50代で転職活動に臨む際、「今から転職を目指しても厳しいのではないか」などの不安を抱えるケースは少なくないでしょう。50代の転職市場の状況、転職エージェントの活用法、転職実現のポイントについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。50代の転職事例もご紹介します。
50代の転職は厳しい?
総務省の統計によると、2013~2023年の10年間で45~54歳の転職者は40万人から57万人に、55~64歳の転職者は41万人から50万人に増加しています(※1)。また、全体の転職者数と比較して、40代・50代の転職者数のほうが伸びている傾向も見られます(※2)。
(※1)出典:労働力調査(詳細集計)2023年(令和5年)平均結果(総務省統計局)
- 『リクルートエージェント』における転職者数の推移
「人生100年時代」と言われる今、50代を「今後も長く活躍できる人材」と捉え、豊富な経験・スキルに期待する企業は増えていると言えるでしょう。それに伴い、転職のチャンスも広がっていくでしょう。
とはいえ、一般的に50代の転職は、40代以下の転職と比較し、難易度が高くなる傾向があります。その背景としては、求められる経験・スキルの基準が高いことや、年収条件が合わないことなどが考えられます。
転職先の選択肢の幅を広げることなく転職活動を続けていると、「なかなか転職先が決まらない」という状況に陥るケースもあります。
しかし、転職先に求める希望条件を整理したり、自身が積み重ねてきた経験・スキルを求めている企業に応募したりした場合などは、比較的早期に内定を得られるケースもあります。
50代の転職は転職エージェントの活用も一案
50代の方が転職活動を行う場合、転職エージェントを活用することで実現の可能性が高まるかもしれません。その理由をご紹介します。
業界・職種の経験・スキルが活かせる求人の紹介
転職活動では、企業の採用要件がどのような経験・スキルを求めているかということがポイントであるため、応募する求人選びが重要でしょう。
転職エージェントでは、企業の募集背景や期待する役割、求める人物像の詳細などを把握していることもあるため、その情報をうまく活用することで、自身の経験・スキルにマッチした求人を選びやすくなるでしょう。
マネジメントスキルや専門性の高いスキルが活かせる求人の紹介
転職エージェントは、「マネジャー」「高度なスペシャリスト」などの「非公開求人」を取り扱っていることもあります。マネジメントスキルや専門性が高いスキルを活かしたい方は、転職サイトなどの公開情報では見つからない求人の紹介を受けられる可能性があります。
新たな領域で経験・スキルが活かせる求人の紹介
これまでの経験・スキルを異業種の企業で活かす転職事例もあるため、転職エージェントと対話することで、思いがけない業種や企業で活躍できる可能性を発見できるかもしれません。
「強みが伝わる応募書類」の作成をサポート
50代の方は職務経歴が豊富であると考えられるため、職務経歴書を作成する際、これまでの経歴を時系列で羅列した結果、かえって強みが伝わりにくくなる可能性があります。転職エージェントでは、これまでの経歴から強みを抽出し、その強みが伝わる職務経歴書の作成をサポートしてくれます。
面接対策をサポート
採用担当者によっては、50代の応募者に対し、次のような懸念を抱くこともあるようです。
「自社の組織風土になじめるだろうか」
「自分のやり方に固執し、柔軟性がないのではないか」
「自分より若い上司に抵抗感を抱くのではないか」
こうした懸念を払しょくするためにも、面接でどのような受け答えやアピールをすればよいかなど、面接対策のサポートを受けられるでしょう。
50代の転職を実現に導くポイント
50代で転職を実現するために、以下のポイントを意識してみてください。
1.キャリアの棚卸しで経験・スキルを分解する
50代で複数の部署や職務を経験している方の中には「自分の何が本当の強みなのか」を意識しづらくなっている方もいるでしょう。
まずは「これまで自分が何をやってきたのか」を洗い出し、キャリアの棚卸しを行いましょう。持っている経験・スキルを分解して整理していくことで、自分ならではの強みや得意分野を再確認し、企業や仕事を選ぶ際に何を大切にしたいのかという「転職活動の軸」を定めることが第一歩です。
2.企業が求めるものを理解してアピールする
先述のように転職活動では、企業側の採用条件や企業風土とのマッチングが求められるため、採用する企業にとっては、応募者の過去の実績よりも「今ここにある課題を解決できるか」「経営陣や社員と価値観を共有できるか」という点が重要と考えられます。
従って転職を実現させるためには、まず自分の転職の軸に合致し、かつ、強みを発揮できる企業を選定するのも一案です。そして、企業の求める条件をよく理解した上で、志望動機や自己PRにつなげることが大切と言えるでしょう。
3.年収やポジションにこだわらないことも一案
50代はキャリアが長いことから給与水準も高いことがあり、現職と同レベルの年収を求めると、転職の難易度が上がることもあるかもしれません。
また、現職と同等以上のポジションを求める方もいますが、等級・役職などの人事制度や、与えられる裁量権は組織によって千差万別であり、現職(前職)の肩書きと単純比較できない場合もあるでしょう。
それよりも自分が経験したいことや、経験・スキルとのマッチングを重視して企業を選ぶほうが、転職満足度は高くなることが多いかもしれません。結果として一時的に収入や肩書きがダウンしても、入社後に活躍して評価されれば今後の可能性は広がるでしょう。
4.希望条件に優先順位を付ける
上記で触れた「年収」「ポジション」のほかにも、さまざまな希望条件があるかもしれません。それらの条件に優先順位を付け「譲れない条件」と「あれば尚可条件」に分けてみましょう。その条件をベースに求人を探すと、選択肢が広がり、納得のいく転職につながる可能性があります。
5.幅広く応募し、時間をかけて転職活動することも検討する
50代の転職では、業界や職種、企業規模を絞りすぎず、さまざまな企業を幅広く見ていくことをお勧めします。新規事業として異分野に乗り出すために人材を幅広い領域から採用する企業もあります。
ベテラン層が思いがけない業界・職種への転職を実現する事例もあります。自分の経験が活かせる異業界・異職種まで視野に入れることで、選択肢が増え、転職可能性も広がるでしょう。また、求人が出るタイミングによっては長期戦となることも考えられるので、諦めずに粘り強く取り組む心構えも必要かもしれません。
6.人脈を活用する
複数の情報源を活用することも転職実現のポイントです。各方面に幅広い人脈を持っている方もいるでしょうから、自分の人脈を前向きに活用し、信頼できる人に「転職を考えている」と声をかけたり、興味のある企業で働く知人に紹介を頼んだりすることもひとつの方法です。
いわゆる「リファラル採用」では、自身の仕事ぶりや人物タイプなどを把握する紹介者が企業とのマッチングをしてくれるため、選考がスムーズに進むかもしれません。また、紹介者を通して仕事の内容や職場環境、人事制度なども確認できるので、ミスマッチを防ぐことにつながるでしょう。
50代で未経験の業種・職種に転職する方法・ポイント
50代の方が未経験の業種・職種への転職を目指す場合、次の観点で求人を選ぶ方法もあります。
- 自身の専門知識・スキルを活かせる分野の事業へ進出しようとしている異業種企業に目を向ける
- 自身がマネジメントしてきた組織形態に近い企業でマネジメント経験を活かす
- 組織変革などのプロジェクト推進経験を活かす
- 「ポータブルスキル(業種・職種問わず持ち運びできるスキル)」を活かせる求人を選択肢に入れる
例えば、製薬会社で営業所長を務めていた方(50代前半)が、マネジメント経験と人材育成の実績を評価され、人材企業に営業部長として迎えられた事例があります。また、ある方(50代前半)は法人営業・審査部長の経験を活かし、エンターテインメント企業の経理部長に転職を果たしました。
50代で転職を実現した事例を紹介
50代で転職を実現した事例をご紹介します。転職活動を進める際のヒントになさってください。
【事例1】同業界への転職で年収アップ
求人票に提示されている年収額が希望額を下回っていても、経験が活かせて興味を持てた企業には積極的に応募をしました。
選考で経験・スキルが高く評価され、求人票に記載の年収額を上回る額のオファーで内定を獲得し、当初の希望どおりの転職を果たしました。応募企業選定の段階で選択肢を狭めすぎなかったことが転職実現につながったと言えるでしょう。
【事例2】職種経験を活かし、異業種へ転職
食品から印刷と、業種は大きく異なるものの、生産管理の基本的な枠組みの知見とマネジメント経験が活かせると評価されました。謙虚な姿勢は「既存社員ともなじめそう」と安心感を持たれました。
採用に至るまでは、複数の応募企業の書類選考で不採用が続きましたが、長期的視点で粘り強く求人探し・応募を続けたことで転職を実現しました。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2023年06月30日
記事更新日:2024年12月09日 リクルートエージェント編集部