近年、都市部で働く20〜30代の社会人の間で、さまざまな事情から「故郷に戻って転職したい」とUターンを希望する人が増えています。Uターン転職で転職エージェントを利用するメリットや、転職エージェントの種類と選び方、Uターン転職を成功させるための活用法について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏にうかがいました。
目次
Uターン転職とは?
Uターン(転職)とは、地方出身の人が都市部で仕事をした後、転職して再び生まれ故郷に戻ることを言います。
国の調査によると、Uターンをする理由として多いのは「ふるさと(出身地)で暮らしたいと思ったから」「気候や自然環境に恵まれたところで暮らしたいと思ったから」「家族や親せきが近くにいるところで暮らしたいから」など。ワークライフバランスを含む人生全般の豊かさを求めて、故郷への移住を希望する方が多いようです。(出典:総務省「田園回帰」に関する調査研究報告書)
また、近年は新型コロナウイルスの流行により「心配なので実家の近くで暮らしたい」「満員電車を避けたい」「テレワークの浸透で都市圏に住む必要がなくなった」などの理由で、Uターンを希望する人も増えていると見られます。
最近のUターン転職の成功事例・失敗事例についてご紹介しましょう。
銀行法人営業→コンサルタント:Aさんのケース
東京都内で銀行の法人営業をしていたAさん(20代女性)。大学時代から交際していた、九州在住の男性と結婚するタイミングで、Uターン転職活動を開始しました。
総合型転職エージェント、地域特化型エージェント、転職サイト、リファラルなど複数の方法を活用しましたが、当初希望していた金融系の仕事が見つかりません。そこで選択肢を広げて選考に臨み、複数社で内定を得たものの、仕事内容や年収、「将来的な転勤あり」といった条件面が合わず、入社には至りませんでした。ようやく転職活動を始めて3か月目に、総合型エージェント経由で、コンサルティング会社の地方支店での募集条件が合致。銀行での法人営業経験を活かしつつ、スキル面で新たな経験を積めること、年収もほぼ同水準、転勤も基本的にしなくてOKという、希望通りの転職を実現することができました。
【ポイント】複数の経路で多様な情報を収集したこと、また、内定が出たからと安易に承諾せず、転職の軸を大切にして、粘り強く転職活動を継続したことが、Uターン転職の成功につながりました。
通信系企業人事:Bさんのケース
都内の通信系企業の人事部で働くBさん(30代男性)。中国地方の実家で暮らす両親の健康不安から、Uターン転職を検討しました。
とりあえずいくつかの転職エージェントに登録しましたが、実家が中核都市からやや遠いことや、転職先に現職と同等の大手企業を希望したために苦戦。業界・職種・通勤時間等も含めると合致する案件が見つからず、転職エージェントからの紹介も減っていきました。転職サイト経由や、企業への直接応募を行うものの、書類選考や1次面接で全て見送りになり、転職活動を中断。そもそもUターン転職をするのかも含め、タイミングや希望条件を見直すことにしました。
【ポイント】このケースでは本人がUターン転職に迷っていたため、情報収集が受け身になり、地元の転職市場の相場を考えずに希望条件を設定していました。選考でも「なぜUターンをするのか」「なぜその企業に応募するのか」という、転職理由や志望動機を明確に答えることができませんでした。家族と話し合って考えを整理し、再びUターン転職を目指すのであれば、積極的に地元の求人情報を探す努力が必要でしょう。
Uターン転職で転職エージェントを利用するメリット
Uターン転職には綿密な情報収集やスケジューリングが必要であり、たとえ本気度が高かったとしても、仕事を続けながら自力で進めると苦労することが多いものです。転職エージェントを利用すれば求人の紹介だけでなく、現地の情報提供や面接の日程調整などさまざまなサポートを受けることができます。
非公開求人の紹介で選択肢が広がる
転職エージェントは地方の求人にも、転職サイトやハローワークなどで一般公開されていない「非公開求人」を保有していることが多く、それによって応募先の選択肢を広げられる可能性があります。また、転職希望者の経験・スキル、熱意によっては、現在は求人をしていなくても、過去に採用実績のある企業に転職エージェントからアプローチをしてもらえることもあります。
選考対策やアピール方法を的確にアドバイスできる
Uターン転職では応募できる求人件数が少ないため、1件1件を大切にしながら慎重に転職活動を進める必要があります。転職エージェントでは、企業の募集背景や求める人物像、選考が進んでいるライバルがいるかどうかといった情報を、事前に受け取ることもできます。それにより、精度の高い求人選びや自己PRの作成、面接対策ができるでしょう。
面接の日程調整などもしてくれる
Uターン転職の場合、面接のために仕事を休むことも多く、交通費負担もあることから、なるべく効率的に面接を組むことが重要です。転職エージェントなら「相手企業の担当者の東京出張時に面接してもらう」「1次面接を午前中、2次面接を午後にする」など、自分からは頼みにくい設定も、転職希望者に代わって交渉してくれるでしょう。
また、内定前後には、前の会社との退職交渉や引き継ぎ、住居探し、引っ越しなど、さまざまな事情をふまえて入社日などの調整を代行してもらうこともできます。
Uターンを迷っている段階での相談も可能
転職エージェントでは「Uターン転職をするべきかどうか」を一緒に考えるところからサポートを受けることもできます。地元の求人動向や、年収の相場、物価や生活コストなどの情報提供を受けながら、Uターン転職を視野に入れた総合的なキャリア相談をすることができるでしょう。
Uターン転職の転職エージェントの選び方
Uターン転職を希望する場合の、転職エージェントの選び方について解説します。
特徴の異なる複数のエージェントに登録するのがおすすめ
Uターン転職で転職エージェントを利用するときは、特徴の異なる複数のエージェントに登録することをおすすめします。都市圏に比べて地方は求人数そのものが少ないため、紹介される求人案件の選択肢を増やすためにも、多様性のある情報源を持っている方が良いからです。Uターン転職に利用できる転職エージェントの種類を以下に紹介します。それぞれの特徴や強みを知った上で、入手できる情報の幅を広げて行くと良いでしょう。
大手総合型の転職エージェント
全国的にサービスを展開する大手総合型の転職エージェントは、各地に支店や拠点を持ち、地方の求人も数多く保有しています。東京や大阪に本社のある大手企業の案件では、地方支店の求人も一気にまとめて見られるなど、転職希望者の条件に合わせて検討できる求人件数が多いのがメリットです。さらに、保有件数が多いため、多様な働き方が見つかるのも、大手総合型の強みです。例えば、都市圏に本社がある企業でもフルリモート勤務が可能であれば、そこに転職することでUターンを実現する方法もあるでしょう。
U・Iターン特化型の転職エージェント
都市圏から地方へのU・Iターンに特化した転職エージェントもあります。全国に拠点を展開し、主に都市圏で働く転職希望者を対象に、それぞれの地域に密着した支援を行います。U・Iターン転職のノウハウを多く持ち、都市圏に住む転職希望者のマインドと、地方の企業の状況や、そこでの生活環境といった、両面を理解したうえでのサポートが強みです。転職後の仕事や生活の変化に関する、さまざまなアドバイスも受けられるかもしれません。
地域特化型の転職エージェント
特定地域の求人案件を対象にサービスを提供している、地域特化型の転職エージェントも存在します。地域に根ざしたローカルな転職市場を熟知し、地元企業とも太いパイプを持つため、全国に広く拠点を展開する転職エージェントにはない、独自の情報を保有していることが強みです。
Uターン転職の進め方ポイント
Uターン転職は通常の転職とどこが違い、どのような準備が必要になるのでしょうか。Uターン転職を実現するために大切なポイントをご紹介します。
幅広く情報収集をする
自治体やハローワーク、地元の求人誌、転職サイトや転職エージェントなど、あらゆるものを活用して多方面から情報収集をしましょう。Uターン転職の場合は、故郷にいる友人・知人との繋がりを利用することも有効です。実際に足を運んでお願いに行くのが理想ですが、帰省が難しい場合はオンラインミーティングや電話でも構いません。「本気でUターンしたい」という意志を地元の人に直接伝えることが、情報を得るための第一歩になるでしょう。
余裕を持ってスケジュールを立てる
Uターン転職の転職活動は長期化しがちです。求人件数が少ないため、都市部の転職活動のように、一度に数社に応募してスピーディに選考を進めるような方法は難しくなります。また、遠隔地まで面接に出向くこともあり、応募企業と日程を調整したり、有給を取得したりなど、それだけ手間や時間がかかります。
家庭を持つ方は、家族への配慮も必要です。共働きであれば配偶者がいつ退職できるのか、子どもの幼稚園や保育園への入園はどうするかなどで、移住のタイミングを慎重に考えなければいけません。転職目標時期を決めたら、なるべく早いうちに行動を起こし、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。
面接や引っ越しの予算を見積もっておく
遠隔地に面接に行く場合、往復の交通費や宿泊費がかかります。企業によっては二次面接以降の交通費を負担してくれるところもありますが、一次面接では自己負担のケースがほとんどなので、そうした出費も考えておく必要があります。数社の面接をまとめて実施してもらえるよう、転職エージェントに調整をお願いするのも一つの方法でしょう。また、引っ越し費用や新生活の準備にかかる費用は、移動距離や家族の人数によりケースバイケースですが、一般的に数十万円単位の出費になるので、事前に見積もっておくことが大切です。
説得力のある志望動機を準備する
Uターン転職をする真の理由が「地元で暮らしたい」であっても、それだけで相手企業を納得させるのは難しいものです。きっかけとして伝えるのは構いませんが、志望動機がそれでは「地元で働けるならどこでもいいのか」と受け取られかねません。また、地方には大都市でビジネス経験を積んだ人材に期待する企業も多いですが、最初から「自分なら通用するだろう」というスタンスで臨めば敬遠されてしまうでしょう。
まずは「その会社で働きたい理由」や「どんな形で貢献できるのか」を具体的な言葉で伝え、地域の発展のために貢献したいという意気込みを見せることが大切です。その準備をしっかりしておきましょう。
家族や親族との合意形成をする
Uターン転職に最も重要で、最初に確認したいのが合意形成。通常の転職でも家族の同意は大切ですが、Uターン転職の場合は、都市部を離れて地方へ行くことに対して、配偶者や子どもに納得してもらうことが不可欠です。同行する家族が納得していないと、良い転職先が見つかったとしても、幸せな移住は実現しません。
また同居・別居に関わらず、Uターン先に在住の親族の合意も必ず得ておきましょう。特に出産や子育てなどのサポートをお願いする可能性がある場合は、身内といえども礼を尽くすことが大切です。
Uターンで転職エージェントを利用するときのポイント
Uターンしたい理由を本音ベースで話そう
通常の転職とは違い、Uターン転職は仕事が変わるだけでなく、環境や暮らしの大きな変化も伴います。移住後のミスマッチを防ぐには、本人のキャリアや価値観だけでなく、家族の意向、収入や生活の変化に対する準備なども重要であり、それらも踏まえてアドバイスやサポートを提供するのも、転職エージェントの役割です。転職エージェントを利用する際は、Uターン転職を希望する目的やその背景を、できる限り本音ベースで話していただくことをおすすめします。
条件の優先順位を明確にしておこう
繰り返しになりますが、Uターン転職は都市部に比べて求人件数が少ない分、選択肢も狭まることが予想されます。年収・企業規模・知名度・福利厚生・勤務地など、こだわる条件が多すぎると、マッチする求人が簡単には見つからないかもしれません。転職エージェントを利用する際は「ここは譲れる/譲れない」という優先順位を明確にしておきましょう。「ここは妥協してでも地元で働きたい」という本気度や覚悟感が伝わることで、有益な情報が得られる可能性も高まるでしょう。
中長期でじっくり活動する意識を持とう
Uターン転職はなるべくスケジュールに余裕を持たせ、中長期戦を想定して取り組むのが理想です。「いつか地元に戻りたい」と考えている方は、地方に軸足を移すための準備を進めつつ、転職エージェントに登録しておき、継続的に求人情報をキャッチしながらチャンスを待つのも良いでしょう。
なお、Uターン転職に興味のある方は、副業で地元や地方と接点を持つのも一つの方法です。リモートワーク化が進んだ現在、都市部にいながら地方の企業を手伝える副業案件も数多くあります。地元企業と繋がり、信頼関係を深めることができれば、そのつてで良いUターン転職が実現できるかもしれません。
リクルートエージェントのU・Iターン支援サービスについて
リクルートエージェントでは、全国にある拠点とのネットワークを活用して、Uターン・Iターン転職を希望されている方のサポートを実施しています。「Uターン・Iターン転職に踏み切るべきかどうか」を一緒に考えるところから、Uターン・Iターン転職のノウハウや過去の事例のご紹介を始め、転職活動全般のお手伝いまで、様々なサービスをご提供します。故郷で働くことを検討している方、興味のある方は、ぜひご活用ください。
参考:「地元で働きたい」「自分スタイルで暮らしたい」Uターン・Iターン転職
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。