さらなる成長が期待されるIT業界。転職市場でも人気があり、業界・職種経験がなくても挑戦したいという社会人は少なくないでしょう。そんな人たちの「IT業界ってどんな業界?」「未経験でも転職できる?」という最初の疑問に、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏がお答えします。
これだけは知っておきたいIT業界の基礎知識
IT業界とはどんな業界?
テレワークやSNS、インターネット通販など、今や私たちの生活に欠かせないサービスを担うIT業界。一口にIT業界と言っても領域は広く、以下のように大別できます。情報技術の急速な発展に伴い、将来的に業界構造は変化していくかもしれません。
1)情報処理サービス業界
「SIer(システムインテグレーター)」と呼ばれ、顧客企業の要望に応じて、社内で使用する情報システムの開発や運用を請け負います。具体的には課題や要望のヒアリング、それに基づく要件定義、設計、開発、テスト、保守や運用など。業務の効率化や改善のための提案をする、コンサルティング業務を行う場合もあります。
2)ソフトウェア業界
パソコンやスマートフォンなどのハードウェアに導入し、制御するためのプログラムを制作。例としては、スマートフォンのOSやアプリケーション、文書作成ソフト、表計算ソフト、ウィルス対策ソフトなどがあります。主にパッケージ製品やクラウドによる製品導入でサービスを展開しています。
3)ハードウェア業界
ハードウェア業界は実際に触れることのできる機器、例えばパソコン本体やサーバー、周辺機器、スマホやゲーム機などを製作する企業の総称です。近年は、スマート家電などのIoT(モノのインターネット)製品の需要が拡大しており、エンジニアの需要が高まっています。
4)通信業界
電話、インターネット、光ファイバー、無線などの通信インフラを扱う業界。近年は、次世代通信システムである5Gが、IoTの普及やVR(仮想現実)・AR(拡張現実)といった先端技術の実用化に欠かせないものとして注目されています。
5)Web関連業界
Webメディアやホームページ、通販サイト、SNSなど、インターネット上で提供されるサイトやサービス、広告を開発・提供する業界です。顧客の要望に沿ってWebサービスを開発するほか、自社サービスとしてWebメディアを社内開発することもあります。
6)その他(ITコンサルタント、事業会社など)
IT活用がビジネスの成否に直結する近年では、ITスキルを基盤として企業に提案・支援を行うITコンサルタントの役割が非常に重要になっています。また事業会社でも、自社の情報システムの開発・運用を行うため、社内に情報システム部門を置いて人材を雇用するケースが増えています。
IT業界で働くにはこんな職種がある
ここでは、IT業界に特徴的な職種で、ニーズの高いものをいくつかご紹介しましょう。
ITエンジニア系職種
●システムエンジニア(SE)
システム開発全体を総括する役割を担います。顧客や社内発注部署の要望・課題をヒアリングし、「要求分析・要件定義」「基本設計」「詳細設計」「テスト」といった工程を担当します。
●プログラマー
システム開発でSEが作成した仕様書にもとづき、プログラミング言語を使ってコーディングします。担当部分について、正確に動作するかどうかをチェックするテストも担います。
●アプリケーションエンジニア
主にOS上で動かして使用するソフトウェアの開発を行います。手がけるアプリケーションは業務・オープン系(会計、人事、生産管理など)、Web系、スマホアプリ系などさまざまです。
●インフラエンジニア
インフラ基盤の設計・構築・運用を担当するエンジニアは、総称して「インフラエンジニア」と呼ばれます。細分化すると次のような職種があります。
●ネットワークエンジニア
コンピュータネットワークの設計・構築・運用・保守。パソコンや通信機器上でのデータのやりとりを円滑に安全に行えるよう、通信環境を整備します。
●サーバーエンジニア
システムを運用するサーバー機器の構築や、サービスを提供するサーバーソフトの設定を行います。
●データベースエンジニア
企業内のさまざまなデータを「保存する」「管理する」「目的に応じて抽出する」といった業務を円滑化するために、データベースシステムの構築・運用を担います。
●セキュリティエンジニア
セキュリティに強いシステムを設計・構築するほか、外部からの侵入や攻撃を常に監視し、予防策を講じながら運用していきます。
●システム運用エンジニア
企業などにすでに導入されているシステムの安定稼働を維持する仕事です。稼働中のシステムのトラブル対応や改善、リニューアルに際しての設計・構築などの役割を担います。
●組み込みエンジニア
家電製品・自動車・通信機器など、さまざまな製品に搭載されるソフトウェアを手がけます。
製品を動作させる制御システムや組み込みソフトウェアを開発し、実装を行います。
●ITアーキテクト
企業経営に作用するIT戦略を構築する仕事です。顧客あるいは自社の経営戦略に向き合い、事業の方向性と技術のトレンドを把握しながら、今後のシステム設計を描く役割を担います。
技術営業・コンサル系職種
●セールスエンジニア
「プリセールスエンジニア」と呼ばれることも多く、製品・サービスに関する技術的な専門知識を持ち、それをベースにクライアントへの説明・提案・導入支援を行います。
●エバンジェリスト
IT業界における最先端の技術・製品・サービスを世の中に「布教する」役割を担う職種。顧客企業のほかに一般向けのイベントやセミナーでもプレゼンテーションを行います。
●カスタマーサクセス
顧客の業績アップ=「成功」に向けて、能動的に問題や課題の解決を支援。自社サービスを有効に導入・機能させて顧客満足度アップを図るポジションです。
Web関連職種
●Webデザイナー
Webサイトなどのデザインを担当。ユーザーインターフェイスを手掛けるUIデザイナー、サイトを通じたユーザー体験を考えて全体を構築するUXデザイナーなどの職種もあります。
●Webプランナー
Webサイトの方針をプランニングし、コンテンツを含む全体の設計やデザインなどのディレクションを手掛けます。制作そのものは、デザイナーやITエンジニアが担当します。
●Webマーケター
ウェブサイトやスマホアプリ、SNSなどを活用したマーケティングを担当。事業やサービスの売上拡大、ブランドの認知向上など、目的に応じた企画立案や施策実行を手掛けます。
IT業界では今後も多くの人材が求められる
コロナ禍にあってもIT業界の活況は継続中で、多くの企業が積極的にIT投資を行い、市場規模は拡大しています。
リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査」によると、2021年度の中途採用見通しが前年より「増える」と答えた企業は、「減る」と答えた企業を全体として1.0%下回る結果になりました。しかし、その中にあって「情報通信業」は「増える」が「減る」を6.1%上回っており、IT業界が変わらず中途採用に積極的であることが分かります。
中でもITエンジニアは人手不足の状態が続いており、常に採用ニーズがあります。また、サブスクリプション型サービスの増加に伴って、ITコンサルタントや技術営業のニーズも高まっています。企業や職種によりますが、IT業界全体で見れば、未経験者が採用されるチャンスは他の業界に比べて多いと言えるかもしれません。
IT業界には「未経験」でも転職できる?
「業界未経験」と「職種未経験」では難易度が違う
どんな転職でも同じですが、「IT業界に未経験で転職する」という場合には次の2パターンがあり、一般的に(1)よりも(2)のほうが難易度は大きく上がることを知っておきましょう。
(1) 職種を変えずにIT業界へ転職する
(2) 職種を変えてIT業界へ転職する
同職種で転職するなら選択肢は多い
「IT業界へ転職」というと最初に連想されるのは、エンジニアなどの技術系職種にキャリアチェンジすることかもしれません。しかしIT企業も同じ企業体ですから、営業系、企画系、管理部門系、事務系など、あらゆる職種で転職のチャンスはあります。上記(1)のように同じ職種で自分の専門性を活かしてIT業界に転職する場合は、選択肢が多く、成功する可能性は高まると言えるでしょう。
たとえば金融、自動車、食品といった特定の業界に顧客を持つIT企業が営業職を募集するときに、顧客の業界の営業経験者を採用するケースがあります。IT業界は未経験でも、顧客が属する業界を熟知している人材は強い戦力になるからです。こうした採用は人事や総務、経理などの管理部門でも多く見られます。
「未経験OK」の技術系職種採用もある
上記(2)として未経験者がIT業界の技術系職種を目指す場合も、簡単ではありませんがチャンスはあります。
例えばIT業界にはスタートアップ・ベンチャー企業も多く、ネームバリューや採用競争力があまりないことから、未経験者を含めて技術系職種の募集をする場合があります。
またSIer、SES(システムエンジニアリングサービス)と呼ばれる技術者派遣企業などでは、未経験者を採用し、自社の研修プログラムによって育成するケースもあります。こうした企業に入社し、プログラミング、テスト、運用・保守といった下流工程の業務から始め、経験を積んで上流工程へ移っていくという方法もあるでしょう。
ただ、ITの知識が全くないままそうした求人で採用されたとしても、エスカレーター式に専門性が高められる訳ではありません。自ら学び、技術を磨いて積極的にステップアップする意志がなければ、いつまでも下流の経験しか積めないリスクもあります。
ですから同じ未経験でも「丸腰」ではなく、プログラミング等の基礎を学び、知識を身につけたうえで転職に臨むことがお勧めです。さらに副業などもしていけば、応募先の選択肢が増え、必要な経験が積める企業に入社できる可能性も高くなるでしょう。
前述のようにエンジニアの採用ニーズは非常に高いので、自らの意志で学び、常に新しい技術や知識を取り入れればキャリアアップの機会は大いにあります。マネジメントやコンサルタント系職種へのキャリアパスも広がるでしょう。
IT業界へ未経験転職を目指すためのポイント
IT業界で何を実現したいのかをよく考えよう
「未経験でIT業界に転職したい」といった場合、IT業界と言ってもその領域は非常に広く、業種や職種も多岐にわたり、描けるキャリアも千差万別です。自分の中に目指すイメージがあっても、「どこでどうしたら実現できるのか分からない」という人もいるかもしれません。
まずは業界の全体像と、それぞれの業種の社会的な価値を自分なりに研究し、自分がどこで何を実現したいのかを、大まかに把握することから始めてみましょう。例えば今までの仕事で感じた情報技術の有効性や、生活の中で役立つアプリがITに興味を持ったきっかけだったとすれば、それがヒントになるかもしれません。
また、いくら成長著しいとはいえ、憧れやイメージでIT業界を目指しても転職は成功しませんし、仮にできたとしても仕事として長続きしない可能性があります。転職では「転職の軸(転職したいと思った理由)」と、「仕事において自分が大切にしたいこと(こだわり)」を明確にすることが重要です。そのうえで身につけたい専門性が何かを考え、分かる範囲で中長期的なキャリアプランを描いてみましょう。
IT業界で活かせるポータブルスキルの整理をしよう
転職で評価されるスキルには、特定の領域で発揮される専門性の高い「テクニカルスキル」と、これまでの仕事を通して身につけた、あらゆる業界で通用する「ポータブルスキル」があります。未経験での転職を成功させるには、自分のポータブルスキルをしっかり棚卸ししてアピールすることが重要です。
例えば、エンジニアというと一人で黙々とパソコンに向かうイメージを抱かれがちですが、実はクライアントやプロジェクトチームのメンバーとのコミュニケーションが重要な仕事です。また、現状を把握して課題を設定し、状況に応じて対応できるような「課題設定力」「課題分析力」「計画力」、社内外における「関係者間の調整力」なども求められるスキルになります。今までの仕事で達成したことや頑張った経験を元に、強みとなるようなポータブルスキルを整理しておきましょう。
基礎的な勉強、資格取得を目指そう
前述のように教育体制を整えて未経験者を歓迎するIT企業もありますが、それでも「入社後に学べばいい」というスタンスでは受け入れられない可能性があります。とりわけエンジニアは継続的な学習が必要な仕事であり、「自主的に学ぶ姿勢」も評価のポイントです。過去に未経験転職に成功した人たちにも、プログラミングの基礎を学んで転職活動をスタートしているケースが多く見られます。
プログラミング言語や開発環境に関する知識は、スクールや職業訓練校のほか、オンライン学習プログラムでも学ぶことができます。あらかじめ基礎を学ぶことにより、目指す職種が自分に合っているのかを判断することもできます。また転職活動の際に、取得したIT関連資格や、自分で作った成果物を企業に見せることができれば、それも良いアピールになるでしょう。
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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。