仕事をやめたいと思う瞬間は、誰にでもあるものです。周囲から「甘えだ」と言われて転職するか悩んでしまう人もいれば、「やめたいけれど、次の転職先が見つかるだろうか」と不安になってしまう人もいるでしょう。
今回は、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏に、仕事をやめたいと思ったときの対処法や、やめ時を判断する方法などを伺いました。納得のいく転職活動をするための参考にしてみませんか。
「仕事をやめたい」と思ったときのよくある理由とは?
リクルートが実施した「転職に関するアンケート (※)」によれば、「転職後、その職場になじめなくて、やめたいと思ったことはありますか?」という質問に、64%が「はい」と答えています(回答数=314人、単一回答)。
【転職後、その職場になじめなくてやめたいと思ったことはありますか?】
さらに、「はい」と答えた人たちに、「やめたい」と思うようになった期間を聞くと、28%が「入社後1ヶ月まで」と回答。「1ヶ月以上3ヶ月未満」も含めると45%に上り、入社して比較的早い段階でやめたいと感じ始めていることがわかりました(回答数=92人、単一回答)。
【やめたいと思うようになったのは、入社してからどれくらいの期間ですか?】
それでは、どのようなことが理由で仕事をやめたいと思うのでしょうか。
以降で「仕事をやめたいと思った理由」「やめたいと思った人が後悔するケースなどを紹介します。
「職場の人間関係」をやめたい理由に挙げる人が7割超
やめたいと思う理由のトップは「上司・同僚との人間関係」で、75.1%と圧倒的多数を占めています。次いで「仕事の進め方」(45.3%)「社風」(40.8%)「労働時間などの働き方」(27.4%)といった声が多く、新しい職場のルールや環境に居心地の悪さや違和感を覚えたがゆえに、なじめないでいる状況がうかがえます。
【転職後にやめたいと思った理由を教えてください】(回答数=201、複数回答)
(※)【調査概要】2019年5月30日~5月31日 株式会社ジャストシステム「転職に関するアンケート」 調査対象:転職を経験したことのある男女331名
仕事をやめてもいいタイミングは何年目?
一般的には、仕事をやめるタイミングについては「3年働いてから」という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれません。理論的な根拠はありませんが、1年目で初めての仕事を経験し、2年目で一定の経験を積み、3年目で改善を行なって実績を出していくケースは少なくないでしょう。
また、企業においても、一定の期間の勤務経験がない場合は、入社後の定着性を疑われる可能性があります。
とはいえ、仕事をやめてもいいタイミングは人によって違うので「やめたい理由」「転職で実現したいこと」をきちんと自分で考えることが大事だと考えましょう。
やめたいからとすぐ転職する人が陥りやすい失敗ケースとは?
職場の人間関係が理由で仕事をやめた場合は、転職後もまた同じ理由で悩むケースが多くあります。職場になじむ努力をしないまま、新たな環境を求めて再度転職した結果「この職場も自分には合わない」と感じて転職を繰り返してしまう人もいます。
一方、転職後に「前職のほうが仕事内容やワークライフバランスが良かった」と痛感するケースも少なくありません。こうした人は、転職先で実現したいことや転職の目的が明確でない可能性があります。
いずれにしても、短期間で転職し、一定の経験・キャリアが積めていなければ、転職先では新卒などと同じ立ち位置でスタートすることになり、給与額の設定もリセットされてしまうでしょう。また、短期で転職を繰り返せば、勤務期間に相応の経験・キャリアしか積むことができないため、転職活動における自分の市場価値も低いままとなってしまう可能性があります。
さらに、短期間に転職を重ねている場合は、転職活動を行う際にも早期離職を懸念され、採用選考に通りにくくなる可能性もあるでしょう。
「仕事をやめたい」が甘えかどうかを判断するポイント
仕事をやめたいと思ったときに「甘えなのか」と悩む人は少なくありません。以下のポイントを判断に役立てましょう。
「甘え」と思われてしまうケース
周囲から「甘え」と思われてしまうよくあるケースを把握し、自分に重なるものがあるかチェックして判断してみると良いでしょう。
自分本位の理由でやめたい
「会社に行くのが面倒」「朝起きるのが苦手」「そもそも働きたくない」「仕事に労力をかけたくない」などが理由の場合は、このケースに当てはまります。企業は労働者として雇用関係を結び、給与は労働の対価として発生するので、自分本位の理由でやめたい場合は「どこの会社でも通用しない」と思われてしまう可能性があるでしょう。
自分の仕事に責任を負いたくない
「仕事でミスするのが怖い」「仕事に責任を持ちたくない」などが理由の場合に当てはまります。仕事でミスをしないように改善することや、自分の仕事に責任を持つことは当たり前なので、上司や同僚から甘えと言われてしまう傾向があります。仕事の責任範囲を広げて成長していくことで、自分の能力を高め、市場価値を高められることを理解しましょう。
やりたい仕事ができないことが不満
「やりたい仕事ができない」「やりたい仕事を任せてくれない」などが理由のケースです。仕事にはやりたくないことも必ずついてくるものなので、自分のやりたい仕事のみをやることはできません。また、やりたい仕事を任せてもらえないのは、目の前の仕事をきちんとやっていない可能性もあるでしょう。
人間関係を構築するのが面倒
「職場の人間関係が面倒臭い」「最低限の付き合いにしたい」「苦手な人とかかわりたくない」などを理由とする人が当てはまります。組織に属している以上、周囲と積極的にコミュニケーションして円滑な人間関係を築き、仕事を進めやすくすることが必要です。
また、苦手な人はどこにでもいるものです。転職しても職場・顧客・取引先などにもいる可能性はあるので、積極的なコミュニケーションを避けていれば、どの企業に転職しても仕事をスムーズに進めることができないでしょう。
「いい会社だけどやめたい」は甘え?
甘えであるかどうかは、自分自身の判断基準があるかどうかによります。世間の基準に合わせても、自分の軸とマッチしていない場合は「いい会社」とは言えないでしょう。
「誰にとってもいい会社」はないものなので、自分が何を大切にしたいのかが重要になります。仕事内容・給与・待遇・職場の人間関係・企業文化・ワークライフバランスなどに対し、自分なりの優先順位を決めることがポイントです。それらを比較した上で、転職したほうがいいかどうかを考えてみましょう。
仕事をやめたいと思ったときは、やめたい理由と解決策を考えてみる
仕事をやめたいと思う理由を書き出し、自分の努力で解決できるかを客観的に考えてみましょう。また、人に相談して客観的な意見を聞いてみることも大事です。以降で、よくある「仕事をやめたい理由」と、解決策を紹介します。
人間関係が理由の場合
人間関係を良くするために、相手に歩み寄る行動を積極的に実践してみましょう。また、部署やチームを異動するなどの方法でも対処できるので、実現可能かどうかを考えてみることも大事です。
ただし、パワハラやセクハラなどに悩んでいる場合は、すぐに人事担当者や社内外の相談窓口などに相談しましょう。
やりたい仕事と違う場合
やりたい仕事を任せてもらえない場合は、実力不足の可能性があるので、どうすれば任せてもらえるのか考えたり、上司に相談して方法を教えてもらったりすると良いでしょう。
また、社内でやりたい仕事ができる部署やプロジェクトがあるかを考えてみることも大事です。転職しなくてもやりたい仕事に就ける可能性がある場合は、実現できる方法を探してみましょう。
給与やワークライフバランスが理由の場合
給与に不満を感じている場合は、自分と同年代で同様の経験がある人の給与相場を調べてみると良いでしょう。現在の自分と比較した場合の相場観を理解することができます。
また、現在の会社の昇給制度の仕組みなどを調べ、1年後、3年後などの給与額を算出してみたり、周囲の友人・知人のワークライフバランス環境を聞いて比較してみたりすることで、転職したほうがいいかどうかを考えてみるのも良いでしょう。
将来に漠然とした不安がある場合
自分がやりたいことや現状への不満などを書き出して、将来のキャリアについて考えてみましょう。また、社内のキャリアパスや人事制度を調べて、どのようなキャリアが築けるのかを考えてみることも大事です。それらをもとに5年後、10年後の自分をイメージし、納得できるかどうかを考えると良いでしょう。
仕事することに疲れてしまった場合
残業過多や休日出勤が多いなど、ワークライフバランスに明らかに問題がある場合は人事部署や法務部署、監査室などに相談してみましょう。
大きな問題を感じていない場合は、休日にまとまった休養をしっかり取ったり、毎日の睡眠時間をきちんと摂ったりするなどの健康管理で、肉体的な疲労を解消することも大事です。
また、終業後や休日に仕事と関係のない人と会ったり、全く違う場に出かけたりするなどでリフレッシュし、精神的なストレスを軽減してみることでも不満を解消できる可能性があります。
仕事の「やめ時」を判断する方法
ここでは「現時点で仕事をやめたほうがいいのか」を判断する方法を紹介します。
何がしたいかわからない場合
やりたい仕事や目指すキャリアが明確ではない場合は、転職を繰り返す可能性があるため、やめ時とは言えないでしょう。「趣味の活動などを優先するために、仕事よりプライベートを重視したい」などの場合も、実現したいワークライフバランスやキャリアビジョンが明確でないため、これに当てはまります。「仕事において何がしたいのかわからない」と思っていたなら、自分の中で今後のキャリアや転職で実現したいことについてまず考えてみることが大事です。
現職での実績が特にない場合
短期間しか在職せず、特に実績を作っていない場合などは、自分の市場価値をアピールできず、納得のいく転職先が見つからない可能性があるので、やめ時とは言えないでしょう。
現在の仕事の中で実績を作ったほうが転職活動をする際にも有利になるので、現職で何らかの成果を挙げるように努めることをお勧めします。
労働環境に問題がある場合
長時間労働・休日出勤などを強いられている場合や、職場でパワハラ・セクハラなどのハラスメントを受けている場合は、早急に社内の人事やハラスメント窓口に相談しましょう。
相談する気力も起きない健康状態の場合は、有給取得や休職などで落ち着いてから対処し、転職活動に向かうと良いでしょう。
自分の目指すキャリアとズレている場合
現職の仕事で身につけられる経験・スキルなどが、自分が目指すキャリアとズレている場合は、やめた方が時間の無駄にならない可能性があります。目指すキャリアが明確な場合は、それが実現できる企業・職種に転職することを考えてみましょう。すぐに実現することが難しい場合は、必要な経験・キャリアを積める企業・職種に転職する方法もあります。
仕事をやめたいと言えないとき、どうすればいい?
「今がやめ時だ」と思っても、職場の人手不足や上司とのコミュニケーション不足などで仕事をやめたいと言い出せないケースもあるでしょう。しかし、やめなければキャリアの遠回りになったり、体調を崩したり、転職のタイミングを逃したりする可能性があります。会社のことより、自分自身の今後のキャリアや人生のほうが大事だと考えることがポイントです。
こうした場合は、家族や友人などに相談して客観的な意見をもらい、今後のキャリアについて考えを整理してみましょう。また、転職活動を始めてみることで、踏ん切りがつきやすくなる可能性もあります。どうしても「仕事をやめたい」と言い出せない場合でも、納得のいく転職先が決まった場合は退職日を切り出すことになるので、迷いを払拭することができるでしょう。
また、現在の職場をやめることに対して申し訳なさを感じてしまう人もいますが、きちんと引き継ぎを行い、これまでお世話になったことに対する感謝を伝えれば、転職を応援してくれたり、後任者を探すなどの対応をしてくれたりするものです。自分の責任を果たし、かつ、人間関係を良好に保つ努力をすることが大事だと考えましょう。
転職活動を始めてから「やめる・やめない」を判断する方法もある
転職活動をしたからといって、必ずしも転職しなくてはならないわけではありません。また、転職活動を始めることで、現在の自分の市場価値がどの程度なのかを判断することもできます。実際、転職エージェントに相談して内定を得た場合でも、転職しない選択をする人もいますし、数年後に転職することを見据え、今の自分に足りないものを知るために転職活動をする人もいます。
今すぐ転職することに不安を感じている場合でも「1年後や3年後に転職する可能性があるかもしれない」と思っているなら、深く考え過ぎずに転職活動を始めてみることで、今後のキャリア形成に役立てることができるでしょう。
転職エージェントに「仕事をやめたい」と相談するのもお勧め
転職エージェントに相談し、客観的なアドバイスを受けることで、自分が目指したいキャリアや、今の自分の市場価値、可能性がある企業や職種などを知ることができます。現状で転職できそうな企業と現職を比較して「やめる・やめない」を判断することに役立ててみてもいいでしょう。
自分の将来に対する考えを整理するためにも、転職エージェントを上手に活用してみましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。