転職活動において企業探しを始めるうえで、気になる業界の動向や採用ニーズに関する情報はできる限り集めておきたいもの。この記事では、半導体業界のトピックや気になるキーワードを、業界に精通したコンサルタントが紹介します。
シニアコンサルタント
杉山友章
約25年にわたり電機・自動車・通信・半導体・ITなどテクノロジー領域を担当。高度研究員、次世代技術開発関連(IoT/M2M/SmartX/V2X/ロボティクスなど)の転職サポートを得意とする。
「過去最高益を更新」
このところ、経済紙では半導体関連会社の好調を伝える記事が多く目につきます。
「シリコンサイクル」と呼ばれるように、半導体分野は3~4年スパンで好況・不況の逆転を繰り返してきました。しかし、現在の好況期はこの先も長く続くと見られ、「スーパーサイクルに入った」との声が上がっています。
半導体メーカーから製造装置、半導体向け材料、EDAベンダーまで、全方位の業種が好調。好況に伴い、人材採用も活発化しています。その背景にあるのは、半導体業界の「すそ野の広がり」です。まず、半導体の用途が広がってきました。一時期は携帯電話やスマートフォンの生産に大きく業績が左右されていましたが、今では、車載システム向けが伸長。ほか、IoT、ロボティクス、データセンター、医療・ヘルスケアなど収益源が拡大しています。
プレイヤーの幅も広がってきました。半導体専門企業や電機メーカーの半導体部門に限らず、自動車メーカー、IT企業、ネット企業など、幅広い業種が半導体の内製化を図っているのです。つまり、半導体エンジニアを採用する企業の数が格段に増えているということ。その中にはもちろん、世界トップクラスのグローバル企業も含まれています。
そこで、今、どんな人にどんな転職チャンスがあるのかをご紹介していきます。
ニーズ沸騰のプロセスエンジニア。
「3年ブランク」でも元の年収レベルで業界復帰
2008年~2014年にかけて、国内半導体業界は「冬の時代」を過ごしました。大手企業の中には数万人の従業員を半数以下に削減した企業も。この時期、「この業界は先行きが不安」、あるいは「半導体業界に居続けたいが転職先がない」と、多くの半導体エンジニアが業界を去っていきました。
ところが2014年から半導体業界が再び盛り上がり、各社は今、人員削減・採用控えの反動で人材不足に陥っています。中には数百人規模の採用を打ち出している企業も。そこで、異業界に散らばった半導体エンジニアたちを呼び戻す動きが活発化しています。
特に、プロセスエンジニアに関してはニーズがひっ迫した状況。
ブランクがあっても、それ以前の実績とブランク期間によっては採用対象となっています。もちろん個人差がありますが、3年程度以内のブランクであれば採用に至るケースが多く見られます。
「最先端領域なのに3年も離れてしまっては通用しないのでは」と思われるでしょう。確かに通常であれば、3年もブランクがあると書類選考を通過できませんが、今は「最新技術は入社後の研修でアップデートしてもらえば可」として受け入れています。
「やはり自分は半導体エンジニアでいたい」と願う方にとっては、もう一度最前線に立てるチャンスが巡ってきているのです。例えば、40歳前後で3~4年前に早期退職制度により退職、異業界に転職して年収800万円から600~700万円に下がったけれど、半導体業界に再転職して年収も元に戻っている――そんなケースがあちらこちらで見られます。
冬の時代に憂き目にあった皆さんにとっては、今後の業界の発展性への不安がぬぐいきれないかもしれません。しかし、世界の半導体業界の平均成長率は年5~7%で推移しています。日本企業は一時期、戦略を誤りましたが、海外に目を向けると成長を続けている企業が多数見られます。
特に今ホットなのが自動車分野。グローバルで開発競争が激化しているコネクテッドカー(常時インターネットにつながっている車)や電気自動車(EV)などには膨大な量の半導体が搭載されます。
2017年11月、EUが自動車の環境規制に関してCO2削減目標数値をさらに厳格化したこともあり、EV開発へのシフトはさらに加速するでしょう。また、IoTやロボティクスに関しても、様々な分野に用途が広がっていきます。
これまでのように、「構造不況に陥るとエンジニアが行き場を失う」ということはなくなるのではないかと思います。半導体エンジニアの経験を活かし、「渡り歩く」転職が従来以上にしやすくなる。そのためには、まさに今のタイミングで業界に戻るのが得策といえます。
もちろん、今、半導体業界にいる方にとっても、今後成長する分野や企業でキャリアアップ、年収アップを目指すなら、今の選択が重要です。
特に、メモリ分野の方は、転職を検討するならなるべく早いタイミングで動くことをお勧めします。来年くらいまでは今の活況が続くと見込まれますが、ロジック系・アナログ系と比較すると早く需給バランスの崩れが訪れ、人材採用が縮小する可能性があります。将来に向けて自身の価値を高める経験を積むなら、早いうちに決断したほうがいいでしょう。
「ユーザー側」が価値の差別化のため自社開発へ。
異業種大手にトップクラスの半導体エンジニアが集結
もう一つの変化は、「ユーザー側」が半導体の自社開発を本格化させているということ。AI/IoT時代の到来により、デジタル製品メーカー、自動車関連メーカーのほか、IT・ネット企業でも自社製品・サービスの開発に取り組んでいます。各社は、他社が追随できないサービスを生み出すために、独自開発の必要性を感じています。例えば、グーグルの翻訳機能の精度が飛躍的に向上した背景には、ディープラーニング(深層学習)専用プロセッサ「TPU」の自社開発がありました。直近では、海外のビットコインのマイニング企業が半導体チップの開発に莫大な資金を投入する動きも散見されます。
半導体業界にとっては大クライアントである世界トップクラスの某企業も、実は「隠れた半導体メーカー」。日本にも半導体開発拠点を設けて設計エンジニアを集めており、すでに100人近くのトップエンジニアが集結しています。こうした動きが、様々な業種・企業で広がってきました。外資系企業からは、年収1500万~3000万円で迎えたいとする求人も寄せられています。
今現在、半導体企業で活躍しており、社内評価も上々。でもこれ以上目指すものがない…という物足りなさを感じている方が、新たなチャレンジとキャリアアップのチャンスを得て、転職を果たしています。
半導体設計においては、コスト面を重視する傾向が強くなっていましたが、「性能に価値がある」という考えが再び広がりつつあります。
トップシェアを握る半導体メーカーの製品を「使わせていただく」時代は終焉へ。EDAツールの進化、オープンソース化に伴い、新規参入業者でも高性能の製品を開発できる環境となっています。
「最先端」を志向するエンジニアにとっては、今は選択肢が増えている状況。情報収集に動いてみると、思いもよらなかった活躍の場が見つかる可能性があります。ぜひとも、このチャンスの波をつかんでいただきたいと思います。