「上場企業への転職は難しいのか。どうすれば入社できるのか」「上場企業に転職するとどんなメリットがあるのか」「上場企業といえば新卒採用が中心なのでは」「そもそも上場企業とは」などの疑問について、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。
目次
上場企業への転職方法
上場企業を目指して転職活動を始めるにあたり、基本として知っておきたいことをお伝えします。
上場企業とは?
「上場」とは、株式が市場(証券取引所)で売買されるようになること。その株式を発行する企業が「上場企業」です。以前の上場企業は、「東証1部」「東証2部」「JASDAQ」「マザーズ」に分類されていましたが、2022年4月より市場区分が「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3つに変更されました。
上記の一般市場とは別に、プロ投資家のみが株式の取引を行える市場「TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)」もあります。
東京証券取引所は、3つの市場区分を以下のように定義しています。
1.プライム市場
グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場
2.スタンダード市場
公開された市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場
3.グロース市場
高い成長可能性を有する企業向けの市場
上場企業というと、大手企業をイメージする人も多いのですが、実際の企業規模は多様です。グロース市場には、小規模でも成長可能性を認められたベンチャー企業が名を連ねています。
株式上場に際しては、「財政状態」「継続性・収益性」「経営の健全性」「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容の開示の適正性」といった項目が厳しく審査されます。上場企業はこれらの審査をクリアしたことで、社会的信用を得ている企業といえるでしょう。
ただし、非上場企業が上記の要素を満たしていなかったり、社会的信用がなかったりするわけではありません。大手企業であっても、「オーナー経営者が自分の方針で経営したい(株主の意見に左右されたくない)」、あるいは「買収を避けたい」といった理由から、あえて上場していないケースもあります。
上場企業に転職するための方法
上場企業を目指して転職活動をする場合、次のような方法があります。
転職サイトで求人を探して応募する
転職サイトでは「上場企業」「株式公開企業」などと条件を指定して求人を検索し、応募することができます。
転職サイトの「スカウト」サービスに登録する
転職サイトの「スカウトサービス」に職務経歴や転職希望条件などを登録しておくと、求人企業や転職エージェントから直接オファーが届きます。サイトには掲載されていない「非公開求人」のオファーが届くこともあります。
転職エージェントを利用する
キャリアアドバイザーとの面談を経て、経験・スキルや希望条件に合う求人の紹介を受けられます。転職サイトや企業サイトでは公募されていない「非公開求人」を知ることも可能です。
転職イベントに参加する
上場企業が単独で「会社説明会」「採用セミナー」などを開催することがあります。また、「転職フェア」では多くの採用企業がブースを出展し、来場者への会社説明や面談を行います。興味がある企業の採用担当者とカジュアルに対話し、お互いを理解するチャンスがあります。
企業サイトの採用ページから応募する
特定の上場企業を目指す場合、企業サイトの「採用ページ」で募集情報を確認し、直接応募することが可能です。
リファラル採用を活用する
社員が友人・知人を自社の人事に紹介する「リファラル採用」の制度を運用している企業もあります。志望企業に友人・知人がいる場合は、入社の可能性について相談してみる手もあります。
上場企業への転職は難しい?
少子化の影響で労働人口が減少している日本では、上場企業といえども人材の獲得に苦戦しています。以前は新卒採用が中心だった企業でも、積極的に中途採用を行っています。こうした背景から、以前に比べて上場企業への転職の門戸は広がっているといえます。
特に昨今では、「第二新卒」を常時採用している上場企業は多数見られます。また、「ジョブ型雇用」(あらかじめ定義した職務内容に基づく採用)を導入する企業も増えていることから、専門スキルを活かして転職できるチャンスが広がっています。
上場企業に転職するメリット
上場企業に転職するメリットとしては、以下のようなポイントが挙げられます。
社会的信用がある
上場企業は厳しい株式上場の審査をクリアしていることで、社会的信用を得ています。顧客の獲得やパートナー企業の開拓など、業務をスムーズに遂行できる可能性が高いといえます。調達した資金を新たなビジネスに投資できる分、働く人にとっても新たな経験ができるチャンスがあるでしょう。
福利厚生や社内制度が充実している
福利厚生や社内制度が整備されており、それらを活用することでワークライフバランスを充実させることが可能です。人材育成プログラムや研修により、スキルアップを図りやすい環境ともいえます。
転職に有利
上場企業は応募者が多く、採用競争率が高めです。上場企業での勤務経験があることで、「上場企業の厳しい選考をクリアして採用された人材」とプラスに評価される可能性があります。また、上場企業で高度なビジネスのノウハウを身に付けている点にも期待が寄せられます。
大きな仕事や上流工程に携われる
上場企業では大規模プロジェクトや上流工程の仕事を手がけるチャンスがあります。社会への影響力も大きくやりがいを感じられること、ビジネススキルを磨けることもメリットの一つです。
上場企業へ転職するための成功ポイント
応募先が上場企業でも非上場企業でも、転職活動で大切なのは「自己分析」「企業研究」であることは基本的に変わりません。しかしながら、志望企業が上場企業であるからこそできる対策もあります。以下のポイントを意識してみてください。
「IR情報」「メディアの記事」を見て企業研究をする
上場企業の公式サイトには、「IR(インベスター・リレーションズ)」の情報が公開されており、投資家に向け、財務状況や今後の事業戦略など、さまざまな情報が開示されています。また、上場企業の経営陣や事業部長クラスの人がビジネスメディアのインタビュー記事で、現在の状況や今後のビジョンを語っていることもあります。
これらの公開情報から、企業が抱える課題や今後の事業計画を企業研究や面接対策を行い、自身が貢献できる経験・スキルをアピールする際に役立てましょう。
転職の目的、入社後に目指すことを明確にする
上場企業の「知名度」や「安定性」に魅力を感じて応募する人も多いと思います。しかし、面接で「志望動機」を聞かれた際、それをストレートに伝えると評価を落としてしまう可能性大。仕事やキャリアの観点で、その企業で何を実現したいのかを語れるようにしておく必要があります。
また、自身の目標や希望を伝えるだけでなく、その企業に対して自身がどう貢献できるかもアピールすることも大切です。
応募のタイミングを逃さない
上場企業の中でも大手企業の場合、年間の採用スケジュールが決まっているケースがほとんどです。特定の時期に求人を公開し、短期間で応募を締め切ることもありますので、志望する企業がどの時期に採用活動を行うのかリサーチし、応募のタイミングを逃さないようにしましょう。
また、大手企業は入社日に融通が利かないこともあります。「この日に入社できない人には内定を出せない」といったケースもありますので、現職の退職交渉・引継ぎの所要期間なども考慮しながら転職活動のスケジュールを組みましょう。
上場企業に転職するために転職エージェントがおすすめの理由
上場企業に転職するためには、「転職エージェント」は積極的に活用するメリットが多くあります。その理由は次のとおりです。
「非公開求人」の情報が手に入る
上場企業は人気が高く、公募すると多くの応募者が集まりすぎて採用担当者が対応しきれない職種や仕事内容もあるため、転職エージェントを通じてのみ採用を行う「非公開求人」の情報が手に入ります。
企業の採用ニーズや業界トレンドに詳しい
転職エージェントのキャリアアドバイザーは特定の業界・職種を担当していることが多く、その業界・職種の最新トレンドをつかんでいます。
また、企業が中途採用を行う背景・理由は、「事業拡大に伴う増員」「欠員補充」「新規事業の創出」「事業変革」「組織変革」などによって多様化しています。転職エージェントを通じて、業界の動き、個々の企業の動きについて情報を得ることが可能です。
自分の経験・スキルに応じた企業を紹介してくれる
自分の経験・スキルが活かせる求人の紹介を受けることができます。近年は、新規事業として異分野に進出する動きが活発です。自分には関係がないと思っていた業種の企業で経験・スキルが活かせるケースもあり、自分1人で求人を探すよりも選択肢が広がる可能性があります。
レジュメや面接のサポートがある
レジュメ(職務経歴書)の作成や面接対策にあたり、強みを効果的にアピールするための書き方・話し方についてもアドバイスを受けることが可能です。面接対策アドバイスでは、応募企業が選考で重視しているポイント、必ず聞かれる質問などについて情報を得られることもあります。
こうした転職エージェントのサポートを受け、非上場企業から上場企業への転職、異業界の上場企業への転職に成功した事例をご紹介します。
転職事例(非上場企業⇒上場企業)
Aさんが新卒入社したのは、従業員100名規模の娯楽用品メーカー。管理部門に所属し、労務管理・広報・HP管理・販促企画・経理サポート・総務など幅広い業務を経験しました。しかし、業績が振るわないことから収入も上がらず、もっと大きな規模の企業でキャリアを積みたいという思いが強くなったことから転職活動を開始しました。
Aさんは「自身には専門性がない」と思い込んでいましたが、教育サービスを手がける大手企業から内定を獲得。「管理部門のさまざまな仕事を理解しているため、全体を俯瞰してスムーズに連携がとれそう」と評価されたのです。
転職事例(異業界の上場企業転職)
Bさんは、人材業界の営業職からM&Aコンサルティングファームへの転職を実現しました。人材会社にて中堅中小企業×経営陣向け営業として高い成果を挙げてきたことから、経営層向けの営業力を評価されたのです。
また、向上心や達成意欲の強さ、交渉力、調整力、プレゼン力などにも期待されました。M&A業務に必要な金融知識はないものの、「これからキャッチアップが可能」と見なされ、採用に至りました。
一方、旅行業界の営業職からネット広告代理店の営業職への転職を果たしたのがCさんです。Cさんは旅行商品の営業において、「商品を売る」「人間関係を築いて売る」といったスタイルではなく、地方活性化やインバウンド関連の企画を考えて商品化に関わり、実績を挙げていました。その企画力、論理的思考力、数字の強さが評価されました。
個人の志向に沿った転職をするには転職エージェント活用がおすすめ
転職活動に臨む際には、「自己分析」が欠かせません。これまでの経験を振り返り、自分の強み・弱み、大切にしたい価値観、これから目指す姿などを考え、整理してみましょう。それらの志向に沿う転職先は、必ずしも「上場企業」ではないかもしれません。
「上場」「非上場」に縛られず、自身にマッチする企業を選ぶことが大切です。迷った場合は、転職エージェントに相談し、客観的な視点でのアドバイスを受けてはいかがでしょうか。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。