新型コロナウイルス禍における主要業界の求⼈・求職者の動きを、リクルートのHR統括編集長 藤井薫がレポートします。
「コロナウイルス禍での転職市場や業界トレンドを知りたい」「納得感のある転職活動のために、採用動向を知っておきたい」という方はぜひご一読ください。
新型コロナウイルス禍の転職市場動向の実態
新型コロナウイルス禍で加速する“経営戦略別”の企業の採用動向
収束後を見越した “人的投資” と “採用プロセスの進化” が問われる
2020年度に入り、転職市場は新型コロナウイルス感染症という不測の事態により急速に変化しています。史上初の緊急事態宣言を経験し、転職市場がどう変化しているのか。情報の偏在や一部の報道による不安、不要な萎縮を回避する為、今起きていることの実態をレポートします。
経営戦略・採用の質的変化は元々起こっていた
まず改めて認識したいのは、ここ数年、転職者も中途採用企業も増加傾向であったことです。前提として、新型コロナウイルス禍以前から、構造的な人材不足や、サービス経済化・DX(※1)化の進展により、経営戦略・採用戦略には質的転換が起きていました。現状、採用活動の一時休止や休止の検討、再開時期を見極めている企業はありますが、大きな流れとして、この質的な変化は続くと考えられます。
(※1) デジタルトランスフォーメーションの略
業界変容・戦略の複線化で、業界一括りに語れない
短期的な変化を見ると、観光業など、新型コロナウイルス禍による経済活動自体の一時停止の影響を受けている業種や職種がある一方で、医療や物流・運輸、EC関連、通信関連など、これまでに増して採用が活発な業種や企業が存在しています。
注目したいのは、同じ業界であっても、一括りに『~業界は採用が止まった』とは言えないこと。同じ業界でも個別企業によって、新型コロナウイルス禍の事業への影響や経営戦略とそれに呼応した採用戦略が異なっています。さらに、同じ企業内でも、既存事業の安定と雇用維持を優先する守りの人事戦略と、市場創造を見越した攻めの採用戦略が並存するケースが見て取れます。
サービス経済化の進展で、全ての業種がXaaS(X as a Service)モデルへの転換を加速しつつある現在、企業の採用動向は、経営戦略別に冷静に見る必要があります。
長期的に見れば、新型コロナウイルス禍が収束に向かい、新たな様式に適応した経済活動が再開した時、機動的な人的資本が維持されているかどうかが試されているといえるでしょう。リーマンショック時の学び(※2)を活かし、競争力を維持向上する動きは必要だと考えられます。
(※2)リーマンショック時に採用を停止した企業・雇用を維持できなかった企業はその後の回復に時間がかかった。
コロナ禍で問われる企業の「Web面接」対応力
個人の“ライフフィット志向”に向き合う企業の採用プロセスも進化中です。特に「Web面接」に関しては、業態や企業規模に関わらず、多くの企業での導入が加速しています。最終面接までWeb面接で完了する企業も増えつつあり、これまで出会えなかった地域に住む優秀な人材を獲得するケースも出てきている状況です。
一方で選考プロセスが進捗せず、有事への対応力や採用姿勢に不信を抱かれ、断られてしまう企業も見られています。新型コロナウイルス禍が収束に向かい経済活動が再開した後も、企業の「Web面接」対応力は、企業の採用力を大きく左右すると考えられます。高まる求職者の“ライフフィット志向”に向き合う“採用プロセスの進化”は、今後の採用競争力を左右する大きな要素となるでしょう。
2019年度の転職決定者数は、前年比増
コロナ禍後も加速する異業種採用の動き
『リクルートエージェント』の2019年度の転職決定者数は前年度を上回り、業種を越えた越境転職が拡大しています。新型コロナウイルス禍による新たなビジネスモデルへの転換は、この傾向を加速させると考えられます。
出所:リクルート『リクルートエージェント』転職決定者数の分析
【業界別】新型コロナウイルス禍の転職市場動向
各業界の採用動向に精通したキャリアアドバイザーが、業界ごとの市場動向についてレポートしています。
詳細は各業界のページよりご確認ください。
IT通信業界
IT業界の転職市場動向のポイント
・業態・企業によって差はあるが、採用活動は比較的活発
・専門性の高いピンポイントな求人が増加傾向。多くの企業がWeb面接導入済
コンサルティング業界
コンサルティング業界の転職市場動向のポイント
・シニアコンサルタント以上の求人が増加。未経験でも専門性を求める傾向に
・求職者側はWeb面接が当たり前になったことで転職活動のしやすさが向上
インターネット業界
インターネット業界の転職市場動向のポイント
・Web面接の浸透で、各企業ごとの対応スピードと工夫の差が露わに
・求職者は「明確な事業計画・事業の安定性/将来性」を重視する傾向に
自動車業界
自動車業界の転職市場動向のポイント
・「MaaS」や「CASE」の推進は止まらず、異業界人材を求める傾向は強い
・採用ポジションの選択と集中は進むが、新しい採用手法への対応はまだ十分とはいえず、急務である
総合機械・半導体・電子部品業界
【総合機械・半導体・電子部品業界】新型コロナウイルス禍の転職市場動向
総合機械・半導体・電子部品業界の転職市場動向のポイント
・ハードからソフトへ。採用が活発な領域と落ち着く領域が二極化
・先行投資分野での採用は続く
素材・エネルギー業界
素材・エネルギー業界の転職市場動向のポイント
・再生可能エネルギーなど環境系の人材を求める動きは継続
・半導体関連求人は増加
医療・医薬・バイオ業界
【医療・医薬・バイオ業界】新型コロナウイルス禍の転職市場動向
医療・医薬・バイオ業界の転職市場動向のポイント
・CRO/CSOの求人は落ち着きを見せ、生産管理・工場関連求人が活発に
・今後の投資領域であるデジタル分野・データ活用分野は引き続き採用は加熱
建設・不動産業界
建設・不動産業界の転職市場動向のポイント
・Web面接の導入が遅れ、異業界との人材獲得競争では厳しい状況
・求職者は企業体質や危機管理能力を重視
銀行・証券業界
銀行・証券業界の転職市場動向のポイント
・銀行は採用が活発。RM、デジタル、リスク対応など幅広い求人が出ている
・証券は新領域への投資とコスト削減の動きから、IT、経理財務、監査の領域の採用が活発
生保・損保業界
生保・損保業界の転職市場動向のポイント
・デザイナーやWebディレクターの採用へシフトしている
・Web面接への対応が進む企業と遅れる企業とで、採用のスタートに差がでている
消費財・総合商社業界
消費財・総合商社業界の転職市場動向のポイント
・採用は比較的活発。アフターコロナへの対応を見据える
人材・教育業界
人材・教育業界の転職市場動向のポイント
・教育分野はオンラインに注力。公教育のIT化の流れもあり新たなビジネスチャンスも
外食・店舗型サービス業界
【外食・店舗型サービス業界】新型コロナウイルス禍の転職市場動向
外食・店舗型サービス業界の転職市場動向のポイント
・影響は大きいが、オンラインサービスや中食、スーパーなどは好調
・同じ業態でも企業ごとに状況は異なる
ベンチャー領域
ベンチャー領域の転職市場動向のポイント
・重要テーマは「遠隔」へ
・アバター・ロボット・ドローンなど、遠隔でも「実現したいこと」ができる技術に注目
リクルートエージェントでは様々な業界に精通したキャリアアドバイザーが多数在籍しています。
新型コロナウイルス禍の転職活動に不安を感じている方もいらっしゃると思います。
情報収集に転職エージェントのサービスをご活用ください。
※お申込み時にキャリアアドバイザーの指定はできません。予めご了承ください。
HR統括編集⻑ 藤井 薫
1988年リクルート⼊社。TECH B-ing編集⻑、Tech総研編集⻑、『アントレ』編集⻑を歴任。2008年からリクルート経営コンピタンス研究所、14年からリクルートワークス研究所兼務。変わる労働市場、変わる個⼈と企業の関係、変わる個⼈のキャリアについて、多様なテーマ(AI全盛時代の採⽤戦略、多中⼼時代のHRM、アントレプレナー・パラレルキャリアの⽣き⽅など)をメディアで発信中。近著『働く喜び未来のかたち』(⾔視舎)。