職場や立場によって忙しさや業務量、プレッシャーなどは異なります。「会社に疲れた」と感じる場合、どのように対処すればいいのでしょうか。そこで今回は、仕事に疲れて辞めたいと感じた時の対処法や、退職するかどうかの判断軸について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏がアドバイスします。
仕事に疲れて辞めたいと感じたら?
仕事に疲れて辞めたいと感じる場合は、自分の状態を冷静に把握することが重要です。厚生労働省は、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を開設しています。所要時間約5分で疲労蓄積度をチェックできるので、自分の疲労蓄積度を診断してみましょう。
厚生労働省:「こころの耳」
働く人の疲労蓄積度セルフチェック(働く人用)
仕事に疲れている理由を明らかにしよう
疲労蓄積度が分かったら、仕事に疲れている理由を明らかにしましょう。理由が分かれば、疲労を解消する対策を講じられるかもしれません。
長時間労働など肉体的な疲れ
労働時間が長く、肉体的な疲労が溜まっているケースです。人手不足や業務量が多い、責任感などの理由から、休みを取りたくても休めずに疲れが蓄積しているケースもあるでしょう。日本の法律では、休日労働を含まない時間外労働の上限は、原則として月に45時間・年360時間です。自分が過度の残業を続けていないか、勤務時間を計算してみましょう。
人間関係による疲れ
疲れが蓄積している理由を掘り下げていくと、その原因に人間関係が影響している可能性があります。例えば、「仕事の進捗確認に時間がかかるため、残業時間が増えてしまう」「人間関係がぎくしゃくするため有給休暇を申請しにくい」など、人間関係が原因となっている場合は、ただ休息を取るだけでは根本的な解決とはなりません。関係性を見直したり上司などに相談したりして、人間関係を改善することから始める必要があるでしょう。
仕事のミスマッチによる疲れ
自分に合わない仕事を続けるのは、思いのほかストレスになるものです。特に、したくない仕事を会社から指示されて、不本意な気持ちのまま仕事を続けていると、モチベーションの維持が難しくなります。仕事に向き合う意欲が出ず、どんどん疲弊感が蓄積していきます。
職場への不満による疲れ
「頑張っても評価されない」「無駄な作業をやらされる」など、職場への不満も疲れの原因になります。自分の仕事が評価されず努力が報われないなど、仕事の徒労感は精神的な疲労としてのしかかります。職場に行くことが億劫になったり、仕事に前向きに取り組めなくなったりして、やる気が下がってしまうでしょう。
仕事の疲れを解消する対処法
仕事の疲れを感じたら、早めにリフレッシュをして心身ともに休息を取りましょう。また仕事で疲れてしまわないように、再発防止策を講じるのも重要です。
仕事を休みリフレッシュする
仕事に疲れた時は、できるだけ休みを取って休息するようにしましょう。政府は働く人の心身のリフレッシュを図ることを目的として、2019年4月から全ての企業で、年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対して、年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられました。職場に遠慮して「有給休暇を取りにくい」という方もいるかもしれませんが、リフレッシュのために義務付けられている休暇なので、遠慮なく取得しましょう。
仕事の進め方などを見直す
仕事の進め方を見直すことも一案です。現状の業務フローを洗い出して、本当に必要な作業なのか考えてみましょう。中には、過去の慣習として必要以上に対応していたり、ニーズは低いのにルーティンワークになっていたりする業務もあるかもしれません。特に業務量が多い場合は、業務の効率化を図ることが重要です。リフレッシュして客観的な視点で仕事の進め方を見直してみましょう。
抱え込まないようにする
自分ひとりで仕事や問題を抱え込んでいて、疲れを感じていることを周囲の人が気づいていないという可能性もあります。また、周囲に助けを求めることで、すぐに対処してもらえるかもしれません。疲れを感じたら、上司や同僚など周囲の人に相談し、解決策を探ってみるといいでしょう。任されている業務量のバランスが悪い場合は、チームで業務をシェアすることで効率化できるかもしれません。また、担当業務変更の相談をするのもひとつの方法です。
生活習慣を見直す
勤務時間が長くなるほど、睡眠時間は短くなる傾向があるため疲労が蓄積します。働き方改革では、休息時間を十分に確保するための試みとして、退勤から次の出勤までの間に一定時間以上の休息(インターバル)時間を確保する「勤務間インターバル」制度の導入が企業の努力義務とされています。日本の労働者を対象とした調査では、インターバル時間が12時間未満の者は、睡眠休養感の欠如、疲労感の増加、ストレスをより感じていることが報告されています。勤務間インターバル制度は、長時間労働が生じやすく、交替制勤務等の勤務形態が不規則になりがちな職種においては、睡眠時間を確保するうえで有用である一方で、健康的な睡眠をとるためには、規則正しいスケジュールで睡眠時間を確保することも重要です。そのため、勤務間インターバルを活用するとともに、睡眠をとる時刻帯が日によって著しくずれることがないような工夫も、同時に取り入れることが望ましいでしょう。
出典:「健康づくりのための睡眠ガイド2023」P13(厚生労働省)
専門家に相談する
自分だけで解決しようとせず、専門家に相談して話を聞いてもらうのも重要です。所属企業に産業医やメンタルヘルスの問い合わせ窓口が設置されている場合は、連絡して状況を説明してみましょう。もし所属企業に適切な窓口がない場合は、前述の厚生労働省のポータルサイトに働く人向けの相談窓口やQ&Aなどが掲載されています。
厚生労働省:「こころの耳」
働く人の疲労蓄積度セルフチェック(働く人用)
退職するかどうかの判断軸
仕事に疲れて会社を退職したくなった場合、勢いで辞めてしまうと後悔してしまう可能性があります。退職するかどうかの判断軸をもとに、冷静に意思決定を行うようにしましょう。
改善余地があるか
現職での仕事の疲れが、改善できる見込みがあるかどうかが判断軸のひとつになります。仕事の疲れが慢性的で長期間続いており、かつ改善余地がないのであれば疲れが解消する可能性が低くなります。一方で、改善余地を探らないまま「疲れた」という理由だけで退職を決めてしまうと、退職後に「決断が早かったのでは?」と後悔するかもしれません。解決を試みても事態が改善せず、疲れが解消しないことが明らかになったら転職という選択もひとつの方法です。
相談できる人がいるか
自分のことを理解して、本音で相談できる人がいるかどうかも判断軸のひとつです。心身が疲れていると、冷静な判断ができなくなる可能性があります。客観的な視点でアドバイスをしてくれる人がいると、勢いや主観だけで判断することなく適切に行動することができるでしょう。的確なアドバイスがなかったとしても、抱えている悩みを伝えるうちにストレスが解消するかもしれません。また、悩みを言語化すると思考が整理されるので、打ち手が明らかになる可能性もあります。相談できる人が周りにいるかどうか、考えてみましょう。
やりたいことがあるか
「仕事に疲れた」という理由で退職してしまうと、転職活動時に企業選びの軸がないため、自分に合った仕事を選ぶのが難しくなるかもしれません。例えば、「残業が少ない」「責任がない」など、「負担が少なそう」「疲れない」という観点だけで仕事選びをすると、続けるうちにやりがいを感じられなくなったり、キャリアに不安を感じたりする可能性があります。「疲れた」以外に、転職してやりたいことがあるかどうかも判断軸のひとつです。転職理由は、面接でも聞かれやすい質問なので、説得力のある転職理由を伝えることができれば、選考でもプラスに働くでしょう。
退職する場合の注意点
疲れが解消しない場合は、退職という選択肢もあります。ただし、すぐに転職を考えている場合は注意が必要です。転職活動は応募書類を作成し、選考通過した企業とは面接をすることになります。面接で気を張り詰めて話すこと自体が疲れる上に、選考通過しなかった場合は、自己肯定感が下がったり徒労感を覚えたりする可能性があります。また、入社すると仕事内容も働く環境も大きく変わるため、しばらくは疲れや負担を感じやすくなります。
そのため、疲れが解消できていない状態ですぐに転職活動を始めると、心身に負担がかかってしまうかもしれません。転職を検討している場合は、有給休暇を取得したり、入社日まで余裕を持たせたりして、しっかりと休息を取るようにしましょう。疲れが解消した状態で転職した方が、新しい仕事に意欲的に取り組みイキイキと働ける可能性が高まるでしょう。
退職する前に情報収集や転職活動をしてみよう
仕事に疲れを感じて転職を考えた場合は、まず心身を休めることが最優先となりますが、時間や気持ちに余裕が生まれたら、情報収集や転職活動を始めてみることもひとつの方法です。転職活動を始めたとしても、必ず転職しなければならないわけではありません。情報収集や転職活動をした結果、「現職に残る」という選択もあるでしょう。
情報収集や転職活動を始めることで、様々な企業や業界・職種の働き方を知ることができるため、現在置かれている状況を客観的に判断することができます。また、転職活動で色々な企業の話を聞いてみることで、視野を広げることもできます。疲れていると、どんどん視野が狭くなってしまう可能性があります。十分な休息を取ってから、情報収集や転職活動を進めて視野を広げ、今後のキャリアを冷静に判断するようにしましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。