転職活動の自己PRでは、自分の強みを応募企業でどう活かせるかを伝えることがポイントです。そして、どのような仕事でも発揮しやすく、汎用性が高い強みのひとつが「調整力」と言えます。組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏が、調整力がある人の特徴や、自己PRで調整力をアピールするコツについて解説します。言い換え例や回答例文、短所として言い換える場合の例文なども紹介するので、参考にしてみましょう。
目次
「調整力」とは?
「調整力」とは、異なる立場の人や、利害が対立している人たちの意見や主張を調整し、全員が納得できる落としどころを見つけて収拾できる力のことを意味します。ビジネスにおいて求められる力の一つと言えるでしょう。
調整力がある人の特徴とは?4つの要素を解説
ビジネスの場面において発揮する調整力は、具体的には4つの要素が考えられます。調整力がある人の特徴は、それらの要素を持ち、「関係者全員が納得できる形に取りまとめ、本来の目的を達成することができる」という点にあります。以降で、「調整力を構成する4つの要素」を解説するので、過去の経験の中から自分に当てはまる部分を掘り下げていきましょう。
ブレずに目的を達成できる
調整力の構成要素としては、まず、周囲の意見に左右されず、「ブレずに目的達成できること」が挙げられます。組織やプロジェクトの中心に立つ場合は、チームや関係者など、さまざまな立場の人の意見を取りまとめることが必要です。自分の考えをしっかりと持った上で、かかわる人々の意見を整理・調整していける力があるため、「本来の目的を見失うことなく、目標を達成できる」として評価されやすいでしょう。
相手の潜在的なニーズを汲み取ることができる
「潜在的なニーズまで理解できること」も調整力の構成要素の一つです。顧客やチームのメンバー、関係部署、協力会社など、立場の違う関係者を取りまとめるためには、それぞれの背景にある利害関係や状況・事情なども含めた上で、全員が納得のいく落としどころを見つけることが必要です。また、顧客のニーズに応える際にも、直接の担当者と上長、経営陣など、立場の違う人々の要望を取りまとめていくことが求められます。こうした場面において「関係各所のニーズを汲み取って調整していける」という評価につながるでしょう。
幅広い人脈を形成し、各所から情報収集できる
調整力の3つ目の構成要素は「社内外で人脈を形成し、さまざまな情報を入手できること」です。部署をまたぐプロジェクトでは、社内の他部署や他職種の役割や立場なども理解した上で、利害関係のある人々の間に入って全体の調整をすることが必要です。また、顧客や協力会社など、社外の人々の調整を担う場合は、窓口となる担当者との関係性をしっかりと築き、業界や企業の周辺情報を引き出すことも求められます。「幅広い人脈と情報収集能力によって、社内外の案件で適切な判断を下すことができる」として評価されるでしょう。
関係者全員の合意形成ができる
4つ目の構成要素は「関係者全員が納得のいく落とし所を提案し、合意を形成できること」です。プロジェクトや案件をまとめる際には、関係各所のニーズや関係性を把握・整理した上で、全員が納得できるような形へと調整することが必要です。「多くの人の合意形成ができることで、大きなプロジェクトや複雑な案件も任せることができる」という評価につながるでしょう。
企業が求める調整力とは?
企業が求めている調整力としては、以下の2点が例として挙げられます。
・さまざまな立場の人々を取りまとめ、成果に結びつける力
・各自の利害関係をすり合わせ、目的・目標を達成できる力
これらを前提に、自己PRではより具体的に「どのような調整力を発揮できるのか」を伝えることが大事です。調整がうまいことを強みとする人の中には「周囲に合わせてうまくやれるコミュニケーション力がある」などのアピールをするケースもありますが、調整力とは「周囲を動かしていく力」のことです。伝え方を間違えれば、「自己主張ができないだけでは?」「調整力そのものを理解していないのでは?」と捉えられる可能性もあるので注意しましょう。
また、ビジネスにおいては、対人調整力だけではなく、スケジュール調整で進捗管理し、納期を守る力も求められます。こうした部分で調整力を発揮できることもアピールすると、より評価につながりやすいでしょう。
転職の自己PRで調整力をアピールする方法
自己PRで調整力をアピールする方法を紹介します。
「どのような力なのか」を端的に表現する
自己PR の冒頭では、自分が持つ調整力を端的に表現しましょう。先に挙げた「調整力の構成要素」にフォーカスを当て、自分なりに定義付けすることが大事です。例えば、「部署ごとの潜在ニーズを理解し、組織課題を整理できる調整力」「社内外の関係者をまとめ、合意形成する調整力」など、具体的にどのような力を持っているのかわかりやすく伝えましょう。
具体的なエピソードで調整力を裏付ける
自分が強みとする調整力に根拠を持たせるためには、エピソードを通じて「どのような状況・場面においてその力を発揮したのか」を伝えることがポイントです。「誰に対し、どのような目的を果たすために行動したのか」「どのような背景・状況があり、自分としてどういった課題意識を持ったのか」を具体的に伝えましょう。さらに、「どのような行動をして、どのような成果を挙げたのか」も伝えることで、調整した案件の難易度や自身の貢献度をイメージさせることが大事です。
調整力をアピールする回答例文
自己PRで調整力をアピールする例文を紹介します。
営業職の回答例文
難易度の高い課題に対しても、社内外を調整しながら現実的な案を見出し、解決する力が強みだと考えています。
銀行の法人営業を務める中、担当顧客から「新規事業立ち上げに向け、短期間で数億円の融資を受けたい」という要望を実現しました。単一行への巨額融資はリスクが高く、前例のない挑戦でした。しかし、顧客の要望に応え、今後の取引を広げていくためにも実現したいと思い、「他行と連携するシンジケートローンの組成」を上司に提案し、了承を得ることができました。その後、銀行5行に打診して参加意思を固めさせ、各行の担当者と条件や金額などのスキーム調整を行いました。社内の審査部門・法務部門に融資の目的やメリットを伝えて説得すると同時に、顧客には「融資実行を2回に分ける」という提案をし、短期間で各所から合意を得ることができました。
シンジケートローンに参加する銀行側の負担やリスクを軽減し、顧客側も予定通りに新規事業に着手できる。各所が納得できる現実的な着地点を見つけたことで、双方から感謝の言葉をもらうことができました。
マネジメント職の回答例文
「現状・課題・目的」を整理し、根本的な課題解決に向かってプロジェクトをまとめる調整力を強みとしております。
前職では、SIerのプロジェクトマネージャーを務め、顧客、自社、多数のパートナー企業がかかわる大規模な開発プロジェクトを取りまとめました。
このとき、顧客の要望変更が多いために開発が遅れ、自社内の開発担当者やパートナー各社からの不満も高まっている状況があり、納期に間に合わせるためには根本的な課題の整理をすることが必要であると判断しました。顧客に対しては開発目的の整理や納期確認を行って細部まで目線合わせを行い、開発サイドに対しては各社の代表を集めた定例会議を設定の上、進捗状況や問題点などの情報共有を行って全体像を把握できるようにしました。
その結果、顧客の認識・知識不足のために要望変更が頻発していることが判明しました。以降は、プロジェクト共有ツールでの進捗共有や、週次の定例会の開催で、全関係者の目線合わせを常時行う仕組みを作り、納期通りにプロジェクトを完遂することができました。
調整力の言い換え例
ほかの応募者との違いを打ち出すためには、独自の強みをアピールする言い換えをすることも大事です。以下を参考に、自分ならではの強みに言い換えてみましょう。
【調整力の言い換え例】
・傾聴力に長けている
・相手のニーズを見抜く力がある
・意見の落としどころを見つけられる
・相手に応じて伝え方をチューニングし、共通理解を深めるコミュニケーション力がある
・複数社が参加するプロジェクトで、スムーズな連携を図り、ゴールに導くことができる
調整力を伝える際に意識したいポイント
調整力を伝える際に意識したいポイントを紹介します。
組織・集団での役割を意識することが大事
調整力を伝える際には「組織、集団の中での役割」を意識することが大事です。「どのような役割を果たせるのか」「どのようなことに活かせるのか」など、具体的にその企業の中でどう貢献できるのかをイメージできるようなエピソードを伝えましょう。
仕事内容に応じて社内向け・社外向けのアピールをする
調整力をアピールする際には、「社内向け」「社外向け」という2つの方向性があります。
例えば「生産ラインの機材トラブルが発生した際、納期から逆算し、機材の修理が完了するまでにできる作業を終わらせることで、予定通りの納品を実行した」という場合は、社内向けのアピールとなります。一方、「得意先から商品の仕様を変えてほしいと言われたが、納期に間に合わないため、従来の仕様のままで進めつつ、可能な範囲で仕様変更に対応する方法を提案し、合意を得ることができた」という場合は、社外向けのアピールとなります。応募職種の仕事内容に合わせたアピールをすることがポイントです。
調整力がある人の適職とは?向いている仕事を解説
調整力がある人の適職について知りたいという人のために、どのような職種で評価されやすいのか、どういった仕事に向いているのかを解説します。
調整能力が高い人は、業界や職種にかかわらず評価されやすい
仕事は共同作業で進めることが基本のため、業界や職種にかかわらず、顧客や社内のメンバー、協力会社など、さまざまな人と一緒に取り組む場面が必ずあるものです。各所を取りまとめる調整力は、どのような仕事においても評価されやすいでしょう。
より評価につながるのは、リーダーやマネージャー、プロジェクトやプロダクトのマネジメントを行うポジションです。「組織や案件の中心に立ち、全体を取りまとめる仕事」のため、社内外を問わず多くの関係者とすり合わせながら進めていける調整力が求められます。
調整力がある人に向いている仕事
先にも述べた通り、関係者が多く、さまざまな立場の人の要望や主張を取りまとめ、調整する役割を果たすことが求められる仕事に向いています。部署をまたいで一つのプロジェクトに取り組む仕事や、協力会社を取りまとめる仕事などが挙げられます。例えば、リーダー職や企画・開発職、ITエンジニアのプロジェクトマネージャーなどが当てはまりますが、公務員などの場合も関係各所の調整が必要なことが多いため、向いている仕事と言えるでしょう。
調整力を「短所」として伝える方法【言い換え例・例文あり】
調整力を「短所」として伝える方法や言い換え例、回答例文を紹介します。
調整力を短所として伝える際のポイント
企業が面接で短所を聞く理由は、「短所を客観的に捉え、改善する姿勢や工夫をしているか」を知りたいと考えているためです。「客観的に事実を伝える」「改善する姿勢を交える」という2点を意識しましょう。プライベートな場面ではなく、ビジネスシーンにおける短所を伝えることもポイントです。
調整力を短所とする言い換え例
調整力を短所とする場合は、以下の言い換え例も参考にしてみましょう。
【調整力を短所とする言い換え例】
例)さまざまな利害関係者の調整をする際、各所の意見を引き出そうとするあまり、時間がかかってしまう
・他者の意見を代弁とすることを意識し、主体性が弱くなる
例)関係各所の合意形成のために、他者の意見を聞いて代弁したり、尊重したりすることを大事にすることで、主体性が弱くなってしまうことがある
・自己主張が強い
例)リーダーシップを発揮したいと考えたために、うまく調整しようとして空回りし、強引に仕切って反感を買ってしまうことがあった
調整力を短所とする例文
各関係者の意見や要望の1つ1つを最大限に反映したいと考えるあまり、合意に至るまでに時間をかけすぎてしまうところがありました。これまでの失敗体験を活かし、要望・意見の優先順位をつけてスケジュールを管理した上で、各所の調整を進めるためにイニシアチブを取るように努めております。
転職で自己PRの作成や短所の回答に悩んだら転職エージェントに相談を
転職の面接で調整力をアピールしようと思っても、「どう伝えればいいのかわからない」と悩んでいる場合は、転職エージェントに相談してみることもおすすめです。キャリアアドバイザーから客観的なアドバイスを受けることで、応募書類の内容や面接の回答をブラッシュアップできますし、短所として回答する際にもネガティブな印象を与えないコツを聞くこともできます。よりアピールにつなげていくために、転職エージェントの活用を視野に入れてみるのも良いでしょう。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2022年12月23日
記事更新日:2024年04月11日 リクルートエージェント編集部