転職活動の流れは、転職先から内定を得た後に会社を辞める方法と、退職してから転職先を見つける方法の2種類があります。では、転職先が決まってから退職する場合は、どのように在籍企業に伝えればいいのでしょうか。人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏に、退職の伝え方や注意点についてお伺いしました。
退職を伝える前の確認事項
上司に退職を伝える前の確認事項をご紹介します。
念のため就業規則を確認する
多くの企業で、退職の申し出に関する期日が就業規則に定められており、退職希望日の1~3カ月前に申し出を行うと定めているケースが一般的です。上司に退職を申し出る際は、申し出の期限を超えていないか、事前に就業規則を確認しておきましょう。
退職までのスケジュールを決めておく
退職する場合、以下の順序や日数で進むことが一般的です。
1. 退職の申し出・受理(2週間程度) |
2. 後任の決定(2週間~1カ月) |
3. 引き継ぎ(2週間~1カ月) |
4. 有休消化(数日間~1カ月) |
ただし、「退職を申し出たところ強い引き留めにあって受理されるまでに時間がかかった」「後任がなかなか採用できず、引き継ぎができないまま退職日を迎えた」など、退職までの各プロセスが思い通りに進むとは限りません。事前に、引き継ぎにどの程度時間がかかるのかを算出し、残っている有給休暇の日数を加味して、退職までのスケジュールの目安を決めておきましょう。
退職理由を準備しておく
退職理由によっては、退職交渉が長引いてしまう可能性があります。退職理由の伝え方は、後述の「退職交渉の注意点」で解説しますが、引き留められにくい退職理由を事前に考えておき、退職の申し出の際はこれまでのお礼とともに伝えましょう。
在籍企業への退職の伝え方
在籍企業に退職を伝えるときの手順を解説します。退職の伝え方の例文もご紹介するので、参考にしてください。
上司に時間を取ってもらう
上司に「ご相談のお時間をいただけますか?」と連絡し、時間を取ってもらいます。対面の場合は会議室を予約するなど、できるだけ周囲に話が聞こえない場所で伝えるようにしましょう。オンラインの場合は、聞き取りやすい・伝わりやすい環境で臨むことが大切です。なお、退職の申し出時に引き継ぎや最終出社日などの相談も行うため、できるだけメールではなく対面で伝えた方がスムーズです。
感謝を伝えながらもきっぱりとした姿勢を貫く
「これまで大変お世話になりました」と感謝の気持ちを交えながら、「○月○日付で退職を希望しております」と、退職の意を伝えましょう。ここで曖昧な伝え方や姿勢でいると、「今、辞められるのは困る」「考え直してもらえないか」と、退職交渉の余地が生じてしまうかもしれません。居丈高になる必要はありませんが、退職の意思が強いことを態度で示しましょう。
退職の伝え方例文
お忙しいところお時間いただきありがとうございます。
これまで大変お世話になり申し訳ないのですが、○月○日付で退職を希望しております。
半年前に病気をしたことをきっかけに健康への関心が高まり、ヘルステックの分野で働きたいと考えるようになりました。
引き継ぎについてなのですが、○○と○○がメイン業務となっており、引き継ぎにはだいたい3週間程度かかりそうです。また、有給休暇が20日間残っているので、できれば○月○日を最終出社とさせていただけないでしょうか。
退職交渉の注意点
退職交渉は、長引くと入社予定日にも影響を及ぼします。退職を伝える際の注意点をご紹介します。
有休消化に固執しない
残っている有給休暇はできるだけ消化するのが理想的ですが、必ずしも退職交渉がスムーズに進むとは限りません。退職交渉が長引いた上に後任の着任が遅れるなど、スケジュールが後ろ倒しになった場合、有休消化に固執してしまうと、十分な引き継ぎができないまま有給休暇に入ることになってしまいます。もちろん有休消化は大切ですが、職場に迷惑を掛けて辞めるのはトラブルの元にもなります。特に同業界で転職する場合、仕事の場面で顔を合わせる可能性もゼロではありません。気まずい思いをしないためにも、円満退職を第一優先にしましょう。
会社の愚痴や不満は言わない
不満による退職が事実だったとしても、退職の申し出時に愚痴や不満を言うことはやめておきましょう。愚痴や不満を直接上司に伝えることで、心証が悪くなる恐れがあります。心証が悪くならなかったとしても、「待遇を改善するので考え直してほしい」「配属先を変えるので待ってほしい」など、愚痴や不満が退職を引き留めるための交渉材料になってしまう可能性があります。在籍企業の出方によっては転職を考え直すことも視野に入れているのであれば、あえて不満を伝えるという方法もありますが、退職を決意しているのであれば、愚痴や不満を言うのは控えましょう。
引き留めにくい退職理由にする
退職理由は、在籍企業で実現できない理由にすると引き留められにくくなります。例えば、「○○業界に転職し経験の幅を広げたい」「自社サービスの開発に携わりたい」など、在籍企業では実現できない、ポジティブな退職理由であれば上司も転職を応援し、退職を認めやすくなるでしょう。
転職先企業名は言わなくても良い
上司から転職先の企業名を聞かれた場合、上司と信頼関係が構築できていたり、社名を言った方が伝わりやすかったりする場合は伝えても問題ありませんが、基本的には言う必要はありません。関係性や転職先の企業によっては「その会社は業界で評判が悪い」「業績が不安定らしい」など、ネガティブなことを言われたり、競合他社の場合は、情報漏洩の観点から退職日まで仕事を取り上げられたり、データにアクセスできなくなったりする可能性もあるので注意が必要です。
できるだけ入社日は変更しない
退職の時期や後任配属の都合上、上司から「退職日を延ばしてほしい」と相談されるケースもあります。退職日の延長については、転職先が決まっていない場合は問題ありませんが、転職先の入社予定日が決まっている場合は注意が必要です。転職先企業の多くは、入社予定日に向けて受け入れ態勢を準備しています。特に欠員募集の場合は、引き継ぎのために前任者が最終出社日を調整している可能性もあります。転職先企業に大きな迷惑を掛けてしまうことになるので、安易に退職日の延長を承諾しないように気をつけましょう。
転職先を決めてから退職するメリットとデメリット
転職活動は、転職先を決めてから退職するケースと、退職してから転職活動を行うケースに分かれます。転職先を決めてから退職するメリットとして一番大きいのは「空白期間がない」という点です。空白期間中は、国民健康保険や国民年金を自身で手続きする必要がありますが、退職してすぐに転職先企業に入社する場合は企業が社会保険の手続きをするため手間がかかりません。他にも、収入が途切れないので「生活の不安がない」というメリットもあります。
転職先を決めてから退職するデメリットは、仕事と並行しながら転職活動を進めなければならないため、「面接の日程調整が難しい」「転職活動に割く時間が取れない」といった点が挙げられます。また、転職先企業の多くはできるだけ早く入社してもらいたいと考えるものです。有給休暇をすべて消化し、ゆっくり引継ぎを進めたいと考えていても、入社予定日や後任の着任予定日などの都合から、希望通りにスケジューリングすることができず、有給休暇が消化できず残ってしまったり、引継ぎが中途半端なまま退職したりするデメリットも考えられます。
転職エージェントの活用で転職成功を目指そう
転職エージェントは、自己分析から退職交渉のアドバイスまで、求職者の転職活動をサポートしています。転職活動の標準的なスケジュールや退職の手続きなども詳しく知っているので、転職活動に不安がある場合は、転職エージェントを活用し、転職活動をスムーズに進めましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。