「転職したいけれど、年収を下げたくない」と考えている方は多いのではないでしょうか。年収ダウンとならない転職を実現するためには、「なぜ年収が下がるのか」を理解した上で転職活動を進めることが重要です。転職で年収が下がるケースの傾向、年収が下がっても転職するかどうかを判断するポイント、年収を下げないための対策について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
転職で年収が下がる人は約3割
転職によって年収が上がる人・下がる人の割合に注目してみましょう。厚生労働省が発表している「令和5年 雇用動向調査」の「転職入職者の賃金変動状況」によると、前職の賃金に比べて「増加」した割合は37.2%、「減少」した割合は32.4%、「変わらない」の割合は28.8%です。
年代によっても年収増減の傾向は異なりますが、全体では年収アップ転職と年収ダウン転職の割合はいずれも約3割強となっています。なお、「増加」の内、「1割以上の増加」は25.6%、「減少」の内、「1割以上の減少」は23.4%です。
(※)出典:令和5年雇用動向調査結果の概況「3 転職入職者の状況」(厚生労働省)
なお、リクルートエージェントを通じて転職した人のデータを見ると、転職後に賃金が増えた人の割合は2024年4~6月期で「36.0%」と、過去最高値を更新しました。人手不足の深刻化・採用難を背景に、採用にあたって給与額を引き上げる企業が増えているのかもしれません。
(※)出典: 2024年4-6月期 転職時の賃金変動状況(株式会社リクルート)
転職で年収が下がるケースの傾向
転職で年収が下がるケースとして、次のケースが挙げられます。
異業界・異職へのキャリアチェンジ
キャリアチェンジとは、これまでとは異なる業界・職種への転職を指します。企業にとって、未経験者は入社後の育成に時間がかかることから、即戦力となる経験者に比べ、年収が低くなるケースが見られます。
また、経験年数やポジションが同じであっても、業界によって給与水準に差があります。金融・製薬・コンサルティングなど給与水準が比較的高い業界から給与水準が低い業界に転職する場合は、同職種の転職であっても年収ダウンになるケースが見られます。
大企業から中小企業への転職
厚生労働省が発表している「令和5年 賃金構造基本統計調査」によると、企業規模別の賃金は、大企業346.0千円、中企業311.4千円、小企業294.0千円と差がついています(いずれも男女計)。
(※)出典:令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)
一般的に大企業は「市場への参入障壁が高く競合が少ない」「分業化が進み生産性が高い」「ブランド力があり販売や採用力に長けている」などの理由から、年収水準が高い傾向にあります。そのため、現職または前職よりも規模の小さい企業に転職すると、年収ダウンになる可能性が高くなります。
なお、規模が小さい企業に転職した時点では年収が下がるとしても、その後企業が成長を遂げれば、前職企業に勤務し続けるよりも年収が上がるケースもあります。
都市部から地方の企業に転職
地域によっても給与水準に差があります。「令和5年 賃金構造基本統計調査」の「都道府県別にみた賃金」によると、全国計(318.3千円)よりも賃金が高かったのは5都府県(東京都、神奈川県、大阪府、栃木県、愛知県)となっており、最も高かったのは東京都(368.5千円)です。
一方、低いのは青森県(249.9千円)、宮崎県(254.3千円)、山形県(255.8千円)などで、上位の都府県とは大きく差が開いています。このように都市部は給与が高い傾向があるため、都市部から地方の企業に転職した場合、年収が下がる可能性があります。
(※)出典:令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)
残業時間が短い企業への転職
たとえ基本給が同じであったとしても、残業時間の有無によって年収が下がるケースもあるでしょう。近年、働き方改革によって労働時間を抑制する企業が増えています。現職よりも残業時間が少ないと、残業手当が減る分、年収が下がる可能性があります。
年収が下がっても転職するかの判断ポイント
応募企業で年収が下がる金額が提示されたとしても、「年収以上の魅力があるか」「中長期的視点でキャリア構築や年収アップにつながるか」という観点で捉えてみてはいかがでしょうか。年収にこだわりすぎてしまうと、キャリアの選択肢を狭めることにもなりかねません。
年収が下がっても転職するメリットがあるかどうか、以下のポイントを考えて判断しましょう。
生活できる給与水準か計算する
年収を12分割し、月額で考えてみましょう。最低限必要となる生活費に加えて、ローンや教育費などのコストを月額で算出します。家族やパートナーがいる場合は、転職直後だけでなく「○年後に転居」など、将来に必要となりそうなコストも洗い出しましょう。
生活に無理が生じる転職をした場合、金銭面に不安を感じて再度転職を検討することになるかもしれません。もし年収が下がっても転職したい場合は、家族やパートナーと相談して「世帯収入を増やす」「支出を減らす」などの余地があるか探ってみるのもひとつの方法です。
年収減を上回る魅力があるか考える
年収が下がる以上の魅力やメリットがあるかどうかを考えてみましょう。 以下に一例を挙げてみます。
- 「修業期間」と捉えて市場価値が高いスキルを身に付ければ、将来の年収アップ転職につながる
- 年収が下がっても、労働時間が減少したり休日が増加したりすることにより、プライベートを充実させられる
- 各種手当など福利厚生が充実しているため、トータルで収支が合う(可処分所得は変わらない/増える)
- 業務内容に満足感がある
入社後に年収の上昇余地はあるか考える
前提として、応募先企業から現職よりも低い年収を提示されたとしても、「人材としての評価が下がった」「市場価値が低くなった」というわけではありません。
現職の年収は、その企業でこれまで築き上げてきた信用や実績によるものです。転職先の企業でも一から信用や実績を積み上げることで、リカバーできる可能性はあります。
転職時点では年収が下がったとしても「成果を挙げることでインセンティブが支給される」「ストックオプションが期待できる」など、評価制度や会社の成長余地などによって、年収アップの可能性があるかどうかを考えてみましょう。
ただし年収の上昇余地はあくまで想定のため、実現できるかどうかは分かりません。無理のない範囲で考えましょう。
転職で年収を下げないための対策とは?
転職による年収ダウンを防ぐためには、以下の対策をお勧めします。
キャリアを活かせる会社に転職する
これまでのキャリアが評価される会社であれば、経験・スキルに見合った報酬が期待できます。また、自分の専門性を活かせる会社であれば即戦力としての価値が高まり、給与に反映されやすくなるでしょう。
経験・スキルを持つ人は、応募先企業にとって貴重な人材であるため、自分のキャリアを活かせる会社を選ぶことで、年収を下げることなく転職できる可能性があります。
成長している業界や会社に転職する
成長している業界や会社は積極的に採用活動を行っているように見受けられ、競合他社よりも高い水準の年収で募集を出し、採用するケースがあります。
また、「給与水準が高い業界」「インセンティブ制度がある企業」「一般的に給与水準が高い傾向にある外資系企業」などを選ぶのも、年収を下げないための手段の一つといえます。
転職エージェントを活用する
転職市場動向を把握している転職エージェントに相談すると、自身の「市場価値」をつかめるでしょう。それをもとに、自身を高く評価してくれる企業を選ぶことで、年収維持・アップにつながる可能性があります。
転職エージェントは「マネジャー」「プロジェクトリーダー」「新規事業担当」など、重要なポジションの「非公開求人」も多く取り扱っていることもあるため、年収が高いポジションの求人情報を入手できることもあります。
また、職務経歴書でのアピールや面接への受け答えによって評価が上がれば、年収アップのオファーにつながるかもしれません。応募書類作成や面接対策のサポートサービスも活用するといいでしょう。
年収ダウンの転職でもらえる可能性がある補助金とは
年収が下がる転職をした場合、国から「就業促進定着手当」を受けられる可能性があります。「就業促進定着手当」とは、再就職手当を受けた人が再就職先に6カ月以上雇用され、再就職後6ヵ月間の賃金日額が離職前の賃金日額よりも低い場合に受けられる手当です。
「就業促進定着手当」は再就職手当の支給申請を行ったハローワークで申請できます。該当する場合は、受給資格の条件などを確認し、相談してみましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2023年11月07日
記事更新日:2024年12月07日 リクルートエージェント編集部