年収アップを転職の目的にする方は少なくありません。では、年収アップ転職を実現するためには、どのような企業や職種を選び、どのようにアピールすればいいのでしょうか。そこで、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に、年収アップ転職のポイントや注意点を伺いました。
目次
給与が転職のきっかけになる人は多い
株式会社リクルートが実施したアンケート調査によると、転職のきっかけとして給与や年収を挙げる人は多く、「給与が低かった(26.1%)」「年収を上げたかった(23.1%)」という回答はランキングの上位となっています。
年代で見ると、「給与が低かった」と答えた人は20代では4位の21.1%、30代では1位の29.0%、40代では3位の29.2%、50代では2位の27.3%という結果に。給与が転職のきっかけになるのはどの年代でも珍しいことではないようです。
出典:リクルートエージェント「年代別転職理由の本音」
※データは公開時点の情報です。
転職で年収アップした人の割合
2024年04-06月期のリクルートエージェントにおける「転職時の賃金変動状況」のデータでは、「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者数の割合」は36.0%という結果になっています。これは、転職が決まった方の、3人に1人は1割以上の年収アップを実現しているということです。
なお、「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者数の割合」は新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年1-3月期を起点に大きく水準が下がりましたが、翌年の2021年1-3月期には感染拡大前の水準に戻り、統計を始めた2002年4-6月期以降、最高値を更新しながら上昇を続けています。
出典:リクルートエージェント「2024年04-06月期 転職時の賃金変動状況」
※データは公開時点の情報です。
年収アップ転職が可能なケースとは?
年収アップ転職を実現するには、給与水準が高い業界・企業、または成果重視の仕事を選ぶという方法があります。また、転職市場に少なく企業ニーズの高い職種を目指すという方法もあります。年収アップ転職を実現しやすいと思われるケースをご紹介します。
給与水準が高い業界・企業
業界や企業によって給与の相場があるといわれています。厚生労働省が発表している「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」の「第5表 産業、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率」によると、「電気・ガス・ 熱供給・水道業」のインフラ産業が最も高く402.0万円、次いで「学術研究,専門・技術サービス業(385.5万円)」、「情報通信業(378.8万円)」という結果に。一方、最も低いのは「宿泊業,飲食サービス業」の257.4万円で、最も高い産業とは約150万円の開きがあります。
出典:「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(厚生労働省)
また、リクルートエージェントに掲載されている求人票の想定年収ランキングでは、監査法人やコンサルティングファームなどが上位となっています。給与水準が高い業界・企業を狙うことが年収アップ転職の方法のひとつですが、給与水準が高い業界や企業は専門性を求められることも多いため、未経験からチャレンジする場合は転職の難易度が高くなると考えられます。
出典:リクルートエージェント「想定年収ランキング」
※データは公開時点の情報です。
成果・実績重視の仕事
未経験から年収アップを目指したい場合は、基本給に加えて成果や実績に応じてインセンティブが支給される営業職を選ぶという方法もあります。さらに高い年収を実現したい場合は、基本給の割合が低く実績が報酬に連動するフルコミッション型の仕事もあります。年収に応じて目標に対するプレッシャーも大きくなることもありますが、実績を重視するため経験不問であることが多く、年収アップにチャレンジしたい・成果がダイレクトに報酬につながる仕事がしたい方には向いているでしょう。
転職市場でニーズの高い職種
業界・企業の年収水準もありますが、年収は転職市場での需給バランスも影響します。企業からのニーズが高く、かつ求職者が少ない職種は年収が高くなる傾向があります。そのため、まず自分の経験・スキルの転職市場価値を把握することが重要です。企業ニーズの高い職種にキャリアチェンジする、経験の幅を広げる・専門性を深めて価値を高めるなど、自分の市場価値を確認することで、今後のキャリアの方向性が見えてくるでしょう。ただし、転職市場の動向や自身の市場価値は、一人では把握しにくいため、転職エージェントなどに相談するといいでしょう。
転職で100~200万円アップは可能?
内定時に提示される年収は、応募企業の「給与テーブル」と「人材ニーズ」、そして求職者の「実績や能力」と「前年収・希望年収」で総合的に判断されるのが一般的です。企業からの評価が高く、給与テーブルに応じて年収を設定した結果、年収が100~200万円アップするケースもあります。
一方で、企業の評価が高くない場合は、年収アップを希望しても応じてもらえない可能性があります。また、評価が高く好印象で企業としてはぜひ採用したい人材であっても、希望年収が給与テーブルを大幅に超えている場合は、採用を見送るというケースもあります。
年収アップ転職を実現するためのポイント
年収アップのための交渉を行うために、事前に理解しておきたいポイントを解説します。
経験・スキルの市場価値を把握しておく
年収交渉を行う場合は、転職市場における自身の経験・スキルの市場価値を理解しておくことが大前提です。市場価値に見合う年収で交渉すれば、企業も受け入れやすくなりますが、市場価値に見合わない年収を希望すると、交渉が難航する可能性が高くなります。また、市場価値を正しく把握しておけば、「自分はもっと評価されていいのでは?」「希望年収が高すぎるかもしれない」などの不安や迷いが少なくなります。企業から提示される年収の納得度も高くなるでしょう。
応募企業の年収相場を理解する
企業の多くは等級(グレード)に応じた給与テーブルに従って、募集しているポジションの年収を設定しています。給与テーブルを大きく超えた年収を希望しても、応じてもらえない可能性が高いので、事前に応募企業の年収相場を理解しておきましょう。求人の多くは、「想定年収」「年収例」が記載されています。例えば、「800万円/入社8年目」と記載されている場合は、一定の経験があるリーダークラスで800万円程度、と読み取ることができます。また、「450万円~600万円」と記載されている場合は、600万円以上の年収交渉は「難易度が高い」と判断することができるでしょう。
根拠を提示しながら年収交渉を行う
年収交渉は、根拠を提示して行うことがポイントです。例えば、「前職の年収がXXX万円だったので、維持したいと考えています」「○○経験と××実績があるので、年収XXX万円を希望します」など、応募企業に納得してもらいやすい理由を伝えましょう。また、年収の伝え方として、どうしても譲れない「最低希望年収」と転職で実現したい「希望年収」を伝えるという方法もあります。2つの年収を提示することで、企業側も検討がしやすくなるでしょう。
転職で年収がアップした事例
応募企業にどのようにアピールすると年収アップが実現できるのでしょうか。年収アップ事例を粟野氏に伺いました。
年収100万円アップ(営業)
機械メーカーの営業(年収350万円)→外資IT企業の営業(年収450万円)
新卒入社したメーカーで営業をしていたAさんは、3年が経ち営業活動にも自信を持ち実績も出していたことから転職を決意。学生時代に短期留学経験があり、語学力を磨くために英会話も続けていたので、年収アップを目的に外資系企業を中心に応募していました。
面接前には企業研究をしっかりと行い、志望意欲の高さや実績をアピールした結果、年収100万円アップで内定を獲得しました。
年収70万円アップ(コンサルタント)
研修会社の営業(年収500万円)→シンクタンクのコンサル営業(年収570万円)
研修会社で営業リーダーをしていたBさんは、30代を目前にして年収アップを実現するために転職活動を始めました。研修会社では、人材開発の価値を経営層に提案することが多かったため、中小企業へのトップアプローチ実績をアピールしていました。その結果、経営コンサルティングを行っているシンクタンクに経営層向けの提案営業力を評価され、70万円アップで転職を実現されました。
年収150万円アップ(SE)
SIerのSE(年収500万円)→SIerのSE(年収650万円)
新卒入社した小規模SIerでプロジェクトをリードし、30代半ばには会社のエースとして頼りにされていたCさん。PLとして様々なプロジェクトを抱え忙しい日々でしたが、立場や忙しさに給与が見合わないと感じるようになりました。転職活動を始めたところ、PL経験と高い技術力を評価されて複数の企業から内定が出ました。内定が出た企業のうち、最高額だった年収650万円の中堅のSIerを選択。なお、提示された年収は、将来的なPM候補としての評価も加味されています。
年収アップ転職の注意点
年収アップ転職は、入社時の年収に固執しすぎないことが重要です。面接でのアピールが功を奏して年収アップで転職を果たしても、大きな期待がプレッシャーとなって成果が出せず、入社後の昇給が伸び悩んでしまうケースもあります。一方で、年収アップができなくても、自分に合った企業・仕事を選んだことで大きな成果を挙げ、入社後に大幅な年収アップが叶うケースもあります。
特に近年は、定期昇給よりも「成果を挙げれば報酬に反映する」という人事制度・評価制度を導入する企業が多いため、転職時の年収だけでなく、中長期的な視点で年収を上げられるかどうかも注目しましょう。面接時に、「どのような成果を挙げると、いくらくらい年収を上げられますか」と、評価と年収の相関について聞いてみてもいいでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。