「転職を考えているが、どのタイミングで今の会社を辞めるか悩む」──仕事を辞める時期の判断がつかず、一歩を踏み出せない人もいるのではないでしょうか。今回は、転職を果たした方々の事例を交え、自分にとって最適な「辞める時期」を見極めるポイントをお伝えします。
仕事を辞める時期はいつがベストタイミング?
仕事を辞める時期に正解はなく、個々の状況によって異なります。
転職活動にかかる期間は、個人差があるものの、一般的には「書類作成〜面接〜退職」まで3~6カ月かかると考えておくといいでしょう。「辞める時期」を設定したら、その3~6カ月前には転職活動を開始することをおすすめします。
なお、「GW」「夏休み」「年末年始」などの長期休暇をはさむ時期は選考が滞りがちですので、長引くことを想定してスケジュールを組みましょう。
目的によってベストタイミングは異なる
仕事を辞める時期を検討するにあたって、判断する基準には3つの軸があります。
- プライベートの事情…家族の事情、経済的事情を考慮する
- 転職市場の状況…希望条件に合う求人の有無、景気による求人市場の変動などを考慮する
- 現職の事情…プロジェクト期間、繁忙期、組織編成時期、引き継ぎ期間などを考慮する
実際に転職した方々がどのように「辞める時期」を設定したのかをご紹介します。
賞与をもらって辞めたい場合は賞与月を確認【プライベートの事情】
経済的事情を考慮するのであれば、賞与はもらっておきたいものです。賞与をもらって辞めた人の事例とポイントを解説していきます。
【事例】年収を維持すべく、賞与をもらってから辞めた
すぐにでも転職したいが、少しでも年収を減らしたくない。普段の支出を賞与で補っている部分が大きいので、賞与をもらってから辞めたいと考えていたAさん。そこで、賞与が支給された後の「6月末退社」を目標に設定。この時期に合わせてプロジェクトが一段落するように段取りを組み、転職活動のスケジュールを立てた。(大手メーカー・32歳・営業)
【ポイント】就業規則の「賞与規定」を確認
賞与をもらってからの退職を計画する場合、就業規則の「賞与規定」を確認しましょう。賞与の査定対象となる期間は会社によって異なります。「算定期間内に在籍していても、支給日に在籍していなければ賞与を支給しない」という会社が多いため、注意が必要です。
なお、Aさんと同じく6月賞与支給の会社の場合、ボーナスが支給された後の「6月末退社」のためには、5月中旬~下旬には内定を得て退職交渉に入る必要があります。そこから逆算すると、3月下旬~4月初旬に応募し、GW前に1次〜2次面接を終えておくと安心です。
2次面接をクリアした企業については、GW明けの最終面接に備え、GW中に企業研究を深めておくといいでしょう。冬のボーナス支給後・12月末退社を狙うなら、9月~10月には活動を開始することをおすすめします。
転職活動したい場合は求人の多い時期がベスト【転職市場の状況】
転職したいと思っている人は、できるだけチャンスを逃したくないはずです。そこで、転職活動を優先した人の事例とポイントを解説していきます。
【事例】チャンスを逃さないため、時期にこだわらず辞めた
もともと切りがいいタイミングとして、年度の変わり目である「3月末退職」を考えていたCさん。情報収集だけは早く始めておこうと考え、5月に転職エージェントに相談。すると「非公開求人」として、ある会社の新規事業メンバーの求人を紹介され、強い興味を持った。
その新規事業プロジェクトは秋から本格稼働するため、9月~10月までに入社できる人を求めているとのこと。このチャンスを逃すまいと、すぐに応募。内定を獲得できたので、8月末で退職した。(旅行会社・32歳・マーケティング)
【ポイント】興味を持った人気企業への応募は早めに決断しよう
職場に迷惑をかけないようにする配慮は大切ですが、それを気にするあまり、せっかくのチャンスを逃してしまうのはもったいないことです。時期に捉われずに決断することも、ときには必要でしょう。
通年採用の求人であれば時期にかかわらず応募が可能ですが、「募集は年1回。来年度の採用計画は未定」「欠員補充目的のため、充足したら募集は終了する」「新規事業のスターティングメンバー募集なので、チームが出来上がったら追加増員はない」といった求人も多々あります。人気が高い求人ほど早く応募が集まり、閉め切られてしまうため、早急に決断しましょう。
しかし、あまりにも突然に退職意思を告げると、会社側も困惑してしまいます。強く引き留められ、退職交渉が難航する恐れも。そうしたトラブルを防ぐため、選考を待つ間、早い段階から退職の準備を進めておきましょう。
例えば、引き継ぎに必要なマニュアルや資料を作成しておく、自分の「後任」候補となる後輩や同僚にそれとなく担当案件の状況を共有し、可能であれば少しずつ業務を引き継ぐ……など。転職活動と同時に、退職後の業務をなるべく滞らせない準備も進めておけば、円満に退職できる可能性が高まります。
円満退職したい場合は年度末や閑散期がベスト【現職の事情】
今の企業とトラブルなくスムーズに退職手続きをしたいのであれば、繁忙期は避けましょう。円満退社した人の事例とポイントを解説していきます。
【事例】同僚に負担をかけないようプロジェクトの切れ目で辞めた
担当しているサービスの新規プロジェクトに関しては、責任を持ってやり遂げたいと考えていたBさん。今の会社のメンバーとの人間関係をこわしたくないし、途中で離脱して迷惑をかけたくない。
そこで、今のプロジェクトが一段落したタイミングで退職できるように転職活動のスケジュールを組み、応募先企業に入社希望時期を伝えた。また、スムーズに引き継ぎができるよう、プロジェクトに関連する資料や注意点などを早めに整理して準備しておいた。(IT系企業・28歳・プロジェクトリーダー)
【ポイント】プロジェクトの進捗状況に合わせて行動しよう
プロジェクトの進行中や繁忙期に離脱することは、メンバーに迷惑をかけてしまう可能性もあるため、避けたいものです。転職後も今の会社のメンバーとの付き合いを続けていきたいのならなおさら、円満退職を目指しましょう。
しかし、プロジェクトに予期せぬアクシデントが起こり、予定通りに運ばないこともあると思います。転職活動を進める中で、プロジェクトの進捗状況を見て予測を立て、遅れる可能性があれば(=退職・入社時期が後ろ倒しになる可能性があれば)面接時に伝えておくといいでしょう。
希望に加えて社会保険料の支払いも考慮する
仕事を辞める時期は、社会保険料にも影響してくるため、合わせて考慮しておきたいものです。経済面を優先させたいのであれば「月末日の退職」の方が負担は少ないといえるでしょう。なぜなら月末日以外に退職すると、社会保険料の負担や手続きの手間が増えてしまうからです。
会社員であれば、社会保険料は給料から天引きされていることに加え、会社が半額負担してくれていました。しかし、退職すると全額自己負担になります。もしくは配偶者や親、家族などの被扶養者となる手続きが必要です。
また月末日に退職であれば、退職日の翌日が社会保険の「資格喪失日」となるため、翌日からは転職先の会社が社会保険に関する手続きをしてくれます。月の途中で退職すると自分で手続きをする必要があるため、その分手間がかかることになります。
退職希望を伝える時期はいつ?
ここでは、退職希望はいつまでに伝えるべきなのかを解説していきます。
就業規則に違反しない時期
退職希望を伝える時期として、まずは就業規則を確認しましょう。基本的には、就業規則で定められている期間が、最短で退職できる期間になります。退職手続きを円滑に進めるためにも、退職希望を伝える際は事前に就業規則の確認をおすすめします。
また退職の意思表示に関しても就業規則を確認する必要があります。法律上では退職の意思表示方法は定められていないため、口頭でも問題ありません。しかし、会社によっては就業規則で「退職願を提出すること」などのルールが定められている場合もあります。その場合は、就業規則に従って退職願を提出するようにしましょう。
一般的な目安
退職までの期間は上司の承諾や業務の引継ぎ、有給消化を含めると1カ月半~2カ月程度かかるケースが多いようです。担当している業務にもよりますが、引き継ぎを入念に行いたいときや有休消化したいときは、1カ月だと余裕がない場合もあります。
特に人手が少ない環境やプロジェクトの最中であれば、退職を引き止められ、承認を得るまでに時間がかかる可能性もあるでしょう。円満退社したい場合は、会社の環境を考慮し自分が仕事を辞めた後でも問題なく仕事を進められるような配慮が大切です。
法律上は原則2週間前でも可能
民法第627条では「退職の申し入れから2週間が経てば雇用契約が解除になる」と定められており、就業規則がない場合の指針にもなります。
ただし、この内容が認められているのは無期雇用の場合になります。契約社員など有期雇用の場合は、契約期間終了まで勤務するのが原則とされていますので、有期雇用で途中退職したい場合は、企業に合意を取るようにしましょう。ただし契約開始日から1年以上経過している場合は、退職時期は自由とされています。
なお事業主と労働者の間で合意が取れている場合は、雇用期間に関係なく退職が認められています。
ベストタイミングで仕事を辞めるには、何を得たいのかをはっきりさせるのが重要
今回ご紹介した3人のケースに表れているように、辞める時期は「プライベートの事情」「現職の事情」「転職市場の状況」の観点で考えてみてください。これらのバランスを取りながら、自分はどの軸を優先したいのかを見極めましょう。
転職エージェントを活用すれば、応募したい求人について、「選考にどの程度の期間を要するか」「入社時期の相談ができるか」などの情報をつかむことができますので、退職〜入社時期の見通しを立てるためにも役立ててください。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。