる
* ルーティンワークをコツコツと継続できる
* ミスを防ぐための工夫ができる
* 幅広い業務に、臨機応変に対応できる
事務職に役立つ資格は?
未経験から事務職を目指す場合、事務職に必要とされる基本的なスキルを身に付けていることの証明として、資格を取得するのも一つの方法です。どのような資格があるか、一例をご紹介しましょう。
マイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)
Word、Excel、PowerPointなど、オフィスソフトの利用スキルを証明する資格。どの分野の事務職であっても、選考では「PCスキル」が重視されます。PCスキルの代表資格であるMOSは、選考でプラス評価されやすいでしょう。
なお、営業や企画など、プレゼンテーション資料を作成する機会が多い部門の事務職であれば、「Adobe Illustrator」や「Adobe Photoshop」などデザイン系の資格を持っておくと、「見栄えの良い資料を作成するスキルがある」と期待を寄せられるかもしれません。
秘書検定
人に好印象を与える「表情」「態度」「振る舞い」「言葉遣い」「話し方」などを学ぶ検定です。事務職は、職場のムードメーカーとしての役割を期待されることが多いほか、顧客や取引先など外部の人への応対業務も行うため、「感じの良さ」を表現する方法を知っておくとプラスになるでしょう。
ビジネス実務マナー検定
ビジネスパーソンとしての判断・行動が適切にできるかどうか、人間関係・マナー・話し方を理解しているかどうかなど、「ビジネス社会の基本ルール」を診断する資格です。オフィスワークにおいて、どんな振る舞いが求められるかを知り、身に付けられます。
このほか、どの部門に所属するかによっても、プラスとなる資格は異なります。先ほども触れたとおり、「経理事務」を目指すなら「日商簿記」資格が有効。また、「人事事務」であれば、「メンタルヘルス・マネジメント検定」や、「キャリアコンサルタント」関連資格も活かせる可能性があります。
なお、上記以外でもこれまでの仕事でクラウドサービスを使ったことがある方は、ツールの利用知識がプラス評価されることもあります。
事務職未経験者の転職活動のポイント
最後に、事務職未経験者の方におすすめの企業の選び方や、転職活動のポイントについてお伝えします。
これまでの経験・スキルが活かせる分野を選ぶ
先ほども例に挙げたように、前職で接客スキルを身に付けたのであれば、顧客とのコミュニケーションが重視される「営業事務」、職場の労務管理や人材育成に携わったのであれば「人事事務」など、これまでの経験と接点がある分野を選ぶといいでしょう。
コミュニケーション力に自信がある方であれば、事務職に近い職種として、「カスタマーサービス」「カスタマーサクセス」「インサイドセールス」といった求人も検討してみてはいかがでしょうか。
志望動機の伝え方に注意する
異職種から事務職への転職を希望する理由について「立ち仕事なので身体がきつい」「接客業でクレームを受けるのがつらい」「今の仕事は在宅ワークができない」など、ネガティブな理由を挙げる方も多く見られます。
しかし、こうしたネガティブな理由だけを伝えるのはNGです。もともとの理由がそうであったとしても、「これからどんなキャリアを積みたいのか」「何を目指すのか」など、前向きな目標や意欲を伝えましょう。
仕事において「大切にしたいこと」を伝える
採用選考においては、実務スキル以上に、仕事への考え方や向き合い方が重視されているものです。事務職以外の職種経験の中でも、「お客様に安心感や信頼感を持っていただけるように努めてきた」「チームワークを大切にしてきた」「効率アップを目指し、業務の見直しや改善に力を入れてきた」など、心がけてきたことがあれば、ぜひ応募書類や面接でアピールしましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。