転職活動をしていると、「額面給与」について聞かれることがあります。さて、額面給与とはどのような意味なのでしょうか。額面給与と手取りの違い、応募企業から年収を聞かれた場合の答え方などを、社会保険労務士の岡佳伸さん監修のもと、解説します。
額面給与とは?手取りとの違い
「額面給与」とは、基本給や交通費、住宅手当などの諸手当を含めた総支給額を指します。一方で、額面給与から、税金や社会保険などの各種控除、寮費や各種積立金などを差し引いた額が「手取り」と呼ばれています。そのため、企業から支給された給与は、額面給与ではなく手取りになります。
なお、給与明細で、「総支給額」などと記載されている金額が額面給与、「差引支給額」などと記載されている金額が手取り額になります。具体的な額面給与と手取り額が分からない場合は、給与明細を見てみましょう。
額面給与から控除されるお金の種類
額面給与から控除されるお金は、主に税金と社会保険です。税金と社会保険にも様々な種類があるので、それぞれの内訳を具体的に解説します。
税金(所得税・住民税)
額面給与から控除される所得税と住民税について解説します。
所得税
所得税は、給与から「源泉徴収」という形で給与から差し引かれます。給与から計算された所得税が毎月差し引かれますが、月々の所得税は各種控除を全て適用した税額ではありません。年末調整時に配偶者控除や保険料控除などの所得控除を適用し、正しい税額を算出しています。
住民税
一部の例外を除いて、基本的に会社員の住民税は給与から天引きされる「特別徴収」という方法で納入されています。5月に昨年の給与額から計算された特別徴収税額が通知されて、6月から翌年の5月までの住民税が給与から天引きされます。(2024年度は定額減税が実施されるため原則7月給与から天引きが開始されます)
社会保険料
社会保険は厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険の4種類があります。それぞれ解説します。
厚生年金
保険料は給与によって変わりますが、会社と加入者で半額ずつ負担しています。厚生年金には老齢年金や障害年金、遺族年金などが設けられています。年金制度は、一般的に階段に例えられています。1階が20歳以上の人が全員加入する国民年金(基礎年金)、2階が会社員などが加入する厚生年金保険と呼ばれますが、厚生年金にプラスして、企業によっては「3階」と呼ばれる厚生年金基金や確定拠出年金、確定給付企業年金などがあります。
健康保険
全国県区保険協会が運営する協会けんぽの他に、独自で健康保険組合を運営している企業もあります。健康保険組合によっては、独自の健康推進サービスを提供するケースもあります。保険料は給与によって変わりますが、原則として会社と加入者で半額ずつ負担しています。
介護保険
40歳以上になると、介護保険にも加入が義務付けられています。厚生年金や健康保険同様に、会社員の場合は会社と加入者で保険料を折半します。介護が必要になった場合に、段階に応じて介護サービスを受けることができます。
雇用保険
保険料は給与によって変わりますが、会社と加入者で半額ずつ負担しています。失業や育児、介護などによって働くことができなくなっても生活ができるように、雇用保険から失業給付金や育児休業給付金、介護休業給付金、教育訓練給付金などが支給されます。
人によって手取り額が異なるのはなぜ?
たとえ同じ企業に勤めて同じ基本給だったとしても、人によって手取り額は異なります。残業代や交通費、インセンティブなどの各種手当が支給されたり、扶養家族がいることで控除額が変わったりするからです。
なお、健康、介護保険の料率や各種福利厚生の本人負担額は企業によって異なるため、前職と同じ基本給の企業に転職したとしても、手取り額は変わってくるでしょう。
求人に記載されている給与は額面給与?
求人に記載されている給与額は、額面給与です。また、モデル年収(月給)に各種手当が織り込まれている求人もあります。そのため、求人に記載されている額面給与を見て入社し、実際に振り込まれた手取り額を見て「思っていたよりも少ない」と感じるケースもあるようです。
一般的に、手取り額は額面給与の80%前後が金額の目安です。例えば、年収が400万円で賞与がない場合は、単純計算すると(年収400万円×0.8)÷12=月額手取り26.6万円となります。賞与を含めて400万円の場合は、月額の手取りはさらに少なくなるので、あらかじめシミュレーションしておきましょう。
面接で給与を聞かれたら?
応募した企業から給与を聞かれた場合は、額面給与を答えます。手取り額ではないので注意が必要です。応募企業から給与や年収を聞かれるケースは多く、内定が出る前後で源泉徴収票を求められるケースもあります。そのため、転職活動を始める際は必ず昨年の源泉徴収票を確認し、正しい給与や年収を把握しておきましょう。
転職前に、給与の内訳を把握しておこう
額面給与には、様々な手当てが含まれています。特に気をつけたいのが残業代や住宅手当です。基本給は同程度の企業に転職したとしても、前職は残業が多く、転職後は残業が少なかった場合、想定していたよりも給与が少なく感じてしまうかもしれません。また、住宅手当や家族手当、役職手当なども、給与額に影響を与えます。転職前にしっかりと給与明細をチェックし、基本給以外にどのような手当てが含まれていたのか把握しておきましょう。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
記事更新日:2024年07月25日