これまで経験のない業界や職種に転職する「キャリアチェンジ」を実現する方が増加しています。しかし、未経験の業界や職種に転職できるのかと不安に感じる人もいるでしょう。
そこで、キャリアチェンジを成功させるポイントや注意点などを、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説いただきました。
キャリアチェンジとは?
まず、キャリアチェンジの意味を解説します。また、混同されることの多いキャリアアップとの違いも紹介していきます。
キャリアチェンジの意味
キャリアチェンジとは、経験のない業界や職種に転職することです。例えば、不動産業界の営業からIT業界のテクニカルサポートなど、業界も職種も変えることをキャリアチェンジと呼びます。
未経験の業界や職種に転職するため、経験業界・職種への転職に比べると、求人の応募要件によっては、選考通過の難易度が高くなることもあるかもしれません。ただし、世の中に登場して間もない技術・概念などで転職市場に経験者が少ない職種や、異業界の知見を得て社内に変革を起こしたいと考える企業など、業界・職種未経験者にも門戸を広げているケースがあります。
キャリアアップとの違い
キャリアアップとは、より深い知識や経験・スキルを身につけて能力を向上させ、経歴を高めることです。そのため、異なる業界・職種にキャリアを変えるキャリアチェンジとは意味が異なります。
ただし「エンジニアとしてのスキルを磨いてキャリアアップしたいため、事務職からITエンジニアにキャリアチェンジする」など、キャリアアップを目指してキャリアチェンジをするケースもあります。
キャリアチェンジを実現する人は増加中
株式会社リクルートが2023年に発表した転職市場の動向分析によると、キャリアチェンジ(異業種×異職種)の転職パターンが、2022年度には39.3%と過去10年間で最も高い割合を占めました。
出典: 「異業種×異職種」転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた「越境転職」が加速(株式会社リクルート)
業界や職種を越えた転職が主流になっている背景として、中途採用市場の構造的な変化が考えられます。ビジネスの在り方を変革するIX(インダストリアル・トランスフォーメーション)・CX(コーポレート・トランスフォーメーション)などの動きによって、全ての産業において業種や職種を再定義しています。それに対応して、異業種・異職種の人材を積極的に採用していると言えるでしょう。
また、100年時代と言われるなか、働き手の意識の変化も影響しています。終身雇用ではなく、自分の望む働き方に合わせて自由自在に会社を移動する「終身自在」の意識が強まっているのです。そのため、これまでの業種や職種に関係なく、自分の成長機会を提供してくれる会社への転職が増えています。
未経験職種へキャリアチェンジする際に考えておきたいこと
未経験職種へキャリアチェンジする際に考えておきたいことを3つ解説します。
未経験職種で活かせるスキルを分析する
未経験職種へキャリアチェンジする際、今まで培ってきたスキルを活かせるか分析することが大切です。
特に、コミュニケーション力、問題解決能力、リーダーシップなどの汎用的なスキルは、多くの職種で役立ちます。自分の強みを把握し、それを新しい職種でどのように発揮できるかを考えましょう。
転職先の業界や職種について調べ、求められるスキルと自分の持つスキルを照らし合わせることで、未経験から活躍できる可能性が高まります。
キャリアプランをしっかりと考える
未経験職種に転職する際は、長期的なキャリアプランを考えることが重要です。新しい職種で働くことで、どのようなキャリアパスを描けるのかをイメージします。
将来的に目指したい役職やポジションを明確にして「必要なスキルをどのように身につけるのか」「どのような経験を積んでいくのか」といった計画を立てましょう。
また、転職先企業の教育制度やサポート体制についても確認し、自分のキャリア開発に活用できるかどうかを見極めることも大切です。
転職理由を明確にまとめる
未経験職種に転職する際は、転職理由を明確に伝えることが求められます。単に「新しいことにチャレンジしたい」というだけでは説得力に欠けていると受け取られる可能性もあります。
「なぜその職種に興味を持ったのか」「自分のどのような強みを活かせると考えているのか」など、具体的に転職理由をまとめておくことが大切です。
また、その職種で働くことが自分のキャリアプランとどのように関連するのかも説明できるようにしておきましょう。転職理由を明確に伝えることで、未経験でも熱意と適性をアピールできるでしょう。
キャリアチェンジを実現させるポイント
実際にキャリアチェンジを実現させるためのポイントを4つ解説します。
自己分析を行い、経験・スキルを整理する
営業から営業のような経験を活かして転職する場合は、過去の営業実績を数値でアピールし、営業活動に必要な提案力や関係構築力などを自己PRで伝えることで、即戦力として評価される可能性が高くなります。
しかし、営業からマーケティングといったキャリアチェンジの場合は、営業経験をそのままアピールするのではなく、これまでの経験において、異業界・異職種で活かせるスキルがあることを伝える工夫が必要です。そのために、まずはキャリアの棚卸しを行い、経験・スキルを洗い出し、異業界・異職種で活かせるスキルを整理しておきましょう。
ポータブルスキルをアピールする
経験・スキルの洗い出しと整理が終わったら、ポータブルスキルとしてアピールするスキルを絞り込みます。ポータブルスキルとは、業界や職種を越えて持ち運びができるスキルを指します。
例えば、課題発見力やプロジェクトマネジメント、交渉力や傾聴力などが挙げられます。過去の経験・スキルの抽象度を高めることで、ポータブルスキルとして言語化できるでしょう。
うまくスキルが言語化できない場合は、次のスキル一覧から合致するものを探してみましょう。
<自分に関わる力>
決められたことをやり抜く力/忍耐力/継続力/粘り強さ/実行力/活動意欲/集中力/ストレス耐性/主体性(自分で考え行動できる力)/挑戦心・チャレンジ精神/改善・成長意欲/前向き志向/学ぶ姿勢/度胸・本番に強い/感情をコントロールする力/タフさ(精神力)/使命感・責任感/目標指向性・達成意欲/パッション(情熱)/探究心/どのような仕事でも面白みを見つける好奇心/変化対応力・柔軟性
<他人に関わる力>
親しみやすさ/気配り・ホスピタリティ/チャーム(可愛がられる要素)/素直さ/誠実さ/真面目さ/約束を守る/協調性・チームワーク力/指導・育成力/働きかける力(巻き込み力)/わかりやすく伝える力/傾聴力/プレゼンテーション力/理解力/調整・交渉力
<課題に対する力>
論理的思考力/物事の本質を突き止める力/課題発見力/企画力/計画力/想像力/提案力/分析力/広い視点で捉える力/正確性/スピード/PCスキル/文章作成力/計算能力
応募する仕事との共通点を意識する
洗い出した経験・スキルと、興味を持った求人との共通点を見つけましょう。例えば営業からマーケティングにキャリアチェンジする場合は、営業販促としてイベントやPR活動を行っていた経験など、応募する仕事に活かせそうな経験を中心にアピールすることで未経験をカバーできる可能性があります。
過去の経験でなかなか共通点が見つからない場合は、求人に記載されている「求める人物像」などを確認し、仕事への姿勢やこだわりなどに共通点がないか探してみましょう。
希望の業界と職種を詳しく調べる
キャリアチェンジを成功させるためには、志望する業界と職種について企業研究が欠かせません。企業研究が足りないと入社後に不満が発生し、後悔する可能性があります。
志望する業界の現状や将来性、求められるスキルや資格などを調べましょう。また、希望する職種の具体的な仕事内容や、必要とされる経験・能力についても理解を深めることが大切です。
その業界や職種で働いている人が知人にいれば、話を聞くのも参考になるでしょう。入念に調べることで、キャリアチェンジが実現する可能性が高まるでしょう。
キャリアチェンジの注意点
中途採用は一般的に即戦力を重視します。キャリアチェンジを実現する際に、気をつけておきたいことを紹介します。
年収が下がる可能性がある
未経験として転職するキャリアチェンジは、即戦力としてすぐに活躍する経験者よりも育成に時間がかかるため、年収が下がる可能性があります。
年収を下げたくない場合は、転職を検討しつつも、社内異動などで希望職種の経験を身につけることができないか探ってみてはいかがでしょうか。職種経験を身につけたうえで、転職で業界を変えるという方法です。業界も職種も変えてしまうより、社内で職種経験を積んで「業界未経験・職種経験者」として転職することで、年収ダウンを抑えられる可能性があります。
選考通過が難しい可能性がある
同じ求人に経験者も応募した場合、未経験では選考通過が難しい可能性があります。特に、人気の高い企業や職種の求人は応募者が集中することが考えられます。
なかなか選考を通過しない場合は、応募書類を見直して未経験でも会って話を聞いてみたくなるような内容に改善することが必要です。どこを改善していいのか分からなかったり、改善しても選考を通過できなかったりする場合は、転職エージェントに相談してアドバイスを受けましょう。
活躍できるようになるまで覚悟が必要
キャリアチェンジは転職したら成功というわけではありません。実際に希望する業界・職種で活躍し、成果を出せるようになったら成功と言えるでしょう。
経験者でも、転職は職場や社内の人間関係が一新されるため、仕事に追いついて慣れるようになるまで苦労する方も多いものです。業界・職種を変えるキャリアチェンジは分からないことが多いため、仕事に苦戦してしまうかもしれません。
仕事を覚えるまでは一定の努力が必要であることを転職活動前に覚悟しておくと、入社後の困難を乗り切れるでしょう。
キャリアチェンジの場合は転職エージェントに相談しよう
「新しいキャリアを積みたい」ということは決まっているものの、まだ業界・職種が決まっていない場合は、転職エージェントに相談してみるのもひとつの方法です。
これまでの経験・スキルや希望条件から、マッチしそうな業界・職種を提案してもらうことができます。その際は、幅広い業界・職種の求人を扱っている「大手・総合型」の転職エージェントを選ぶことで、選択肢の幅が広がるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。