退職・転職活動の場面で使われる定型句に「一身上の都合」があります。どのような場面でどのように使えばいいのか、書き方の例、退職理由として使う場合の言い換え例、使い方の注意点などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
「一身上の都合」とは?
「一身上の都合(いっしんじょうのつごう)」とは、その人の身の上や境遇に関すること、個人的な問題や事情を意味します。ビジネスシーンや日常生活の中で、私的な事情について詳細を伝えることがはばかられるような場合に、「一身上の都合」と表現します。
私的な事情の一例としては、結婚、出産、希望する仕事や企業への転職、起業、病気、ケガ、家族の介護、配偶者の転勤、家族の都合による引っ越しなどが挙げられます。
転職活動で「一身上の都合」を使う場面
転職活動において「一身上の都合」を使う場面と、それぞれの場面でどのように使うかをご紹介します。
現職を退職する際の退職願・退職届に記載する
勤務している企業に退職願・退職届を提出する際、定型句である「一身上の都合」を使用するのが一般的です。詳細な理由については、退職願・退職届には記載せず、面談で聞かれた場合に答えるといいでしょう。
転職活動の履歴書に記載する
転職活動において、応募企業に提出する履歴書の「学歴・職歴」欄に、過去に勤務した企業の退職歴を記載する際、会社都合退職でない場合は「一身上の都合」を使用しましょう。
なお、「一身上の都合による退職」と「自己都合の退職」は、同じ意味で使われます。私的な事情での退職であり、詳細を伝えたくない場合は「一身上の都合」と表現しましょう。
ただし、退職理由を伝えても差し支えない場合や、伝えたほうがプラスになると感じた場合は、履歴書や職務経歴書に理由を記載する方法もあります。
内定辞退の理由を企業に伝える際に使う
応募した企業から内定が出たものの内定を辞退する場合、辞退する理由の詳細は伝えず、「一身上の都合」を使うことも可能です。
「一身上の都合」の書き方と例文
退職時や転職活動で提出する文書において、「一身上の都合」を使う場合の例文と書き方のポイントをご紹介します。
退職願・退職届に書く場合
<退職願に書く例文>
<退職願に書く例文>
- ポイント
会社都合ではなく、自らの意思や事情によって会社を退職する場合は、「一身上の都合」と記載します。とはいえ、上長や人事担当者などとの面談では退職理由を聞かれるでしょう。その場合、退職理由が会社への不満であったとしても、それをストレートに伝えることは避け、「今後のキャリアプランの実現のため」など、前向きな理由を答えることをおすすめします。
履歴書・職務経歴書に書く場合
<履歴書の例文>
年 | 月 | 学歴・職歴 |
20XX | X | 株式会社〇〇〇〇 入社 |
20XX | X | 一身上の都合により退職 |
現在に至る | ||
以上 |
- ポイント
履歴書の職歴欄では、自己都合退職の場合、定型文として「一身上の都合により退職」と記載します。
職務経歴書に書く場合も「一身上の都合により退職」などのように簡単に記載します。
また、「留学」「資格取得」など、スキルアップを目的に退職して職歴に離職期間(ブランク)がある場合、その旨を記載しておくことで納得を得られ、前向きな印象を与えられる可能性があります。
内定辞退する場合
<メールの例文>
件名:内定辞退のご連絡/○○○○(氏名)本文:○○○株式会社 人事部
△△△様お世話になっております。○○と申します。
先日は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。
大変恐縮なのですが、一身上の都合により、内定を辞退いたします。
内定までに何度も面接のお時間を割いていただいたにもかかわらず、
このようなご連絡となってしまい誠に申し訳ございません。
また、本来であれば貴社へお伺いし、直接お詫びをするべきところではございますが、
メールでのご連絡になりましたこと、重ねてお詫び申し上げます。
末筆ながら、貴社の益々のご発展をお祈り申し上げます。
===============
署名
===============
<電話の例文>
自分「大変お世話になっております。私、○日に内定の通知をいただいていております○○○○と申します。人事部の□□様はご在席でしょうか?」
人事「はい、私が□□です」
自分「この度は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。大変申し上げにくいのですが、一身上の都合により、御社からの内定を辞退したく、ご連絡をいたしました。ご期待に添えず大変申し訳ございません」
人事「○○さんにはぜひ入社いただきたいと考えていたので、とても残念ですが、また機会がありましたらよろしくお願いします」
自分「ご理解いただきありがとうございます。本来であれば御社へ伺って、直接お詫びをするべきところですが、電話でのご連絡となり申し訳ございません。この度は、□□様を始め、みなさまには大変お世話になりました。それでは失礼いたします」
- ポイント
内定を辞退する際、辞退の理由を伝えず、「一身上の都合」を使用しても差し支えないでしょう。ただし、相手企業が選考の時間を割いてくれたことに対する感謝の言葉、入社の期待に沿えないことへのお詫びの言葉も添えておきましょう。
応募書類に退職理由を記載する際の「一身上の都合」の言い換え例
履歴書や職務経歴書などに退職理由を記載する際、「一身上の都合」とは異なる表現を使う場合の言い換え例をご紹介します。
離職期間(ブランク)がある場合
離職期間(ブランク)がある方は、例えば「留学」や「資格取得の勉強」など、前向きな理由がある場合はそのまま伝えてもいいでしょう。
<言い換え例>
海外留学のため退職
資格取得のため退職
一方、前向きな理由なしにブランクが空いてしまった場合、採用担当者から「この間、何をしていたのだろう?働く意欲はあるのだろうか?」と懸念を抱かれる可能性もあります。その場合、「自己PR」欄などで、「強みとする経験・スキル」「応募企業にどのように貢献したいと考えているか」を記載し、入社意欲をアピールするのも一つの方法です。
「パワハラで辞めるから一身上の都合と書きたくない!」という場合は?
パワハラや給料の未払いなどが理由で退職する場合は、「会社都合による退職」に該当する可能性が高いでしょう。
「会社都合」に該当しそうな理由がある場合は、安易に「自己都合による退職」とせず、どのように対処すべきか調べてみましょう。ハローワークでも相談に応じてもらえます。
会社都合退職となった場合は、履歴書に「会社都合により退職」と記載します。
「一身上の都合」が使えない場面
会社都合によって退職した場合は「一身上の都合」ではなく、「会社都合により退職」と表現します。契約社員や派遣社員など有期雇用契約で働き、契約期間が満了して退職した場合にも「一身上の都合」は使わず、「契約期間満了により退職」と表現します。
会社都合に該当するのは、会社が倒産した場合、経営破たんや業績悪化に伴う人員整理などで一方的に解雇された場合、ハラスメントや過度の長時間労働など職場環境に問題がある場合などです。
また、会社からの退職勧奨に応じた場合や、会社の都合で労働契約が更新されない場合もこれに当たります。
退職理由を直接聞かれたら「一身上の都合」で押し通してもいい?
現職の会社に退職を申し出る際、また、転職活動での面接や内定辞退の際には、理由を直接聞かれる可能性があります。その場合、「一身上の都合」とだけ伝えても問題はありませんが、注意したいポイントをお伝えします。
退職の申し出をする場合
上司に退職の申し出をする際には、「一身上の都合」では納得してもらえない可能性があります。詳しい理由を伝えず、「一身上の都合」だけで押し通そうとすると、相手も感情的になり、「強く引き留められる」「退職届を受理してくれない」「退職まで職場の居心地が悪い」といった状況に陥るケースも見られます。
スムーズに退職するためには、退職理由を聞かれたときにきちんと答えましょう。また、現職への不満や批判は避け、前向きな理由を語ることをおすすめします。
転職の面接で聞かれた場合
転職の面接では、退職理由を聞かれることもあります。採用担当者は、退職理由を知ることで、自社で活躍できそうかどうかを判断しようとしていますので、「一身上の都合」だけでなく、相手が納得できる理由を伝えることが大切です。
このとき、現職(前職)への不満や批判ではなく、「これから目指すこと」「今後の目標」などを伝えるようにしましょう。家庭の事情や体調などが理由の場合は、伝えても問題のない範囲で伝える方法もあります。
内定辞退する際に聞かれた場合
企業には採用計画があるため、内定を出した人材には「できる限り入社してほしい」と考えているものです。また、内定辞退の理由について聞き、「今後の採用活動の参考にしたい」と考えているケースもあります。こうした背景から、内定辞退の際には、「一身上の都合」だけでなく、辞退する理由を深く聞かれる可能性があります。
他社に入社することを決めた場合でも、「慎重に検討した結果、他社とのご縁をより強く感じた」など、相手にきちんと配慮する伝え方をしたほうが、内定辞退を受け入れてもらいやすく、トラブルも発生しにくいと言えるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。