転職は、希望条件や転職市場の動向、求職者の経験・スキルや人柄など、様々な要素の組み合わせで決まります。そのため、「必ず成功する」という方法はなく、転職が成功した人の共通点や成功・失敗事例を把握し、自分にとっての転職成功の方法を考える必要があります。
そこで、転職に成功する人の特徴と、年代別の転職成功例とポイントについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏にお伺いしました。
転職に成功する人の特徴
転職に成功する人に共通点はあるのでしょうか。転職成功者に共通する傾向を4つご紹介します。
転職の軸が決まっている
「現職の人間関係が嫌で転職したい」「現在の仕事に飽きた」など、不満解消が転職理由だと、転職先で同じ不満が発生した場合にまた転職したくなってしまいます。退職のきっかけが現職の不満だったとしても、転職の軸である「転職で実現したいこと」は、転職活動前に明確にしておきましょう。転職で実現したいことが叶えられたのであれば、入社後に不満があったとしても、壁を乗り越えることができます。長く働き続けられる転職先を見極めるために、転職の軸は重要です。
なお「転職の軸が見つからない」という方は、退職のきっかけである不満を裏返してみると、自分が求める働き方や条件に気づくことができます。例えば、「現職の人間関係が嫌で転職したい」であれば、「切磋琢磨できる環境で成長したい」「チーム力を高めて成果を出したい」という思いがあるのかもしれません。転職活動を始める前に、必ず転職の軸を明らかにしておきましょう。
情報収集・分析ができている
転職に限らず、何かを選ぶ際には限られた選択肢から決めるよりも、自分の価値観や優先順位に従って、多くの選択肢から選んだ方が納得度は高いものです。選ぶほどの選択肢がなく決めてしまった場合、入社後に「他にもいい企業があったのでは…」など、後悔の元になるかもしれません。
自分の優先順位を決めるために、「自己分析」で自分の経験・実績・スキルの棚卸しを行い、何が得意で、どのような仕事に意欲が湧くのかを明らかにしておきましょう。次に、情報収集を行って、自分に合っている業界・職種などを絞り込んでいきます。さらに、志望先企業の仕事内容や働き方などを調べて企業研究を行い、成果が出せそうな企業を比較検討しましょう。
転職市場の相場を理解している
転職活動は、転職市場の相場を理解しているかどうかも重要です。転職市場は、企業の人材ニーズと求職者の需給バランスで成り立っています。企業が求めている経験・スキルを持つ求職者が少ない場合は、「売り手市場」となり、条件交渉がしやすくなります。一方で、求人が少ないのに転職を希望する人が多い場合は、「買い手市場」となり厳選採用となる傾向があります。
これまでに培った経験・スキルが転職市場でどのように評価されているのか、そして希望する業界・職種の求人がどのくらいあるのかを把握しておくことで、転職成功の可能性が高まるでしょう。
条件にこだわりすぎない
給与や役職などの条件にこだわって、高い給与や役職を約束して入社した場合は、入社後に条件に見合った成果を求められます。入社後の慣れない環境ですぐに成果を出すことは、豊富な経験・スキルが備わっている方でも難しいものです。まして、高い給与や役職で入社した場合は、高い期待やプレッシャーの中で成果を出さなくてはなりません。焦って思うように物事が進まなかったり、プレッシャーでストレスを感じたりして成果が出せず、居心地が悪くなってしまう可能性があります。
企業に求める条件はとても大切ですが、こだわりすぎてしまうと応募する企業の選択肢が狭まったり、入社後に自分を追い詰めてしまったりする可能性があるので注意しましょう。人事評価制度が明確に定められている企業であれば、入社時点では希望通りでなかったとしても、成果を出して待遇を上げていくという方法があります。入口の段階で欲張りすぎないようにしましょう。
年代別の転職成功例とポイント
転職は年代によって特徴が異なります。20代、30代、40代の年代別に、転職成功のために知っておきたいポイントをご紹介します。
20代の転職成功のポイント
20代は、前半と後半で求められるものが異なります。20代前半は、社会人経験が1~3年程度と短く、第二新卒として評価されるケースが一般的。就業期間が短い場合は、定着性を不安視されるため、入社後に実現したい転職理由をアピールしましょう。
また、20代後半では、ポテンシャルを期待されつつ、専門性や即戦力、次世代リーダーとしての活躍を期待されます。未経験でも転職することが可能な年代ですが、安易な転職は要注意。転職理由を明確にして、転職の優先順位を定めて転職先を検討することが重要です。
20代の転職成功例
転職事例:丸山さん(28歳)
大手機械メーカー 設計 → プラント機器メーカー 設計
年収 : 500万円 → 500万円
「動く大型機械を作りたい」という思いから転職活動をスタート。マッチする求人がなく諦めかけていたところ、担当のキャリアアドバイザーに「なぜ大型機械を希望するのか?」と聞かれた丸山さん。転職理由の裏にある「公共性が強く社会貢献を感じられる仕事をしたい」という思いに気づきます。「公共性が強く社会貢献を感じられる」という転職理由に従って選択肢を広げたところ、プラント機器メーカーという選択肢を提案されました。意外な提案に驚くも、様々な要素が自分にマッチしていると感じて応募したところ、中小規模のプラント機器メーカーで内定が出ました。現在は会社の成長の波に乗り、自身もエンジニアとして成長中です。
30代の転職成功のポイント
30代前半は、一定のビジネス経験を評価されつつも、未経験の業界・職種へのチャレンジも可能な年代です。「チャレンジ意欲」や「未経験分野にも活かせるポータブルスキル」をアピールすることで、転職の成功率は高まるでしょう。
30代後半になると、より深い専門知識や豊富な経験・スキルが求められるようになります。また、マネジメント経験が評価のポイントになるので、リーダー・マネジャー経験やメンバーの指導・育成経験がある場合は、必ず伝えましょう。なお、30代は結婚や育児、家族の都合による勤務地の変更など、ライフステージにおいて様々な変化が生じる世代でもあります。家族やパートナーには必ず事前に相談をしておくことが転職成功の秘訣です。
30代の転職成功例
転職事例:渡辺さん(32歳)
ゼネコンの施工管理 → 総合不動産会社の総合職
年収 : 650万円 → 800万円
施工管理の仕事自体には満足していたものの勤務時間が長く、3年前に結婚し子どもができたことでワークライフバランスを意識するようになった渡辺さん。建物を発注する側であれば経験を活かすことができて労働時間も改善できると考え、転職活動を開始。発注側の総合不動産企業は人気が高く、転職活動は難航して9カ月かかりましたが、ようやく優良企業から内定が出て、転職を実現。自己PR力を磨いたことで、転職成功を掴みました。
40代の転職成功のポイント
より経験・スキルが重視され、マネジメント力や専門性などが求められるようになるのが40代の特徴です。一方で、経験が豊富なだけに、強みが絞りにくくなる傾向もあります。転職市場や応募企業の研究を徹底して、採用のミスマッチをできるだけ防ぐようにしましょう。また、40代にマッチする求人は多くはなく、あるとしてもピンポイントの人材要件になります。40代で転職する場合は、腰を据えてじっくりと転職活動に取り組み、なかなか決まらなかったとしても前向きで柔軟な姿勢を意識して継続することが重要です。
40代にマッチする求人の絶対数が少ないので、転職サイトや転職エージェントだけでなく、SNSや人脈なども活かして、できるだけ幅広くアプローチすることが転職成功への近道です。
40代の転職成功例
転職事例:西さん(42歳)
外資系医療機器営業(管理職) → 総合化学メーカー医療部門営業(管理職)
年収 : 750万円 → 1,000万円
外資系企業で本社の意向が強く、経営面での方向性に疑問を感じ、42歳で転職を決意。転職エージェントのキャリアアドバイザーからは「求人は少ないが、ニーズを探っていきましょう」と言われ、転職活動をスタート。1カ月ほどした頃、希望に近い求人が出たため調べたところ、募集の背景や働き方などが自分に合うと感じ応募することに。転職活動を続けるうちに、普通のことだと思っていたこれまでの仕事のスタイルが、アピールによって強みになることが分かり、面接対策を一生懸命行って本番へ。面接の感触が非常によく、内定はほぼ即決。年収も大幅にアップし、転職成功できた醍醐味を大いに味わっているそうです。
転職に失敗した人の例
転職が成功する方がいる一方で、「失敗した」と感じている方もいるようです。転職に失敗してしまった事例を、複数のケースに分けてご紹介します。
社風だけで入社を決意し、仕事内容に不満を抱いたケース
転職事例:宮本さん(27歳)
金融機関 営業 → IT企業 総合職
年収 : 520万円 → 510万円
新卒で入社した金融機関では、縦割りの組織風土が合わず3年で退職を決意。30社ほどに応募し、書類選考は通過するも、自分の軸がないため面接では立て続けに不採用に。そんな中、理想的な社風のIT企業から内定が出て、即入社を決意した宮本さん。
しかし、いざ入社してみると、確かに社風は合っているものの肝心の仕事内容が自分の性格に合わず、半年以上経っても仕事が上達せずに転職活動を再開する羽目に…。
志望動機の弱さを見破られ、面接に失敗したケース
転職事例:大島さん(30歳)
中規模CRO モニター → 現職に残留
年収 : 500万円 → 500万円
CROからキャリアアップしようと、製薬メーカーに応募。しかし、面接対策が不十分で説得力のある志望動機や入社意欲を伝えることができず、不採用が続いた大島さん。転職活動の途中で「憧れ」で製薬メーカーに応募していた自分を見抜かれていると気づき、転職を断念しました。
今はまだ、CRO業界で臨床開発のプロとして知識を蓄える必要があると痛感し、仕事の幅や質を高める方法を探して奮闘しています。
憧れの職種への転職に固執し、大失敗したケース
転職事例:平野さん(36歳)
金融系システムインテグレーターの営業 → 大手コンサルティングファームのITコンサルティング
年収 : 700万円 → 900万円
新卒から一貫してIT業界の営業に従事。長年営業活動をしていたため、技術的な知識も身につき、顧客への提案や回答にも自信があった平野さん。IT業界では上流の仕事であるITコンサルタントにチャレンジしたいと考え始めて、紹介会社を通じて転職を決意します。
しかし、入社した企業はコンサルティングよりもコーディネーターのような仕事内容。事前にもっと情報収集をしておくべきだったと深く後悔しました。1年で転職活動を再開するも、キャリアアドバイザーのアドバイスでITコンサルタントよりもITベンダーの営業に向いていると気づき、精力的に転職活動を継続中。
理想の転職を実現したはずが、不満を抱く結果になったケース
転職事例:藤井さん(29歳)
金融機関 営業 → 法律事務所 事務
年収 :800万円 → 300万円
金融機関の営業から、結婚を機に法律事務所の事務に転職。年収は大幅に下がったものの定時に帰ることができたため、ワークライフバランスを実現することに成功した藤井さん。しかし、仕事を続けるうちに、顧客との関係性を維持しようとする社風が強く、前職で大切にしていた顧客満足の視点ややりがいが足りないことに気がつきました。転職エージェントのキャリアアドバイザーと希望条件を整理し、「やりがい」と「ワークライフバランス」をMUSTの希望条件にして、転職活動を再開しています。
迷ったら転職エージェントに相談を
転職活動は、転職相場や採用動向などを把握し、自身の希望条件の優先順位や方向性を明確にしてから始めると、転職成功の可能性が高まります。ただ、一人で転職活動していると、転職市場の動向が分からなかったり視野が狭まってしまったりして、選択肢が限られてしまうかもしれません。
転職エージェントのキャリアアドバイザーは、豊富な転職支援実績を持ち、具体的な転職ノウハウを熟知しています。キャリアアドバイザーに相談することで、希望条件にマッチした求人を紹介してもらうことができます。また、転職の方向性を明らかにしたり応募書類や面接対策のアドバイスを受けたりして、転職を有利に運ぶこともできます。転職で迷ったり不安を覚えたりしているのであれは、転職エージェントに相談してみましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。