転職活動を始めるなら、ぜひ取り組んでおきたいのが「キャリアの棚卸し」です。これまでの業務経験、身に付けたスキルなどを洗い出して整理することで、自身の強みや志向を把握でき、今後目指す方向性が明確になるでしょう。キャリアの棚卸しの効果やメリット、棚卸しのステップ、転職での活用法などについて、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。
キャリアの棚卸しとは
「キャリアの棚卸し」とは、これまでの仕事経験を振り返り、業績や成果、身に付けた知識・スキルなどをすべて洗い出す作業です。これらを整理するうちに、自分の得意分野や志向性、モチベーションの源泉などが明らかになります。
転職活動を始める前にキャリアの棚卸しを進めておくと、職務経歴書作成に役立つだけでなく転職の方向性も定まりやすくなります。
キャリアの棚卸しの効果やメリット
キャリアの棚卸しを行うことで、どのような効果やメリットがあるかを具体的にご紹介します。
経験・スキルを整理できる
キャリアの棚卸しを行うと、これまでの経験や身に付けたスキルを整理し、可視化できます。定期的にキャリアの棚卸しを行うことにより、自分の実績を振り返るとともに、課題や目標も見えやすくなります。今後身に付けたい経験・スキルなども確認することができるでしょう。
強み・アピールポイントが分かる
キャリアの棚卸しのプロセスで、成果、周囲から褒められたこと、印象に残っている仕事なども振り返ってみると、共通点が見えてくることがあります。
共通点を言語化してみると、「主体的に動いた方が力を発揮しやすい」「人に頼りにされるとやる気が出る」など、自分の強みや価値観が浮き彫りになるでしょう。
キャリアの棚卸しによって認識した強みや価値観は、転職活動における求人選びや自己アピールの軸として活かすことができます。
履歴書や職務経歴書作成に役立つ
履歴書や職務経歴書の職歴欄には、過去に所属した企業や部署、仕事内容などを記載します。キャリアの棚卸しでこれまでの経験を振り返り、時系列で書き出しておけば、履歴書や職務経歴書はその内容を整理して記載すればいいので効率的です。
書き出した内容やボリュームに合わせて履歴書のフォーマットや職務経歴書のまとめ方を考えることができる点もメリットです。
今後のキャリアを考えることができる
これまでの経験を振り返ることによって、キャリアの方向性を考えることができます。例えば営業を経験している場合、以下のようにいくつものキャリアの方向性があります。
- 営業のプレイングマネジャーとして管理職になりたい
- 扱う商品を変えることで提案力を高めたい
- 語学力を鍛えてグローバルに活躍する営業になりたい
- 営業経験を活かして企画やマーケティングに幅を広げたい
希望する方向性へ向かうために、これから身に付けるべき経験・スキルを考えたり、場合によっては異動や転職を検討したりと、今後のキャリアプランを立てやすくなるでしょう。
キャリアの棚卸しのやり方
キャリアの棚卸しのやり方について解説します。3つのステップに従って進めましょう。一例として、法人営業職の場合の見本もご紹介しますので、参考にしてみてください。
ステップ1:これまでの経験を書き出す
これまで経験してきた内容をひととおり書き出してみます。担当した業務・商材・顧客、挙げた成果、工夫したこと、仕事への取り組み姿勢、参加プロジェクトなど、思いつくまま書き出してみましょう。
記憶だけを頼りにすると進まなかったり、抜け漏れもあったりするので、過去の手帳やスケジュール表、メールの履歴などを見ながら洗い出してもいいでしょう。
なお、経歴が浅い、所属部門や仕事内容が大きく変わっていないといった場合は、1日の業務を細かく書き出して、実績や成果、工夫したことや心がけていたことまで振り返るといいでしょう。
<一例>
●人材派遣の法人営業
・新規開拓、既存顧客深耕
・担当顧客/金融業界、人事・総務部門
・ターゲット企業を絞り、業界分析や顧客分析を行ったうえでアプローチした結果、大手証券会社との新規契約に成功した
●ソフトウェアサービスの法人営業
・新規開拓、既存顧客深耕
・担当顧客/製造業、官公庁、教育機関、ゼネコン
・決定権者のアポイント獲得に注力。技術部門のリーダーに同行を依頼し、プレゼンテーションの説得力を高め、信頼を得た
・お客様からの紹介を促進した
●組織横断プロジェクトのリーダー
・業務改善プロジェクトでビジョン策定、課題設定、プランニング、メンバーマネジメント
●新しい営業組織の立ち上げ
・教育業界向け新製品の拡販を目指し、本部長・部長との協議、ミッションの設定、タスクの洗い出し、メンバーの育成、風土醸成
ステップ2:時系列に整理する
洗い出した経験を時系列に、項目を立てて並べ、整理します。このとき、担当部署の配属期間、プロジェクトの参加期間なども書き添えて、時系列が正しいか確認してみましょう。仕事に関わる細かな数字も書き出しておくと、後々職務経歴書を作成する際に役立ちます。
<一例>
20XX年XX月~20XX年XX月 ○○○○株式会社 新宿支店
中小企業を中心に幅広い業界に対して対象に事務系派遣スタッフの提案営業を行う。
派遣スタッフの就業フォロー、派遣契約管理など。
【営業スタイル】新規開拓100%(全て飛び込み営業、40社/日)
【担当地域】新宿及び近隣地区
【取引顧客】担当社数常時約20~30社
【実績】
20XX年度:売上1億2千万円 達成率:100.5% ※10月度 新人賞を獲得
20XX年度:売上3億1千万円 達成率:120.0% ※上半期、支店内MVPを獲得
20XX年XX月~20XX年XX月 新橋支店
大手企業から中小企業まで幅広い対象に事務系派遣スタッフの提案営業を行う。
派遣スタッフの就業フォロー、派遣契約管理など。
【営業スタイル】新規開拓50%、既存顧客50%
【担当地域】新橋及び銀座の一部地域
【取引顧客】担当社数常時約20~30社(主に金融業界を担当)
【実績】
20XX年度:売上3億2千万円 達成率:100.5%
20XX年度:売上4億1千万円 達成率:130.0% ※通期支店MVPを獲得
20XX年XX月~20XX年XX月 ○○○○株式会社 東京本社営業部
主に製造業向けグループ企業に対する販促営業とユーザーフォロー営業及び有力代理店の開拓
【営業スタイル】代理店営業
【担当商品】自社基幹系パッケージ(生産管理・受発注システム)及びそれに伴うH/W
【実績】20XX年:売上4550万円 達成率:130% ※大型受注に成功したことで社長賞を獲得
【主な導入実績】某自動車部品メーカー社に対して、グループ会社を含め基幹パッケージのリプレイスの受注
ステップ3:強みを抽出する
これまでの経験を分析して、成果が出て周囲から褒められたりモチベーション高く取り組んだりした仕事をピックアップします。その仕事をさらに掘り下げていって、なぜ成果を出すことができたのか、モチベーションの源泉は何だったのかを考えてみましょう。
例えば、「納期の前倒しを意識した」「顧客に対して傾聴を心がけた」など、成果を出したり意欲的に取り組んだりしていた仕事に共通点があれば、それが自分の強みや仕事でのこだわりになります。
なかなか見つからないときは、「なぜ」を何度も繰り返して自分の内面を深く掘り下げていきましょう。
<一例>
●課題の発見・解決が得意
→顧客への徹底的なヒアリングを大切にすることで、潜在的な課題をつかめる
●組織営業で実績を挙げている
→他部門にも積極的に働きかけて協力を依頼し、営業活動に巻き込んだ
●リーダー、マネジャーとしてチーム目標を高いレベルで達成
→メンバーのモチベーションアップにつながる独自の施策を導入した
ステップ4:強みを抽出・整理した職務経歴書の作成
ここまで書き出した内容を「職務経歴書」としてまとめます。職務経歴が多い場合は、直近の経歴から書き出し、過去にさかのぼっていく方が、採用担当者が経験・スキルを理解しやすいでしょう。
特にアピールしたいキャリアは「活かせる経験・知識・技術」などの見出しを立て、冒頭に記載しておくと採用担当者に伝わりやすくなります。ステップ3で抽出した「強み」は、職務経歴書の最後に「自己PR」欄を設けて記載しましょう。
キャリアの棚卸し結果を転職に活用する方法
キャリアの棚卸しによって洗い出した内容は、転職活動に活かすことができます。次のような場面で活用してみてください。
キャリアの方向性や転職の軸を明らかにする
これまでの経験・スキルを踏まえ、今後目指したいキャリアや、強みを活かせる職場を見つけることができます。
例えば、「営業として、経営に関わる課題の分析・提案が得意であることに気付いた。今後はコンサルタントを目指そう」「特定業務だけで専門性を磨くより、幅広い業務を経験していきたいので、ベンチャー企業の方が向いていそうだ」など。キャリアの棚卸しで得られた気付きを、今後のキャリアプランに活かすことができるでしょう。
棚卸しを元に応募書類を作成する
キャリアの棚卸しをして作成した時系列の過去の経験は、履歴書や職務経歴書の経歴欄に活用することができます。履歴書の場合は在籍した企業名と入退職の履歴、もしスペースがあれば、所属部署や簡単な業務内容を入れてもいいでしょう。
職務経歴書の場合はフォーマットが決まっていないので、キャリアの棚卸しで洗い出した業務内容から、応募する業界や職種で活かせそうな経験を中心にまとめていきます。
特にアピールしたい経験は、「活かせる経験・知識・技術」の欄を設け、箇条書きで伝えるのも有効です。
強みや仕事のこだわりから自己PRを作成する
強みや仕事のこだわりは自己PRに活かすことができます。自己PRは、過去の経験を「(1)結論となる「強み」」「(2)根拠となる具体的なエピソード」「(3)強みを活かして転職先で活躍、貢献できること」の3つの構成でまとめると伝わりやすくなります。できれば応募企業の仕事内容や求める人材などにマッチしている自己PRを選ぶと良いでしょう。
キャリアの棚卸しには、転職エージェントを活用しよう
キャリアの棚卸しを行ってもなかなか強みが見つからない場合は、「第三者」の目線を知るのも一つの手です。「周囲の人から褒められたこと」を思い出したり、一緒に働いたことがある人に「自分の強みはどこだと思うか」と聞いてみたりするのです。
また、転職エージェントに相談するのもおすすめです。キャリア・転職支援のプロの目線で職務経歴を見てもらう、あるいは対話をすることで、自分では気付かなかった強みを発見できるかもしれません。
明らかになった強みを起点として、今後のキャリアプラン、活躍できる可能性がある業界・職種・企業などについてのアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。
ディスクリプション:キャリアの棚卸しの仕方について知りたい方にむけ、効果やメリット、転職に活かす方法などについて解説します。|転職エージェントならリクルートエージェント。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。