転職においては、「給与」も重要な要件の一つです。しかし、給与交渉をしてもいいものか、どのタイミングでどのように希望を伝えればいいのか、悩む人も多いでしょう。給与交渉を持ちかけるタイミング、希望金額の伝え方、交渉時の注意点などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
転職活動で「給与交渉」はしてもいい?
選考が進んでいる企業に対し、給与額を交渉することは問題ありません。とはいえ、交渉によって希望が叶えられるとは限りません。
経験・スキルが企業から高く評価されていれば、希望を聞き入れてもらえる可能性がある一方、評価があまり高くない場合、企業側が想定する額に上乗せして採用したいとは思われない可能性があります。
また、「他社から年収○○円でオファーを受けている」など、他社を引き合いに出して交渉を持ちかけた場合、考慮してもらえるケースもあるものの、志望度合いや入社意欲に懸念を抱かれて採用を見送られるケースもあります。
このように、希望する金額や交渉の仕方によっては選考に影響を及ぼしかねないため、慎重に行うことが重要です。
転職活動における給与交渉のタイミング
応募企業に希望給与額を伝えるタイミングは、「内定前」と考えられます。企業側はその応募者に任せる仕事内容に加え、給与額も含めて「内定」の判断をします。
内定後に給与額アップを求められたら、企業は「それだけの給与額を出しても採用する価値はあるのか」「その給与額に相当するポジション・職位で内定を出し直すことはできるか」といった観点で再検討を行います。
場合によっては再度面接が設定され、内定・入社時期が先送りとなってしまうこともあります。内定までの選考期間で、給与交渉を切り出すタイミングは以下のとおりです。
面接中:面接担当者から希望給与額を聞かれたときに答える
面接中、面接担当者に「給与額の希望はありますか」などと聞かれたときが、求職者としても給与交渉を切り出しやすく、最適なタイミングと言えるでしょう。この質問を受けるのが1次面接なのか最終面接なのかは、企業や人によっても異なります。
どのタイミングで聞かれてもいいように、希望給与額のその理由を語れるように準備しておきましょう。ただし、面接で給与額が話題に上がらないまま、選考が進んでいくこともあります。
面接中:こちらから質問する
面接中、企業側から希望給与額を聞かれない場合、こちらから質問する方法もあります。面接の最後には「何か質問はありますか?」と振られることが多いので、このタイミングで交渉してみてもいいでしょう。
ただし、一次面接の段階から給与の話をすることに対し、抵抗感を抱く採用担当者もいるでしょう。選考の中盤~後半、相互理解が進んだ頃合いを見計らいましょう。
また、「質問はありますか?」と聞かれたとき、即座に給与の話を持ち出すと「一番の興味は給与なのか」と、思われるかもしれません。まずは仕事内容や事業戦略などに関する質問をし、その後で「給与額についてもお聞きしておきたい」と切り出すといいでしょう。
なお、「交渉相手」を間違えないよう、注意が必要です。配属先部門長や役員クラスに対し、給与交渉を持ちかけるのは避けたほうがいいでしょう。一定規模以上の企業の部門長や役員は、そもそも給与テーブルやオファー年収の算出方法などを細かく把握していないケースもあるものです。
人事部門でオファー年収を検討・算出し、部門長や役員に提案して承認を得るのが一般的です。中小ベンチャー企業などに応募する場合は経営陣へ直接交渉するケースもありますが、そうでない場合は「人事担当者」に相談しましょう。
最終面接後の面談で伝える
企業によって異なりますが、「最終面接が終了した直後に人事担当者と面談」「内定の方向である旨の通知を受け、後日訪問して面談」などのケースがあります。企業が前向きに採用を検討しており、意向確認や希望条件のすり合わせを行う場として「条件面談」と呼ばれる場合もあります。
なお、最終面接後に条件面談が設定されると、「内定したも同然」と捉える方もいらっしゃいますが、内定が確定したとは限りません。強気の交渉に出て横柄な印象を与えてしまうと、内定の方向へ進んでいても見直される可能性もありますので注意してください。
なお、このタイミングでの条件面談は交渉を切り出すには最適なタイミングといえますが、こうした条件面談が行われない企業もあります。
選考途中段階でメールを送る
最終面接の前、あるいは最終面接後で結果が出る前などに、メールで給与交渉を持ちかけるのも一つの方法です。
ただし、文字だけのやりとりでは意図が十分に伝わらず、企業側の心証を損ねる可能性もあります。希望金額とともに、意図や背景などをなるべく丁寧に記載するようにしましょう。
次回の面談や面接などで改めて説明したいとする意向を添えておくと、丁寧な印象になり、企業側も交渉に応じてくれるかもしれません。
給与交渉で希望金額を伝えるポイント
給与交渉で希望金額を伝える際、意識しておきたいポイントをお伝えします。
現職の年収、経験・スキルをもとに提示
企業から「その額を希望するのは妥当」という納得を得るためには、希望給与額の「根拠」を示すことが大切です。現職(前職)の年収額(基本給・各種手当・賞与含む)、経験・スキルに基づく金額を伝えましょう。現職で昇格・昇給が見込まれている場合、それも根拠の一つとして伝えてもいいでしょう。
なお、異業界に転職する場合は、その業界の水準や相場を理解しておく必要があります。また、多くの企業には独自の給与テーブルが設定されているため、転職エージェントを利用中の場合はキャリアアドバイザーに相談してみるなど、応募先企業の想定額から大きく逸脱しないように注意しましょう。
求人票の金額を踏まえ、企業への貢献度をアピール
求人票の給与欄には「○○万円~○○万円」と、幅を持たせて記載されていることがあります。その範囲内を目安として、自身の経験・スキルを踏まえて入社後にどの程度の貢献ができるかを想定しましょう。
例えば、「これから開拓しようとしているマーケットの知見があるため、売上拡大に貢献できる」「若手メンバーのマネジメントも担える」など、なるべく具体的に活躍のイメージを伝えてアピールすることで、希望給与額の納得感が高まるでしょう。
「最低希望金額」と「希望金額」をセットで提示
「少なくとも○○万円以上、可能であれば○○万円を希望しています」といったように、どうしても譲れない最低ラインの金額と、本来の希望金額をセットで伝えることをおすすめします。幅を持たせて提示することで、企業側に検討の余地が生まれ、調整を図ってもらいやすくなることが期待できます。
給与交渉においての注意点
給与交渉したいと考えたとき、注意すべきポイント、考えるべきポイントは以下のとおりです。
提示された給与額に対して交渉したいとき
企業から提示された金額に納得できない場合、上乗せを交渉したいと考えることもあるでしょう。しかし、内定通知と同時に提示された場合、希望を通すのは難しいかもしれません。
給与額も含め、決裁が下りた上で内定通知を出しているからです。年収交渉はなるべく「内定前」に済ませておきましょう。
企業によっては内定後の面談で相談に応じてもらえるケースもありますが、企業の給与テーブルからかけ離れた額を要望すると、内定時の給与額から変更がなく、給与交渉が実現しない場合もあるでしょう。
自分を過大評価していないか
給与額の決定においては、一般的に現年収額がベースとなります。その上で、企業側が「この人は即戦力として期待できる」「この人の経験・スキルがどうしても欲しい」と考えていれば、上乗せ交渉の余地があります。
しかし、「求めているレベルには達していないが、入社後に成長してくれれば……」など、入社後の可能性に期待して採用を決めている場合、現時点で高額な給与を要求されると「それなら採用しない」という判断になるかもしれません。
そこで、まずは企業が求める経験やスキルをしっかり把握することが重要です。それを自分が備えていると確信した上で交渉するなら、受け入れられる可能性があります。
「自分の経験・スキルにはこれだけの価値があるはず」と自負していても、相手企業がそれを求めていない、評価していないのであれば、給与額に反映されるのは難しいと言えるでしょう。
業界の給与水準からかけ離れていないか
業界や企業によって給与水準が異なるため、職種や仕事内容の難易度が同じでも給与額に差が出ます。給与水準が高い業界から低い業界に移る場合、ポジションはアップするのに給与はダウンというケースは少なくありません。
なお、中堅~大手企業では役職・等級・年次に応じた給与テーブルが細かく決まっているケースが多数です。既存社員とのバランスをとる必要があるため、給与交渉によって大幅な増額が実現する可能性は低いと考えておきましょう。
交渉の流れは適切か
「この人は条件や待遇面の話ばかりするな」と思われてしまうのは避けたいもの。まずは経験・スキルをアピールすることに注力しましょう。
「自分の経験を活かせば、こんな貢献ができる」「自分の営業手法を導入して、売上高を倍増させることを目指す」といったように、自身が相手企業に対してどのような利益を提供できるのかをなるべく具体的に示しましょう。その上で希望給与額を伝えれば、相手も納得しやすくなります。
転職エージェントを活用して給与交渉の準備・コツを知ろう
給与交渉について不安を抱いているなら、転職エージェントに相談するといいでしょう。転職エージェントは、過去の実績から、業界・職種の給与相場、応募企業の給与水準を把握していることがあるだけでなく、求職者の経験・スキルが応募企業でどの程度評価されそうかを予測できることもあります。
自身が希望する金額が適切かどうか、企業に交渉の余地があるかどうか、どのような経験・スキルをアピールすれば希望給与額に納得感を持ってもらえるかなどについて、アドバイスを受けてはいかがでしょうか。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2022年10月22日
記事更新日:2024年09月25日 リクルートエージェント編集部