営業職はやりがいや面白さを感じる人も多い一方、自分に合っていないと感じたり、「もう営業の仕事はしたくない」「他の職種に転職したい」と悩んだりする人もいます。営業以外への転職を図る際、考えておきたいポイント、転職活動の注意点、営業経験を活かせる職種例について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
営業職の人が営業を辞めたいと思う理由は?
「営業の仕事を辞めたい」と考える理由はさまざまです。まずは自分が営業を辞めたい理由を整理し、「何を解決したいのか」を明確にすることが大切です。以下に「営業を辞めたい理由」としてよく挙げられる一例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
ノルマが厳しくてつらい
営業職は多くの場合、売上高や顧客獲得数など、数値的なノルマが課せられます。数値目標を追うことにやりがいを感じる人もいますが、達成が厳しい状況だとプレッシャーを感じ、ストレスを抱えることもあります。達成できたとしても、さらに高い目標を課せられたり、達成難易度が上がったりすると、ノルマを追い続けることをつらいと感じる人もいるでしょう。
顧客とのコミュニケーションが苦手
「人と話すことが好き」という理由で営業職を選ぶ人も多い一方、対人コミュニケーションに苦手意識を抱く人もいます。友人などと話すのは楽しくても、「顧客との駆け引き・交渉」に苦痛を感じる人もいるでしょう。「断られたり、煙たがられたりするのがつらい」「社内外の調整役として板挟みになるのがしんどい」といった声もあります。
商材に自信が持てない
事業内容や営業の仕事に魅力を感じて入社したとしても、魅力を感じない商材や愛着が持てないものを担当することになった場合、顧客に対して積極的な提案ができず、やりがいを感じられないこともあるかもしれません。結果、売上も上がらず、会社からの評価も得られないと、モチベーションが低下し、仕事の意義も感じにくくなってしまうでしょう。
残業が多く休みが取れない
特に「顧客第一」という方針が色濃い職場では、顧客の都合に合わせて動くことが多く、呼び出しに応じるなどして時間外労働が発生することがあります。
また、ノルマ達成が難しい状況では、顧客対応を増やすことによって残業が増えるケースも見られます。「プライベートの時間が削られ、十分なリフレッシュができない」という悩みの声が聞こえてきます。
テレアポや飛び込み営業がつらい
見込み客に電話をかけて商談機会を獲得する「テレアポ」、アポなしで直接見込み客を訪問する「飛び込み」といったスタイルで営業活動を行う企業もあります。こうした営業スタイルでは、「冷ややかな対応をされると落ち込む」という人も少なくありません。また、初対面の相手とのコミュニケーションに苦手意識を持つ人もストレスを感じるようです。
上司からのプレッシャーがきつい
上司がサポートしてくれて成果や成長につながる職場であればよいのですが、強くプレッシャーをかけるタイプの上司もいるでしょう。また、上司自身が過去に売上を上げてきたやり方を強要するケースも見られますが、「時代が変わっていて同じやり方が通用しない」と悩む声もあります。
営業グループ内の競争意識が激しい
チームワークを活かして営業する企業もある一方、個々の営業が自己裁量で動き、個人の業績を競う風土の企業もあります。それを「切磋琢磨できる環境」「プラスの刺激」と捉える人もいますが、ギスギスした雰囲気を感じると居心地が悪くなるかもしれません。
専門性が身に付かない
営業職は、コミュニケーション力・課題解決力・交渉力・調整力など多様なビジネススキルを養える仕事です。しかし、未経験者も対象に募集しているケースも多いためか、「専門性が身に付かない」「市場価値が上がらない」と解釈し、危機感を抱く人もいるようです。
営業以外の仕事に転職するときのポイント
営業の仕事を辞めたい理由を分析した結果、他の会社の営業職に移ることで解決する道を見出せる人もいるでしょう。しかし、やはり営業以外の仕事に移りたい場合は、次のポイントを意識して転職活動に臨んでみてください。
営業経験が活かせる仕事を選ぶ
一口に「営業」といっても、取り扱い商材の特性、顧客層、営業手法などによって身に付いているスキルは異なるものです。例えば、「相手の本心を引き出す傾聴力」「課題分析力」「企画提案力」「他部門・他職種との連携・調整力」などです。自身が得意とする活動やスキルが活かせる職種を探してみてください。
営業をやりたくない理由を自己分析する
「自分はなぜ営業以外の仕事に就きたいのか」「解決したい問題は何なのか」について自己分析し、明確化しておくことが大切です。
「やりたくない」の裏側には「やりたい」、「こんな状態が嫌だ」の裏側には「こんな状態でありたい」という希望があるはずです。不満を解消するだけでなく、希望に目を向けることで、納得がいく仕事を見つけやすくなるでしょう。
同じ業界で職種を変える
営業職を辞めたとしても、「業界」の知識・経験は活かせます。同業界で、営業以外の職種にはどのようなものがあるかを調べてみてはいかがでしょうか。求人に応募する際には、業界経験をアピールすることでプラス評価につながる可能性があります。
資格や専門スキル・知識を身に付ける
未経験職種への転職を図る場合、資格を取得したり、専門スキル・知識を身に付けたりするのも一つの手段です。中途採用では一般的に「実務経験」が重視されますが、アシスタントなどからスタートするポジションの場合、基礎知識を持っていることを証明できれば採用に至るケースもあります。
営業経験を活かせる職種例
営業経験を活かしやすい職種の一例をご紹介します。どのような経験・スキルを転用できるか、ポイントもお伝えしますので、自身の強みと照らし合わせてみてください。
営業企画
営業企画の仕事は、市場の動向調査や顧客分析、自社・他社の製品分析などから営業の戦略を立て、その戦略を実行することです。どうしたら購入してもらえるかを考え実行してきた営業経験は、営業企画の要ともいえる「モノやサービスなどを売るための戦略づくり」に役立ちます。
また、「課題発見・解決力」「提案力」「説得力」など、求められるスキルが共通していることが多いため、営業で築いたスキルを活用できます。業界や扱う商材が近い場合には、仕事で得た知識も役立てられます。
マーケティング
マーケティングの仕事は、市場調査、情報収集などからニーズや今後のトレンドを予測し、商品やサービスを売る仕組みをつくることです。仕事内容は企業や部署によって多様で、「デジタルマーケティング」や「SNSマーケティング」など、比較的新しいジャンルのマーケティングも存在します。
営業職で「売れるためにどうしたらいいか」と考え、調査・分析した結果を営業活動に反映した経験は、マーケティングの仕事でも活かすことができるでしょう。同業界であったり、扱う商材が近かったりする場合は、業界や商材の知識を活用することも可能です。
カスタマーサクセス
比較的新しい職種で、主にクラウドでソフトを提供する「SaaS」型企業でニーズが増えています。契約した顧客に対し、自社製品・サービスの活用度や満足度を高めるためのフォローを担います。
役割は企業や担当ポジションによって異なりますが、「サービス活用のサポート」「アップセル・クロスセル」「要望を吸収して開発部門へ伝達」などの役割があります。顧客と良好な関係を築く力、社内各部署との連携力などが活かせる仕事です。
コンサルタント
顧客の悩みや課題に応じ、改善・解決のための提案、アドバイスを行います。営業経験を通じて得た業界知識・マーケット知識のほか、「顧客とのコミュニケーション力」「ヒアリング力」「提案力」「分析力」「プレゼン力」「交渉力」などが活かせるでしょう。論理的思考を得意とし、「ソリューション型営業」を務めてきた人は特に親和性が高いといえます。
広報
所属する企業や自社商品・サービスのPRなどをするのが広報の仕事です。営業と広報の大きな共通点のひとつとして、「自社商品・サービスを深く理解し、その魅力を伝える」ということが挙げられます。
広報の仕事は経営層や事業担当者をはじめとする社員から自社PRとなる情報をやりとりするコミュニケーション力が重要となります。さらに、顧客へのPRのためにコミュニケーション力を磨いてきたこともアピールポイントになります。誠実な対応を続けてきたことなど一般顧客だけでなく、企業顧客に納得してもらえたり、良好な関係を保てたりした経験も強みになるでしょう。
人事
人事の仕事には、採用・労務管理・教育・評価制度企画などがあります。応募者とのコミュニケーションをはじめ、「商品のプレゼンスキル」は、求職者に対する自社の魅力のプレゼンスキルなどが評価されて、営業出身者が採用されている事例もあります。
営業以外の仕事に転職するときの注意点
営業以外の職種でも、仕事には何らかの厳しさやストレスがつきものです。営業を辞めたい一心で転職して、「こんなはずではなかった」と後悔しないためにも、次の点を心得ておきましょう。
年収が下がる可能性がある
企業によっては、未経験職種への転職は年収が下がることが考えられ、営業が営業職以外に転職する場合も例外ではありません。
どの職種でも成果は求められる
営業ノルマに追われることはなくなりますが、成果を出すことが求められる点では、他の職種も同じでしょう。例えばエンジニアは、開発するアプリやシステムの品質、納期、コストカット等での目標設定があるでしょうし、事務でも正確性が求められるものです。
その一方で、営業のように売上数字が出ない分、努力が評価や昇給に反映されなかった場合にはギャップを感じてしまうかもしれません。
どの職種でもコミュニケーション力は求められる
「クライアントとのコミュニケーションに疲れてしまった」といった理由から営業以外への転職を決めるケースもありますが、別の職種では社内で密なコミュニケーションが必要な場合もあります。
むしろ社内では業務上の調整など、違った意味での難しさを感じるかもしれません。対象は違っても、コミュニケーションの重要性はどの職種でも同じと認識しておきましょう。
未経験転職以外の選択肢も考えてみよう
何らかの理由で「営業を辞めたい」「営業以外の仕事に就きたい」と思っても、これまでのキャリアをリセットし、新たな会社と職種で一から出直すことは、簡単なことではありません。これまでの仕事を振り返り「自分が本当に解決したいことは何なのか?」を見極めた上で、次のような選択肢も検討してみましょう。
社内異動をする方法
これまでに得た商品知識や、社内の人脈というアドバンテージを活かす方向で、今の会社にいながら環境を変えるのも一つの方法です。
自己申告で社内異動が可能な場合や、社内公募制度、社内FA制度などがあれば、営業の経験、社内の人との関係性、業界知見などを活用しながら、別の職種や別事業に移るなどができるかもしれません。
例えば、「新卒のときに他の部署を希望していたが営業に配属され、数年頑張ってみた結果、やはり○○として貢献したいと感じた」というように、今後のキャリアについて上司と相談してみる価値はあるでしょう。
スタイルの違う営業職に転職する方法
「今の問題は解決したいが、培ったスキルは活かしていきたい」という場合は、スタイルの違う営業職に転職し、環境を変えるという方法もあります。例えば、新規開拓の営業が苦手であれば、カウンターセールスや、既存顧客のフォローアップ・企画提案が中心の営業に転職する手もあります。同じ営業でも、ノルマや評価指標、営業スタイル、商品やサービス、働き方などを変えることで、不満が解決できないかを検討してみましょう。
転職エージェントへの相談もおすすめ
「営業を続けるか職種チェンジを図るか」「営業を辞めるならどんな職種を選ぶか」について悩んだ場合は、転職エージェントに相談するのも一つの方法です。転職エージェントでは、転職市場動向の情報や求人情報を得るほか、キャリアの棚卸しや自己分析をサポートしてもらうことも可能です。
これまでの営業経験を通じて自身がどのようなスキルを身に付けているのか、自身では認識できていない強みを発見できるかもしれません。
営業職から異職種へ転職した人たちの事例も聞ける可能性もあるので、転職エージェントが持つ情報を活用してはいかがでしょうか。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2023年05月22日
記事更新日:2024年10月08日 リクルートエージェント編集部