これから転職活動を開始しようといる皆さんに、失敗を防ぐためにやっておくこと、転職活動プロセスにおいて意識すべきことをお伝えします。転職活動の「前」「途中」「内定前後」の段階ごとの注意点について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏に解説いただきました。
転職活動前の注意点
転職活動の成否は、活動を始める前の準備によって決まると言っても過言ではありません。以下の項目に基づいて準備しておきましょう。
転職する目的・目指すキャリアを明確にしておく
「今の職場に不満がある」「今の仕事に飽きた」など、「現状から脱する」ために転職を考え始めた場合、その状態のまま転職先探しに入らないようにしてください。目的が曖昧なままだと、企業の知名度や条件などにひかれて安易に応募してしまいやすくなり、結果的にミスマッチとなる可能性があります。
まずは、「転職によって何を実現したいのか」を明確にしておきましょう。転職直後だけでなく、5年後・10年後・20年後と、中長期視点で目指すビジネスパーソン像をイメージしておくと、企業選びを誤りにくくなります。
応募企業を選ぶポイントを明確にする
応募企業を選ぶ指標は多岐にわたります。例えば、次のような指標があります。
企業選びで迷わないようにするためには、自分が何を重視するのか、どの指標の優先順位が高いかを明確にしておきましょう。
自分の市場価値や適正年収を把握しておく
転職の成否は、「市場価値」によって左右されます。つまり「自分の経験・スキルの需要が高いかどうか」です。
高度な専門スキルを持っていたとしても、それを求める企業が少なければ「市場価値が低い」ということになります。そして、市場価値は常に変動するものであり、「昨年はニーズが高かったが、今年はそうでもない」ということもあれば、その逆もあります。
当然ながら、市場価値に応じて「年収相場」も変わっていきます。自分の経験・スキルの現在の市場価値・適性年収を把握しておくことをお勧めします。
いつまでに転職するか活動期間を決めておく
転職活動開始から内定獲得、転職先企業に入社するまでの期間は、およそ3カ月~半年程度かかるのが一般的です。選考スピードが速い企業では、応募から1カ月程度で内定が出るケースもあります。
現職に退職意思を伝え、引き継ぎを経て退職に至るまでは最短でも1カ月、有給消化などを含めると3カ月程度を要することもあります。
上記を踏まえ、現職の状況に合わせて退職~入社する時期を定め、そこから逆算して応募開始のタイミングを計りましょう。
退職後に転職活動する場合は生活費を考慮しておく
会社を辞めて転職活動をする場合、失業保険の給付までに2カ月以上かかります(自己都合退職の場合)。それを踏まえ、最低でも3カ月程度の生活費を準備しておくことをお勧めします。
仕事を辞めれば転職活動に集中できるとはいえ、すぐに次の会社が決まるとは限りませんので、失業給付金も合わせて半年程度分の生活費を用意しておくと安心でしょう。
安定収入がなくなると、金銭面の不安から焦りが生じ、妥協して転職先を選んでしまって後悔するケースも見られます。そうした事態を防ぐためにも、資金を用意しておいてください。
できるだけ在職中に転職活動を行う
なるべくなら現職を続けながら転職活動を進めましょう。安定収入を確保しておけば、転職活動が長期化しても焦ることなく、納得のいく企業に出合えるまで活動を続けることができます。転職活動の結果、「今の会社に残るのがベスト」という判断に至ることもあります。
また、ライバルとなる応募者の多くは仕事をしながら転職活動をしているため、「なぜ早々に辞めたのか」と疑念を抱かれる可能性があります。
さらに離職期間が長引くと、「働く意欲があるのか」「ビジネスの感覚が鈍っているのでは」と懸念を抱かれるリスクもあります。
現在の職場の人に転職活動していることは伏せておく
仕事を続けながら転職活動を行う場合、現職の上司や同僚には伏せておいた方がよいでしょう。転職活動をしていることを職場の人に知られると、人間関係がぎくしゃくして居心地が悪くなる恐れがあります。
結果的に転職せず、会社に残ることを決断した場合も、やはり気まずさが残ります。同僚に転職活動中であることを話したり、SNSに投稿したりすることは控えておきましょう。
転職活動用のアカウントやメールアドレスを用意する
応募先企業とのやりとりに使用するツールのアカウントやメールアドレスには注意が必要です。ニックネームや趣味・嗜好に関するワードを使っていたりすると「ビジネスの場にふさわしくない」というマイナス印象を与えることもあります。
無料で取得できるAppleの「iCloud」、Googleの「Gmail」など、転職活動用に新たなメールアドレスを取得するといいでしょう。
また、在籍中の会社のメールアドレスを使用することも「私的利用」にあたり、ルール違反となります。企業によってはメールの送受信履歴を残しているので、必ず個人のメールアドレスを使いましょう。
転職活動中にチェックしたい注意ポイント
転職活動開始後のつまずきを防ぐため、チェックしておきたいポイントをお伝えします。
希望条件を高く・多く設定しすぎない
希望条件の設定が高すぎる、あるいは多すぎると、マッチする求人を見つけにくくなります。求人を探す段階では、妥協できるラインや項目を設定し、選択肢を多く持つことをお勧めします。
希望条件から外れているものの、試しに面接を受けてみたら強い魅力を感じ、納得のいく転職を果たしているケースは少なくありません。
仕事内容・役割を確認する
職種名が同じであっても、企業によって業務内容や役割範囲がまったく異なることも多いものです。例えば「マーケティング」では、「市場調査・分析」が中心であるケースもあれば、「企画・戦略立案」まで行うケース、「営業」に近いケースなどさまざまです。
イメージや思い込みにとらわれず、仕事内容・役割を確認した上で応募する企業を選びましょう。
応募先企業の社風・カルチャーを確認する
経験・スキルがマッチしていても、入社後に「社風」や「カルチャー」にギャップを感じて退職してしまうケースは多々見られます。仕事内容や条件面だけでなく、必ず社風・カルチャーにも目を向けましょう。企業や社員のSNSからつかめることもありますし、選考過程で一緒に働くメンバーと直接話す機会を設けてもらってもいいでしょう。
「年収額」の中身をチェックする
求人情報を見て、「今より給与が上がる」と思っても、実質下がるケースもあるため注意が必要です。現職では付いている各種手当がなくなることにより、給与額がアップしても可処分所得(税金や社会保険料などを除いた所得)が減るケースもあります。
また、「固定残業代(みなし残業代)」が含まれた給与提示であれば、時給換算すると収入ダウンになることもあります。「昇給制度」もチェックし、入社後に給与を上げていけるかどうかも確認することをお勧めします。
転職理由はポジティブな内容にする
面接では必ず「転職理由」を聞かれます。転職理由が現職への「不満」であっても、不満をそのまま答えて終わったのでは、ネガティブな印象を与えてしまいます。
転職を考えたきっかけは不満であっても、「これからやりたいこと」「これから目指すこと」など、ポジティブな思いを整理・言語化し、それを転職理由として伝えるようにしましょう。
職務経歴書は「伝わる」ように記載する
職務経歴書は、これまでの在籍企業・所属部署・担当業務などを羅列して記載しますが、それだけで終わらず、読み手に「強み」が伝わるように作成することが大切です。経歴が豊富な人、異動・転職歴が多い人は特に、冒頭に「職務要約」「活かせる経験・スキル」といった欄を設け、アピールしたい経験・スキルを簡潔に記載することをお勧めします。
また、異業界に応募する場合は、専門用語に注意。異業界の人でも分かる表現に転換するか、注釈を入れるなどの工夫をすることで「配慮がある人」というプラス評価につながります。
「応募企業のニーズ」を踏まえたアピールをする
自分が自信を持っている経験・スキルを一方的にアピールしても、企業側がそれを求めていなければプラス評価を得ることはできません。
求人情報や企業が発信している情報を読み込んで「求める人材像」を理解し、自身の経験の中から相手企業のニーズにマッチしている部分をピックアップしてアピールすることを意識してください。
面接時の「逆質問」を準備する
面接の最後には「何か質問はありますか?」と聞かれます。このとき、「ありません」と答えると、「本気で入社したいと思っていないのだろうか」とがっかりされることもあります。また、残業・休日・福利厚生などの質問を真っ先にすると「条件面しか関心がないのか」とマイナス印象を抱かれる可能性があります。
「逆質問」は、企業への理解を深めると同時に、自分の興味や意欲をアピールするチャンスでもあります。企業研究をしっかり行った上で、仕事に関する質問を積極的にしましょう。
【参考記事】
面接での服装・持ち物・マナーに気を配る
企業の評価は、「第一印象」にも左右されがちです。「清潔感」が求められるため、身だしなみに気を配りましょう。服装や持ち物などから「自社の雰囲気に合わない」「配属先のメンバーになじめそうにない」などと判断されることもあります。TPOを踏まえて選ぶことを心がけてください。また、「挨拶」「言葉遣い」など最低限のマナーも押さえておきましょう。
SNSでの発信に考慮する
企業側は応募者のSNSをチェックしていることもあります。友人に向けた気軽な発信のつもりが、企業側にはマイナス印象を与える恐れもありますので、注意が必要です。もちろん、転職活動の経緯、面接を受けた企業に関する投稿も控えなければなりません。
転職先企業との内定や条件交渉についての注意点
内定獲得後にトラブルが生じるケースもあります。以下のポイントにも注意しましょう。
内定通知への回答期限を確認する
第1志望の企業の選考が終わっていない段階で、第2志望以下の企業から内定が出ることもあり得ます。入社承諾・辞退の返事を待ってもらえる期間は一般的に3日~1週間程度ですが、どのくらい待ってもらえるかを確認し、場合によっては交渉を試みましょう。
このような事態を招かないように、応募段階でスケジュールを調整しておくことも大切です。
応募時の仕事内容や条件に相違がないか確認する
内定時には、必ず「労働条件通知書」を発行してもらい、求人情報の記載条件や面接時に伝えられた条件と相違ないかを確認しましょう。
特に人事機能が整備されていない中小ベンチャーへの転職、友人・知人を介しての「リファラル入社」などでは、最終的な条件面のすり合わせを行い、文書として残しておくことが重要です。
転職エージェントを活用して注意点を管理しよう
転職活動のプロセスでは、思いがけない落とし穴にはまってしまったり、無意識にうまくいかない方向へ進んでしまったりすることもあります。それを防ぐためにも、転職エージェントのサポートを活用してはいかがでしょうか。
仮に転職活動が思うように進んでいない場合も、転職のプロの客観的な視点で改善策の提案を受け、軌道修正ができるでしょう。企業とのやりとりや交渉をサポートしてもらえるという点でも安心です。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。