転職活動において企業探しを始めるうえで、気になる業界の動向や採用ニーズに関する情報はできる限り集めておきたいもの。この記事では、化学業界のトピックや気になるキーワードを、業界に精通したコンサルタントが紹介します。
シニアコンサルタント 羽田野 直美
電機メーカーにて電池の研究開発を9年行ったあと、リクルート(旧:リクルートキャリア)に入社。化学、エネルギー、電機などのテクノロジー領域を担当。次世代技術開発関連の転職サポートを得意とする。
目次
好調な化学業界。以前は見られなかった「中途採用」を積極化
2017年、大手化学メーカーでは最高益を更新する企業が続出。為替相場がプラスに影響したほか、半導体や車載向けのマーケットが活性化したことで化学業界も恩恵を受けています。各社はグローバルに展開しているため、アジアの活況も追い風となっています。
そうした中、大手化学メーカーの採用に「異変」が起きています。
それは「新卒至上主義」が崩れつつあるということ。私は15年ほど、化学・自動車・電機などの領域の中途採用に携わってきましたが、化学メーカーによる中途採用はごく限定的でした。大学の研究室のつながりから新卒を採用して育てる文化が根付いており、ずっと揺るがなかったのですが、ここに来て中途採用を強化する動きが活発化しているのです。
そこには「変革しなければ」という意識の高まりが見てとれます。
業界にインパクトを与えたのは、富士フイルムが成し遂げた変革。本業のフィルム事業から脱却して医療・ライフサイエンス・医薬品事業で収益の新しい柱の一つとしたことは、他の化学メーカーにも大きな刺激となりました。
今、化学各社は生き残りのために事業領域の拡大を図り、M&Aも推進しています。手を結ぶ相手は異分野の業種とあって、自社とM&A先をつなぐ人材の確保が必要となります。そこで、これから乗り出そうとしている事業領域の経験を持つ即戦力人材のニーズが爆発的に増えているのです。
「基礎研究を手がけ、最先端技術を追求したい」という志向の方、「最終製品に携わり、自分が手がけたものが世の中で使われている様子が見たい」という志向の方、いずれにも可能性が広がっています。
では、今求められているのはどんな人材か、キーワードを挙げてみましょう。
エレクトロニクス・自動車分野の研究開発職
自社の得意分野を伸ばす、あるいは異分野を強化するために、その領域の研究開発経験者を求めています。以前は研究開発職の求人は希少でしたが、2年ほど前から増え始め、現在は豊富な選択肢があります。特に半導体、車載分野が多く、バイオの求人もあります。
なお、大手化学メーカーは給与水準が高め。国内電機メーカーなどから移る場合、年収アップとなるケースが多いのです。
電池経験者は60代も選考対象
自動車業界のEVシフトに伴い、電池分野の即戦力人材が枯渇状態。電池の経験者は、50代の方も続々と転職に成功しています。企業側には60代の方でも積極的に選考する意欲があります。
半導体プロセス、プリント基板経験者はブランクがあってもOK
半導体業界が好調であり、半導体プロセスの経験者を求める化学メーカーも増えてきています。またこれまでプリント基板の素材のみ扱っていた化学メーカーが、最終品まで手がけるケースもでてきています。半導体市況が冷え込んでいた頃に半導体業界を離れた方でも、3年程度以内のブランクであれば迎えられる可能性があります。
採用層の変化
不況期に新卒採用を手控えていたことから、組織の年齢ピラミッドを整えるために、ミドルマネジメント層、スペシャリスト層を積極的に採用しています。
アジアでのビジネス経験者
顧客はアジアが中心。台湾、韓国、中国などとのやりとりを経験していた方は重宝されます。
計算化学
これまで「実験化学」が主流だったところ、コンピュータの進化により「計算化学」を活用する動きが出てきています。10年前にはまったく求人がなかったのが、今では化学、電機、自動車の大手メーカー各社が求めています。大学などアカデミックの方が採用され、年収が倍にアップするといった事例も生まれています。
品質管理
2017年、化学ほか各種工業系メーカーで性能データや検査データの改ざんが発覚しました。各社、気を引き締め、品質管理体制を強化。新たな部署を新設する企業も見られます。品質管理のプロであれば、異業界出身者も採用対象となっています。
生産技術
常に人材不足の状態。化学業界での生産技術経験者を求めています。今なら大手企業に転職し、年収アップ・キャリアアップが実現できる環境。実際、年収100万~200万円アップした転職事例があります。就職氷河期に志望企業に入れなかった方が「リベンジ転職」を果たすチャンスといえるでしょう。
化学業界から自動車・エレクトロニクス業界への転身チャンスも
逆に、これまで化学業界で経験を積んだ方々が、異業界に移るチャンスも広がっています。
例えば、「川下に移り、全体像を見渡したい」と、半導体業界へ。自動車業界へ移る方々からは、「最先端素材を取り入れることで、車のデザインの革新に携われる」「最終製品を手がけ、街中で走っているのを見たい」といった声が聴こえてきます。
「製造業×IT」の経験を活かし、ダイナミックな仕事ができる
大手化学メーカーでは、IT人材も求めています。
各社が積極的に取り組むのが「スマートファクトリー」化。工場内のあらゆる機器をネットに接続することで稼働状況を把握し、蓄積したデータをもとに効率的な稼働を目指すものです。
化学メーカーはコンビナートという巨大な設備を擁するだけに、スマートファクトリー化の効果は多大。ダイナミックなプロジェクトに関われる面白みがあります。
企画力、プロジェクトマネジメント力が必要とされるため、製造業に関わっていたITコンサルタントやプロジェクトマネジャークラスの方が採用対象。特に、メーカーからITコンサルタントに転身し、コンサル経験を経て再び実業に戻りたいと考えている方にとっては、うまくマッチングする可能性が高いでしょう。
――化学業界の採用活況ぶりをお伝えしてきましたが、この状況がこのまま続くとは限りません。今あるチャンスを逃さないよう、早めに行動を起こしてみてはいかがでしょうか。