退職することを決めたら、まず直属の上司に相談しなければなりません。では、上司にはどのようなタイミングで退職の意思を伝えればいいのでしょうか。そこで、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏に、退職の伝え方や円満退職のための注意点などのアドバイスを伺いました。
退職が決定するまでの流れと期間の目安
退職に関しては、「退職希望日の○カ月前までに申し出ること」と就業規則に定めている企業が一般的です。そのため、退職の相談をする前に、まず就業規則で申し出の期限を過ぎていないか確認してみましょう。
【参考記事】退職の意思は何カ月前に伝えたらいい?
退職の相談は直属の上司に行いますが、上司からその上長、人事などに報告がされ、正式に退職が決まるまでには一定の時間がかかります。このタイミングで上司などから引き止められることも多く、交渉次第では1カ月以上かかることもあるようです。仮に引き継ぎ期間1カ月、有給休暇20日とすると、最低でも2カ月はかかります。ここで退職交渉が長引いてしまうと、相談してから退職までに3カ月以上かかってしまうかもしれません。上司に相談したにも関わらず、その後の音沙汰がない場合は「退職の話はどこまで進んでいるのでしょうか」と確認し、できる限り早く退職の手続きを進めましょう。
退職までの流れ
退職が決定するまでの一般的な流れと機関の目安をご紹介します。
・上司に相談
↓ 2~3日
・上司が上長や人事などに報告
↓ 1週間~1カ月
・退職日が確定
↓
・退職手続き
円満退職のための退職理由の伝え方
円満退職するために、上司に相談する時にはいくつかの注意点があります。退職交渉がこじれないように、退職の伝え方には気をつけましょう。
原則として不満は言わない
上司に退職の相談をした際に、退職理由を聞かれたとしても「残業が多い」「評価に納得がいかない」など、職場に対する不満を言うのは控えましょう。上司や会社の心証が悪くなり、円満に退職できなくなる可能性があるからです。また、不満を伝えることで「業務量を減らすので退職を考え直してもらえないか」「評価を見直すので話し合おう」など、引き留めの材料にされるかもしれません。
もちろん、退職交渉によって条件が改善され、現職に残るケースもあります。ただし、退職交渉による会社からの提案は、場合によっては職場に不平等が生じる可能性があります。また、退職交渉で提示される条件が確実に実現されるとは限りません。もし、提示された条件によっては現職に残ることも考えている場合は、判断に迷わないよう事前に優先順位を決めておきましょう。
現職で実現できない退職理由にする
所属企業からの引き止めを回避したい場合は、前向きな内容、かつ現職で実現できない退職理由を伝えましょう。自社で実現できない、前向きなチャレンジをしようとしている従業員を強く引き止めることは、心理的な抵抗があるものです。例えば、「○○業界にチャレンジしたい」「自社サービスを持つ企業で働きたい」など、所属企業では実現できない退職理由を、ポジティブに伝えましょう。
毅然とした態度で臨む
「退職したいのですが、いかがでしょうか」と、退職の承認を得るような曖昧な言い方をしてしまうと「頼りにしている君が辞めるのは困る」「急なのでちょっと待ってほしい」と引き止めに発展してしまう可能性が高くなります。「退職のご相談でお時間をいただきました」と切り出し、「今まで大変お世話になりましたが、○月○日に退職したく、○日までに後任を探していただくことは可能でしょうか」と、毅然とした態度で臨みましょう。
上司やその上長などから強く引き止められたら?
「引き止めていただき恐縮です」とお礼を伝えつつ、「転職先の入社日が決まっているので、申し訳ないのですが取り消すことができません」「家族にも伝えてしまったので、もう引き返すことができません」などと言って丁重に断りましょう。
なお、待遇の見直しなどを提示された場合はその場で回答せず、実現可能性や転職先企業の条件と比較して、慎重に判断することが大切です。
「退職を待ってほしい」と言われたら?
退職は了承してもらえても、「後任が見つかるまで待ってほしい」「業務が落ち着いてからにしてもらえないか」など、退職日の延期を打診されるケースもあります。すでに転職先企業の入社日が決まっている場合は、安易に答えず「確認するので待ってもらえませんか」と回答を保留し、慎重に検討するようにしましょう。
なお、中途採用の多くは欠員募集や事業拡大などに伴う即戦力採用であることが多く、入社日が決まっている場合、転職先企業は着任後すぐに働くことができるように準備を進めています。転職先の企業側は入社日を含めて選考して内定を出しているため、入社日を後ろ倒しにすることは内定取り消しのリスクが伴います。転職先企業の入社日を優先するのであれば、退職日までに引き継ぎのマニュアルを作っておく、正式な後任が着任するまで暫定の担当者を決めてもらうなどの対応をお願いしましょう。
一方、転職先が決まっていない場合も、「後任が見つかるまで」「業務が落ち着いてから」などの曖昧な目安のまま延期してしまうと、ズルズルと働き続けてしまう可能性があります。「退職を待ってほしい」と言われて退職日を延期するのであれば、新たな退職日の合意を得るようにしましょう。
退職が決まったら何をするか
退職が決まったら、次は何をすればいいのでしょうか。退職までにやることを解説します。
退職までのスケジュールを作成し上司に相談
退職が決まったら、担当業務を一覧化し、引き継ぎにかかる期間を算出してマニュアルなどの書類の準備を始めます。また、残っている有給休暇を確認し、引き継ぎと有休消化を含めた退職までのスケジュールを作成し、上司に相談しましょう。
なお、転職先が決まっている場合は、入社日までの期間が限られているため、引き継ぎや有休消化を十分に行うことができない可能性があります。転職先とも相談し、できる限り双方に迷惑をかけないスケジュールを検討しましょう。
退職までの手続きを済ませる
退職までに必要な手続きを済ませておきましょう。会社の指示を仰ぎ、必要であれば「退職願」「退職届」を提出します。ファイルデータや書類は引き継ぐものと削除するものを分別し、分かりやすく格納しておきます。年末調整を行う前に退職する場合は、転職先の企業または自身で確定申告を行う際に源泉徴収票が必要になるので、所属企業の担当者に依頼しておきましょう。
引き継ぎの準備を進める
後任が決まっている場合は、後任の予定を確認しながら引き継ぎを始めますが、後任が決まっていない場合は、いつまでに後任の着任が必要か上司に伝えます。特に、営業やコンサルタントなど、顧客への挨拶が必要な場合は、顧客と後任との日程調整が必要なため、引き継ぎ期間にゆとりが必要です。後任が着任するまでに、引き継ぐ業務のマニュアルや申し送り事項をまとめておき、いつでも引き継ぎが開始できるように準備しておきましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。