面接でよく聞かれる質問の一つが「仕事における成功体験」です。「何を話せばアピールできるのか」「選考に通過できるような答え方が知りたい」と考えている人は少なくないでしょう。組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に、企業が面接で成功体験を聞く理由や面接の通過率を高める答え方のポイントなどを伺いました。
企業が面接で成功体験を聞く理由
企業が面接で成功体験を聞くのは、求職者の「経験・スキルのレベル」と「人物像」をより明確に把握するためです。「経験・スキルが募集するポジションに合致するか」「自社のカルチャーにフィットできるか」を判断していると考えましょう。
そもそも成功体験では何を話せばいい?
面接で成功体験を聞かれたら、仕事において何らかの実績を挙げた経験や客観的に評価されたことについて回答することがポイントです。個人としての経験だけでなく、チームで取り組んだことでも問題ありません。
企業が面接で成功体験から見ているポイント
面接で成功体験を伝える際に「こんな成果を挙げて実績を出しました」「こう評価されました」という結果のみを話しても評価にはつながらないでしょう。なぜなら、その実績・評価が必ずしも応募者一人のみによる成功ではないことも多くあるためです。
例えば、営業の人が社内でMVPを取ったとしても、それは担当商品がたまたま時代のニーズに合っていたからかもしれません。参加していたプロジェクトが大成功したといっても、それだけでは「同じチームのリーダーやメンバーが優秀だっただけでは?」と思われる可能性があります。
企業は実績や評価の背景にあるプロセスや、仕事に対する本人の考え方・取り組み方などを深く掘り下げたいと考えています。よりアピールにつなげ、面接の通過率を高めるためには、以降を参考にしていきましょう。
「経験・スキル」のレベルを知りたい
企業は成功体験の内容から、求職者の「経験・スキル」のレベルを測ると同時に、それを通じて身に付けたスキルやノウハウを、自社でも再現して活躍できるかどうかを知りたいと考えています。成功体験においては、そのプロセスで具体的にどのような力を発揮し、どのように創意工夫し、その結果、どのような成果につなげることができたかを伝えることがポイントです。
人柄や人物像を知りたい
また、仕事のスタイルや取り組み方、どんな価値観を持ち、何にやりがいを感じるかという、その人の「人物タイプ」も知りたいと考えています。成功体験を通じて、仕事において自分が大事にしていることや得意とすることを伝えると同時に、その経験によってどのような喜びや達成感を得たのか、入社後にどのような力を発揮していきたいと考えているのかまで伝えることで、応募企業のカルチャーにフィットする人物であることをアピールできるでしょう。
成功体験と失敗体験をセットで聞かれることも多い
転職の面接では「成功体験」とセットで「失敗体験を聞かせてください」という質問をされることもあります。企業が失敗体験を聞く目的は成功体験と同様ですが、加えて「自分の失敗を客観的に振り返る力があるか」「仕事の改善や向上に繋げようとしているか」という点も知りたいポイントなのです。
成功体験と同様に、失敗体験についても「こんな失敗をした」という話だけで終わらせず、原因を分析し、そこから何を学び、今の自分にどう活かしているかという視点を盛り込むことが大切です。
面接担当者は、常に強みも弱みも含めた求職者の全体像を知りたいと考えています。「ネガティブに見られたくない」と取り繕ったりせず、真摯に自分の失敗と向き合って回答することで「この人は自分を客観視している」というプラスの印象を与えることができるでしょう。
面接の通過率を高める成功体験の答え方
転職の面接で「成功体験」を聞かれた時の答え方について解説します。回答内容の構成や意識したいポイントを把握しましょう。
成功体験を聞く際の質問例
面接では「成功体験を教えてください」という質問以外でも、成功体験を聞かれている可能性があるので注意しましょう。成功体験を回答することが求められる質問例を紹介します。
<質問例>
「仕事で評価された経験をお話しください」
「仕事を通じて成長した経験を教えてください」
「達成感を感じた仕事について教えてください」
「仕事において最も工夫を凝らした経験をお話しください」
成功体験を伝える際の構成
成功体験を伝える際には、以下の構成を意識して回答することがポイントです。
<回答の構成>
(2)根拠となる「具体的なエピソード」
(3)成功体験を活かして「貢献・活躍できること」
「結論」では客観的事実を伝える
成功体験については客観性が重要です。自分自身の中で「評価された」と思ったのみでは、客観性に欠けると判断されるので、数字としての実績や他者からの評価など、客観的な事実に基づいた成功体験を伝えましょう。「○人中でトップ」「目標の○%を達成」「○割の経費削減」など、なるべく具体的な数値で表現することがポイントです
「エピソード」では具体的なプロセスと自分の考え方を伝える
実績そのものよりも、それを実現するまでに自分が取り組んだプロセスをなるべく具体的に伝えましょう。現状に対してどんな問題意識を持ち、どんな工夫をし、どんな行動をし、それがどう結果につながったのかまでしっかりと伝えることが重要です。明確に数値化することが難しい業務改善などの取り組みも、自分の強みや役割、工夫を明確に述べることができれば、十分なアピールになるでしょう。
「活躍・貢献できること」で入社後の姿をイメージしてもらう
成功体験を通じて得た視点やスキルを活かして、入社後にどのような領域で活躍できるのか、どう貢献していきたいのかを伝えましょう。入社後の働きぶりや仕事の進め方、周囲への影響力などイメージしてもらうことがポイントです。
面接では「5W1H」を意識し、簡潔に話す
成果を挙げるまでのプロセスについては、「When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どのように)」の5W1Hをできるだけ盛り込むと、伝わりやすい内容になります。どんな「状況」に対してどんな「課題意識」を持ち、どんな「戦略」を立て、どんな「工夫」をしながら「実行」した、というように要素を分解し、一連のストーリーで語れるようにしておきましょう。
「学んだこと」「今後に活かすこと」も準備しておく
成功体験について答えた後に「その体験で学んだことは何ですか?」「今度どのように活かしていきますか?」と重ねて聞かれることもあるので、その回答も準備しておきましょう。
面接担当者は「求職者の成功体験に再現性があるのか」「それを活かして自社でどのように活躍してくれるか」を知りたいと考えています。「学んだこと」「今後に活かすこと」についても、できるだけ入社後の働きをイメージできる内容にすることをお勧めします。
自己PRや強みなどと一貫性を持たせる
面接という限られた時間の中で効果的に自分をアピールするためには「私はこんな人物です」「これができます」というテーマを選び、そこから大きく外れないストーリーを提供することもひとつのポイントです。
例えば、職務経歴書で「コツコツ取り組むのが得意です」とPRしておきながら、成功体験が「チャレンジングな提案で大型受注ができました」だった場合、面接担当者は「どちらが本来の姿なのか」と混乱してしまうでしょう。
人には多面性があるものですが、それぞれの質問に対して最適解を考えてしまうと、伝えたいポイントが曖昧になってしまう可能性があります。成功体験を伝える際にも、自己PRや強みとの整合性があるテーマを選び、一貫性を持たせた上でアピールすることが大切です。
話を盛り過ぎず、事実を伝える
チームで取り組んだことや、上司・先輩の補佐として活躍した成功体験については、その事実をきちんと伝えることが大事です。より大きくアピールしたいと考えて話を盛ってしまうケースもありますが、求職者の経験や年齢などから、実際にどのくらいの責任を任されていたのかはバレてしまうものです。
話を盛り過ぎている場合は、本来の経験・スキルを判断できない上に「信頼できない」という評価につながる可能性があります。こうした場合、また別の角度から質問をして掘り下げたり、配属予定の部門のメンバーに対して求職者の経験・スキルが年齢に応じて適正なものであるかを確認したりするでしょう。自分が話した内容に対し、辻褄が合わなくなってしまう可能性があるので、正直に事実を伝えることをお勧めします。
あまりにも昔のエピソードは避ける
直近では大きな成功体験がないと感じ「数年前に華々しい実績を挙げた経験をアピールしたほうがいい」と考えてしまうケースもありますが、あまりにも昔のエピソードを伝えることは避けたほうが良いでしょう。例えば、入社3年目の社員が新人時代の成功体験を話した場合には「新人時代を経た後には、成功体験がなく、成長もしていないのでは?」と思われてしまう可能性があります。成功体験のエピソードは、なるべく最近のものを伝えるようにしましょう。
成功体験の例を紹介【答え方例つき】
成功体験の例としては、営業職の場合、売上アップや社内表彰を受けたこと、顧客満足度の向上、チームビルディングへの貢献などが挙げられます。企画職の場合は、企画の成果、開発商品のヒットなどがこれに当たるでしょう。
経理や人事などの場合は、仕事の進め方における改善や業務効率の向上、組織全体の改革などにおいて成功したことを挙げると良いでしょう。ITエンジニアなどの技術職の場合は、新たな開発方法や技術を取り入れて生産性を向上したことや、プロダクトの品質向上、機能改善、顧客満足度の向上などにおいて貢献したことなどが挙げられます。
以降で成功体験の例や答え方を紹介するので、エピソードの選び方や面接での答え方の参考にしてみましょう。
【営業職】成功体験の答え方例
(1) 結論となる「実績や評価されたこと」
社内の複数の部署を巻き込んだプロジェクト型営業で、売上昨対比○%向上を達成しました。
(2) 根拠となる「具体的なエピソード」
受注金額○千万円規模の大型案件のコンペに参加し、複数の競合に勝つためのアプローチを担当しました。通常のアプローチでは確度が読めず、会社としても必ず獲得したい案件であったため、営業部署、営業企画・マーケティング部署、エンジニア、デザイナーなどを集めたプロジェクトチームを組成し、私自身はフロントで顧客対応を行いました。
まずは社内での目線合わせを行い、適切な人材配置、納期管理、チームワークが発揮できる関係性構築などが必要であるという結論に至りました。その後、各所とやりとりしながら適切な方法論を道き出すリードを行った結果、顧客に最適な提案や質の高い解決策を提示することができました。
(3) 成功体験を活かして「貢献・活躍できること」
この成功体験により、私の強みは「組織的な営業を推進するリーダーシップ」であると実感いたしました。組織力を活かして大きな売上を作った経験を活かし、個人としてだけではなく、組織全体として業績を向上させていけるように貢献していきたいと考えております。
【技術職】成功体験の答え方例
(1) 結論となる「実績や評価されたこと」
社内IT部門の担当としてDX環境の整備を手掛け、全社において年間○%の業務効率化を実現し、年間○百万円のコスト削減も実現しました。
(2) 根拠となる「具体的なエピソード」
全社的なDX推進によって、現場の判断で多くのITツールやECU導入・開発が進んだことによって、ツールの多さに対応しきれず混乱する状況が起きていました。IDパスワード失念やトラブルの問い合わせが多数あり、社内IT部門がその対応に疲弊し、かつ、新卒学生や中途採用者が各種ツールを使いこなすまでに時間が掛かるという問題も発生し、業務効率や内部統制の面から環境を整備することが課題となっていました。
そのため、各所で個別導入が進んでいたツールとECUを整理し、社内IT部門で一元管理する仕組みを作るプロジェクトを任されました。
各ツールの費用対効果の分析からスタートし、クラウドERPやAI-OCRの選定や導入・運用のルールを決定した後、社内各部門とコミュニケーション・合意を取りながら運用支援を実行していきました。
約〇年間かけて取り組んだ結果、全社において年間で○%の業務効率化を実現した上、ツールの取捨選択したことによって年間○百万円のコスト削減にも成功しました。
(3) 成功体験を活かして「貢献・活躍できること」
複雑に絡み合った状況を整理分析し、課題に対する最適な解決を実行できたこの成功体験を活かして、御社の社内整備・業務効率化を通じた経営改善に貢献したいと考えております。
「成功体験が思いつかない」という人へ
「成功体験が思いつかない」「面接で話せるようなことがない」という人もいますが、成功体験は目立つ実績や華々しい経験に限る必要はありません。「1年前の自分はこうだったけれど、自分なりに改善したことでこのような成果につながった」など、自己成長したエピソードも成功体験の一つです。自分自身が目的意識や狙いを持って努力したことや創意工夫して取り組んだことを探してみましょう。
もちろん、どのような数字を挙げたのか、どのような評価を受けたのかなど、客観的事実としての評価まで伝えることは大事です。しかし、社内表彰を受けたり、大きく数字を伸ばしたりした経験でなくても問題はありません。「取引先や上司からこのように褒められた」「売上目標の達成率を105%から110%に伸ばした」など、自分として成功し、成果につなげることができた経験を具体的に伝えれば、説得力もアップできるでしょう。
転職エージェントを活用すれば成功体験が見つかる
転職エージェントでは、自己分析や過去の経験・スキルの棚卸などをサポートしてくれます。
自分ではアピールできるような成功体験がないと思っている場合も、客観的なアドバイスを受けながら過去を振り返ることで、自分なりの成功体験を見つけることができるはずです。また、アピールできる成功体験がある場合でも、応募書類や面接での伝え方など、より評価につながるアドバイスをもらえるため、面接の通過率を高めていくことができるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。