自動車や電気機器など、日本を支える基幹産業の一つが製造業です。有形の製品を扱うので、「自身の仕事が形になっている」という実感を得られるのが製造業の特徴です。そこで、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏に、製造業の構造と採用動向、製造業で活躍する職種についてお伺いしました。
製造業とは?
製造業とは、素材を加工・組み立てし、製品として販売して利益を得る業態を指します。製造業が扱う製品は、自動車や電気機器、医薬品や化学素材、食品など多岐にわたります。なお、1次産業とは農業や水産業などを指しますが、製造業は建設業などとともに2次産業に該当します。ITや金融、流通やサービスなど、主に目に見えないモノを扱う産業は3次産業と呼ばれています。
製造業の種類
製造業には大きく分けて3つの種類があり、素材、加工・組み立て、自社生産・加工があります。
素材
素材とは、製品のもととなる材料のこと。素材メーカーの多くは素材のみを扱い、加工・組み立てメーカーに販売して利益を得ています。素材メーカーで代表的なのは、化学素材や金属、紙や繊維、ガラス素材や食品素材などが挙げられます。
加工・組み立て
素材メーカーから材料を仕入れて、加工や組み立てをして製品として販売するのが加工・組み立てメーカーです。自動車や電機機器、食品などが該当します。なお、製品を構成する部品が多く市場も大きい自動車などの場合は、「加工・組み立てメーカーが素材を仕入れて販売する」という単純な構造ではなく、サプライヤーと呼ばれる数多くのメーカーが階層化しています。完成品を扱う自動車メーカーに直接部品を納品するのがティア1と呼ばれる一次サプライヤー。ティア1に部品を納品するのがティア2、ティア2に部品を納品するのがティア3…と続きます。
自社生産・加工
素材メーカーや素材を調達して加工・組み立てを行うメーカーとは異なり、自社で素材から加工まで一貫して行うのが自社生産・加工メーカーです。医薬品などが該当し、素材の研究開発から加工まですべて自社で行っています。
製造業の最近の動向
製造業を自動車業界、総合電機・半導体・電子部品、化学業界の3業界の採用動向を解説します。
自動車業界
各メーカーが電動化に舵を切るなかで、インバータ装置やバッテリー、蓄電関連のエンジニア採用が活発化しています。自動車の電動化は、近年で進化した新しいテクノロジー。そのため電動化の経験者は少なく即戦力採用が難しいため、異業種で制御系機器を扱ったことのある若手層にも門戸が開かれつつあります。また、IT・ソフトウェアエンジニアをはじめとして、電気エンジニアや機械エンジニアなどのニーズも高い状態です。
総合電機・半導体・電子部品
2020年、政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、「カーボンニュートラル」を宣言しました。カーボンニュートラルの実現に、半導体は欠かせません。今後も半導体分野では採用が活発に行われるでしょう。
また、IoT領域ではセキュリティ対策が求められるため、ハードの知識を持つソフトウェアエンジニアのニーズが高まっています。なお、製造業の多くは拠点が郊外にあるため、勤務地が採用のネックとなっていますが、IT人材の獲得のためにテレワークを中心とした求人も目にするようになりました。
化学業界
カーボンニュートラルを実現する研究開発職のニーズが高まっています。また、DX関連人材の採用も行われています。化学領域は女性がもともと少なく、コーポレートガバナンス・コードの改訂により、女性管理職の採用を急ぐと同時に、人事制度の見直しを行う人事の求人も増えています。また、事業変革を推進するために、異業種から人材を採用したいと考える企業が増加しており、化学メーカーでもマーケティングや事業企画、人事企画などの求人も少しずつ出ています。
製造業で活躍する主な職種と仕事内容
製造業で活躍する代表的な職種を解説します。
営業
製造業に限らず、営業職はどの業界でも必要とされますが、製造業の営業の多くはBtoBと呼ばれる法人営業です。素材メーカーであれば、主に加工・組み立てメーカーに営業を行うため、ほぼ法人営業となります。加工・組み立てメーカーや自社生産・加工の場合も、個人に販売する場合は販売店が案内するケースが多いため、保険や不動産のように個人に直接営業する機会はあまり多くはありません。
生産管理
製造業に欠かせない職種が生産管理などのモノづくり系職種です。製品のニーズと工場の生産能力を加味して、生産計画を立てます。例えば、寒い時期は暖房器具が売れますが、売れるからと言って無計画に生産してしまうと「材料がなくなって生産できない」「在庫を抱えてしまった」という状況に陥ってしまいます。市場のニーズを予測して適切な生産計画を立て、計画通りに生産できているか確認し、場合によっては調整を図るのが生産管理の仕事です。
商品企画
商品企画は、アンケート調査やモニターなどを通じて市場のニーズを探り、「売れる商品」のアイディアを考えます。なお、製造業の場合は、商品企画が考えたアイディアが実際に生産できるのか、原価はどのくらいかかるのかなどを検討する必要があるため、研究開発や設計、生産技術や資材調達など、様々な部門と連携する必要があります。
研究開発
製造業では研究所を持つ企業も多く、場合によっては大学などの研究機関と連携するケースもあります。5~10年などの長期的な視野で新たなビジネスチャンスを探る研究開発と、数年以内に商品化するための研究開発があり、いずれにしても企業の成長を支える重要な役割を担っています。
設計
設計は具体的な製品の構造や仕様を決める役割を担います。企業や製品によって設計の範囲や役割は異なりますが、機械設計の場合は4つのプロセスで設計が行われます。まずコンセプトやニーズを明確にして、CADを使って設計図を作成します。設計図を元に精緻なサイズを決め、本当に量産できるか調整するまでが設計の仕事です。
生産技術・製造技術
生産技術は、生産ラインの最適化や生産設備の導入、品質の維持や人員の配置など、製造業に欠かせない職種です。生産ラインを最適化していくのが生産技術の役割ですが、製造技術はより品質の高い製品を作るために設備を改善する役割を担います。
資材調達
製品を作るために必要な資材を調達するのが資材調達です。資材調達は、資材の仕入れ先となる企業を新規開拓したり、複数の企業から選定したりします。製造業の場合は、生産計画に従って必要な量を調達しなければなりません。新規開拓した企業だけでは間に合わない場合や、想定する価格を大きく超える場合などは、他の企業にも打診するなどして計画に間に合わせます。社会情勢などによって市場が変動するケースもあるため、生産計画や在庫などを考慮しながら調達を図る仕事です。
品質管理
製品を生産後、求める品質に達しているのか確認するのが品質管理の仕事です。検査結果によっては生産技術などにフィードバックし、品質の維持向上に努めます。特に人命にかかわる医薬品の品質管理は厳密に試験内容が定められており、様々な検査機器を使用して試験を行っています。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。