「転職した場合、住民税の支払いはどうなるのか?納税額は?納付方法は?」──そんな疑問について、社会保険労務士の岡 佳伸さんの監修のもと、対処法をお答えします。
住民税の仕組みと納付方法
まずは、住民税はどのように決まるのか、その仕組みと納付方法についてみていきましょう。
住民税の金額は前年の所得で決まる
住民税の額は、「所得金額」と「均等割額」の合計から算出されます。
「均等割額」……所得に関係なく均等に課税されるもの
会社に勤務している場合、会社が年末調整でさまざまな控除がなされた「給与支払報告書」を作成し、その人が住む市区町村(納税する年の1月1日時点で住所があるところ)あてに送ります。
それを受け取った市区町村は、給与支払報告書をもとに住民税を算出。5月までに会社経由で住民税額を通知します。それを12等分した額が、6月から翌年5月にかけての1年間、給与から天引きされます。
納付方法は特別徴収(給与天引き)と普通徴収(自分で納付)
住民税の納付には、2通りの方法があります。
「普通徴収」……自営業者や退職者などが確定申告をして自分で納税する
いずれの方法でも、トータルで納付する金額は同じですが、給与から天引きされる特別徴収の場合は「12分割」、個人で納める普通徴収の場合は「一括」、あるいは退職時期により「2~4分割」となります。
転職後の住民税額はどう決まる?
前述のとおり、住民税は前年の所得をベースに算出されます。つまり、転職後に大幅に収入が下がったとしても、前職の収入が多ければ、高額の住民税が課せられることになります。
年金や健康保険などの場合、支払いが厳しい状況では減免されることもありますが、住民税には原則、減免措置はありません(天災など、条例で定められた特例を除く)。
新卒入社1年目の場合、住民税は課せられませんが、2年目以降は住民税の徴収が始まりますので、社会人2年目以降に転職する場合は意識しておきましょう。
転職後、大幅に収入が下がることが見込まれる場合は、住民税の支払いができるかどうかも想定し、どれほどの負担になるかを認識した上で家計のプランを立てておくことをおすすめします。
退職後の住民税の納付方法
転職先が決まっている場合
会社を辞めた後、転職先が決まっている場合は、「給与所得者異動届出書」を転職先の会社経由で市区町村に提出することで「特別徴収」を継続できます。つまり、転職先の会社の給与から天引きされることになります。「給与所得者異動届出書」は、転職前の会社から必要事項を記載してもらって受け取ります。
特別徴収を継続する手続きがスムーズに行われれば、転職後すぐに徴収が開始されます。ただし、「給与所得者異動届出書」を受取る手続きをしなかったり、転職までの期間が空いたりする場合は、普通徴収で納付します。
転職先が決まっていない、あるいは空白期間がある場合
なお、住民税の特別徴収の基点は6月。転職先企業での住民税の特別徴収は、6月分の給与から天引きが開始されます。(2024年は定額減税により原則7月から天引きが始まります)
一方、前の会社を退職後、転職先が決まっていない場合、住民税の納付方法は退職した時期によって変わります。
●退職時期が1月1日~5月31日の場合
年の前半で退職する場合、その年度分の残りの住民税は、最後に支払われる給与から一括徴収されます。その金額が給与額を超える場合、「普通徴収」に切り替わり、自身で市区町村に納付します。
●退職時期が6月1日~12月31日の場合
退職する月の住民税は給与から天引きで徴収され、残りは「普通徴収」に切り替わります。市区町村から納税通知書が送付され、期日までに自身で市区町村に納付します。
【Q&A】転職後の住民税、こんなときはどうする?
転職後の住民税に関する疑問に、社会保険労務士の岡さんが答えます。
Q.転職後も「特別徴収」を継続したい
継続するには転職先へ申し出る必要があります。退職する際、前の会社に対して「給与所得者異動届出書」の作成を依頼し、その書類を転職先の会社へ提出し、会社から市区町村へ提出してもらいます。
なお、「給与所得者異動届出書」は、退職日の翌月10日までに市区町村へ提出する必要があります。
Q.転職後、住民税が天引きされていない
これはよくあるケースです。基本的に、転職先では前年の住民税は天引きされないと思っておいたほうがいいでしょう。例えば、1月に退社→4月に入社の場合、住民税は普通徴収に切り替わっているため、6月の給与まで天引きされません。
会社で天引きしてほしい場合は、転職先企業の人事担当者に相談しましょう。市区町村から受け取った納税通知書および納付書を一式持参して、「特別徴収」に切り替える手続きをしてもらいます。すでに納付済みの分があれば、領収書も併せて提出すると、重複納付を防げます。
Q.転職と同時に、引っ越しをした
住民税は、引っ越しをした年の1月1日時点で「住民票」がある市区町村へ納めます。また、引っ越し時期によって、住民税を納付する市区町村が現住所と異なることもあります。引っ越したが、まだ住民票を移していないケースも同様となります。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
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記事更新日:2024年07月25日