退職時は、担当している業務の引き継ぎが発生します。営業やコンサルタントなど、顧客がいる職種では、後任とともに引き継ぎの挨拶も必要です。そこで、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏に、引き継ぎのポイントについてのアドバイスを伺いました。
退職が決まったら、業務整理とリストアップを行う
退職を決めたら、現在の業務を誰かに引き継がなくてはなりません。まず、担当している業務を整理して、どのような業務を行っているのかをリストアップしましょう。リストアップする際は、業務内容だけでなく、発生頻度や作業時間など、業務量の目安が分かる項目を設けておくと、上司が具体的に業務を把握できるので後任を見つけやすくなります。
<例>
業務名 | 業務内容 | 頻度 | 締め切り | 作業時間 | |
総務 | 備品の発注 | 各部署の備品の在庫を確認し、○○に発注を行う | 月1回程度 | 毎月15日 | 1時間 |
水の発注 | サーバーの残りを確認し、○○に水の発注を行う | 2週に1回 | 特になし | 30分 | |
出張手配 | 営業の出張手配を行う | 週2回程度 | 特になし | 30分 | |
外部セミナー | プログラム作成 | セミナーのプログラムを作成し、部長に確認する | 2週に1回 | セミナー開催日の2カ月前 | 2時間 |
HPの更新 | セミナー日時を更新する | 2週に1回 | プログラム確定後3日以内 | 1時間 | |
スタッフ説明会 | セミナーのスタッフを集めて説明会を行う | 2週に1回 | セミナー開催日の1週間前 | 1時間 |
引き継ぎの2つの流れ
後任が決まっていれば直ちに引き継ぎを開始することができますが、後任が見つかっていない場合は、着任するまでにマニュアルを作成し、準備を整えておく必要があります。後任が決まっている場合と、決まっていない場合の進め方を解説します。
後任が決まっている場合
リストアップした業務一覧を元に、後任に引き継ぎスケジュールを共有します。業務マニュアルを作成し、座学で説明してから業務に着手する、またはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)として、説明しながら一緒に業務を行うなどの方法で引き継ぎを進めていきます。営業など、取引先に紹介が必要な場合は、あらかじめ退職することや最終出社日を伝え、退職の挨拶と後任紹介の時間を設けるようにしましょう。
後任が見つかっていない場合
後任が決まらないと引き継ぎをすることができません。引き継ぎ期間を含めて、いつまでに後任が必要かを上司に伝えます。ポジションによってはなかなか後任が見つからず、退職日の変更を打診されるケースもあります。転職先が決まっている場合の退職日の変更は、入社日をずらすことになるため転職先に迷惑が掛かってしまいます。内定通知書などに入社日が明記されている場合、転職先企業は入社日を含めて内定を出しているため、内定を取り消されるリスクもあります。また、転職先が決まっていなかったとしても、後任が決まらずにズルズルと退職日が伸びてしまっては、何のために退職を決めたのか分からなくなってしまいます。
後任が見つからず引き継ぎが間に合わないようであれば、リストアップした業務一覧から、給与の振り込みや取引先への請求など、ストップすると大きなリスクが発生する業務と、リスクの低い業務に仕分けを行います。仕分けした業務一覧を元に上司に相談し、リスクが発生する業務については、チームメンバーや上司など、暫定対応する担当者を決め、マニュアルを作成して引き継ぎを始めます。リスクの低い業務については、今後も担当者を置くかどうか上司に判断を仰ぎましょう。
引き継ぎ期間の目安は?
引き継ぎ期間は、一般的に1カ月程度が目安です。ただし、営業やコンサルタントなど、引き継ぎを兼ねた顧客への挨拶が発生する職種では、後任と顧客との日程調整があるため、引き継ぎ期間にゆとりを持ちましょう。また、役職者やプロジェクトの責任者なども、後任の着任に時間がかかったり引き継ぐ項目が多かったりするため、引き継ぎが完了するまでに1カ月以上かかるケースもあります。いずれにしても、円満退職のためにできるだけ引き継ぎ期間には余裕を持って進めましょう。
上手な引き継ぎのポイント
引き継ぎをスムーズに行うためのポイントをまとめました。引き継ぎを丁寧に行って、不安を残すことなく退職しましょう。
書類やメールのテンプレートを保存しておく
業務上、定期的に社内外に送信するメールがあれば、後任が引き継ぎやすいように、テンプレートメールを保存しておきます。請求書や納品書など、定期的に作成する書類も同様に、過去に作成した書類を日付などで分類し、テンプレートとともに保存しておきましょう。
なお、引き継ぐファイルデータや格納フォルダは、「yymmdd_業務名_担当者名」など一定のルールを決めて保存しておきます。統一された名称があれば、業務に慣れていない後任も目的のデータにすぐにアクセスすることができるでしょう。
タスクと締め切りを一覧化する
引き継がれた直後は、業務のスケジュール感覚が掴めないものです。また、業務の発生頻度と締め切りが明らかになることで、仕事の優先順位をつけることができます。引き継ぎリストには、業務内容と発生頻度、締め切りを明記し、「何を」「いつまでに」やらなければならないのか明らかにしておきましょう。
なお、月次で定常業務が発生する職種の場合は、「月初1日:決算準備、月初3日:決算締め切り、15日:報告レポート作成」のように、一覧ではなくカレンダー形式で引き継ぐという方法もあります。
引き継ぎスケジュールに余裕を持たせる
業務内容をきちんと後任に説明したつもりでも、全てを理解できていなかったり、イレギュラーが発生したりするかもしれません。想定外のミスが発生したり、後任からの質問の対応に追われてしまったりする可能性もあります。退職までのスケジュールに余裕がある場合は、例えば、「月末の請求処理を一緒に行い、翌月末は後任に任せてフォローする」「顧客への挨拶と引き継ぎを終えたら、最終出社日まではメールの宛先に入れておいてもらう」など、
引き継ぎ後に一定のフォロー期間を設けておくと、お互いに安心です。
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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。