転職の応募書類を作成するとき、志望動機を書くのに苦労する方は多いと思います。複数の企業に応募する場合は、1社1社に合わせて作成するのは大変な労力が必要でしょう。履歴書に書ける志望動機がない場合の対処法や、面接に向けて説得力のある志望動機をまとめるための方法について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏がアドバイスします。
履歴書を書く時点では「志望動機がない」でも構わない
履歴書を書く時点で、応募企業に対して明確な志望動機がある場合は、しっかりと記載して志望度をアピールするべきでしょう。ただ、志望動機がまとまらないために、履歴書作成でつまずいているという場合は、とりあえず志望動機を書かずに履歴書を提出しても問題ありません。以下にその理由を解説します。
志望動機に悩むと転職活動が進まない
中途採用では、いつどのような求人が出るか予測できず、また1名〜若干名の募集枠ではすぐに定員に達して締め切られてしまう可能性があるため、応募側にもスピードが求められます。本来であれば応募時に1社1社の企業研究をし、志望動機を書いて書類を作成するのが理想ですが、それでは応募できる企業数が限られてしまい、なかなか転職活動が前に進みません。
また、書類選考では多くの場合、志望動機だけでなく、応募者の経歴、経験・スキルと募集職種とのマッチ度を総合的に評価して合否判断をしています。そこで志望動機の作成に労力をかけすぎれば、書類選考が不通過になった時のロスが大きすぎるでしょう。
無理に書けば齟齬が生じやすい
転職活動では複数の企業に同時に応募することが多いため、応募時点で1社1社の企業研究を十分にする時間が確保しづらいのが現実です。そのような状況で、中途半端な情報や間違った認識を元にしたり、あるいは思いつきで志望動機を書いたりしてしまえば、面接に進んだ時に「話している内容と違うではないか」などと、一貫性を疑われる恐れがあります。従って、志望動機が明確になっていないうちは、無理に文字に残すことを避けた方が無難でしょう。
志望動機欄のない履歴書を使う
とはいえ、履歴書は全ての欄を埋めるのが基本であり、空白があったり「特になし」と書き込んだりしては、企業の印象が良くありません。従って、履歴書時点で志望動機がまとまらない場合は、志望動機欄のない履歴書やテンプレートを使うことをおすすめします。
「志望の動機、特技、好きな学科、アピールポイント」といった自由記入欄が設けられている場合は、アピールポイントなどを記入しておくと良いでしょう。
志望動機は面接までには明確にしよう
上述のように、応募書類を作成する時点では、履歴書に志望動機の記載がなくても問題ありませんが、書類選考を通過して面接に臨むことになれば、それまでには必ず準備しておく必要があります。企業にとって、応募者の志望動機は重要な評価基準であり、面接ではほぼ間違いなく質問されるからです。
志望動機で企業が判断すること
企業の面接担当者が、志望動機を通じて第一に確認するのは、「なぜうちの会社を志望するのか?」ということです。事業内容やビジョン、社風、仕事内容、働き方などに対して、どのような魅力を感じているのか、何を実現したいのかを、その理由も含めて知りたいと考えています。また、企業や応募職種に対する誤解があるとミスマッチにつながる可能性が高いため、応募者が仕事や働き方、社風を理解し、納得しているかどうかも重視するでしょう。
「志望度の高さ」や「企業理解の深さ」を通じて、「自分たちの会社に定着してくれるか」「意欲高く活躍してくれる人か」を評価するのが志望動機です。従って、企業にとっては、「転職理由」や「自己PR」と同様に、とても重要な質問となっているのです。
働くイメージを持つことにも繋がる
面接に備えて志望動機を明確にしておくことは、選考のためのみならず、応募者自身にとっても大切なことです。
そもそも志望動機が思いつかないケースでは、その業界や企業、仕事に対する研究・理解だけでなく、自己分析も十分ではない可能性があります。「年収が良いから」「立地が良いから」といった表面的な理由だけで応募する企業を選んでいると、説得力のある志望動機をまとめるのは難しいものです。仮にそれで転職できたとしても、働き始めてからミスマッチが生じてしまうかもしれません。
応募企業の理念や社風、仕事内容などへの理解を元に、自分の経験との接点を探し、「こんな働き方がしたい」「この会社では、自分のこのスキルが活かせそうだ」といった共通点を見出すことができれば、それが自然に志望動機となり、入社後の働くイメージを持つことにもつながります。企業の期待するものと、自分の経験・スキルがマッチしているかどうかを判断する物差しにもなるでしょう。
志望動機は面接でも磨くことができる
とはいえ、最初から志望動機を完璧なものにしようとして、時間と労力をかけすぎる必要もありません。求人票を読んだり、Webで調べたり、転職エージェントに聞いたりして得た情報は、あくまでも「二次情報」だからです。一次面接の前には無理のない範囲で情報を集め、それらを自分なりの解釈で整理して、志望動機に落とし込めば十分でしょう。
面接では、応募企業の人たちと直接会うことで、未公開の事業戦略や、募集部署の雰囲気といった、よりリアルな「一次情報」を得ることができます。それによって企業理解が深まり、働くイメージがより具体的になり、その企業ならではの志望動機を明確にすることができます。次の面接に臨む際は、前の面接で得た情報を活用し、志望動機をさらにブラッシュアップしていくと良いでしょう。
志望動機を見つけるための4つのステップ
「志望動機が見つからない」「薄い内容しか思いつかない」という人は、まず次の4つのステップに沿って、自身の経験・こだわりと、応募企業の特性を整理し、双方の共通点を見つけて行きましょう。
1.仕事での「こだわり」を明確にする
キャリアの棚卸しを元に、これまでの経験の中で「こんな仕事にはモチベーション高く取り組めた」「こんな場面でやりがいや喜びを感じた」「仕事をする中で○○を大切にしてきた」といったポイントを洗い出します。社会人経験が浅い人であれば、学生時代のサークル活動での経験や、アルバイトなどの経験までさかのぼってもいいでしょう。
また、「近い将来こんな仕事をしてみたい」「こんなポジションに就きたい」といったキャリアプランを描いてみましょう。明確な目標がない人は、今まで会った人物の中からロールモデルになりそうな人物を思い出し、「こんな人になるにはどうすればいいか」を思い描いてみてください。それらを確認する中で、「自分が仕事で大切にしたいこと」「こだわりたいこと」「目指す将来像」が見えてくるはずです。
2.「こだわり」を念頭に企業研究をする
自身のこだわりや価値観、転職の軸を念頭に入れて、応募企業の研究をします。求人票や公式サイトを読み込むほか、ニュースリリース、メディアのインタビュー記事など、さまざまな方面から情報収集をしましょう。もし「新卒採用」サイトがあれば、そこにも目を通しましょう。事業や仕事の内容が学生向けにわかりやすく説明されているので、中途採用の応募者にとっても役立ちます。社員を取材した記事などでは、既存社員がどんな働き方をしているか、どんなやりがいを感じているかが把握できるでしょう。
上場企業なら、IRページなどで決算資料に目を通しておくのもおすすめです。事業内容や今後の方針について、投資家向けにわかりやすく説明されているからです。今後の方針や中長期ビジョンなども記載されているため、応募企業の目指す方向性を理解しておけば、役員面接で効力を発揮する可能性もあるでしょう。
これらの企業情報を調べる中で、相手企業と自分の「大切にしたいこと」「こだわり」の共通点を探っていくようにします。
3.自分の「こだわり」と企業との接点を見つける
企業研究で把握した応募企業の「こだわり」と、自分の「こだわり」が共通している部分を見つけて、面接で伝えられるように準備しましょう。
その際、「御社では○○を大切にしているとのことですが、私も○○に対してこだわりを持ち、常に大切にして働きたいと思っています」というアピールのみで終わるのではなく、なぜ「○○を大切にしたい」と考えるようになったかを裏付ける出来事、経験のエピソードを具体的に語れるようにしておくことが大切です。つまり、その会社の理念や考え方に共感していることを、自身のリアルなエピソードによって証明できるように整理してみましょう。
4.応募企業でどう活躍できるかをイメージする
応募企業としては、「うちの会社の理念に共感してくれている」「企業理解ができている」というだけでは、あなたを採用するメリットを感じることはありません。
例えば「御社の△△という理念を理解しているので、自分の経験・スキルを活かしてこんな提案ができる」「御社のサービスである□□では、私が現職で大切にしている○○を活かすことができると考えている」といったように、自分なりに入社後の貢献をイメージしてみましょう。それが伝えられれば「この人は意欲的に活躍してくれそうだ」という期待感を持ってもらえるでしょう。
例えば営業職なら、入社後の自分の働きを具体的にイメージするために、応募企業の商品群や価格帯、顧客の属性、単価、営業プロセス、受注スパンなどを調べてみることをおすすめします。それによって「価格帯が近い」「提案に自由度がある」など、自身の経験と応募企業の接点をより多く発見でき、志望動機の解像度や、その企業で活躍できるイメージ、説得力を高めることができるでしょう。
志望動機を企業に伝えるときのポイント
上記のステップで、自分と応募企業の共通点について整理することができたら、面接で伝える志望動機を作成していきましょう。志望動機をつくる際は、次の3点を盛り込んで構成します。
- 応募企業を選んだ理由
- 応募企業で活かせる経験・スキル
- 入社後に実現したいこと
その際に気をつけるべき4つのポイントを以下に解説します。面接で伝えたい内容を一通り整理した後に、下記の視点でチェックすれば、より説得力のある志望動機になるでしょう。
業界・企業・仕事内容について、理解の深さを示せているか
志望動機において業界研究や企業研究がしっかりとできていることを示せば、志望意欲の高さも伝わります。下記のように「業界」「企業」「仕事内容」の3軸で、共感や接点を自分なりの言葉で伝えられれば、企業側も「入社後にどう貢献してくれるのか」をよりイメージしやすくなるでしょう。
- なぜその業界に興味があるのか
- 経営理念や事業内容、人や組織、評価などどういう軸で興味があるのか
- どの業務内容で自分の経験・スキルや強みを発揮できるのか
転職理由との間に一貫性があるか
志望動機と並び、必ずと言っていいほど質問される項目に「転職理由」と「自己PR」があります。
- 転職理由……転職を考えるようになったきっかけと、転職によって実現したいこと。
- 自己PR……これまでの経験から得られた自身の強みと、入社後にそれをどのように仕事に活かすことができるのか。
志望動機と上記との間には、一貫性があることが大切です。つまり「御社では○○(転職理由)という希望を実現することができる」「入社したら△△という強み(自己PR)を発揮して貢献したい」という部分で連動しているということです。これらの内容が矛盾していると、企業側は納得感を持てないので注意しましょう。
理念やカルチャーへの共感が見られるか
企業は志望動機を通じて、応募者が自社にフィットする人材であるかどうか、そして入社後にパフォーマンスを発揮してくれるかという点も知りたいと考えています。募集職種に求められる経験・スキルをどれほど高いレベルで持ち合わせていても、経営理念やカルチャーへの理解が浅かったり、共感度が低かったりすれば、本来の力を発揮するのは難しいかもしれません。志望動機を伝える際は、経営理念や企業風土のどのような点にひかれたのか、その理由も合わせて伝えると、企業側の納得度はより高まるでしょう。
入社後に何ができるかを明確にしているか
「入社後に実現したいこと」を伝える際に、「スキルアップしたい」「学びたい」といった自分視点の言葉になってしまったり、「成長中の御社で私の○○力を活かしたい」など、どの企業にも当てはまる内容だったりすると、なかなか相手に響く志望動機にはなりません。
「これまでの〇〇の経験を活かして、御社の□□サービスの改善につなげていきたい」など、自分と応募職種との接点を活かして、具体的に企業にどう貢献したいのかという視点を持った言葉で伝えることが大切です。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。