面接でよく聞かれる質問の一つである「転職理由」。しかし、転職理由は伝え方によってネガティブな印象を与えてしまうこともあります。また、漠然とした不満が理由である場合、「どう答えればいいか思いつかない」という人も多いようです。面接でどのように転職理由を伝えれば好印象を与えることができるのか。人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏が、例文を交えて解説します。
面接で転職理由を聞かれたときの回答例文を紹介
面接で転職理由を聞かれたとき、転職理由は表現の仕方によってネガティブな印象を与えてしまう可能性があります。ポジティブな言葉に変換し、かつ採用担当者の納得を得やすい回答例文を転職理由別にご紹介します。
社風が合わない
現在の会社の営業職は個人の売上が評価の対象とされており、個々のメンバーが独自で活動しています。しかし、私自身は周囲とコミュニケーションをとりながら、チームワークを活かして活動するのが得意なタイプだと考えています。1人で取り組むよりも、チーム一丸となって目標を目指して、大きな成果を挙げたいという思いが強まり、転職を決意しました。
「社風」を表現しようとすると抽象的になりがちです。「仕事の進め方」「働き方」などに変換すると伝わりやすくなるため、「こんな仕事の進め方が自分に合っている」「こんな働き方がしたい」といった希望や目標を伝えましょう。
仕事内容を変えて新しいことに挑戦したい(キャリアチェンジしたい)
これまでシステムエンジニアとして開発業務を行ってきましたが、今期から開発チームのリーダーを任されることになりました。チームリーダーを経験したことで、自分は1人で技術を追求するよりも周囲を巻き込みながら力を発揮するタイプであることを発見しました。今後は顧客折衝やプロジェクトマネジメントなど、多くの人と関わるポジションでスキルの幅を広げていきたいと思い、転職を決意しました。
今の仕事に対してネガティブな感情を伝えるのではなく、自己分析を踏まえて「強みをより活かせる仕事」「より興味を持てる仕事」を目指していることを伝えるといいでしょう。
給与が低い
担当エリア内では常に上位の営業成績を挙げているのですが、今の会社は年功序列を重んじるため、「勤続年数が短い」という理由から成績がほとんど給与に反映されません。そこで、公正な評価制度がある会社で高いモチベーションを持って働きたいと考えました。御社は社員の働きを正当に評価して報酬に反映する風土とお見受けします。○○事業に力を入れている御社であれば、私の○○の経験を活かして成果を挙げられると考え、志望しました。
「給与が低いから、給与が高い企業へ行きたい」という転職理由では、「より給与が高い企業から誘われたら辞めてしまうのではないか」という懸念を抱かれる可能性があります。「入社後の活躍」をイメージできるような内容を盛り込み、応募企業に対する熱意を伝えるといいでしょう。
転勤があるから
<例1>
現在の会社は約○年に一度のペースで転勤があります。転勤は新しい経験を積めるという点でメリットもあると考えていますが、やはり私が目指すキャリアの方向性から外れてしまいます。○○の経験を積める会社で働きたいと考え、転職を決意しました。
<例2>
遠方への転勤を命じられました。家族とも話し合いましたが、妻の仕事や子どもの教育の都合上、家族揃って引っ越すことは難しい状況です。単身赴任も検討しましたが、子どもの成長期に家族が一緒に暮らすことを優先したいと考え、転職を決意しました。
「転勤を避けたい」という考えや事情がある場合、正直に話して問題ありません。ただし、会社に対する不満や批判を話すことは避けましょう。採用担当者に「人事異動が意に沿わないとすぐに反発する人だろうか」という懸念を抱かせる可能性があります。
家庭の事情(介護)
独り暮らしの母親が自立して生活することが難しくなり、介護のために退職しました。ヘルパーサービスを活用し、兄弟とも協力するためフルタイムで仕事を続けることは可能なのですが、週に数日は在宅でテレワークができる仕事を希望し、転職活動をしています。
家庭の事情は伝えても問題がない範囲で伝えましょう。誠実に伝えれば、企業の共感を得やすくなります。理解して受け入れ、サポートしてくれる企業であれば、入社後も働きやすいはずです。周囲のサポート体制や緊急時のフォロー体制を整えていることを伝えれば、「業務に支障が出るのではないか」という採用担当者の不安を払しょくできるでしょう。
スキルアップ・キャリアアップできる会社に行きたい
社内SEとして、自社のITの課題解決に向き合ってきました。近年、社会でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが加速する中、データ分析・活用の必要性を感じ、独自に学んで資格も取得しました。
しかし現在の会社はDX推進に消極的で、知識・スキルを活かす機会がありません。DXに力を入れる会社で、ビジネスや組織の改革に貢献したいと考え、転職を決意しました。
「キャリアアップ」「スキルアップ」は一見前向きに聞こえるワードですが、人によって方向性や定義が異なる曖昧なものです。ただ「キャリアアップのため」「スキルアップのため」とだけ答えると、「しっかりと考えていない」という印象を持たれる可能性があります。
転職することでどんなことができるようになりたいのか、具体的に伝えるようにしましょう。「現状ではできないこと」だけではなく、「転職先で実現したいこと」をアピールすることが重要です。
将来性のある会社に行きたい(業績悪化・リストラなど)
RPAツール開発のプロジェクトマネージャーを務めていましたが、経営方針の変更でRPA事業が縮小されることになり、私は別の開発部署に異動となりました。私としてはツール開発を通してRPA事業の将来性を実感していたため、引き続きRPA事業に携わりたく、○○(RPAツール)のシェアを拡大し急成長している御社を志望しました。○○をさらに進化させることで、多くの企業の業務効率化に貢献していきたいと思います。
「将来性のなさ」が退職理由である場合、特に同職種・業界での転職を希望する際には「同じ理由で早期退職するのでは?」と見られてしまう可能性もあります。「将来性のある会社」に入社したあと、「何を実現したいのか」を主軸に置き換えるようにするとよいでしょう。
残業が少ない会社で働きたい
私は今の会社で3年前に新規サービスを立ち上げ、事業の成長のために仕事を最優先して取り組み、1つの事業部として確立させるに至りました。しかし、これまで家族に大きな負担をかけてきたことも事実であり、今後は仕事と家庭のバランスを取れる環境で働きたいと考えるようになり、転職を決意しました。
「残業をしたくない」とストレートに伝えた場合、「仕事への意欲がないのだろうか」と捉えられるかもしれません。労働時間を削減したい理由や事情とともに、仕事に対する意欲を伝えることで不安を払しょくするようにしましょう。
上司との人間関係がうまくいかない
営業目標を達成するために自分なりに行動計画を立て取り組んできましたが、上司からもっとやる気を見せて、新規のアポイントを増やすようにと指導を受けました。営業目標は達成する見込みだったため、その指導に疑問を持ち、上司と話し合いの場を設けたのですが、残念ながら折り合いがつきませんでした。目標達成のためにKPIを設定し行動することは得意なので、それを活かせる環境で挑戦したいと考えています。
転職理由として「人間関係」を挙げることは避けましょう。人間関係の問題はどんな会社でも起こり得るもの。「人間関係に不満を抱くとまた辞めてしまうのではないか」と思われるかもしれません。「方針・考え方のギャップ」に変換し、それらがマッチする会社を求める意向を伝えれば、納得を得やすくなるでしょう。
企業ビジョンや経営方針が明確な会社に行きたい
現在の会社は成長分野を狙って多角的に事業展開していますが、経営陣の意思に一貫性が感じられません。私としては、○○という社会課題を強く意識しており、その解決に取り組める会社で働きたいと考えています。御社が掲げるミッション・ビジョン・バリューに共感したため、志望いたしました。これまでの△△の経験を活かし、ミッションの実現に貢献できると考えています。
ただ「会社のビジョン・経営方針がしっかりしている」というだけでなく、自身が応募企業のビジョンに共感していること、ビジョンの実現に自身がどのように貢献できるかを伝えれば、採用担当者の納得を得やすくなります。
面接で転職理由を上手く答えるポイント
転職理由を「本音」で語ると、ネガティブな内容や条件面に偏った話になってしまうこともあります。ネガティブな理由はポジティブに変換しましょう。「不満を解消する」のではなく、「転職によって実現したいこと」を考えると、ポジティブなワードが浮かんできます。
また、転職理由と志望動機に矛盾が生じないようにしておくことも大切です。「○○ができないから転職を決意した」→「○○ができる御社を志望した」というように、「○○」に一貫性を持たせてください。
転職理由と志望動機が一貫していると、志望動機の説得力が高まります。
転職理由が思いつかない場合はどうしたらいい?
転職理由の伝え方が思いつかないとき、まず「退職を考えるようになったきっかけ・理由」を振り返ってみましょう。例えば「残業が多くてつらい」「営業目標の数字に追われるのがつらい」「上司の指示に納得できない」など、ネガティブなもので構いません。
不満ポイントを挙げたら、以下のようにその裏側にある「こうしたい」を考えてみましょう。
「営業目標の数字に追われるのがつらい」 → 「顧客とじっくり向き合うことを重視したい」
「上司の指示に納得できない」 → 「自身が裁量権を持って働きたい」
こうして導き出された思いを「転職理由」として活用してください。
面接では避けたほうがいいNG転職理由
先ほどの例文でも挙げた「人間関係」は、実際の転職理由としては非常に多いのですが、面接でこのワードを挙げることはお勧めできません。
自身では前の会社の上司や同僚に非があると思っていても、採用担当者は「あなたのコミュニケーションに問題があったのではないか」「あなたがトラブルを招いたのではないか」と不安視する可能性があります。
また、人間関係のトラブルはどのような職場でも起こり得るだけに、「自社に入社後、人間関係で悩んだらまた辞めてしまうかもしれない」という懸念も抱かれます。「仕事」「キャリア」にフォーカスし、これから目指したいことを語りましょう。
ネガティブな転職理由の言い換え方
ネガティブな理由をポジティブな表現に変換する例をご紹介します。
これらの発想をヒントに、自身の転職理由を言い換えてみましょう。
ネガティブな理由 | ポジティブな表現例 | |
「キャリアアップができない」 「スキルアップができない」 |
⇒ | 「この会社(応募先企業)だからこそ経験できる業務を通じ、専門性を磨きたい」 |
「上司からの高圧的なマネジメントに耐えられない」 | ⇒ | 「フラットな組織風土の会社で、自分の意見やアイデアを積極的に発信したい」 |
「会社の業績が落ち込み、将来性に不安がある」 | ⇒ | 「新しいチャレンジに積極的な会社で自分の力を試したい」 |
「仕事にやりがいが感じられない」 | ⇒ | 「お客様への貢献を感じられる仕事がしたい」 |
面接で転職理由を聞かれるのはなぜ?
採用担当者が面接で転職理由を聞く意図としては、大きく分けて2つあります。
- 入社後の定着…同じ理由でまたすぐに辞めてしまわないかを見極めようとしている
- 入社後の活躍…応募者が自社への入社によって希望を実現できれば、モチベーション高く活躍できると期待する
採用担当者の不安を払しょくし、活躍への期待を持ってもらうためにも「入社後に実現したいこと」を語ることが大切です。
悩んだら転職エージェントを活用しよう
転職したいという気持ちが湧き上がっても、転職理由が漠然としていると、「自分は本当に転職したいのか」「自分は転職先に何を求めているのか」と悩む方も多いようです。
そんなとき、転職エージェントのキャリアアドバイザーと対話することで自分の考えが整理できたり、意識していなかった志向や価値観に気付けたりすることもあります。
転職を決意して求人への応募を決めたら、面接での受け答えのアドバイスも得られますので、転職エージェントのサポートサービスを活用してはいかがでしょうか。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。