転職して1ヶ月の時点で「仕事についていけない」「職場の人間関係に馴染めない」などと感じ、「もう辞めたいけれど、1ヶ月で退職してもいいのだろうか」と悩んでしまう人もいるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が、1ヶ月などの短期間で転職先を辞めるべきかどうか悩んだときの考え方や、転職後に「仕事ができない」「職場に馴染めない」と感じる人の特徴と対処法、などを解説します。すぐに辞めて後悔したケースや、よかったケースなども紹介するので、辞めるかどうか検討する際に参考にしてみましょう。
目次
転職1ヶ月で「辞めたい」と思うのは当たり前?
転職して1ヶ月が経つ頃に「仕事ができない自分がつらい」「新しい職場についていけない」「職場の人間関係に馴染めない」などと感じて、辞めたいと思ってしまう人もいるでしょう。しかし、新しい仕事や職場に慣れるまでには一定の期間がかかるものなので、早急に決断する前にしっかりと検討することが大事です。
まずは、転職で早期離職する人の割合や離職の理由を紹介します。
転職者全体の2割弱は1年未満で離職している
厚生労働省が発表した「令和2年転職者実態調査の概況」(※1)によれば、転職後、「1年未満」で離職している人は転職者全体の17.7%を占め、20~24歳では36.1%にものぼっています。
また、「6か月未満」で離職した人は、転職者全体の7.8%となっていました。年齢別では20代と50代の割合が多く、「20~24歳」が14.6%、「25~29歳」が7.9%、「50〜54歳」は14.7%、「55〜59歳」は9.8%となっており、転職者全体の割合を上回っています。転職後、1年が経たないうちに仕事を辞める人も、一定数いるようです。
(※1)出典:「令和2年転職者実態調査の概況」(厚生労働省)
離職の理由トップ5を紹介
同調査によれば、全体の76.6%が「自己都合」を理由に離職していますが、具体的な離職理由(※2)のトップ5は以下の順となっていました。
<自己都合で離職した人の「離職理由」>
2位:満足のいく仕事内容でなかったから(26.0%)
3位:賃金が低かったから(23.8%)
4位:会社の将来に不安を感じたから(23.3%)
5位:人間関係がうまくいかなかったから(23.0%)
労働条件や賃金だけでなく、仕事内容や職場の人間関係などを理由としている人も少なくはないと言えるでしょう。
(※2)出典:「令和2年転職者実態調査の概況」(厚生労働省)
「転職3ヶ月の壁」とは?新しい仕事や職場に慣れるまで何ヶ月かかる?
ここでは、「転職3ヶ月の壁」という言葉の意味や、転職先の仕事・職場に慣れるまでの期間について解説します。
転職3ヶ月の壁とは?
「転職3ヶ月の壁」とは、転職して3ヶ月程度のうちに「ストレスを感じてつらい」「仕事を辞めたい」と悩む事象のことを指すことが多いです。
転職後、すぐに仕事や職場に慣れることができず、「仕事についていけない」「ミスが多い」などで自信喪失するケースもあれば、「新しい人間関係を構築することに疲れた」というケースもあります。また、3ヶ月目にストレスのピークを迎え、仕事を辞めたくなってしまうケースもあるようです。
転職半年〜1年が経つ転職者のうち、6割超は「いきいき働けている」
それでは、転職後、新しい仕事や職場に馴染むまでにはどのくらいの期間がかかると考えればいいのでしょうか。株式会社リクルートが「転職して半年から1年が経つ転職者」を対象に行った調査(※2)の結果を見ていきましょう。
同調査では、転職後に「いきいきと働くことができているか」という質問に対し、「あてはまる」(22.0%)、「ややあてはまる」(38.2%)と回答した転職者が、全体の6割超を占めていました。
反対に「あてはまらない」(8.8%)、「あまりあてはまらない」(8.6%)と回答した転職者は2割にも満たない結果となっています。
また、転職後の総合満足度については、「満足」と回答した人が20.6%、「どちらかというと満足」は42.9%で、全体の6割超が転職後の状況に満足していることがわかりました。
これらの調査結果を見ると、転職して半年から1年が経つ頃には、6割超の人はいきいきと働くことができ、転職したことに満足していることがわかります。
転職後、最初はつらいと感じても、一定の期間が経つ頃には慣れるケースが少なくないと言えるでしょう。
転職後に「仕事ができない」「職場に馴染めない」と感じる人の特徴と対処法
転職後に「仕事ができない」「職場に馴染めない」と感じてしまいやすい人の特徴と対処法を紹介します。
自らコミュニケーションをとらない
転職先で自らコミュニケーションをとらないために「話しかけにくい」と思われ、職場の人間関係にうまく馴染めないケースがあります。
対処法
積極的にコミュニケーションを図ることが大事です。仕事に関する会話だけでなく、雑談などもすることで職場に馴染みやすくなるでしょう。コミュニケーションが苦手な場合は、笑顔や挨拶を心がけることで、話しかけやすい雰囲気を作れるかもしれません。
評価を気にして、わからないことを聞かない
中途採用の場合は即戦力採用をする企業も多いため、評価が下がることを気にするあまり、わからないことを質問するのを避けてしまうケースもあります。結果的に仕事の習得が遅くなり、「自分は仕事ができない」と感じて自信喪失してしまうこともあるようです。
対処法
「わからないことを質問すると、仕事ができないと思われるのでは?」と悩んでいる場合は、自ら質問して理解を深めるほうが仕事の習得に役立つと考えましょう。何度も同じ質問をしないためにメモを取っておき、自分のための業務マニュアルを作成する方法もあります。
仕事の全体像や業務ルールがつかめていない
同業界・同職種に転職した場合でも、企業によって仕事の進め方や業務ルールなどが違うことはよくあるものです。しかし、「転職先も同じ仕事だから」と考え、前の職場のやり方で進めた結果、ミスや失敗につながってしまうケースがあります。また、「前の職場のやり方のほうがよかった」と感じて周囲に不満を伝えたり、自分の判断で前職のやり方で進めたりしたために、ネガティブな印象を抱かれるケースもあるようです。
対処法
まずは仕事の目的を理解し、全体像を把握するように意識しましょう。上司や同僚などに疑問点について聞き、確認してみるのもいいでしょう。また、新しい職場の業務ルールを把握するためには、マニュアルや資料などをしっかり読み込むことも大事です。
また、「前職のやり方のほうが効率的だ」と感じた場合は、仕事・職場に慣れた後に、チームや部署全体のためになる改善方法として提案することもできるでしょう。
職場の人間関係を把握できていない
職場の人間関係を把握できていない場合は、仕事を進める際の鍵を握る人物や、相談しやすい相手などを見極めることが難しいと言えます。誰に何を相談・提案すればいいのかわからないために、スムーズに仕事を進められなかったり、成果を挙げにくくなったりするケースもあるでしょう。
対処法
周囲の人々をよく観察し、信頼できそうな人物や、「仕事ができる」と評価されている人物を探してみましょう。信頼できる相手が見つかれば、仕事についての相談がしやすくなるはずです。また、評価されている人物の仕事の進め方などを参考にすることもできるでしょう。
焦って頑張りすぎている
「早く仕事を覚えなくては」「成果を出さなくては」と焦るあまり、自分一人で抱え込んで無理をしてしまうケースもあります。その結果、ミスや失敗につながって、さらに自信喪失してメンタルを保てなくなるケースもあるようです。また、頑張りすぎることによってストレスが溜まり、「仕事に疲れた」と感じてモチベーションが下がってしまう可能性もあります。
対処法
目の前の仕事に集中し、一つひとつクリアしていく意識を持つことが大事です。「入社数ヶ月間は仕事を習得する期間」と考え、自分なりに期間を区切って取り組んでみれば、モチベーションも保ちやすくなるでしょう。
覚えるタスクが多かったり、抱えている業務量の負荷が高かったりする場合は、上司に相談してみることで負担を軽減してもらえるケースもあります。仕事のストレスや肉体的な疲れが溜まっている場合は、「業務終了後はしっかりと休む」「休日は仕事を忘れてリフレッシュする」など、オンとオフのメリハリをつけるように意識しましょう。
転職1ヶ月で仕事を辞めたいと思ったら?
転職1ヶ月で仕事を辞めたいと思っても、感情のまま退職することはおすすめできません。後悔しないためにも、「辞めるべきか、もうしばらく転職先で頑張ってみるのか」を冷静に検討した上で判断することが大事です。以下で紹介する方法を実践してみましょう。
辞めたいと思う理由を分析する
「仕事がつらい」「もう疲れた」と感じるあまり、一時的な感情で辞めたいと思っている可能性もあります。まずは、辞めたいと思う理由を客観的に分析し、「自分の努力によって解決できることか」「時間が経つ中で解消できそうか」を考えてみましょう。
自分の力では解決できない問題や、時間が経っても解消できない問題があると感じた場合は、辞めることを検討したほうがいいかもしれません。
前職の職場・仕事と比較して良い点を洗い出す
前職の職場と比較して不満を抱いている場合は、悪い点だけでなく、良い点や納得できる点について洗い出してみることで、辞めなくていいと思えるケースもあります。全てに満足できる転職先はそう簡単に見つからないものなので、今の仕事や職場の良い点と悪い点を客観的に比較検討してみることも大事です。
また、上司や同僚に仕事のやりがいや職場環境・待遇などに感じている魅力を聞いてみる方法もあります。同じ職場で働く人々の考えを聞くことで、自分では気づかなかった良い点を知ることができるかもしれません。
「転職の目的」を振り返る
転職の際には、「やりがいある仕事に就きたい」「年収アップしたい」「ワークライフバランスをよりよくしたい」など、何らかの目的があって今の仕事や職場を選んでいるものです。今の会社に入社する前に、転職によって何を実現したいと考えていたのかを振り返ってみることで、「この会社でもうしばらく頑張ってみよう」と思える可能性もあります。
信頼できる第三者に相談し、客観的な意見を聞く
家族やパートナー、友人など、信頼できる第三者に相談してみる方法もあります。今の状況や辞めたいと感じている理由について話してみることで、自分自身の考えを整理しやすくなるでしょう。人間関係や労働環境などが悪いためにストレスや疲労が溜まっている場合は、自分では客観的な判断ができなくなっている可能性もあるので、第三者の視点でアドバイスをもらうことをおすすめします。
客観的な意見を聞いた結果、「自分にも要因がある」と感じることもあれば、「辞めたほうがいい」と思うこともあるでしょう。ただし、人はそれぞれ価値観や考え方が違うため、人の意見に左右されすぎないことも大事です。第三者の意見を踏まえた上で、自分自身で辞めるかどうかを検討しましょう。
転職1ヶ月で辞めるとどうなる?辞めて後悔した人の事例も紹介
転職1ヶ月で辞めた場合に、どのようなことが起きる可能性があるのでしょうか。転職後にすぐ辞めて後悔した事例も併せて解説していきます。
早期離職を懸念され、転職活動に苦戦する可能性がある
転職1ヶ月で仕事を辞めた場合、その後の転職活動で、企業から「採用してもまた早期離職するのではないか」という懸念を抱かれる可能性があります。
面接では、退職理由や転職理由を聞く企業がほとんどのため、1ヶ月という短期間で退職したことに対し、説得力のある理由を伝えられず、選考に苦戦するケースも見られます。
すぐ辞めて後悔した人の事例
【20代半ば・男性の事例】広告業界・営業職→教育業界・総務担当
「営業として数字に追われることがつらいため、ストレス軽減のためにも内勤で仕事をする事務系職種に転職したい」考え、キャリアチェンジの転職を実現。
転職後には、働く環境や仕事内容が大きく変化したことにストレスを感じるようになる。「前職の営業職のように外回りをせず、社内の職場で働き続けることに向いていない」「提案営業よりも仕事における自由度や裁量権が少なく、やりがいを感じにくい」を実感し、転職から1ヶ月で再度、営業職を希望して転職活動を開始した。
しかし、面接で、「なぜキャリアチェンジしてから、わずか1ヶ月で再び営業職に戻りたいのか?」という質問をされても、説得力のある回答をすることができなかった。応募企業から「1ヶ月で総務の仕事を理解できているとは思えない」「そもそもキャリアの軸が定まっていないのでは?」という懸念を抱かれてしまい、転職活動に苦戦してしまうことに。
同じような不満を抱き、転職を繰り返す人もいる
現在の仕事や職場に不満を抱いて辞めた結果、次の転職先でも同じような不満を抱き、短期間で転職を繰り返してしまう可能性があります。こうした場合、転職するたびに仕事を一から覚えることになるため、「同じ会社で働き続けていたほうが経験・スキルを積めた」「中長期的なキャリアを築けない」と後悔するケースも見られます。
すぐ辞めて後悔した人の事例
【20代半ば・女性の事例】保険会社・営業職→保険代理店・営業職
前職の仕事の進め方に不満を感じたために、同業界・同職種に転職。しかし、転職先の社長の考え方に不満を抱き、「仕事の進め方やマネジメントスタイルが合わない」と感じて、1ヶ月未満という短期間で退職し、再度の転職活動を開始。
初対面の印象がよく、トーク力もあることから、面接でも営業職として一定の評価を得ることができ、次の転職先はすぐに決まった。しかし、働き始めると「やっぱり合わない」と感じ、再度の転職を果たすが、「我慢できずに退職しても内定を得られる」という経験から、その後は短期間で転職を繰り返すことになった。
複数の会社を転々とした結果、成果を挙げることもスキルアップすることもできず、やがて年収やポジションにも不満を感じるようになり、「1社でじっくり仕事に取り組んだほうが、キャリアアップできたのに」と後悔することに。
転職1ヶ月でも辞めてよかったと感じるケースもある
「残業時間や休日出勤が多く、疲弊している」「職場の人間関係が悪く、メンタル面に悪影響を与えている」「ハラスメントがある」など、労働環境が明らかに悪いと感じる場合は、次の転職先を探したほうがいい可能性があります。
また、転職後に自分が目指すキャリアの方向性にマッチしていないと感じた場合も同様のことが言えるでしょう。短期間で再度の転職を目指す場合でも、中長期的なキャリア形成を踏まえ、今後に役立つ経験・スキルが積めるような会社に再度転職したことで「時間を有効に使い、目指すキャリアに近づくことができた」というケースがあります。
すぐ辞めてよかったと感じた人の事例
【20代前半・男性の事例】大手IT企業・営業職→スタートアップのIT企業・営業職
大手企業に勤務する中、「より実力を評価する環境で働きたい」「成長ステージにある企業で、事業拡大に携わるやりがいを感じたい」と考えるようになり、同業界のスタートアップ企業に転職。
実力主義、成長性、プロダクトの新規性などに魅力を感じて転職先を選んだが、入社後、想像以上に社内の体制や制度が未整備だったため、自分のイメージと大きなギャップを感じることに。営業職として本来の仕事に集中できないことに加え、会社の業績次第で年収が下がる可能性が大きいことも痛感。転職1ヶ月で前職の会社の上司に戻りたいと相談したところ、これまでの実績がある上、欠員補充もされていなかったため、出戻り転職を実現することができた。
大手企業の職場で再度働いた結果、整備された組織体制のもとで営業の仕事に集中できる点や、企業としての知名度がある点、報酬も含めて納得できる人事評価制度がある点などの魅力を実感。
「自分には、ある程度の安定した環境がマッチしている」と再認識することができ、以前よりもモチベーション高く働けるようになった。
そもそも入社1ヶ月で辞めることは可能?
入社1ヶ月で辞めることは可能と言えますが、「今の仕事や職場環境は、心身に与えるストレスが非常に大きい」「明確なハラスメントがあるため、働き続けることができない」などの場合を除いては、何らかの対処をすることで問題を解決できないか検討することが大事です。
退職を考えていることを上司に相談した結果、問題を感じている点に対処してもらえるケースも少なくはありませんし、先にも述べたように早期離職したことで後悔するケースもあります。また、再度、転職活動を行う場合は、時間や労力、心身への負担などがかかる可能性もあるので、辞めるかどうかは慎重に検討することをおすすめします。
入社1ヶ月で退職し、再度の転職を目指す場合に意識したいポイント
慎重に検討した結果、再度の転職を決意した場合は、以下のポイントを意識して転職活動を進めましょう。
転職の目的を明確にする
再度の転職でミスマッチを起こさないためにも、「転職によって何を実現したいのか=転職の目的」を明確にすることが大事です。また、仕事内容や待遇、社風、労働条件、将来に目指したいキャリアなど、さまざまな角度から転職先に望む条件を整理した上で、優先順位もつけておけば、より納得のいく転職先を選択することができるでしょう。
面接で退職・転職理由やキャリアビジョンをきちんと伝える
先にも述べた通り、面接では退職理由や転職理由を聞かれることがほとんどです。1ヶ月などの短期間で再度の転職を目指す場合は、説得力のある退職理由や転職理由を伝えることができなければ、選考に苦戦する可能性があります。自分の考えを整理し、しっかりと回答できるように準備することが大事です。
また、早期離職を懸念されないためにも、入社後にどのようなキャリアを積みたいのかを考え、応募企業で実現したいキャリアビジョンを伝えることもポイントになるでしょう。
履歴書には正直に記載する
履歴書を作成する際には、虚偽の内容を書かず、正直に記載しましょう。「1ヶ月しか働いていない職場のことは書かなくてもいいのでは?」「早期離職を懸念されないためにも省略しよう」と考える人もいるかもしれませんが、履歴書には全ての職務経歴を記載することが大前提とされています。正しく記載しない場合は、経歴詐称を疑われることもあるので注意しましょう。
転職エージェントを活用することもおすすめ
入社1ヶ月で退職し、再度の転職を目指す場合は、転職エージェントの活用もおすすめです。自分の希望や経験・スキルにマッチする企業を紹介してもらえる上、キャリアアドバイザーとの面談によって転職先に望むことなども整理しやすくなります。応募書類の作成や面接対策などのサポートを行うエージェントもあるので、履歴書に書く内容や面接での退職理由の伝え方などに悩んでいる場合にも役立てることができるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。