「大学を中退しているが、転職活動で不利になるのだろうか」。そんな不安を抱いている皆さんに、面接での中退理由の伝え方、企業が重視している選考ポイントについて、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。
面接で中退理由を聞かれたら?理由別の回答例とポイント
「大学中退」の経歴を気にするかどうかは、企業によって異なります。特に中途採用においては、学歴よりも「自社で活躍できるかどうか」を重視します。経験・スキル・入社後の目標などの質疑応答に時間をかけますので、「中退理由」について深く突っ込まれることはあまりないと言えるでしょう。
とはいえ、中退理由から、応募者の価値観や志向を探ろうとする面接担当者もいます。中退理由を聞かれた場合に焦らないように、事前に準備しておきましょう。
中退理由については、事実をありのままに伝えて納得を得られるケースとそうでないケースがあります。後者の場合は伝え方に工夫が必要です。また、いずれの場合も、「中退後にどのように過ごし、何を学んだか」について前向きな姿勢・経験をセットで伝えることをおすすめします。
ここからは中退理由別に、伝え方のポイントと伝え方の一例をご紹介します。
1.経済的な理由
「経済的な理由で大学に在籍し続けることができなくなった」は、納得を得られやすい理由です。家族の事情については、面接で質問をすることは就職差別にあたるため禁止されています。どの程度事情を話すのかは、応募者自身の判断となりますが、簡潔な説明で差し支えありません。
回答例
「父の勤めていた会社が業績不振で人員整理を行い、父は職を失いました。再就職の目途が立たず、学費の捻出が厳しくなったとのことで、やむを得ず中退しました。その後、家計を支えるために○○業界で営業の仕事を始め、この仕事にやりがいを感じるようになりました」
2.学業不振や単位不足
「学業に身が入らなかった」「単位を落としてしまった」などの理由は、ネガティブな印象を与えてしまいます。この場合、学業以外に熱中して取り組んだことがあれば、それを伝えることをおすすめします。「意欲に乏しく、努力をしない人物なのだろうか」と思われないように、「学業以外の方向性で意欲を燃やし、努力もしていた」ことを伝えましょう。
回答例
「アルバイトに熱中しすぎて単位を落としてしまいました。営業のアルバイトだったのですが、お客様とのコミュニケーションが楽しく、またアプローチ法を工夫することで成果が挙がることにやりがいを感じ、その会社ではアルバイトを経て正社員としても働いてきました」
3.病気やケガによる場合
「病気やケガの療養のため大学に通えなくなった」は、納得を得られやすい理由です。面接において、業務遂行とは関連性がない病歴や健康状態について質問をすることは、就職差別にあたるため禁止されています。
ただし、企業側としては「入社後、業務を遂行できるのだろうか」という懸念を抱きます。相手が安心感を持てる程度の情報は自分から開示し、業務遂行に支障がない旨を伝えるといいでしょう。
回答例
「○○を患い、長期入院を余儀なくされたため、退学しました。現在は完治していますので、御社での勤務に支障はありません」
4.起業・独立した場合
起業が目的だった場合、「中退」をネガティブに捉えられることは少ないと思われます。「なぜ、起業・独立を選んだのか」という理由を添えて伝えましょう。その後は自然と、起業後のビジネス経験に話題が移っていくはずです。
起業理由に、応募先企業の理念・価値観と共通するものがあれば、それを伝えることをおすすめします。なお、このケースでは、「中退までして起業したのに、なぜ企業に就職しようと考えたのか」も問われますので、その質問に対する回答も準備しておきましょう。
回答例
「経済学部に在籍していましたが、アプリ開発に興味を持ちました。独学で言語を学んで○○アプリを開発したところ、好評を得たので仲間と起業しました。学業の合間にやるのではなく、集中して本気で取り組まなければ環境変化のスピードについていけないと感じ、退学を決意しました。御社を志望した理由は、自分が解決したい社会的な課題があり、御社に入社して取り組んだ方が実現の可能性が高いと考えたからです」
5.海外留学、他の教育機関への編入
海外留学や他の教育機関への編入は、中退理由として納得を得やすく、ネガティブな印象を与えることもないでしょう。留学・編入に踏み切った動機や目的も伝えてください。
回答例
「将来はグローバルな仕事をしたいと考えていました。大学のOBの方と話したとき、語学力を磨く以上に、文化や価値観が異なる環境で、多様な人々とのコミュニケーションを経験することが重要と気付き、留学を決めました」
6.人間関係が原因
「クラスになじめなかった」「孤立して居づらくなった」といった理由は、ネガティブな印象を与える可能性があります。この場合、人間関係は単なるきっかけとして伝えるにとどめ、他に注力した活動を強調して話してはいかがでしょうか。その中で対人コミュニケーションができていれば、人間関係に関する不安は払しょくできるでしょう。
回答例
「正直を申しますと、クラスの雰囲気になじめず、あまり大学に行かなくなってしまいました。その分、○○のアルバイトに力を入れました。チームワークやお客様とのコミュニケーションにやりがいを感じ、中退してそのまま就職しました」
7.妊娠・結婚した場合
男性であれば「パートナーと家庭を築くにあたり、経済的自立を目指して退学・就職」、女性であれば「出産・育児のために退学」といった事情かと思います。これらは事実として、そのまま伝えましょう。企業が注目するのは「ビジネスパーソンとしてどのような経験を積み、成長してきたか」ですので、そのアピールへ話題を展開していってください。
回答例1
「交際していた女性が妊娠し、結婚を決意しました。経済的に自立するため、退学して就職しました。家族を守るために、努力次第で収入を上げられる営業職を選び、これまで一貫して営業の経験を積んできました」
回答例2
「妊娠を機に結婚し、出産・育児のために退学しました。育児期間中、○○の資格を取得し、子どもから手が離れてからは○○職として経験を積みました」
面接で中退理由を伝える際の注意点
ここまでお伝えしたとおり、中退理由をストレートに伝えた場合、納得を得やすいケースとネガティブな印象を与えるケースがあります。ネガティブな印象を与えることが想定される場合、中退理由を述べるだけで終わらないようにしましょう。
学業を重視しなかった分、どのような活動に力をいれていたのか、そこでどのような経験を積み、どのようなスキルを身に付けたのかをセットで語れるように準備しておきましょう。
大学中退は転職で不利になる?
そもそも「大学中退」は、中途採用選考で不利になるのでしょうか?
個々の状況によるため一概には言えませんが、企業の考え方や方針によっては、同等のスキルレベルの応募者が多数いる場合、減点の要素となる可能性もあります。
とはいえ、中途採用においては、基本的に「業務遂行スキル」「入社後の活躍の可能性」「社風との相性」などが重視されています。
厚生労働省が発表した「平成30年 若年者雇用実態調査の概況」においても、企業に対する「若手正社員の採用選考にあたり重視した点」の調査において、10項目中「学歴・経歴」は8位と下位。もっとも重視される上位3つは、「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」「コミュニケーション能力」「マナー・社会常識」でした。
経験・スキルや仕事への取り組み姿勢をしっかりアピールすれば、それほど不利にはならないと言えるでしょう。
出典元:「平成30年若年者雇用実態調査の概況」(厚生労働省)
経験・スキルを棚卸しすることで、強みを言語化しておく
企業が注目しているのは中退の過去ではなく、その後にどのように過ごし、どのような経験を積んだのか、入社後どう活躍してくれそうかという点です。
中退の言い訳をあれこれ考えて悩むよりも、自身の経験・スキルをしっかりと棚卸しして「強み」を整理・言語化しておくこと、応募先企業の研究をして求めている人材像をつかみ、適切なアピールを考えることに時間を使うことをおすすめします。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。