在職中に転職活動を始める際には、「退職日」あるいは「退職希望日」の目標を設定するといいでしょう。また、転職先が決まっている場合と決まっていない場合で、退職日の検討方法が異なります。退職日を検討する要素、退職スケジュールの組み方、退職が決まってからやることについて、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
退職日はいつがいい? 決め方をポイント別に紹介
退職日をいつに設定するかを決めるとき、検討する要素は複数あります。次の項目を参考にしてください。
就業規則に則った期間で決める
企業は就業規則に「退職の申し出は退職希望日の○カ月前まで」と、退職申し出の期間を定めていることが一般的なため、就業規則を確認しましょう。なお、民法上では、退職希望日の2週間前までに申し出れば退職が可能です。
社会保険(健康保険・年金)で決める
会社員が加入する社会保険の内、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つの保険は、会社と従業員で半額ずつ負担しています。
退職した場合、自身で国民健康保険や国民年金への切り替え手続きを行い、次の会社に入社するまでの離職期間は個人で支払うことになります。
そのため、転職先の入社日が決まっている場合は、入社日の前日を退職日とすれば、個人で払う費用と手間を減らすことができます。
雇用保険の手当などで決める
雇用保険の基本手当(失業保険)には受給の要件が定められています。在職中で、離職してから雇用保険の基本手当(失業保険)を受給しながら転職活動をしようと考えている場合は、「被保険者期間」が、原則離職の日以前2年間に通算して12カ月以上あるかどうかを確認した上で退職日を決めましょう。
ただし、倒産・解雇などの理由で離職した場合、期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合、その他やむを得ない理由により離職した場合などは、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上あれば受給要件を満たします。
担当業務の状況や引き継ぎ期間で決める
業務量が増える時期、担当するプロジェクトの進捗状況などを踏まえ、適切な退職時期を決めるといいでしょう。
繁忙期に退職日を設定すると、引き継ぎに十分な時間を割くことができず、職場や取引先に迷惑をかけたり、退職日の延期を求められたりするかもしれません。円満に退職するためにも、周囲の人になるべく負荷をかけない退職日を設定するようにしましょう。
業務の引き続きに必要な日数をあらかじめ計算しておくことも大切です。後任者を他部署から異動させる、新規採用するとなった場合、時間がかかるでしょう。
営業やコンサルタントなどの職種は顧客への挨拶にかかる期間も想定しておく必要があります。担当業務を一覧にし、各業務の引き継ぎ期間を考慮して退職日を設定しましょう。
有給休暇の残り日数で決める
有給休暇は、採用された日から原則6カ月後に10日分が付与され、それから1年ごとに勤続年数に応じた日数が付与されます。残っている有給休暇を取得する場合は、その日数も考慮して退職日を決めましょう。
なお、有給休暇の発生日が迫っている場合は、付与後に退職日を設定し、できるだけ有給休暇を取得して辞めるという方法もあります。
賞与(ボーナス)の支給時期に合わせて決める
7月・12月頃のボーナス支給時期に退職を検討している場合は、賞与の支給日を確認し、ボーナスが支給されてから退職するという方法もあります。就業規則や賃金規定などで賞与の支給日や査定基準などを確認しておきましょう。
退職金の取得条件に合わせて決める
退職金は、一般的に勤続年数などの条件に基づいて定められています。例えば「3年以上の勤務が退職金支給条件だったが、2年11カ月で退職してしまった」といったことも起こり得ます。就業規則や退職金規定などを確認し、退職金の支給条件や計算方法を把握しておきましょう。
転職先の入社日に合わせて決める
先述のとおり、会社員が加入する社会保険の内、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つの保険は、会社と従業員で半額ずつ負担しています。
転職先への入社日の前日を退職日に設定することで、個人で払う費用と手間を減らすことができるでしょう。
退職日の決め方は、転職先の決定/未決定で異なる
ここからは、「転職先が決まっているか決まっていないか」という観点から、退職日の設定についてご説明します。
転職先が決まっている場合
転職先への入社日が決まっている場合、社会保険を考慮して退職日を検討しましょう。パターンごとにお伝えします。
入社日の前日に退職する
先述のとおり、すでに転職先が決まっている場合の退職日は、入社日の前日であることが望ましいでしょう。退職から入社まで離職期間があると、自身で国民保健や国民年金に切り替えの手続きをし、個人で支払う必要があります。
また、会社に在職中は、健康保険や厚生年金保険、介護保険の費用は会社が半額を負担しているので、金銭面でも負担が軽減されるでしょう。
なお、厚生年金保険料は月で計算されるため、日割りはできません。月末に退職した場合は、退職月の保険料が給与から引かれますが、月末日以外に退職すると、退職月の保険料は引かれません。
ただし、実際は退職月も何らかの社会保険に加入している必要があるため、自身で国民年金や国民健康保険への加入手続きが必要となります。
また、国民年金や国民健康保険料は、会社が半額を負担するわけではありません。結果的に負担が大きくなる可能性の方が高いので、社会保険料を考慮して退職日を月末日の前日などにコントロールするのは避けましょう。
入社日の前日以外に退職する
上記でも述べた通り、社会保険料の手続き・支払いの面では、入社日の前日を退職日とすることが望ましいといえるかもしれません。しかし、「入社前にリフレッシュする期間をとりたい」「家族の事情を優先したい」といったケースもあるでしょう。
必ずしも「入社日前日の退職」にとらわれず、大切にしたいことを第一に考えるという方法もあります。
年末調整のタイミング
年末に退職を検討しているのであれば、年末調整のタイミングも考慮しておきましょう。11月~12月の年末調整前に退職して、年内に年末調整が行われなかった場合は、自身で確定申告が必要になります。
転職先が決まっていない場合
転職先が決まっていない場合は、次の会社への「入社日」という縛りがない分、退職日を自身で設定することができます。冒頭でご紹介した「退職日を検討する要素」を踏まえ、自身の都合に合わせて設定してください。
退職が決まったらやること
退職日が決まった後、退職までにやることをご紹介します。書類の提出や手続きが必要となるケースもあるため、前もって準備しておくといいでしょう。
退職届の提出
まずは退職の意思を伝える「退職願」を提出するのが一般的です。それが受理された後、期日までに「退職届」を提出します。退職届の様式は企業によって異なるため、人事担当者に確認しましょう。
備品や書類の返却
現職企業に返却するものの一例として、以下が挙げられます。
- 健康保険被保険者証(2024年12月2日から新規発行停止)
- 社員証・入館証
- 名刺
- 業務で使用した書類・資料・データなど
- パソコン・携帯電話・タブレットなど
特に、業務に使用した書類・資料・データなどは、後任者がすぐに活用できるよう、わかりやすく整理しておきましょう。
必要書類を受け取る
現職企業から受け取るものとして、以下が挙げられます。
- 離職票
- 源泉徴収票
- 雇用保険被保険者証(預けている場合)
- 年金手帳(預けている場合)
- 退職証明書(必要に応じて)
入社手続き(転職先が決まっている場合)
転職先が決まっている場合は、主に2種類の手続きが発生します。「公的な手続き」と「転職先企業から求められる手続き」です。個人の状況や企業によっても異なりますが、次のようなものが挙げられます。
公的な手続きに必要な書類
- マイナンバー(個人番号)が確認できるもの(マイナンバーカードの写しで代用可能)
- 健康保険被扶養者(異動)届(被扶養者がいる場合)
- 雇用保険被保険者証(被保険者番号がわかるだけでもいい場合がある)
- 年金手帳(提示を求められた場合)
- 源泉徴収票(その年に前職から収入があった場合、年末調整までに提出する)
- 扶養控除等(異動)申告書
- 給与振込先届出書
- 健康診断書(会社から必要と求められたとき、入社後に雇入れ時の健康診断を実施するときもあります)
転職先の企業から提出を求められる書類(企業ごとに異なる)
- 退職証明書
- 入社承諾書・入社誓約書
- 身元保証書
- 免許や資格の証明書
- 住民税の異動届(住民税の特別徴収を継続したい場合)
- 卒業証明書
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。