商社への転職に興味がある皆さんに、商社の特徴・仕事内容・求められるスキル・転職市場動向・キャリアの展望などについて、リクルートエージェントのキャリアアドバイザーが解説いたします。
商社とは
商社とは、貿易・輸出入の仲介および国内での商品販売を行う業態の企業を指します。取り扱う商材によって、幅広い商品・サービスを扱う「総合商社」と、特定の分野に特化した「専門商社」に分けられます。
商社の仕組み
商社は、メーカーなどから商品を仕入れて顧客に販売し、売買差益を得る「卸売」の機能、売り手と買い手を結び付けて仲介手数料などを得る「トレーディング」機能を備えています。
総合商社ではもともとトレーディング型ビジネスを主軸としていましたが、1990年代以降、事業会社は中間業者である商社を介さず、直接取引を行うようになりました。
そこで、事業構造を「投資型」へ転換。有望な事業領域に投資し、情報・人材・経営ノウハウなどを提供して支援することで事業成長を促し、利益を挙げています。
総合商社と専門商社の違い
総合商社と専門商社の違いは、主に以下が挙げられます。
総合商社
総合商社が扱う分野は幅広く、石油・鉄鉱石などの資源事業、エネルギー・鉄道といったインフラ関連の輸出などグローバルなビジネスを手がける一方、国内コンビニエンスストアに出資するなど日常生活に密着したビジネスも展開しています。
商社によって、どの領域に強みを持つかが異なります。資源事業に力を入れる商社もあれば、非資源分野(食料・ヘルスケア・小売・ITなど)の開拓を強化している商社もあります。事業会社に出資し、材料調達・生産・販売までのサプライチェーンを構築することで、収益の最大化を図っています。
専門商社
専門商社は特定分野に特化した商品・サービスを扱います。機械・電子部品・IT・食品・消費財・医薬品・アパレルなど、あらゆる分野に商社が存在します。
一部の専門商社では、マーケットニーズを理解している強みを活かし、メーカーの商品開発の支援も手がけています。また、資金力を持つ大手専門商社には、自社でECサイトを構築し、販路拡大を図る動きも見られます。
商社の仕事内容
商社にはさまざまな仕事がありますが、ここでは「営業」「事業企画」「営業事務・貿易事務」にフォーカスして仕事内容をご紹介します。
営業
メーカーの営業が自社商品を顧客に売り込むのに対し、商社の営業は顧客の課題・ニーズをヒアリングしながら、最適なメーカーの商品を選んで提案します。商品を提供するメーカー側からは、自社だけではアプローチしづらい新たな顧客層を開拓することも期待されます。
事業企画
自社の経営資源を活用し、今後どのような分野で収益を挙げていくかを考え、戦略を推進します。例えば、ECや小売り事業に進出するといった取り組みも含まれます。他社とのアライアンス、M&Aなどの検討も行います。
営業事務・貿易事務
商社の営業事務の仕事内容はメーカーとほぼ変わらず、見積書作成・納期調整・簡単な価格交渉などを担います。貿易事務の仕事は、書類の取り扱いがメインとなります。
インボイス(送り状)やパッキングリスト(梱包明細書)など、輸出入の際に必要な書類の準備、物流会社とのやりとりを行います。扱う商材によっては、国によって輸出の可否を判断するのも役割の一つです。
商社に転職するために必要なスキル・経験
「営業」「事業企画」「営業事務・貿易事務」として商社への転職を目指す場合、求められるスキル・経験をお伝えします。
営業
まず問われるのは、取り扱う「商材」の経験です。同一商材であれば即戦力として期待されます。商品特性や顧客層、営業スタイルなどに親和性があれば、さらに歓迎されます。
総合商社や大手商社の求人では、扱う商材の専門性が求められますが、中小規模商社であれば、営業経験があれば応募可能な求人もあります。いずれにしても、新たな顧客層の開拓を目指し、積極的にアプローチを仕掛けていける行動力が重視されます。
総合商社などで大型案件を手がけるポジションでは、多くの関係者を巻き込みながら推進していく力、さまざまな立場の人の間に立って調整する力が求められます。
また、海外営業の経験があれば、求人の選択肢が広がります。求人企業が開拓を図ろうとしている国・地域でのビジネス経験があれば、プラス評価となるでしょう。特に、今後マーケット拡大が見込まれるインド、東南アジア、アフリカなどでの経験が歓迎されます。
事業企画
事業企画職の求人では、事業企画としての経験が求められます。商社だけでなく、メーカーでの事業企画経験も可とされます。事業部単位で、中長期戦略を定量・定性の両面から策定した経験、投資判断の経験、財務知識などが問われます。
海外案件の企画を手がけた経験はプラス評価につながります。求人企業が開拓を図ろうとしている国・地域を対象とする経験、特に、今後マーケット拡大が見込まれるインド、東南アジア、アフリカなどでの経験があれば歓迎されます。
営業事務・貿易事務
営業事務の求人では、基本的なPCスキルと営業事務経験が求められます。営業経験者が営業事務として採用されるケースも見られます。貿易事務においても、基本的には貿易事務経験者が採用対象となります。
英語力は必須とされますが、企業によって求める英語力のレベルは異なります。英文の読み書きができれば可とする求人もあれば、英会話力を求める求人もあります。TOEICスコアでは600点以上が目安となります。
商社に転職する方法
商社への転職を目指す場合、「企業の採用サイトから応募」「転職サイトなどで求人情報を探して応募」「転職エージェントから紹介を受けて応募」といった方法があります。
転職エージェントには非公開の求人もあるので、キャリアアドバイザーから自身の経験・スキル・志向に合う企業を選んで提案を受けることができます。過去の転職事例を踏まえた、面接対策のアドバイスも参考になるでしょう。
商社の求人とキャリア形成
商社では常に人材不足感があり、求人数は増え続けています。ただし、コロナ禍以前と比較すると、「経験者」を求める傾向が強くなっています。商社やメーカーの営業経験者は、これまで扱ってきた商品との親和性が高い分野の求人を選ぶことで、転職のチャンスがアップするでしょう。
現在採用に意欲的なのが、IT系商社です。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の動きが、コロナ禍の影響で加速したことから、攻めの姿勢が見られます。特に、ハードウェアやネットワーク関連機器を中心に、IT関連知識を持つ人材のニーズが高まっています。
商社での経験を積んだ先のキャリアとしては、次のパターンが王道といえます。
- リーダー、マネジャーへの昇進
- 専門商社から総合商社へ転職
- 専門商社での経験を活かし、さらに大規模な専門商社へ転職
商社での「広く浅く」の経験を活かし、メーカーへ転職することで「狭く深く」専門性を極めることを目指す方もいます。例えば、営業先の顧客の声を開発部門にフィードバックすることで商品開発にも貢献できる点に魅力を感じ、メーカーに転職した事例もあります。
なお、総合商社で身に付けた行動力、データ分析力、マーケット開拓力、多くの人を巻き込んでプロジェクト推進する力を活かし、スタートアップ企業に転職するケースも増えています。顧客の課題・ニーズを引き出して解決する力や論理的思考力が養われるため、コンサルティング業界にキャリアチェンジするケースもあります。
商社の転職市場動向
商社の中途採用においては、コロナ禍の影響はほぼ戻っており、2021年春頃までは採用活動が停滞したものの、現在は再開されています。
コロナ禍の影響という点でいえば、オンライン面接が一般化し、「リモートワーク可」の求人が増えていることが挙げられます。ロシアのウクライナ侵攻は世界の流通にダメージを与えましたが、採用への影響は感じられません。
新たな分野の開拓や新規事業創出への取り組みは、これまでと変わらず進んでいきます。AI・IoTなど最先端テクノロジー関連の商品・サービスの拡充、EC分野での販路拡大、越境EC(国境を越えたECサイトでの取引)などの動きはさらに広がるでしょう。
メーカーが注力し始めた「SDGs」「ESG」への取り組みに関しても、今後、商社が何らかの役割を担うようになる可能性があります。新たな収益源の模索、利益を生み出すスキームの構築が今後も進んでいくでしょう。
それに伴い、新たな人材ニーズが生まれる可能性もありますので、動向に注目してください。
転職エージェントにご相談いただければ、最新の動向と転職チャンスについてお伝えします。
(2022年5月取材時点)
リクルートエージェント キャリアアドバイザー 金 大樹
リクルートキャリアの転職エージェントサービス「リクルートエージェント」のキャリアアドバイザーとして、主に商社領域を担当。