
履歴書の「本人希望記入欄」は、求職者の希望を記入できるスペースとして設けられていますが、どれくらいまでであれば自分の希望を書いてもよいのか、希望を書くことによって悪い印象を与えることになりはしないかと心配になる人もいるのではないでしょうか。
ここでは、本人希望欄に書くべきことや書かない方がよいことについて、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が例文や採用担当者の本音も交えて解説します。
目次
本人希望欄に書くことがなければ「貴社の規定に従います」と書いておこう
履歴書の本人希望欄は、特に記載することがない場合も、空欄のままにしておくことは極力避けましょう。特に希望がない場合は、「勤務条件は貴社の規定に従います」などと記載しておきます。希望がある場合は、追って紹介する書き方や例文を参考に、なるべくシンプルに分かりやすく記載しましょう。
履歴書の本人希望欄は譲れない条件がある場合に書く
履歴書の本人希望欄には譲れない条件のみを記載するべきとする考え方について説明します。
本人希望欄には譲れない条件だけを書くことが一般的
本人希望欄に自分の希望を記載した場合、採用担当者はその記載事項を入社にあたっての絶対条件と受け取る可能性があります。本人希望欄には、自分にとって譲れない条件に絞り、簡潔に記しましょう。
必須条件に絞らずに複数の希望を記載した場合、採用担当者は「事業内容や仕事内容などではなく、条件面で転職先を選んでおり、当社への志望度は高くないのではないか」といった懸念を抱く可能性があります。また、募集要項に記載されているよりも高い給与や役職などの希望を記載した場合は、仮に人材要件に合致する経験・スキルを保有していたとしても、「希望条件がミスマッチのため選考の対象外である」などと判断されることも考えられます。
一方、募集要項に「職種」「勤務地」が複数提示されている場合は、本人希望欄に希望を記載するとよいでしょう。応募企業が希望職種などを理解した上で書類選考を進められるためです。希望職種などが複数あったり、応募段階では決めかねたりする場合は、「現段階での希望順位は、第1希望:●●、第2希望:〇〇、第3希望:〇〇となります」「第1希望はこれまでの●経験を活かせる〇〇ですが、〇〇や〇〇にも興味をもっております。検討いただければ幸いです」といった要領で補足するとよいでしょう。
待遇や志望動機を書く欄ではない
一般的に本人希望欄への記載は、「給与」や「勤務時間(残業の有無)」など待遇に関する希望は推奨されていません。希望を細かく記載した場合は、書類選考の段階で「条件ばかりを気にする人」というマイナスの印象を抱かれてしまう可能性があります。待遇面での希望がある場合は、面接の場や内定時に交渉するのが一般的です。ただし、「給与」や「勤務時間」が入社にあたって譲れない条件である場合は、記載してもよいでしょう。
「志望動機」についても、履歴書に設けられている「志望動機欄」に記載しましょう。志望動機を本人希望欄に記載すると、文書作成のマナーや仕事の正確性、慎重さなどに懸念を抱かれる可能性もあるので注意しましょう。
希望がある場合は基本的に面接ですり合わせる
譲れない条件以外の細かい条件は、面接の場ですり合わせましょう。選考が進んで求職者自身の入社意欲が高まった場合、当初希望していた条件の優先順位が下がる可能性もあるためです。
履歴書の本人希望欄に書きたい事があるなら事例を参考にしよう
- 実際に希望がある場合の例:配属部署や職種、給与や待遇、在宅勤務やハイブリッド勤務
- どうしても譲れない条件・事情がある場合の例:勤務地、転勤、勤務時間
- 企業側に知っておいて欲しいことがある場合の例:家庭の事情、学業、制約や配慮
- パート・アルバイトの例:シフト希望日、テスト期間、長期休み
実際に希望がある場合の本人希望欄の書き方例
本人希望欄に希望を記載する際の例文を紹介します。
配属部署や職種の希望をしたい場合
複数の配属部署が提示されている場合や、営業職、事務職など複数の職種を同時に募集している場合、希望の配属先や職種を記載する際は、配属部署や職種名を求人内容に記載されている正しい名称で記入しましょう。

なお、本人希望欄に配属部署や職種の希望を記載した場合、採用担当者は「希望が明確なので、希望部署や職種と、経歴・経験・スキルなどが合致するかどうかで書類選考を行おう」「その配属部署や職種を希望する理由の記載もあれば、加味して書類選考で検討しよう」「これまでの経験と異なる職種を希望する場合は、職務経歴書や履歴書の志望動機・自己PRなどからマッチするかどうかや希望する意図・理由をしっかり確認しよう」と捉えることが考えられます。
給与など待遇の希望がある場合
前述のとおり、本人希望欄は待遇の希望を記載することは推奨されませんが、優先順位が高くて、どうしても譲れない条件であれば、記載する方法があります。例えば、「年収●万円以上でないと絶対に転職しない」と決めている場合、選択肢は狭まるかもしれませんが、条件を満たす企業でのみ選考が進む可能性が高まり、求職者にとってもミスマッチを減らすメリットがあるからです。

なお、希望する給与が現職や前職での給与よりも大幅に高い場合や、募集要項に提示された給与よりも高い場合などは、採用担当者が「その金額を希望する理由を知りたい」「なぜ希望に合致しない当社に応募したのか」という疑問を抱くことも考えられます。その結果、「募集要項をきちんと読まずに応募企業を選定しているのではないか?」という印象を抱かれたり、「経歴・経験・スキル・実績などと見合った希望であれば検討するが、見合っていなければ希望は叶えられないので選考は見送ろう」といった結論を導かれたりする可能性も想定しておきましょう。
在宅勤務やハイブリッド勤務の希望がある場合
在宅勤務や在宅勤務とオフィスワークを組み合わせたハイブリッド勤務を希望する場合は、その旨を記載する方法があります。その企業で在宅勤務やハイブリッド勤務が行われていない場合、採用担当者は理由を知りたいと考える可能性があるため、理由も併せて記載した上で、細かな条件については柔軟に応じる姿勢を示すことをお勧めします。

なお、フルタイムでの出社を原則としている企業や、在宅勤務・ハイブリッド勤務を特定的にのみ認めている企業の場合、採用担当者の「自社の希望とミスマッチであるため、選考を進めることは難しい」という判断を招く可能性もあることを留意しておきましょう。
どうしても譲れない条件・事情がある場合の書き方例
本人希望欄にどうしても譲れない条件や事情を記載する際の例文を紹介します。
勤務地を限定したい場合
勤務地が限られる場合は、理由も併せて希望する勤務地を記載する方法があります。

なお、希望する勤務地の募集では、経験・スキルなどがマッチしない場合、採用担当者は「希望する勤務地での書類選考通過は見送らざるを得ない」と判断する可能性もあるでしょう。一方、他の勤務地の募集では経験・スキルがマッチする可能性がある場合は、「他の勤務地で働くことは検討できないだろうか」と幅広く検討してもらえることも期待できるかもしれません。そのためにも、理由を付しておくことが望ましいでしょう。
転勤に関する希望がある場合
転勤先が限定される場合や、転勤自体に応じられない場合などは、理由も併せてその旨を記載する方法があります。その際、「転勤はできない」「転勤はしたくない」などの直接的な表現は避け、「〇〇市内での勤務を希望いたします」といったポジティブな表現に言い換えるのが望ましいでしょう。
なお、2024年4月より、改正職業安定法施行規則によって、求職者等に対して明示しなければならない労働条件として、「就業場所の変更の範囲」が追加されました。したがって、まずは求人票や募集要項に明示された就業場所(勤務地)の範囲を検討した上で、自分の希望と合致かするかどうかを検討する必要があるでしょう。

転勤が頻繁にある職種、転勤が発生する可能性が高い職種などにおける募集の場合、採用担当者としては「転勤に関する希望が合致しないため、書類選考通過は難しい」と判断したり、「転勤に関する希望については、選考を通じて詳しく事情等を確認しすり合わせをしたい」と考えたりする可能性もあるでしょう。
勤務時間に関する希望がある場合
所定の時間内に勤務することが難しいことがあらかじめ分かっている場合は、理由と頻度や、勤務が可能な時間帯などを記載する方法があります。

なお、希望に沿った勤務が難しい場合、採用担当者が「条件が合致しないので書類選考通過は難しい」、あるいは「求職者の希望する時間帯と、当社が検討可能な時間帯の条件が折り合うかどうか、面接等の場ですり合わせたい」といった判断を導く可能性があるでしょう。
企業側に知っておいて欲しいことがある場合の書き方例
応募先企業に知っておいて欲しい事情を記載する際の例文を紹介します。ただし、いずれの場合においても、本人希望欄という限られたスペースで、応募という初期段階にどこまで個人情報を開示するか迷う人や、自分の希望や状況を文字情報のみで正確に伝えられるだろうかと、不安を抱く人もいるかもしれません。本人希望欄では、選考を進める上でどうしても伝えておくべきことのみにとどめ、詳細は面接や面談など対面できる場で伝えるなど、より正確に伝えられる方法を選択するのも一案です。
家庭の事情がある場合
家庭の事情で定期的に休暇を取りたいことなどを伝えたい場合は、理由を添えてその旨を記載する方法もあります。

採用担当者としては、家庭の事情を事前に把握し判断材料が増えたと感じるとともに、入社した場合に家庭の事情が業務にどのくらい影響をするのか、家庭の事情が求職者自身に高い負荷がかかることなどを懸念する可能性があるでしょう。
学業と両立したい場合
夜間大学等に通う社会人が転職するケースなどで、学業と仕事を両立したいという希望を記載したい場合も、本人希望欄に記載する方法があります。

採用担当者としては、学業との両立が業務に与える影響や、入社後の業務へのキャッチアップがスムーズに行えるかどうかといった懸念を抱くかもしれません。したがって、「現職(あるいは前職)では、業務に支障なく両立していた」という実績や、具体的な学業のスケジュール、卒業などのタイミングなども記載してあると丁寧でしょう。
心身の制約や特別な配慮が必要な場合
持病のための通院など、心身の制約や、業務上の配慮が必要な場合は、状況に応じて希望を記載する方法があります。

企業には従業員への安全配慮義務があるため、採用担当者は、自社の労働環境や募集職種において希望を満たす対応が可能かどうかを検討する必要があると考えるでしょう。例えば腰痛の持病を持つ求職者であれば、業務によって持病の腰痛が悪化するリスクはないか、悪化させるような労働環境ではないか、といった点を検討しながらの選考となることが考えられます。
パート・アルバイト募集の場合の本人希望欄の書き方例
パートやアルバイトの方が本人希望欄に希望を記載する際の例文を紹介します。
シフトの希望日を伝えたい場合
パート・アルバイト募集の場合は、希望がシフトにマッチするかどうかが重要になることから、希望を具体的に記載する方法があります。

パートやアルバイトの場合、採用担当者は、シフト調整にどの程度、柔軟に対応してもらえるのかという点に関心が高いと考えられるため、勤務を希望する曜日以外にも対応できる曜日があるかどうかなど、ほかの選択肢も記載しておくと、より丁寧でしょう。
学校のテスト期間がある場合
高校生や専門学校生、大学生や大学院生などの学生で、テスト前やテスト期間中は勤務できない旨をあらかじめ申し出ておく場合も、本人希望欄に記載する方法があります。

「別途相談させていただければ幸いです」と記載することで、採用担当者は、試験期間中にどの程度勤務日を減らせばよいのか、面接などの場ですり合わせたいと考えるでしょう。そのため、面接までに現実的な時期を見積もっておくことが望ましいでしょう。
長期休みなど特定の期間だけ働きたい場合
高校生や専門学校生、大学生や大学院生などの学生で、長期休暇中など特定の期間にのみ勤務したい場合、その旨を具体的に本人希望欄に記載する方法があります。

採用担当者は、希望の期間以外の勤務も期待できるのかを知りたい可能性があります。面接の場で聞かれることも想定して考えておくとよいでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2023年11月08日
記事更新日:2025年03月18日 リクルートエージェント編集部