「退職後の転職先が決まっている場合、失業保険の手続きってどうしたらいい?」「失業保険をもらっているが、転職先が決まったらどう手続きしたらいい?」──そんな疑問について、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、お答えします。
失業保険とは?受給するための条件
「失業保険」とは、雇用保険の「基本手当」を指します。雇用保険に加入していた人は、会社を退職する際、一定の要件を満たしていれば失業保険(基本手当)を受け取ることができます。
受給金額は、「離職前の6カ月間の給与の平均額」と毎月勤労統計に基づく計算式により算出されます。大まかな目安としては、月給の50~60%、最高額でも25万円程度までの範囲で支給されます。
所定給付日数(受給できる日数)は、離職日の年齢、雇用保険被保険者であった期間、離職理由、就職困難者であるかなどにより、最低90日~最高360日の間で設定されます。自己都合退職の場合は雇用保険加入期間1年以上で90日、10年以上で120日、20年以上で150日。ただし、自己都合で退職した場合は、給付までに3カ月間の給付制限期間(基本手当がもらえない期間)があります。
受給できる権利の有効期間は離職日より1年間ですが、この期間中に病気・怪我・育児・創業などの事由が発生した場合、最長4年間まで延長することができます(※受給期間の延長申請手続きが必要)。
失業保険を受ける条件は、失業状態であること──つまり「労働する意思と能力(健康状態や家庭環境など)を持ち、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、職に就けない状態であること」が前提となります。受給手続きは、住所地を管轄するハローワークに求職の申し込みを行い、必要書類を提出して「受給資格の決定」を受けます。
受給資格決定から約3週間後に、初回の「失業認定日」が設定されます。「失業認定日」とは、ハローワークが指定する日に行き、失業認定申告書に「仕事をしていないか」「求職活動をしたか」「すぐに働ける状態かどうか」を記載して、受給資格者証を添えて失業状態の確認を受ける日を指します。
必ず本人が行かなければなりません。この失業認定日は4週間に1回のペースで設定されます。(ただし、自己都合退職の時等給付制限期間(失業保険がもらえない期間)がある場合は、2回目の失業認定日は給付制限期間終了後に設定されます)
転職先が決まっている場合の受給
応募した企業から内定を得ており、次の転職先が決まっている状態では、失業保険(基本手当)は受給できません。このほか、次のようなケースでも失業保険給付の対象外となります。
・自営業を開始した人、または自営業の開業準備に専念する人(※自営業か就職か迷っていて、就職活動ができる人は対象となることもある)
・税務署に開業届を提出した人
・会社の役員などに就任している人(※無収入の非常勤役員については対象となることもある)
転職先が決まっていない場合の受給
会社を辞めて失業状態にあり、かつ次の就職先が決まっていない(内定が出ていない)人、また、週20時間未満のアルバイトをしている人などは、失業保険を受給することができます。条件は次のとおりです。
<自己都合による退職の場合>
退職日の前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が12カ月以上ある。
<会社都合による退職の場合>
会社の倒産や業績悪化に伴う解雇など、やむを得ない事情により退職した場合、退職日の前の1年間に雇用保険の被保険者期間が6カ月以上ある。
なお、「被保険者期間」は1つの会社での在籍期間ではなく、複数の会社の在籍期間を合算することができます。そこで、退職時には、辞める会社から「離職票」の交付を受けておくことをお勧めします。
離職票は、失業保険(基本手当)の受給手続きに必要となるものです。もし、転職先企業を短期間で辞めて、失業保険(基本手当)の受給手続きをする場合、その前の会社の離職票も提出することになります。
退職後、時間が経ってから離職票の発行を申し出るのは気まずいものですので、退職するタイミングで離職票を受け取っておきましょう。
失業保険の受給中に転職(再就職)が決まったら?
失業保険の受給を停止する手続きをする
失業保険の受給期間中に再就職先が決まった場合、新しい会社に入社する前日(土日をはさむ場合は金曜日)にハローワークに行き、入社日までの失業期間の認定を受けます。これを「就職の申告」といいます。このとき、採用証明書などの提出が必要となります。
この手続きは転職先に入社した後でも可能ですが、働き始めるとハローワークへ足を運ぶことが難しくなるため、入社前日までに済ませておくといいでしょう。
失業認定日までに就職先が決まった場合も上記同様
失業保険の受給手続き後、失業認定日までに就職先が決まった場合も、ハローワークで上記と同じ手続きを行います。
失業保険以外で受給できる手当と、その条件を確認する
再就職先が決まると失業保険(基本手当)の給付は打ち切られます。しかし、一定の条件を満たせば、「就業促進手当」を受給できます。就業促進手当には「再就職手当」「就業促進定着手当」「就業手当」「常用就職支度手当」があり、雇用形態や状態によって受給できる種類が違います。
●再就職手当
再就職を促進するための制度。失業保険(基本手当)の受給資格決定を受けた人が、早期に安定した職業に就いた際、一時金を支給するものです。支給額は、「支給残日数×給付率×基本手当日額(上限あり)」により算出されます。
再就職手当を受給するためには、複数の要件を満たす必要があります。例えば、「所定給付日数の3分の1以上を残し、1年を超えて引き続き雇用されることが確実な雇用形態で再就職し、原則雇用保険に加入すること 」が条件となっています。
●就業促進定着手当
再就職手当を受給した人で、再就職先に6カ月以上雇用され、再就職先での6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも低い場合、基本手当の支給残日数の40%(再就職手当の給付率が70%の場合の上限は30%となります)を上限として、再就職先と離職前賃金の差額の6カ月分が別途一時金として支給されます。
●就業手当/常用就職支度手当
再就職手当の受給要件に該当しない就業形態でも、給付の残日数が3分の1以上かつ45日以上あれば「就業手当」が支給される場合があります。それに加え、残日数が1日以上あれば「常用就職支度手当」を受給できるケースもあります。
なお「再就職手当」と「常用就職支度手当」は、過去3年以内の就職について支給を受けていると受給できません。いずれにしても、受給要件が細かく設定されていますので、自身に受給資格があるかどうか、ハローワークに確認しましょう。
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社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
記事更新日:2024年07月25日