今の会社に不満を抱いた際、安易に転職に踏み切る前に、転職することによる「メリット」「デメリット」を理解しておきましょう。場合によっては、転職しないほうがいいケースもあります。転職のメリット・デメリットについて、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏が、「収入」「人間関係」「働き方」などさまざまな観点でアドバイスします。
目次
転職をするメリットは?
転職することでどんなメリット・デメリットが生じるかは、当然ながら人によって異なります。ここでは、メリットを感じられる可能性があるポイントをご紹介します。応募先企業を選ぶ際、希望条件の優先順位を付けるための参考にしてください。
年収がアップする可能性がある
現職よりも給与水準が高い業界・企業などに転職することで、年収アップの可能性があります。また、自身の経験・スキルが転職先で高く評価された場合、前職を上回る年収額を提示されることも期待できます。転職によってマネジメントポジションに就くなど、役職が上がることにより年収が上がるケースもあります。
前職の人間関係の悩みが解消される
上司や同僚との折り合いが悪い場合、環境を変えることで人間関係のストレスが解消し、仕事へのモチベーションが上がることもあります。前職では相性が良くない上司から低く評価されていたことも、転職先では高く評価されるケースも見られます。
新しい経験・スキルが身に付き、キャリアアップできる
「こんな仕事に取り組みたい」「あんな職種を経験したい」と希望を出しても、現職では異動ができなかったり、そもそもその仕事・ポジションがなかったりする場合、転職によって希望をかなえられる可能性があります。
また、転職先で新たな経験・スキルを身に付けることで、その後のキャリア展開の選択肢が広がります。成長業界に移れば、将来のキャリアにも安定感が生まれるでしょう。
ワークライフバランスが整い、自分が望む働き方ができる
転職によって働き方が変わる、あるいは残業が減る、休日が増えるなど、自身が望むワークライフバランスを実現できる可能性があります。テレワークやフレックス勤務など、柔軟な働き方制度がある企業を選べば、時間の使い方の自由度が高まるでしょう。
自分に合った社風や制度のある会社で働ける
「理念」や「パーパス(企業の存在意義)」に共感できる会社、価値観を共有できる仲間が多い会社であれば、やりがいを感じながら働けるでしょう。また、「チームワーク重視」「個人に裁量権が与えられる」といったように、仕事の進め方が自分に合っている会社を選ぶことで働きやすくなります。評価制度に納得できる会社を選ぶこともポイントです。
より興味がある商材や事業に携われる
自身が好きな製品・サービスを扱ったり、人や社会への貢献を強く感じられる事業に携わったりすることで、高いモチベーションを持って仕事に取り組めるでしょう。
転職するデメリットは?
転職前はリスクに気付くことができず、転職後に「こんなはずではなかった」と後悔するケースもあります。転職でデメリットを感じる可能性があるポイントをご紹介しますので、転職するかどうか・どんな企業を選ぶかを考える際に注意してみてください。
年収が下がる可能性がある
特に、未経験の業界へのキャリアチェンジを図る場合、即戦力としての評価を得にくい分、年収ダウンとなる可能性があります。また、大手企業から、まだ事業が軌道に乗っていないスタートアップ企業などに転職する場合も、年収が下がるケースが多いといえます。
なお、基本給が前職よりアップしたとしても、手当や福利厚生などがなく、可処分所得(税金や社会保険料などを除いた所得)が減ることもあります。
新たな人間関係の構築が必要となる
仕事を効率的に進めるためにも、困ったときに協力を得るためにも、「人間関係」は重要です。転職するとゼロから人間関係を築くことになるため、その分のエネルギーを費やす必要があります。新卒入社と異なり、「同期がいない」ことにさびしさを感じることもあるようです。
退職金・企業年金が少なくなる
退職金制度・企業年金制度の有無や内容は企業によって異なります。転職することで受け取れる金額が少なくなる、あるいは「ない」という可能性もあり、生涯年収ダウンにつながるかもしれません。
ローンの返済や借り入れが難しくなることもある
住宅ローンの審査などでは「勤続年数」を重視する金融機関も多いため、転職によって借り入れが難しくなることも考えられます。また、ローン返済中に転職した場合、金融機関への届け出といった手続きが必要に。転職先の給与体系によっては、それまでは可能だった「ボーナス払い」ができなくなることもあるため、注意が必要です。
選ぶ企業によって異なる、転職のメリット・デメリット
転職することで感じるメリット・デメリットは、どのような企業を選ぶかによっても異なります。「大企業」「中小企業」「ベンチャー企業」「知り合いから誘われて入る企業」などのタイプ別に、想定されるメリット・デメリットを挙げてみましょう。
もちろん、個々の企業によって状況は変わりますので、あくまで「参考」としてください。
大企業に転職する場合のメリット・デメリット
大企業に転職することで見られる一般的なメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
- 福利厚生や各種制度が整っている
- 教育体制や研修プログラムが充実している
- 知名度・ブランド力があるため、営業活動や外部パートナーとの連携がスムーズ
- 豊富な経営資源(予算・人材・特許など)を活用した取り組みができる
- スケールが大きな仕事に携わるチャンスがあり、社会への影響力を感じられる
- ジョブローテーションにより、多様な部署や職種を経験するチャンスがある
- 給与水準が高い
- 安定感があり、社会的信用も得やすい(ローン審査で有利になることも)
デメリット
- 階層が厚い分、稟議などに時間がかかり、進捗スピードが遅いことがある
- 担当が細分化されており、経験の幅を広げにくいことがある
- ルールに縛られ、柔軟に動けないことがある
- 不本意な異動、転勤を命じられる可能性がある
- 人材の層が厚く、ライバルが多いため、昇進ハードルが高い
- 若手の時期は、会社全体を俯瞰した仕事や経営に関わる経験などがしづらい
中小企業に転職する場合のメリット・デメリット
続いて、中小企業で働くことのメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
- 1人が任される範囲が広く、裁量権を持てるため、若いうちから責任のある仕事・ポジションを経験できる
- 経営者に近いので、経営の視点やノウハウが身に付く。部門間の壁が低いケースが多く、連携しやすかったり風通しがよかったりする
- 決裁が早く、スピーディに物事を進められる
- 自分の働きが、会社の業績に及ぼす影響を実感できる
- 全国展開する大手企業に比べると、転勤の可能性が低い
- 拡大を目指すベンチャー企業の場合、ストックオプションが付与されれば、株式上場により大きな収入を得られる可能性がある
デメリット
- 大手企業であればアシスタントがサポートしてくれるような雑務も自分でこなさなければならない
- 「システム」「法務」「教育・研修」など、大手企業であれば社内の専門家に頼れる部分を、自分たちで対応しなければならない
- 資金力が乏しく予算を確保できない場合、新たな取り組みが制限される
- 小規模な組織なので、人間関係が悪化すると居づらさを感じるが、「異動」という解決手段を取れない
- 研修体制や評価制度などが整っていない企業も多い
- 福利厚生が整っていない企業も多い
ベンチャー企業に転職する場合のメリット・デメリット
ベンチャーも成長ステージや規模によって異なりますが、一般的に見られるメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット
- 複数の役割や業務を一人で兼務することが多く、幅広い経験ができる
- 新規事業の立ち上げなどを経験するチャンスが多い
- 組織拡大中のベンチャーでは、若くしてリーダーやマネジャーなどのマネジメントポジションに就くチャンスがある
- 自身のアイデアや提案が会社の戦略に反映されやすい
- 意思決定のスピードが速い
- 経営陣との距離が近く、経営の視点やノウハウを学び取れる
- 上場すれば、ストックオプションなどで高額報酬を得られる可能性がある
デメリット
- 事業が不安定な状態のため、撤退や方向転換の可能性がある
- 先輩や上司が少ない、社内に専門家がいないといった環境で、相談相手や指導を請う相手がいないことがある
- 人間関係に悩んだときなどに、「異動」による解決がしづらい
- 福利厚生がまだ整っていないことが多い
知り合いの会社に転職する(リファラル採用)の場合のメリット・デメリット
メリット
- 仕事内容・働き方・労働環境などの情報を知人から得られるため、入社後にギャップを感じにくい
- 紹介者(知人)が満足しているポイントがわかり、その企業の魅力を把握できる
- 一般応募よりも選考ハードルが低い
デメリット
- 紹介者(知人)からの情報を鵜呑みにすると、「自分にとってどうか」の観点が抜け落ちやすく、入社後にミスマッチを感じることがある
- 他社と比較せずに入社すると、結果的に選択肢を狭めることになる
- 選考途中でミスマッチに気付いても、辞退しづらい
- 入社後にミスマッチに気付いても、退職しづらい
転職を成功させるポイント
転職のメリットを活かし、デメリットをなるべく回避する、転職成功のポイントをお伝えします。
転職の目的を明確にする
転職によって実現したいことは何なのか、目的を明確にしましょう。目的があいまいなままだと、目先のメリットに目を奪われがちになり、デメリットに気付かないまま入社を決めてしまうことがあります。
中長期視点でキャリアを描く
目先のメリットを得られても、中長期視点で見ると別の選択をしたほうがキャリアの発展につながることもあります。場合によっては、一時的にデメリットを感じる転職であっても、将来的には大きなメリット得られる可能性があるでしょう。
希望する条件に優先順位を付ける
転職の目的・キャリアビジョンを踏まえ、希望条件を整理しましょう。転職活動を開始する時点で優先順位を明確にしておくことで、目先のメリットにとらわれず適切な選択がしやすくなります。
転職活動における注意点
転職活動を進めるにあたっては、以下のポイントにも注意しましょう。
転職によって「失うもの」も認識しておく
転職先企業にメリットを感じて入社を決めても、入社後に「前職で満足していたものを失った」ことに気付くケースは少なくありません。今の会社と転職先候補の会社を、多面的に比較してみることも大切です。
「不満の解消」を、転職の目的にしない
現職への不満を転職によって解消しても、別の部分で不満が生じる可能性もあります。例えば「年収アップの希望は叶ったが、仕事が面白くない」など。不満の解消を目的とせず、「何をやりたいか」「どんな自分になりたいか」を軸に目標を定めることをお勧めします。
メリットばかりを追い過ぎない
最初から多くのメリットを求めると、求人を探す条件が絞られ、応募先の選択肢が少なくなってしまいます。多少条件を緩和して探すことで、思いがけず自分にマッチする企業が見つかることもあります。
転職エージェントの活用でメリットのある転職を成功させよう
転職先候補企業のデメリットが気になっても、それを受け入れてその企業で経験を積むことで、将来的なキャリアアップにつながることも多いものです。目先のメリット・デメリットは判断できても、長期的視点で見ると判断がつかないこともあります。
迷ったときは、転職エージェントのアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。今の自分にとって、転職することが総合的なメリットにつながるかどうか、判断のヒントを得られるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。