
「転職3ヶ月の壁」という言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。転職して3ヶ月前後で、慣れない仕事にストレスを感じていたり、職場に馴染めずに孤独感を味わったりすることで、「仕事を辞めたい」と悩んでしまう人は少なくないようです。そこで、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏に、転職3ヶ月でストレスを感じる理由と対処法について解説いただきました。
目次
転職3ヶ月の壁とは?
「転職3ヶ月の壁」とは、転職してから3ヶ月前後が経つ時期に、悩みやストレスを抱えて「退職したい」と感じる現象を指します。転職は、これまでの職場環境や仕事内容、人間関係などを大きく変えるため、慣れないうちはストレスやプレッシャーを感じやすいものです。
転職3ヶ月前後は、仕事を習得することに必死になったり、慣れない職場環境や人間関係に馴染もうと努力してきたりしたことで、ストレスのピークを迎えやすい時期とも言えるでしょう。
仕事にストレスを感じる人は8割超
厚生労働省が行った「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関して、「強い不安、悩み、ストレスと感じる事項がある」と答えた人は正社員で86.1%という結果になっています。
主なものとして「仕事の失敗、責任の発生等」が42.9%と最も多く、ついで「仕事の量」が41.2%、「対人関係」が29.6%という結果になっています。正社員全体でもストレスを感じる人は8割を超えるため、慣れない環境下の転職3ヶ月の時期では、さらに不安や悩み、ストレスは強くなることが考えられます。
出典:「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」(厚生労働省)
転職3ヶ月でストレスを感じる理由と対処法
転職3ヶ月でストレスを感じ、退職したいと思う人によく見られる理由と対処法を紹介します。
「仕事についていけない」と感じている
転職先で新しい仕事を習得する過程の中で、覚える知識が多かったり、これまでと違う仕事の進め方だったりして、「仕事についていけない」と感じて自己肯定感が下がる人もいるようです。この場合、一つひとつの業務を習得するために、手一杯になってしまっている可能性があります。
また、入社3ヶ月という短期間では、仕事の本質や求められていることをすべて理解することは難しいものです。しかし、「以前の職場と同じように、スムーズに仕事を進めることができない」と感じて落ち込んでしまうケースもあるでしょう。
【対処法】仕事の全体像をつかむことを意識する
まずは、仕事の全体像や目的をつかむことが大事です。業務の意味や意義を理解していけば、「何のためにそれをするのか」「何を達成すれば良いのか」を理解しやすくなるでしょう。また、仕事で求められることについて上司や先輩社員などに聞いてみることで、全体像をつかみやすくなるかもしれません。
転職先の職場や人間関係に馴染めない
新しい職場や人間関係に馴染むことができず、「自分に問題があるのではないか?」と感じてしまうケースもあります。特に「コミュニケーションが苦手」だと感じている場合は、ストレスを感じやすいでしょう。
【対処法】「信頼関係を築くには時間がかかる」と考える
多くの場合、人間関係を構築するまでには一定の時間がかかるものです。急に距離を縮めようとするのではなく、焦らずに日々のコミュニケーションを重ねていくことが大事だと考えましょう。コミュニケーションが苦手な場合でも、毎日、挨拶したり、何らかの会話を重ねていったりすることで、相手との関係性を少しずつ構築していくことができるでしょう。
「仕事ができない自分」に自信喪失している
中途採用は、即戦力として採用されることが少なくないため、「すぐに仕事ができない自分や、ついていけないと感じていることに自信喪失してしまった」というケースもあります。
また、わからないことを質問したくても「こんなことを聞いたら、仕事ができないと思われるかもしれない」と思って聞けなくなってしまい、その結果、仕事内容をきちんと理解できないままにしてしまう人もいるようです。
【対処法】質問したほうがお互いのためになると考える
わからないことがあった場合は、遠慮せずに質問することが大事です。仕事を進める中でわからないことがあると、ストレスを感じやすくなってしまうため、質問したほうが早く仕事を覚えられるでしょう。自分だけでなく、相手や周囲のためになると考えると良いでしょう。周囲の先輩などが忙しく質問しにくい場合は、上司に相談することも一案です。
「前の会社のほうが良かった」と後悔している
新しい職場や仕事に対し、「前の会社のほうが自分に合っていた」と感じてしまうケースもあります。「以前の職場に戻りたい」と後悔するあまり、転職先の職場や仕事に対するストレスが増し、「もう限界」「しんどい」と感じてしまう人もいるでしょう。
【対処法】過去を振り返るより、現在のことに集中する
過去の職場や仕事を思い出しても、後悔するだけで仕事にも自分の精神面にもマイナスの影響を及ぼす可能性があります。過去を振り返るより、今やるべきことや、目の前の仕事や周囲の人々との関係性を構築することに集中したほうが、仕事の面白みや職場の良いところに気づけるようになるでしょう。
また、転職先の魅力について考えてみることもおすすめです。良い点を見つけてクローズアップすることで、「今の職場も実は悪くない」と思える可能性があります。
入社前のイメージとギャップがある
入社前に思い描いていた仕事内容、職場環境、労働環境などに対し、ギャップを感じて「辞めたい」と感じてしまうケースもあります。「こんなはずではなかった」と不満や後悔を抱えながら働くことで、ストレスが増してしまったり、職場に馴染めなくなったりしてしまう人もいるでしょう。
【対処法】ギャップがあって当然だと考える
仕事においては、自分がイメージしていた業務以外にも、さまざまな雑務をこなさなくてはならないことがあるものです。また、職場の雰囲気や社風がイメージしていたものと違ったり、繁忙期と閑散期の残業時間が大きく違っていたりすることで、ギャップを感じてしまうケースもあるでしょう。
あらかじめ、「ギャップがあって当然」「自分の想定していたことと違う状況もある」と考えておくことで、しんどさを軽減しやすくなるでしょう。
前の職場のような評価を得られないことが不満
前職では大きな実績を挙げて評価されていたため、新しい職場で同じように評価されないことに不満を感じるケースもあります。
また、仕事においては、過去の実績に応じて裁量権を任されたり、周囲の協力を仰ぎやすくなったりすることもあります。しかし、新しい職場ではゼロベースからのスタートになるため、自己肯定感が低くなったり、仕事の進めにくさを感じたりするケースもあるでしょう。
【対処法】小さな実績を積み重ねていく
新しい職場の上司や同僚には、前職で自分が挙げた実績まで知られていないこともあるでしょう。ゼロベースからのスタートであることを意識し、小さな実績を積み重ねて周囲の信頼を得ていくことも大事です。目の前の仕事にコツコツ取り組み続ければ、やがて信頼関係を築くことにつながったり、協力者を得られるようになったりするものだと考えてみましょう。
成果を出せないことに悩んでいる場合は、上司に評価されるポイントを聞いたり、評価されている先輩に意識していることを聞いたりして、参考にすることで、より成果を挙げやすくなるでしょう。
「頑張らなくてはいけない」と過剰にストレスを感じている
転職後、「早く仕事に慣れたい」「職場に馴染まなくては」と考え、「もっと頑張らなくてはいけない」と自分を追い詰めてしまうことで、過剰なストレスやプレッシャーを感じてしまうケースもあります。
【対処法】「頑張りすぎないことも大事」と考える
過度に頑張りすぎてしまうことで、体調を崩したり、精神的な限界を感じてしまったりする人もいるでしょう。こうした場合は、「頑張りすぎないことも大事」と考え、適度に休養し、リフレッシュすることも必要です。ストレスを溜めないようにメリハリをつけ、心身のバランスを取るように意識しましょう。
ストレスを解消するためにできること
「転職3ヶ月の壁」を感じて早期に離職した場合、次の転職先でも「転職3ヶ月の壁」が生じる可能性もあります。退職する前に、ストレスを解消するためにできることを試してみましょう。
リフレッシュする時間を作る
転職したばかりの頃は、慣れない職場や仕事内容で成果を出そうと気が張り詰めてしまうものです。自覚しているよりも緊張しているケースもあるため、「転職3ヶ月の壁」を感じたら、まずリフレッシュする時間を設けるようにしましょう。入社3ヶ月のタイミングでは、まだ有給休暇が発生していないことが多いため、休日や退社後に気分転換をする機会を作りましょう。心身ともにリフレッシュするために、仕事以外の時間は気持ちを切り替えて、仕事のことを考えず身体を休める時間を取るのも有効です。
社内に相談できる相手を作る
社内に相談できる相手を作ることも大切です。入社3ヶ月だとまだ信頼関係を構築できていない段階かもしれませんが、人事や上司、メンターや同僚など入社後の活躍を気にかけてくれている人もいるでしょう。社内に相談できる相手を作ることで、不安や悩みの突破口が開けることもあります。また、仕事がうまく進められない場合は、周囲のサポートを受けることができるかもしれません。悩みやストレスを抱えている場合は、思い切って周囲に相談してみるようにしましょう。
家族や友人に話を聞いてもらう
社内で相談相手を作るのが難しい場合は、家族や友人に話を聞いてもらうという方法もあります。不安やストレスなどのネガティブな感情を口にすると苦痛が緩和される現象を「カタルシス効果」と呼び、ストレス発散につながることもあります。たとえ家族や友人が職場や仕事内容を知らなかったとしても、悩みや不安を話すうちに思考が整理されて、自ら解決策が見つかることもあるでしょう。
転職エージェントに相談してみる
「転職3ヶ月で辞めても良いのかを自分では判断できない」「周囲に相談できそうな相手がいない」という場合は、転職エージェントなど、第三者に相談してみることもひとつの方法です。転職支援のプロであるキャリアアドバイザーの面談を受けることで、自分の考えを整理しやすくなり、客観的な視点からのアドバイスをもらうことも可能です。経験・スキルや希望にマッチする求人を紹介してもらえるため、今の会社と比較することで、本当に退職するべきなのかを判断しやすくなるでしょう。
なお、転職エージェントを活用したからと言って、必ずしも転職しなくてはならないわけではありません。現職の企業で働きながら、興味を持った企業の選考を受けてみる方法もあります。自分にマッチする企業が見つかる可能性もあれば、他社と比較することで「現職のほうが自分に合っている」と感じて納得できるケースもあるでしょう。
転職3ヶ月で辞めても良い?次の転職に影響する?
「転職3ヶ月で辞めると、職場に迷惑をかけてしまうことになるのでは?」「次の転職に不利になるのでは?」などと考え、迷いや不安を感じる人も少なくないようです。転職3ヶ月での離職についての2つのポイントを解説します。
辞めるかどうかをしっかり検討し、納得できる決断をすることが大事
明らかに労働環境が悪い場合や、心身に不調が起きている場合、自分が目指すキャリアの方向性と違っている場合などは、早く辞めたほうが良い可能性もあります。「職場に迷惑をかけてしまう」と考え、労働環境が悪いことに耐えたり、今後のキャリア構築において遠回りになる道を選んだりすることで、時間が経ってから後悔するケースもあります。転職3ヶ月という早期のタイミングであっても、辞めるかどうかをしっかりと検討し、自分自身で納得できる決断をすることが大事だと考えましょう。
次の転職に影響するかどうかはケースバイケース
転職3ヶ月で退職したことが次の転職に不利になるかどうかは、ケースバイケースと言えます。3ヶ月で辞めている場合は、企業から「採用してもまた早期離職するかもしれない」という懸念を抱かれる可能性があります。
しかし、応募書類や面接などで、退職理由や再度転職する理由、今後目指したいキャリアにおいて一貫性がある回答をすることで、企業の懸念も払拭しやすくなるでしょう。また、入社後の定着性をアピールするために、中長期的なキャリアビジョンを伝えることも大事です。説得力を持って回答できるようにするためにも、しっかりと自分の考えを整理しておきましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
記事更新日:2024年07月29日
記事更新日:2025年04月14日