転職活動にあたって履歴書を書く時に、応募先の企業を「貴社」「御社」のどちらで呼べばいいのか迷うことはありませんか? また、自分の会社の呼び方や、郵便やメールの宛名に付ける敬称も、相手に失礼のないよう間違えないようにしたいものです。転職活動で企業を表す言葉や、敬称の使い分け方について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に伺いました。
目次
履歴書では「貴社」と書くのが正解
書く時は「貴社」、話す時は「御社」
「貴社(きしゃ)」と「御社(おんしゃ)」はいずれも、相手の企業を表す敬語です。両者の違いは「貴社」が書き言葉、「御社」が話し言葉であることです。
つまり、履歴書やメールなどの文面で相手の企業を指す場合は「貴社」、面接などで相手の企業の人と話す場合は「御社」を使います。この言葉の使い分けは、転職活動の時だけでなく、あらゆるビジネスシーンに共通なのでぜひ覚えておきましょう。
「貴社」の使い方例
「貴社」の使い方について、履歴書とメールの例文を交えてご紹介します。
【履歴書などの応募書類で】
・(志望動機)貴社は常に業界をリードするプロダクトを開発しており、その先見性に強く惹かれております。
・(志望動機)これまで培ってきた知識と営業経験を活かし、貴社のさらなる成長に貢献したく、志望いたしました。
・(本人希望記入欄)貴社の規定に従います。
【メールで】
・時下、貴社におかれましてはますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
・お話を伺い、貴社の技術力の高さや働きやすい環境について理解を深めることができ、貴社で仕事をしたいという想いがより一層強まりました。
・末筆ながら、貴社のますますのご発展をお祈りいたします。
「御社」の使い方例
面接などの場面で「御社」を使った時の例をご紹介します。
・(逆質問で)「御社の拡大計画の中で、特に伸長を期待されている分野はどこになりますでしょうか?」
・(志望動機で)「私は御社の、常に新たな価値を創造するという企業理念に深く共感しております」
「貴社」という表現を使わない場合もある
書き言葉には「貴」、話し言葉には「御」をつける決まりは同じですが、ある種の企業や機関、団体では「貴社」「御社」ではない表現を使うことがあります。
下にいくつか具体例をご紹介します。こちらも転職活動の時だけでなく、社会人に必要なビジネスマナーとして覚えておくと良いでしょう。
「貴社」以外の表現をする場合 ※( )内は話し言葉
【銀行】………………貴行(御行)
【信用金庫】…………貴庫・貴金庫(御庫・御金庫)
【学校、学校法人】…貴校(御校)
【病院】………………貴院(御院)
【財団法人など】……貴法人(御法人)
【協会】………………貴協会(御協会)
【機構】………………貴機構(御機構)
【省庁】………………貴省・貴庁(御省、御庁)※実際には「○○省」「○○庁」と具体名をそのまま使用することも多い。
転職活動での「自分の会社」の呼び方
転職活動においては「相手の会社」の呼び方と同様に、「自分が在籍している会社」や「元在籍していた会社」についてはどう呼べばいいのか、迷う方もいるのではないでしょうか。
転職活動では「現職」「前職」が一般的
通常のビジネスシーンでは、自分の会社を「弊社」や「当社」と呼ぶのが一般的です。しかし転職活動では、自分が在籍する会社を指す場合は「現職」「現在の勤め先」、すでに退職している場合は「前職」「前の勤め先」という表現をするのがふさわしいでしょう。
なぜなら「弊社」や「当社」という言い回しには「自分が会社を代表して相手に接している」という意味があるからです。しかし、転職活動で履歴書を書いたり、面接を受けたりするのは、会社の代表としてではなく個人として行っていることなので、それには当たりません。
通常のビジネスでの「弊社」「当社」の使い分けは?
ちなみに「弊社」とは、自社をへりくだって表現することにより、相手を持ち上げる言葉。一方「当社」とは、自社を丁寧に表現する言葉です。これらは次のように使い分けるのが一般的です。
・「弊社」(謙譲語)…社外の人との会話や、商談の時に使う。
・「当社」(丁寧語)…社内の人と話す時のほか、不特定多数を対象とするホームページなどでも使われることがある。
ただ、このルールはそれほど厳密ではなく、取引先に対して「当社」を使う場合もあります。実際には、相手との関係性や会話の内容によって適切な表現を選択すると良いでしょう。
郵便やメールの「御中」「様」の使い分けは?
履歴書などの応募書類を郵送する場合や、メールで相手の企業に連絡を取る場合には、宛名の後に「御中」や「様」と書き添えます。これらの敬称の使い分け方も、マナーとして確認しておきましょう。
「御中」は「組織の中の誰か」に付ける敬称
「御中」とは、郵便物やメールにおいて、企業名や団体名、部署名などの組織名の後に付ける敬称です。応募先に企業名や、部署名のみが指定されている場合は、「御中」を使用すると良いでしょう。
【記載例】
〇〇株式会社 御中
〇〇株式会社 ▲▲部 御中
「御中」は「名前が分からないが、企業や部署に所属するどなたか宛て」という意味で使われます。「ご担当者様」の代わりのようなものと考えると分かりやすいでしょう。従って、企業や部署名の後に個人名を付ける場合は、「御中」は使用しないので注意しましょう。
【誤】
× ○○株式会社 御中 ○○○○様
担当者の名前が分かっているときは「様」
個人名宛てに送る場合は、「御中」ではなく、「○○〇〇様」と敬称を付けます。募集要項で個人名が指定されておらず、「採用担当」となっている場合は、「採用担当者様」とすれば良いでしょう。
【記載例】
〇〇株式会社 ▲▲部 ○○○○様
〇〇株式会社 ▲▲部 採用担当者様
ただ「採用担当」を個人ではなく組織として捉えた場合は、「採用担当御中」という書き方でも間違いではありません。
【記載例】
〇〇株式会社 ▲▲部 採用担当御中
敬称の使い方を間違えてしまったときの対処法
もしも履歴書や面接で「貴社」「御社」などの敬称の使い方を間違えた場合は、どうすれば良いでしょうか。
書類を提出した後で間違いに気づいた時などは、面接で謝罪して訂正しておけばより丁寧でしょう。ただ、結論を言うと、多くの採用担当者は経験・スキルを始めとする応募書類の中身や、面接での発言を重視するので、そうした小さな間違いが選考に大きく影響することはほとんどないと考えられます。
とはいえ「一般常識やマナーに欠ける」と判断されるケースもないとは言えません。特に堅い社風の企業や団体などに対しては、「貴社」「貴行」「貴法人」といった正しい敬称を使うように心掛ける必要があるでしょう。
なお、転職エージェントを利用すれば、履歴書・職務経歴書の書き方から正しい言葉の使い方に至るまで、さまざまなアドバイスや添削を受けることができます。転職の応募書類の書き方に自信がないという方は、相談してみてはいかがでしょうか。
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組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。