
転職活動の流れは、転職先から内定を得た後に会社を辞める方法と、退職してから転職先を見つける方法の2種類があります。では、転職先が決まってから退職する場合は、どのように在籍企業に伝えればいいのでしょうか。
本記事では、退職の伝え方や注意点について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説いただきました。
目次
転職先が決まってから退職を伝えるなら、原則「内定承諾後」に
転職先が決まってから退職を伝えるのであれば、原則「内定承諾後」に伝えるようにしましょう。その理由は、内定承諾前の段階では、次の企業への入社がまだ確定していないからです。
内定を承諾する前は、転職先企業と正式に雇用契約を結んでいない段階です。何らかの理由で内定が取り消しになったり、入社条件が合わず内定を辞退したりする可能性もゼロではありません。そのため、内定承諾前に退職の希望を伝えてしまうと、職を失うリスクがあるため注意が必要です。
退職意思を伝えるタイミングは、一般的に内定を承諾したとみなされる応募先企業の採用担当者に内定承諾の意思を伝えた後、もしくは入社を誓約する「内定承諾書」が転職先企業で受理された後にしましょう。
転職先が決まってから退職を伝えるなら、事前に就業規則を確認しておく
企業によっては、就業規則などに退職の申し出に関する期日が定められています。会社に退職を申し出る際は、就業規則で定められている期日を超えないよう、あらかじめ就業規則を確認しておきましょう。
一般的に企業を退職する場合、以下の流れで退職に至ります。
1. 退職の申し出・受理 | 4週間 |
2.後任の決定 | |
3. 引き継ぎ | |
4.休暇の消化 |
転職先が決まってから退職希望日の1ヶ月前に退職を伝える場合
転職先が決まってから退職希望日の1ヶ月前に退職を伝える場合、状況によっては退職希望日までの期間がタイトになることもあるかもしれません。
後任の決定が長引く場合、引き継ぎの期間が短くなることもあるでしょう。マニュアルを作成しておく、業務リストを作成しておくなど、後任がスムーズに業務を行える状態にしておくことが大切です。また、転職先企業と決めた入社予定日との兼ね合いで退職希望日を調整できない場合、残りの有給休暇を全て消化できないこともあるかもしれません。
転職先が決まってから退職希望日の2ヶ月前に退職を伝える場合
転職先が決まってから退職希望日の2ヶ月前に退職を伝える場合、退職まで多少余裕が生まれると考えられます。ただし、上司→人事→人事担当役員→事業担当役員など、複数人の面談が設定されて引き留められることもあるかもしれません。また、管理職を担っていたり、担当していたクライアントの数や担当業務が多かったりすると、引き継ぎに時間がかかる場合もあるでしょう。
引き留めにあっても最終的に退職希望日に合わせて退職できるよう、上司や役員との話し合いは、計画的に進めましょう。また、後任にしっかり業務を引き継げるよう、業務の引き継ぎも計画的に進めましょう。
転職先が決まってから退職希望日の3ヶ月前に退職を伝える場合
転職先が決まってから退職希望日の3ヶ月前に退職を伝える場合、1ヶ月前や2ヶ月前に退職希望を申し出る時と比べて引き継ぎ期間に余裕が生まれます。残っている有給休暇も消化しやすくなると考えられます。
しかし、メンバーに周知するタイミングには、注意が必要です。退職する旨をメンバーに伝えることでメンバーの士気が低下したり、職場の雰囲気が悪くなったりする懸念があります。上司と相談し、適切なタイミングで退職を周知するようにしましょう。
また、退職日まで期間に余裕があるからこそ、引き留めが長引く可能性も想定できます。一見して退職まで余裕があるように思われますが、退職日が後ろ倒しにならないよう退職意思は明確に示すようにしましょう。
【参考】法律上では退職希望日の2週間前までで
民法では、期間の定めのない雇用契約の場合、退職希望日の2週間前までに退職届を提出すれば退職できると定められています。
出典:e-Gov法令検索「民法 第六百二十七条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)」
たとえ企業の就業規則に「退職希望日の1ヶ月前までに退職届を提出すること」と定められていたとしても、原則民法が優先されます。ただし、引き継ぎや挨拶などの期間を設けられない可能性があるため、やむを得ない事情がない限りは、会社の就業規則に従い退職を申し出るようにしましょう。
転職先が決まってから退職を伝える時の伝え方
本章では、転職先が決まってから退職を伝える時の伝え方の一例として、下記4つの項目について解説します。
- 直属の上司に前もって時間を取ってもらう
- できれば対面で二人きりになれる場所でまずは口頭で伝える
- 感謝を伝えながらもきっぱりとした姿勢を貫く
- 退職の伝え方例文
直属の上司に前もって時間を取ってもらう
退職希望を伝える時は、直属の上司に前もって時間を取ってもらいましょう。事前に時間を確保してもらうことで、退職希望の旨を冷静に伝えられる場を設けることができるでしょう。
できれば対面で話せる場所でまずは口頭で伝える
退職に関する相談をする時は、上司と二人きりになれる場を設け、直接口頭で伝えましょう。場所は、会議室など周囲に話が聞こえにくい場所や環境が好ましいでしょう。やむを得ずオンラインで伝える場合は、聞き取りやすい・伝わりやすい環境で相談に臨むことが大切です。
退職を希望する旨を一方的にメールやチャットで伝えて終わるような行為は控えましょう。誠意に欠けるとみなされたり、メールやチャットが見逃されてしまったりする懸念があります。場合によっては、円満退職が難しくなることも考えられるため、直接口頭で伝えるようにしましょう。
感謝を伝えながらもきっぱりとした姿勢を貫く
「これまで大変お世話になりました」と感謝の気持ちを交えながら、「○月○日付で退職を希望しております」と、退職の意思を伝えましょう。曖昧な伝え方や姿勢でいると、「今、辞められるのは困る」「考え直してもらえないか」と、引き留めに発展する可能性があります。威圧的な態度をとる必要はありませんが、退職の意思が明確であることを態度で示すことが大切です。
退職の伝え方例文
お忙しいところお時間いただきありがとうございます。
これまで大変お世話になり申し訳ないのですが、○月○日付で退職を希望しております。
自身がプライベートでスポーツジムに入会したことをきっかけに健康への関心が高まり、ヘルステックの分野で働きたいと考えるようになりました。
引き継ぎについてなのですが、○○と○○がメイン業務となっており、引き継ぎには3週間程度かかりそうです。また、有給休暇が20日間残っているので、できれば○月○日を最終出社とさせていただけないでしょうか。
転職先が決まってから退職を伝える時の注意点
ここでは、転職先が決まってから退職を伝える時に留意したい下記5つの注意点について解説します。
- 有休休暇の消化に固執しない
- 会社の愚痴や不満は言わない
- 引き留めにくい退職理由にする
- 転職先企業名は言わなくても良い
- できるだけ入社日は変更しない
注意点1.有休休暇の消化に固執しない
退職交渉が長引いた上に後任の着任が遅れるなど、スケジュールが後ろ倒しになった場合、有休休暇の消化に固執してしまうと、十分な引き継ぎができないまま有給休暇に入ることもあるでしょう。
有休休暇の消化は大切ですが、職場に迷惑を掛けて辞めるのはトラブルの元にもなります。特に同業界で転職する場合、仕事の場面で顔を合わせる可能性もゼロではありません。気まずい思いをしないためにも、有休休暇の消化に固執し過ぎないようにしましょう。
注意点2. 会社の愚痴や不満は言わない
不満による退職が事実だったとしても、退職の申し出時に会社の愚痴や不満を言うのは控えましょう。愚痴や不満を直接上司に伝えることで、心証を悪くする可能性がありますので注意が必要です。心証が悪くならなかったとしても、「待遇を改善するので考え直してほしい」「配属先を変えるので待ってほしい」など、愚痴や不満が退職を引き留めるための交渉材料になってしまう可能性があります。
注意点3.引き留めにくい退職理由にする
退職理由は、在籍企業で実現できない理由にすると引き留められにくくなるかもしれません。例えば、「○○業界に転職し経験の幅を広げたい」「自社サービスの開発に携わりたい」など、在籍企業では実現できない、ポジティブな退職を考えてみるのも良いでしょう。
注意点4.転職先企業名は言わなくても良い
転職先企業名は、基本伝える必要はありません。
ただし、上司から転職先の企業名を聞かれた場合や社名を伝えたほうが転職意図が伝わりやすい場合は、差し支えない範囲で転職先企業名を伝えることもあります。
注意点5.できるだけ入社日は変更しない
退職の時期や後任配属の都合上、上司から「退職日を延ばしてほしい」と相談されるケースもあります。
転職先の入社予定日が決まっている場合、退職日の延長については注意が必要です。転職先企業の多くは、入社予定日に向けて受け入れ態勢の準備を進めています。特に欠員募集の場合は、引き継ぎのために前任者が最終出社日を調整している場合もあります。転職先企業に迷惑をかける可能性があるため、退職日の延長については慎重に検討しましょう。
転職先が決まってから退職するメリットと懸念点
転職先が決まってから退職するメリットと懸念点は、次の通りです。
転職先が決まってから退職するメリット
転職先を決めてから退職するメリットとして「離職期間がない」点が挙げられます。離職期間中は、国民健康保険や国民年金を自身で手続きする必要がありますが、退職してすぐに転職先企業に入社する場合は企業が社会保険の手続きをするため手間がかかりません。他にも、収入が途切れないため「収入が途切れる心配がない」というメリットもあります。
転職先が決まってから退職する懸念点
転職先を決めてから退職する懸念点は、仕事と並行しながら転職活動を進めなければならないため、「面接の日程調整が難しい」「転職活動に割く時間が取れない」などの場合、調整が必要になることがあります。
また、有給休暇を全て消化し、ゆっくり引き継ぎを進めたいと考えていても、入社予定日や後任の着任予定日などの都合から、希望通りに調整できず、有給休暇が消化できず残ってしまったり、引き継ぎが中途半端なまま退職したりする可能性も考えられます。
転職エージェントの活用で転職実現を目指そう
転職エージェントは、自己分析から退職交渉のアドバイスまで、求職者の転職活動をサポートしています。転職活動の標準的なスケジュールや退職の手続きなども詳しく知っているので、転職活動に不安がある場合は、転職エージェントを活用し、転職活動をスムーズに進めましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。