「転職先に会社都合の退職を知られたくない場合どうしたらいい?」「会社都合の退職がバレる可能性はある?」──そんな疑問について、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、お答えします。
目次
「会社都合」と「自己都合」の退職は何が違うのか?
会社を退職する際、「会社都合」とされるケースと「自己都合」とされるケースがあります。まずは、その違いをご説明します。
「会社都合」とされるケース
事業主からの働きかけによって退職する場合、「会社都合退職」とされます。細かく分けると次のようなものがあります。
- 普通解雇……何らかの理由による解雇
- 整理解雇……倒産や事業縮小に伴う解雇
- 退職勧奨……会社側から勧められて退職
- 懲戒解雇……従業員が不正をはたらいた場合などの解雇(※ただし、会社側は「自己都合退職」として処理するケースが多い)
このほか、会社の状況から、従業員側が退職を余儀なくされた場合、「会社都合退職」と見なされます。例えば、次のようなケースです。
- 給与の未払い・遅配
- 業績悪化による賃金カット
- 過度な残業や時間外労働
- 職場でのセクハラ・パワハラなど
- 労働契約時と勤務内容が大きく異なる
「自己都合」とされるケース
「自己都合退職」とは、従業員側の理由で退職するケースです。例えば、次のようなものです。
- スキルアップ・キャリアアップを目指すため
- 会社に不満を抱いて
- 病気の治療や療養のため
- 結婚・出産によりワークライフバランスを整えるため
- 家庭の事情により
「会社都合」と「自己都合」では、失業保険の受給条件が異なる
自己都合退職の場合、失業保険(雇用保険の基本手当)を受給するためには、原則として退職日の前の2年間に雇用保険の被保険者となっていた期間が12カ月必要です。会社都合退職の場合は、1年間に6カ月以上あれば給付対象となります。(ただし、懲戒解雇の場合は自己都合と同じ扱いとなります)
また、会社都合退職であれば、自己都合退職よりも早く、失業保険の給付を受けられます。会社都合退職の場合、ハローワークで手続きを行った後、7日間の待期期間を経て失業保険を受給できます。一方、自己都合退職の場合、7日間の待期期間に加え、2カ月間の給付制限期間が経過するまでは失業保険を受給できません。(ただし、懲戒解雇の場合は7日間の待期期間に加え3か月間の給付制限期間を経過しないと受給できません)
会社都合の退職は転職に不利になる?
上記のとおり、「会社都合退職」にはさまざまな状況があります。倒産や事業縮小などによる「整理解雇」など、本人に非がないケースであれば、会社都合退職が選考にマイナスに響くことはないでしょう。
ただし、不正などで会社に不利益をもたらした場合の「懲戒解雇」はもちろんのこと、「普通解雇」「退職勧奨」なども選考に影響する可能性があります。
採用担当者は「能力不足や勤務態度などが理由で解雇・退職勧奨されたのだろうか」と懸念を抱き、面接ではその点を確認するでしょう。その受け答えによって懸念を払しょくできなければ、採用を見送るかもしれません。
会社都合の退職がバレる可能性とケース紹介
会社都合退職の中でも、能力不足や勤務態度などの理由で解雇された人であれば、転職先の候補企業にはその事実を伏せておきたいと考えることもあるでしょう。
基本的に、自己申告をしなければ、会社都合退職であるかどうかは、企業側にはわかりません。しかし、何らかのきっかけにより、企業に知られるケースもあります。会社都合退職がバレるケースの代表例には以下が挙げられます。
履歴書から知られる
求人に応募する際に提出する履歴書には、「賞罰欄」が設けられていることがあります。賞罰欄があれば、刑事罰を受けたことは必ず記載しなければなりません。刑事罰を受けたことにより「懲戒解雇」を受けた場合は、事実を記載しなければならないため、採用担当者の知るところとなります。この欄があるのに記載しなければ、経歴詐称と見なされます。
なお、現在の厚生労働省様式の履歴書用紙には賞罰欄はないため、この様式の履歴書を使う場合は懲戒解雇の事実を記載する必要はありません。また、職歴欄には「退職」の事実は記載しますが、会社都合退職か自己都合退職までを記載する必要もありません。
つまり、履歴書から知られるパターンは「賞罰欄がある履歴書用紙を使い、記載義務を果たした場合」のみと言えます。
「離職票」から知られる
退職する際には、退職する会社から「離職票」が発行されます。これは失業給付の受給手続きに必要な書類であり、失業保険を受給するまでもなく転職先が決まった場合、使用することはありません。
ただし、会社によっては、離職票の提出を求めるケースがあります。前職の給与額や退職理由を確認するためです。離職票には退職理由が明記されていますので、応募書類や面接で会社都合退職なのに「自己都合退職」と伝えていた場合、嘘をついていたことがバレてしまいます。
「失業保険の受給履歴」から知られる
転職先に入社する前に失業保険を受給していた場合、「会社都合退職」であれば「自己都合退職」より給付日数が多くなっています。転職先企業で、雇用保険の知識がある人が書類を見た場合、「自己都合退職と言っていたのに、こんなに長い間、失業保険をもらっていたのは変だ」と気付かれる可能性があります。
「リファレンスチェック」で知られる
求人企業の中には、応募者に内定を出す前後のタイミングで、その応募者が以前勤務していた会社に「リファレンスチェック(前歴照会)」をする企業もあります。また、入社からしばらく経ち、「職務経歴書に記載されていた役職・業務経験と、実際の仕事ぶりが大きく異なる」と疑問を持たれた場合、経歴詐称がないかどうか、前の会社に確認することがあります。この際、自己都合退職であったか会社都合退職であったかも知られることになります。
人づてに伝わることで知られる
SNS、セミナー、サークル、コミュニティなど、社外にネットワークを持っているビジネスパーソンは多数。転職先の会社の社員が、前職の会社の社員とつながっている可能性もあります。そこから、前職での仕事ぶりや退職の経緯が知られることもあります。
会社都合退職がバレたらどうなる?
会社都合退職であることを意図的に隠していたり、「自己都合退職」と虚偽の申請をしていたりすると、それがバレたとき、入社前なら内定取り消し、入社後なら懲戒解雇とされる可能性があります。
会社都合退職か自己都合退職かは、自分から申請しなければ知られることはまずありません。とはいえ、万が一バレたときのリスクを考えると、隠しだてしないほうがいいと言えるでしょう。
会社都合の退職でも転職を成功させるポイント
求人企業が採用選考で見ているのは、退職の経緯だけではありません。その人の経験スキルなども重視しますので、どう貢献できるかをしっかり整理・言語化しましょう。
上記をしっかり整理・言語化して、職務経歴書や面接で伝えられるようにしておくことが重要。その作業は自分1人では難しいこともありますので、転職エージェントのサポートサービスを活用してはいかがでしょうか。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
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記事更新日:2024年07月25日