
新規事業創出の動きやマイナス金利解除の影響を受けて、銀行では異業種から人材を採用する動きが活発化しています。証券会社でも、ウェルスマネジメントの強化により、リテール領域で積極的な採用活動が行われています。そこで、金融業界・M&A領域に精通したリクルートエージェントのコンサルタントの知見を基に、金融業界の採用動向と転職市場で注目される金融人材の採用ニーズとキャリアパスについて解説します。
※レポートは2024年12月~2025年1月取材時の情報を基に作成しています。
銀行の業界動向・採用動向と働く魅力
銀行の業界動向・採用動向と働く魅力について、大手銀行と地方銀行に分けて解説します。
銀行の業界動向
改正銀行法が2021年に施行され、銀行は本業以外の事業に参入しやすくなりました。大手銀行では、新たな収益の柱を作るために新規事業に取り組んでいましたが、マイナス金利が解除されたため、金利上昇に伴い既存事業にも力を入れ始めています。大手銀行と異業種の企業が提携するなどの、新たな金融サービス創出の動きは今後も続くでしょう。
地方銀行では、地域企業の経営人材の紹介事業に取り組むなど、新規事業に進出する動きも見られますが、特に力を入れているのは大きな手数料収益が見込める「ストラクチャードファイナンス(仕組み金融)」です。大手銀行にて取り組みが先行しているファイナンススキームに地方銀行も追従し、エネルギーやインフラなどの大規模なプロジェクトに融資を行う「プロジェクトファイナンス」や、持続可能な社会を実現するための金融「サステナブルファイナンス」などに参画する地方銀行が増えています。
銀行の採用動向
新規事業に取り組む大手銀行では、事業を前に進めるだけでなく、ガバナンス強化を企図した採用が活発化しています。中でも、リスク管理、コンプライアンス、監査人材の求人ニーズが高い状況です。また、新規事業プロジェクトを牽引できる企画系の人材もニーズが高く、異業種からも積極的に採用しています。例えば官公庁出身の方が、調整力や企画推進力を評価され、大手銀行に採用されました。ステークホルダーが多い官公庁のプロジェクトで調整を重ねながら推し進めた経験が評価されています。他にも、異業種でサステナビリティ関連の企画に携わっていた方が、知識や経験を評価されて採用されたというケースもあります。
地方銀行では、ストラクチャードファイナンスを強化するために、大手企業に対して大規模なファイナンスを提案できる人材のニーズが高まっています。大規模なストラクチャードファイナンス経験者の多くは大手銀行や都市銀行出身者です。そのため、大手銀行や都市銀行でストラクチャードファイナンスの経験を持ち、役職定年を迎えたミドルシニア層の採用が地方銀行で増加しています。役職定年を撤廃する地方銀行も増えており、大手銀行でストラクチャードファイナンスを経験した50代のミドルシニアが、「60歳まで前職年収を維持」という条件で内定を得たという事例もあります。
こうした役職定年撤廃の動きは、人材の流動性が高まる大手銀行にも及ぶでしょう。優秀な人材の退職・離職防止やモチベーション維持のために、今後も役職定年撤廃も含めた人事制度の改定の動きは拡大すると考えられます。
銀行で働く魅力
2021年に銀行法改正が改正され、銀行の業務範囲が大幅に拡大しました。その結果、銀行と銀行以外の企業が提携し、フィンテックを中心とした新規事業創出を積極的に行っています。異業種出身者にも活躍できるフィールドが広がっているため、銀行で働くことで世の中にない新たなサービスに携われる可能性もあるでしょう。
証券会社の業界動向・採用動向
証券会社の業界動向・採用動向と働く魅力について解説します。
証券会社の業界動向
対面型ビジネスが中心の証券会社も、デジタル化や顧客拡大のためにオンラインで取引できるインターネット証券を展開しています。しかし、既に圧倒的なシェアを占めているインターネット証券会社があるため、差別化のために対面型の証券会社は「ウェルスマネジメント」を強化しています。ウェルスマネジメントとは、富裕層を対象とした個人資産の包括的管理サービスを指し、対面型ビジネスで培った関係性構築力や提案力などの強みを活かすことができます。
証券会社の採用動向
ウェルスマネジメントの強化に伴い、対面型の証券会社は従業員の人材育成とともに、社外からも人材を採用して、富裕層向けのサービスを拡大しようとしています。採用の中心は、他の証券会社や銀行で富裕層を担当していた経験者です。中堅の証券会社で富裕層を担当していた人材が大手証券会社に転職するなど、ウェルスマネジメントに活かせる経験を評価されて採用に至るケースが増加しています。また、一部の証券会社では、資産運用に関する金融商品の知識は社内で身につけるとして、百貨店や高級車のディーラー、投資用不動産の販売会社などで富裕層に接した経験がある異業種人材を、ポテンシャルを評価して採用するケースが見られています。
証券会社で働く魅力
対面型の証券会社の場合、債券や株、投資信託や提携している企業の保険商品など、様々な商品を提案できるのが魅力です。特にウェルスマネジメントの領域では、顧客の資産規模が大きいため、顧客が中小企業のオーナーで事業売却を検討している場合はM&Aの提案を、スタートアップの経営者だったらIPOやそれに伴う資産管理スキームの提案などが可能です。対面型の証券会社には、富裕層や企業向けに高度な提案をするための専門部署も設置されており、専門家を巻き込みながら仕事をすることで、ファイナンスの知見を深められる点が魅力です。
異業界からもニーズ急増!金融人材のキャリアパス
銀行の法人営業を経験すると、企業の経営層から融資などの相談を受ける機会が増えます。顧客の事業内容や財務状況などを確認し、今後の事業戦略や改善点などを提案するため、銀行の法人営業経験者が財務会計や経営の知見を評価され、コンサルティングファームに転職する方が多い傾向があります。最近ではIT業界からのニーズも高く、銀行向けのDXやシステムを提案する部門などで、金融の知見とポテンシャルを評価されて銀行出身者が転職するケースが増加しています。
ファイナンスの専門部署であるストラクチャードファイナンスを取り扱っていた方が、資金調達を図りたい事業会社の財務のポジションとして転職したり、不動産金融の部門にいた方が大手デベロッパーに転職したりするケースも見られます。また、金融系のビジネスは、金融庁への登録が必要です。金融庁とやり取りする際は、金融犯罪対策などディフェンスラインの知見が求められるため、コンプライアンスやリスク管理の領域の専門的な知識がある金融人材は、決済ビジネスやクラウドファンディングなど新しい金融サービスを提供する企業からのニーズが非常に高く、中にはシニアにも門戸を広げる企業も見られます。
他にも、新規事業の創出やマーケットの拡大を目指し、大手メーカーやグロース市場上場企業、メガベンチャーを中心にM&Aのニーズが増加しています。ただし、M&Aは高い専門性が必要になるため、事業会社内で知識や経験を培うのが難しいという課題がありました。そこで、M&Aを検討する事業会社では、M&A経験を持つ銀行や証券会社、FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)の金融人材のニーズが高まっています。従来であれば、平均年収の高い金融人材は、事業会社と給与水準が折り合わずに転職を断念する傾向がありましたが、高度プロフェッショナル制度などの様々な制度を活用しながら、経営判断としてM&A経験を持つ金融人材の獲得に乗り出しているケースが見られます。ある大手メーカーでは、30代後半の金融人材に1500万円を超える年収を提示するといった事例もあります。
法改正やデジタル化などによって、ビジネスモデルが変化し人材の流動性も高まっている金融業界。金融人材が異業種で活躍するケースや、逆に異業種出身者を受け入れるケースも増加しています。リクルートエージェントでは金融業界に精通したキャリアアドバイザーが多数在籍しています。情報収集に転職エージェントのサービスをご活用ください。
リクルートエージェント ハイキャリアコンサルタント
早﨑 薫
新卒で大手都市銀行に入行。法人営業として、ベンチャー、中小、大手問わず幅広い規模、業種の企業様を担当。法人営業をするなかで、多くの企業様の事業成長には、適切な人材の登用が必要不可欠だと感じたため現株式会社リクルートに転職。現在は、金融領域専門コンサルタントとして、大手金融機関の転職支援を担当。
得意分野
・金融領域全般(銀行 証券 決済に特に注力しております)
・特にM&A、ストラクチャードファイナンスなどのフロントから、リスク、コンプライアンス、監査などの2-3線においても転職支援実績が多くございます。
藤井 悠々
新卒で政府系金融機関に入社。
大阪府内の支店にて、主に中小企業向けの融資業務に従事。
その後、日本の人材ビジネスを変革すべく、2021年、株式会社リクルートに入社。
金融領域選任のコンサルタントとして、金融機関におけるハイキャリア層の転職支援を担当。
得意分野
・金融業界全般(特に、政府系金融機関、大手銀行、大手信託銀行)
井澤 真美
新卒で中央省庁に入省。7年間行政に携わった後、2007年に現株式会社リクルートに入社。一貫して戦略・企画系職種の方々の転職支援と、当該ポジションの採用支援に従事。現在は主に経営企画・事業企画・投資・M&A・マーケティング系職種のプロフェッショナルとして、業界横断で当該領域の採用支援と転職支援に従事。特にM&A、投資領域の実績を豊富に持つ。
得意分野
・経営企画領域(M&A、経営管理、構造改革、サステナビリティ、政策渉外等)
・事業開発領域(事業創出・事業推進・新規事業等)
・コンサルティング(戦略・M&A・イノベーション等)*IT領域除く
・マーケティング(広報、PR等)