
キャリアプランは、異動や転職、学び直しなど、職業人生を考える際に必要となるでしょう。キャリアプランを描くことの必要性や、思いつかない時の考え方、年代別のポイントと例文、面接で聞かれた時の答え方について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
キャリアプランとは
「キャリアプラン」とは、一般的に自分が今後どのような経歴・生き方を積み上げるかという「具体的な計画や見通し」のことを指します。似ている言葉に「キャリアビジョン」がありますが、これは「将来はこんなことを実現したい」「こんな働き方をしていたい」など、プライベートも含めた将来のありたい姿や、理想像を指します。つまりキャリアプランとは「キャリアビジョンを実現するための具体的な行動計画」と言えるでしょう。
もうひとつ、似た言葉に「キャリアパス」がありますが、これは企業内で社員が目標とするポストや職務に就くために必要な経験・スキルなどの道筋を指す言葉です。
キャリアプランが思いつかない場合の考え方
キャリアプランを立てる方法は多くありますが、シンプルでお勧めなのが、自己分析のフレームワーク「Will・Can・Must」を応用し、3ステップで考える方法です。
ステップ1:Will(仕事で実現したいこと、ありたい姿)を明らかにする
まず、数年先の将来を見据えて、これから取り組みたい仕事や、どのような存在になっていたいかを考えてみましょう。例えば「部下○名のマネジメントをしたい」「○○事業の立ち上げに関わりたい」、あるいは「○○さんのようなビジネスパーソンになりたい」といったことでも構いません。
ステップ2:Can(できること)と価値観を明らかにする
次に、過去から現在に至るまでの自身のキャリアや経験について棚卸しをし、今自分にできること、今後に活かせる経験やスキル、自分が大切にしてきた価値観を整理します。具体的には、次のような点を洗い出すと良いでしょう。
- これまでどのような経験をしてきたか
- 得てきた人脈はどのようなものか
- どのような時にやりがいを感じてきたか
- どういう人をロールモデルとしてきたか
- どのような時が転機だったか
ステップ3:Must(やるべきこと)を整理する
Willを実現するために自分に足りないものや、今後身につけたいことを整理します。例えば、「現在は営業職で後輩1名の指導をしている(Can)」、「○年後には管理職になりたい(Will)」、「そのためには、3名以上の若手のチームリーダーを務め、自分自身も営業実績で上位にランクインする必要がある(Must)」、などと考えると、少しずつキャリアプランが具体的になるでしょう。
なお、社会人経験が短く「何をしたいのか分からない」という場合は、最初にWillを設定しようとすると、現実の自分との間に大きなギャップができてしまうかもしれません。
その場合はステップ1とステップ2を入れ替え、まず自分の経験やできること(Can)の整理から始めてみましょう。その中で「この仕事が面白かった」「やってみたら適性があった」という気づきや適性が見つかれば、それを活かせるWillに繋げていくのもお勧めです。
「自分ひとりでキャリアプランを立てられない」という方は、厚生労働省が提供している「ジョブ・カード(※)」を作成し、キャリア形成・リスキリング相談コーナーでジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティングを受けるという方法もあります。原則として1回まで無料で受けられるので、検討してみましょう。
(※)出典:「マイジョブ・カード」(厚生労働省)
キャリアプランを立てるメリット
突然「あなたのキャリアプランは?」と聞かれても、すぐに思い浮かばないかもしれません。しかし、中長期的な目標を明確化し、実現するための計画を立てることには様々なメリットがあります。キャリアプランを立てる代表的なメリットをご紹介します。
自律的なキャリア形成ができる
終身雇用制度が一般的だった時代は、企業が提示するキャリアパスをたどることで、多くの人が一定のキャリアアップを実現できました。しかし社会が大きく変化し、終身雇用制度が維持できなくなった現在、「会社にお任せ」では、1人ひとりが納得するキャリアを積むことが難しくなっていると考えられます。
イキイキと働いて納得できるキャリアを築くために、働く人自らがキャリアについて中長期的な目標を持ち、計画を立てることが重要です。仕事や人生に対して理想を描き、それを実現するために主体的な選択や行動をすれば、自分の納得のゆくキャリアを構築できる可能性が高くなるでしょう。
目標設定ができる
仕事にやりがいを感じない時は、「何のためにこの仕事をしているのか」という目的が見えにくくなっていることもあるものです。キャリアプランを立てて「いつまでに○○をする」という目標ができれば、実現するために必要な中間目標や課題が見えるので、「今の自分に何が必要なのか」「何に取り組むべきか」が明確になります。日々の業務が将来に繋がっていると考えることができれば、仕事に対するモチベーションも高まるでしょう。
転職の判断軸になる
キャリアプランは、転職における企業選びの判断基準としても有効です。
転職活動では、多くの場面で「この会社は自分に合っているか」「この会社に転職する意義はあるか」という判断を繰り返すことになります。キャリアプランは、この時の判断基準の1つになるものです。もちろん、キャリアプランを100%満たせる企業は見つからないかもしれません。それでも「自分のキャリアプランを実現する上でこの企業がベターだ」と、自らの基準で主体的に選ぶことができれば、転職後もやりがいを持って働けるでしょう。
年代別のキャリアプランの考え方と例文
転職活動において企業独自のES(エントリーシート)が用意されているケースなどでは、キャリアプランを書くことを求められる場合があります。キャリアプランを書く時は、以下の要素を盛り込んでまとめると良いでしょう。
- 仕事における目標とゴールの時期
- 計画(必要な経験・スキルなど)
- 達成に向けて取り組んでいること
キャリアを積むうちに自分も周りの環境も変化するため、キャリアプランは定期的にアップデートが必要です。年代によってキャリアプランが変化する背景には、企業が求めるものが変化するという側面もあるでしょう。年代別のキャリアプランの考え方と、営業職を想定した例文をご紹介します。
20代のキャリアプランの考え方
社会人経験が短い場合は、経験や実績よりも将来性やポテンシャルを期待して選考が行われるケースが多いため、幅広い視野を持ち、様々なことを吸収して成長したいという姿勢が伝わるキャリアプランを提示できると良いでしょう。身近な先輩社員、上司で優秀な人、成果を出している人などをモデルにするという方法もあります。
20代のキャリアプランの例文
30代のキャリアプランの考え方
30代は一般職、専門職ともに現場の中核となることの多い年代です。これまでの経験・スキル、専門知識を活かし、組織や業界に与える影響範囲を大きくしていくことを伝えられると良いでしょう。例えば「より大きな組織をマネジメントする」「会社全体の新しい技術の導入をリードする」などです。その際は、応募企業のミッション、ビジョン、バリューが求めるものと、自分の目指すもの、取り組みたいことの接点を探すことが大切です。
30代のキャリアプランの例文
40代のキャリアプランの考え方
40代は管理職としての採用もある年代です。企業が管理職に求めるものは、「組織を牽引する戦略作り」「環境変化に対応した新事業の創出」など、よりピンポイントになるため、それらとリンクする具体的な内容を伝えられると良いでしょう。専門職も同様であり、例えば応募企業で新技術の開発が求められているのなら、そこにフォーカスした内容を考えてみましょう。
40代のキャリアプランの例文
50代のキャリアプランの考え方
かつて50代は役職定年を迎える世代でした。しかし人生100年時代の今は、これまでの様々なリソースを活かし、異分野に挑戦するという選択肢もあるかもしれません。従って、他の世代と同様にキャリアプランを描くことが、自分のキャリアのためにも、転職を実現させる上でも重要です。積み上げてきた経験・スキル、人脈を生かすことを考えつつ、アンラーニングできる柔軟性や成長意欲、新たな仕事に挑戦する情熱が伝わるプランを伝えられると良いでしょう。
50代のキャリアプランの例文
企業が面接でキャリアプランを聞く目的
企業がキャリアプランで確認したいことは、主に「応募者の価値観と自社のカルチャーがマッチしているか」「応募者のキャリアプランが自社で実現できるか」の2点です。
キャリアプランには応募者の仕事の価値観や志向が強く反映されるため、自社の価値観や企業風土に合うかどうかの判断材料になります。例えば、役職との壁が低くフラットな組織運営をしている企業に対して「部下の管理を徹底して売上に貢献していく」といったキャリアプランを披露したとすれば、「うちには合わない」と判断されるかもしれません。
また、近い将来にマネジメントを任せたいと考えている企業に「現場で専門性を高めたい」と語ったり、海外進出の予定がない企業に「海外展開で貢献したい」と答えたりすると、キャリアプランと自社が提供できるキャリアパスが合致しないため「採用は見送ろう」という判断になるでしょう。
面接でキャリアプランを伝える場合のポイント
面接でキャリアプランを聞かれた場合は、どのように答えればいいのでしょうか。面接での質問の傾向や答え方のポイントについて解説します。
面接での質問の傾向
企業が面接でキャリアプランを確認する場合、例えば次のような質問をされることがあります。
「5年後のキャリアプランを教えてください」
「これまでの経験を踏まえ、仕事上で実現したいと考えていることは何ですか?」
「弊社に入ったら、どういったことをしていきたいですか?」
このように、必ずしも「キャリアプラン」という言葉を使って質問されるとは限らず、キャリアビジョンに近いニュアンスのこともあれば、自社が提供できるキャリアパスとのすり合わせの意味合いが強い場合もあります。
加えて、面接担当者は「キャリアビジョン」「キャリアプラン」「キャリアパス」の違いを明確に意識せずに質問していることもあります。従って上のような質問を受けた場合は、おおまかにキャリアの方向性について聞かれていると受け止めて答えれば良いでしょう。
面接での答え方のポイント
面接でキャリアプランを聞かれた場合の、答え方のポイントを3つ解説します。
求人との接点を意識する
採用担当者は、キャリアプランの質問を通じて応募者の仕事の価値観や志向が自社にマッチしているか、企業が用意するキャリアパスに合うかどうかなどを確認していると考えられます。そのため、自分が描いているキャリアプランを正直に全て伝える必要はありません。
例えば「将来起業するため経験を積みたい」と考えていたとして、そのまま伝えた場合、「経験を積んだら辞めてしまうのだろうか?」と懸念されるケースもあれば、「ベンチャースピリットを重視する我が社にふさわしい」とポジティブに評価されるケースもあるでしょう。基本的には、自身のキャリアプランと、企業が応募者に求めるものとの合致点にフォーカスし、伝える情報を取捨選択すると良いでしょう。
現在の延長線上で回答する
「入社して何を実現したいか」という意図の質問に対して、今の自分が到達できそうもない理想を語っても説得力がありません。先述した「Will・Can・Must」を活用し、現在の自分の延長線上で「こうなっていたい」「こういうステップを踏みたい」と伝えると、企業にも理解してもらいやすいでしょう。
応募企業で実現可能なプランにする
基本的に企業が知りたいのは、応募者が近い将来に実現したいと考えている目標についてです。「20年後に何をしていますか」「あなたの人生の目標は何ですか」といった聞かれ方をしない限りは、半年〜数年後に達成できることなど、足元でできる具体的な内容に絞って伝えると良いでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。